こんにちは、GFR Fundの古森です。読んで頂いている皆様に申し訳ございませんが、「シリコンバレーVR/ARニュース」は今月で最終号となります。連載がスタートしてはや9ヶ月が経ち、シリコンバレーから現地のVR/ARの生の情報を届けられたのではないかと思います。
今月は最終号として、2018年5月や6月上旬に発表されたGoogle I/OやWWDCの内容に触れつつ、将来VR/ARどうなってゆくのかという個人的な予想でまとめたいと思います。
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Google, AppleのAR関連発表まとめ
Google I/Oが5月上旬に、AppleのWWDCが6月上旬にそれぞれ実施され、様々な発表がありましたが、去年に続きAR関連の発表が多く見られたのが今年の特徴でした。
[動画] What’s new in AR (Google I/O ’18)
What’s new in AR at Google I/O 2018
グーグル、ARCoreをアップデート 複数人が同じAR空間にアクセス
まずはGoogle I/Oです。上掲の40分弱の動画には今年発表されたAR関連情報が詰まっているので、AR関係者は是非ご覧ください。今回のAR関連発表の目玉はARフレームワークである「ARCore」の1.2へのバージョンアップで、 Augmented Images、Cloud Anchors、WebXR、Sceneformの4つの機能が組み込まれることになります。
Augmented Imagesは、特定の画像をマーカーとして認識し画像の上に動画を流す機能です。これにより画像がまるで動いているかのような体験の作成が可能です。WebXRはその名の通りブラウザからVR/ARの体験が起動できるChromeに搭載されている機能です。これにより、Webアプリから簡単にVR/AR体験を提供することができます。そしてSceneformは主にエンジニア向けの機能で、簡単に3Dモデルが作れます。
4つの中で特に重要な機能はCloud Anchorsです。これは、去年の11月に執筆させて頂いたARクラウドの機能の一部がARCore1.2に組み込まれることとなります。一部というのは、動画や記事を読む限りではマルチプレイヤーの機能のみにとどまり、ARの永続性はARCore1.2には含まれていないことが推測されます。同一のAR体験を複数人で共有できるものの、それを特定の場所に保存・読み込みができない、ということになります。Cloud AnchorsはAndroidだけでなくiOSでも使用できるとのことです。
[動画] WWDC18 Keynote – ARKit 2
[動画] What’s New in ARKit 2
アップル、iOS12でAR機能強化 複数台同時体験が可能に
続けてAppleもARフレームワークである「ARKit」の最新版、ARKit 2.0を発表しました。今回のARKit 2.0の主なアップデートは、Saving and loading maps, World tracking enhancements, Environment texturing, Image tracking, Object detection, Gaze and tongueです。それ以外にARKit 2.0を使用した計測用のメジャーアプリをリリースすることを発表しました。ARkit 1.0の登場以降、たくさんのメジャーアプリがApple Storeに並びましたが、Appleが正式にプリインストールのアプリとして導入することを決めた形になります。
このアップデートのうち、Object detectionは3Dモデルを認識する機能です。発表や動画からはあまり多くはわかりませんが、実際の物体をスキャンし、3Dモデルのように扱える機能と思われます。Image trackingは本質的にはGoogle ARCore1.2のAugmented Imagesと同じ機能で、画像をトラッキングし画像をマーカーとしてその上に動画や3Dオブジェクトを配置できる機能です。Environment texturingは配置した3Dモデルが現実世界の物体の色を反射して色が変わるという機能です。デモでは配置した3Dモデルの側にバナナを置くと、3Dモデルにバナナの黄色がうっすらと反射されるというデモを披露してます。
これらの機能の中でも特に重要なのはSaving and loading maps, World tracking enhancementsです。この2つの機能により、動画や記事を読む限りでは、ARクラウドの機能を全て提供していると推測されます。
GoogleのCloud AnchorsはARクラウドのマルチプレイヤーの機能のみの提供ですが、ARKit 2.0はさらに永続性の機能も提供されます。このことにより、実世界に様々なオブジェクトを配置・保存・誰でも読み込みできることになり、ARの体験がより良いものとなります。 iOS 12のアップデート(2018年10月前後)以降、マルチプレイヤーと永続性の機能が搭載されたARアプリが次々とリリースされることが予想されます。
VR/ARの今後の予想
本来であれば、事実に基づいた記事を紹介していく趣旨の寄稿ですが、最終回ですので今後の個人的な予測を書いていこうと思います。個人的な予想と前置きはしてますが、シリコンバレーの投資家として現地のスタートアップや投資家と普段から意見交換している内容が中心になります。
データ : Super Data
VRの今後予想
2016年をVR元年として盛り上がったVR業界ですが、2018年6月現在は予想よりマーケットが成長しておらず、苦戦しているVRスタートアップが多く見られるのが現状です。投資環境も冷え込んできてます。特にシード投資においては、現在のマーケット状況に加え多くのVCが2016年-2017年にかけて多額の投資実行済みなので、新規のシード調達はシリコンバレーでは難しくなってきています。
