6月28日、英国原子力公社(UKAEA)は、AIやスーパーコンピューターを用いた「産業メタバース」を活用し、核融合型発電所の試作開発を進める旨を公表しました。本取り組みには、Dell Technologies、Intel、ケンブリッジ大学が参画。現実空間では困難な、新たな科学分野での検証開発を実施します。
「核融合発電」実用化へデジタルツインを導入
今回の取り組みは、Spherical Tokamak for Energy Production (以下「STEPプロジェクト」) と呼ばれる、核融合発電に関する実証プロジェクトの一環です。本プロジェクトは、英国原子力公社(以下、UKAEA)によって計画されています。
UKAEAは、2040年代での「核融合発電」実用化を目指しています。しかし、その開発検証には大量のモデリングとシミュレーションが必要です。
そこでSTEPプロジェクトでは「産業向けメタバース」を導入。プロトタイプ発電所のエンジニアリング設計に、高度コンピューティング演算やAIによる予測技術を組み合わせた、デジタルツイン技術を活用する予定です。
なお、ここでUKAEAが言う「産業向けメタバース」とは、現実世界を忠実にバーチャル空間上に再現することにより、3DCGでのリアルタイム検証が可能となる「デジタルツイン」を指しています。これはアバターなどを使って、バーチャル空間のコミュニケーションを楽しむ意味でのメタバースとは異なるものです。
新たなクリーンエネルギー
「核融合発電」は重水素と三重水素をぶつけ、核融合反応が起こる際に発生するエネルギーを利用します。エネルギー源となる重水素と三重水素は海水から抽出可能で、稼働時には温室効果ガスを排出しません。
また、発生する低レベル放射性廃棄物は約100年で一般的な放射レベルに戻ると予想されています。一方、核分裂反応を用いる「原子力発電」が発生させる高レベル放射性廃棄物の処理年数は約10万年とされており、「核融合発電」の安全性が注目されています。
UKAEAは「デジタルツイン技術により、STEPプロジェクトに携わる科学者とエンジニアは仮想世界で強固な設計を作成し、生態系への対応や費用対効果を検証し、2040年代に送電網に電力を供給するというプロジェクト目標の達成をサポートできる」と語っています。
(参考)GOV.UK、Businesswire、文部科学省