Home » VR旅行で高齢者の「見る力」と「首の動き」が改善。東大先端技研の試験結果が学会誌掲載


統計・データ 2023.04.17

VR旅行で高齢者の「見る力」と「首の動き」が改善。東大先端技研の試験結果が学会誌掲載

東京大学先端科学技術研究センター身体情報学分野の研究グループは、高齢者施設居住者に「VR旅行プログラム」を提供したランダム化比較試験(n=24)を行い、VR旅行の体験者(介入群)に「見る力」(視空間能力)と「首の動き」(頸椎可動域)の改善が見られたと発表しました。

実験結果について

本実験は、「視空間能力の向上と頸椎可動域改善にヘッドマウントディスプレイを用いたVR旅行体験が有用なのではないか」という仮説のもと、株式会社SOYOKAZEの支援を受けて行われました。視空間能力とは「目から入った情報を脳が認識する力」で、加齢に伴い機能の低下が著しく現れます。視空間認知機能の低下が軽度認知障害や認知症につながる可能性もあると考えられています。

実験では、高齢者施設に居住している参加者24名を、VR旅行を体験したグループ(VR介入群)と普段通りの生活を送るグループ(コントロール群)に分け、かつ離脱しなかった20人を対象とした無作為比較対照試験を実施。その結果、VR介入群はコントロール群と比較して、視空間能力のスコア改善が見られました。また、「頸椎可動域は垂直方向および水平方向で維持・改善」したとしています。


(ランダム化比較試験の結果 ©2023 宮﨑敦子)

視空間能力と頸椎可動域角度の変化量(介入後-介入前)
左:主要評価項目である実行機能を含む視空間能力課題スコアの変化量
右:受動的な頸椎の屈曲可動域角度の変化量
VR介入群がコントロール群と比較して改善した。
(出所:プレスリリース

同プログラムを1回30分・週3回のペースで4週間続けた結果、VR旅行体験における視覚的探索により、視空間能力と頸椎可動域の改善効果が引き出されることが実証されました。この結果について研究グループは、「視空間能力の向上は転倒予防のトレーニングにもつながり、高齢者施設において有用なツールになり得る」としています。

本研究成果は、2023年3月14日付で「Augmented Humans 2023」に掲載されています。

研究グループメンバーのコメント

宮﨑敦子特任研究員
「高齢者施設では、身体的な機能が低下している方や慢性的な病気を抱えている方、認知症のある方など、あらゆる面で様々なレベルの方がいらっしゃいますが、高齢者の気分や幸福度に関連する旅行体験をVRで継続できました。また、視空間機能障害のある参加者が、実行機能を含む視空間能力課題で改善したことに驚きました。本プログラムが視空間機能障害のリハビリテーションに役立つ可能性があることを示唆しています。VR旅行は、これからも多くの高齢者に世界中の美しい景色や文化に触れる機会を提供し、心身共に健やかな生活を送ることにつながることでしょう」

登嶋健太学術専門職員
「私は長らく介護の現場で働いていましたが、心に残る風景や故郷にもう一度行きたいと思う要介護者は少なくありませんでした。VR旅行はその夢を叶えるだけでなく、ヘルパーやご家族が楽しく会話するきっかけにもなっています。新たなコミュニケーションツールにとどまらず、人肌を感じる温かい福祉機器として発展させていきたいです」

檜山敦特任教授
「COVID-19の影響下で福祉施設内での長期介入評価の実施が難しい中、ようやく実現し、一定の成果を得ることができました。VR旅行を、外出が憚られる状況下においても外の世界や季節の変化を感じつつフレイルを予防する体験として、社会に届けられるようにシステムをブラッシュアップしていきたいです」

(参考)東京大学 先端科学技術研究センター


VR/AR/VTuber専門メディア「Mogura」が今注目するキーワード