一方で、シリーズA以降の資金調達に成功したスタートアップは2020年前後までの資金を保有しており、マーケットが成長してくるのを待ちながら技術開発を続けています。
マーケットの予想としては、スタートアップも投資家も時間がかかるという認識を既に持っており、2020年あたりを反転機として見ているようです。特にOculusのSanta Cruzのような6DoFの一体型VRヘッドセットが手頃な価格($300-$400)で購入できるまでは中々難しいだろうと予想しています。Santa Cruzでさえようやく2018年末か2019年頭に発売と予想されているので、スタートアップや投資家が期待するようなデバイスが登場するまであと2-3年はかかりそうです。
もっとも、ARデバイスも開発が進んでおり、いずれVR/ARが共に体験できるデバイスも続々と登場してくるので、VRが体験できるデバイスの出荷数は2022-2025年あたりに1億台に達するのではないかと見ています。SONYのプレイステーション4が8000万台前後、任天堂のSwitchが2000万台前後とされるので2025年までにはかなり大きなマーケットになると思います。なお、Super Dataは2021年時点でのSoftware, Hardwareを合わせたマーケットサイズを190億ドル(約2兆円)と予想しています。
VRの産業は依然ゲームが中心だろうと予想しています。いくつかのスタートアップがエンタープライズ向けなどに挑戦はしていますが、エンタープライズ向けのスタートアップの話を聞く限り、顧客獲得に苦戦している様子が伺えます。一方でゲームを開発しているスタートアップは売上が30万ドル(約3300万円)を越えてるところも確実に増えてきており、苦しい状況下でも、ゲームを開発しているスタートアップの方が売上自体は順調に伸びています。
ARの今後予想
ARは2017年のARkit 1.0のリリース以降、シリコンバレーの注目を浴びています。シード投資も2017年の後半から2018年6月現在までにかけて活況で、特に2018年の前半まではARクラウドといった基礎技術への投資が中心でした。2018年6月現在は基礎技術へのシード投資が一旦落ち着いてきており、徐々にアプリケーションへの投資が拡大していくだろうと予想されます。
また、ARはエンタープライズを中心に伸びていくことが予想されます。エンタープライズ向けに苦戦しているVRとは対照的に、Upskill, Scope AR, Atheer, Streem, Insider Navigationなど製造業やインフラを対象としたARのソリューション(ナビゲーションやインストラクション)を提供するスタートアップが多く出てきております。これらのスタートアップの話を聞く限りでは、VRを使ったエンタープライズ向けソリューションよりも、ARの方が顧客獲得を順調に進めている印象を受けます。
一方でコンシューマー向けの投資が盛り上がるのはARKit 2.0のリリース以降と想定されます。ARKit 2.0により本格的なマルチプレイヤーと永続性のあるAR体験ができることから、モバイルARで実現できることは確実に増えていきます。特にナビゲーションやディスカバリー、コミュニケーション領域でのAR活用が期待されます。ディスカバリーはARを使って、お店、レストラン、人などを簡単に発見できるアプリへの活用を指します。サンフランシスコのradarやロサンゼルスのFlirtARがARを使って出会いを簡単にするアプリケーションも開発してます。コミュニケーションは現実世界に3Dオブジェクトを配置しみんなで共有する体験ですが、こちらはパリのArrowやロサンゼルスのSuperWorldなどが先駆けてこの領域に進出しています。ARを使ったゲームに関してはスタートアップも多くいますが、投資家も少し懐疑的で、あまり資金が集まってないように思えます。
投資が盛り上がっているAR業界ではありますが、本格普及はそれほど楽観的ではなく、本格的なARグラスが出てくるまでマーケット的には苦戦するだろうと予想しています。しかし、AppleがARグラスをリリースしてくることは2017年、2018年のWWDCの戦略を見ていても明白であり、シリコンバレーの投資家の間では2021年にAppleからARグラスが発売されるのではないかと予測しています。AppleからARグラスがリリースされた瞬間、マーケット状況が一変するとシリコンバレーの投資家は予想しています。
また、Androidも現時点のARグラスに多く導入されており、ARグラスのOSもモバイルと同様、iOSとAndroidの二強になっていくことが予想されます。Google I/OとWWDCのAR関連の発表はARグラス時代のOSを見越したリリースで、ARに関するデータ収集やデベロッパー育成をARグラス時代に備えて着々と準備していっています。
VRと違い、ARは一夜(=AppleによるARグラスの発売)にしてマーケット状況が変わる可能性を秘めています。なお、Super Dataは2021年時点でのソフトウェア、ハードウェアを合わせたマーケットサイズを200億ドル(約2.2兆円)と予想しています。
最後に
(筆者近影)
2017年の10月から約9ヶ月間、VR/ARに関するシリコンバレーのトレンドについて寄稿を続けてきました。株式会社Moguraの皆様、グリー株式会社の皆様、そして読者の皆様、今までご協力頂きありがとうございました。今後もGFR Fund並びに私、古森は引き続きシリコンバレーでの投資活動を続けていきます。今後は、VR, AR, Blockchain, eSports, LiveStreamingの5領域に関連するコンシューマー・エンターテイメント領域を中心に見ていく予定です。VR/ARも引き続き注力分野の1つではありますので、今後もイベントなどを通じて皆様にシリコンバレーのVR/AR情報を発信できたらと思います。GFR Fundとしても積極的に日本でのイベントを実施していこうと思っていますので、その際はみなさまぜひお越しください。今後ともよろしくお願いします。
GFR Fund
古森泰