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テック 2018.08.23

【SIGGRAPH2018】先端技術コーナーを一挙レポ 日本からも多数出展

8月12日から16日にカナダ・バンクーバーで世界最大のCG系カンファレンスSIGGRAPH2018が開催されました。学会としての論文採択はもちろん、映画プロダクションや開発者による講演、企業展示、技術・コンテンツのデモ展示など、イベント中に行われていることは多岐に渡ります。その中でも、発展途上の先端技術を扱うセッション「Emerging Technologies」(通称E-Tech)コーナーには、VRに関する学術系の展示が数多く見られました。

E-Techとは

 今注目したいテクノロジーが取り上げられ、体験型のデモを展示するE-Tech。CG系の話題が多いSIGGRAPHの中で、インタラクション系やVRに関する技術が比較的多く集まるセッションです。E-Techには毎年日本の研究者が多く名を連ね、SIGGRAPH2018でも半数以上が日本の研究機関からの出展になっています。

SIGGRAPH2018のE-Techまとめ動画

本記事では、E-Techから、AR/VRに関係する技術展示を紹介します。

バラエティ豊かな映像提示

頭に被るプロジェクター

頭に被るウェアラブルプロジェクター。体験者が向いている方向に対して、水平に105度・垂直に55度の領域に映像を投影できます。HeadLightを被って暗い部屋に通されると、プロジェクターが起動し、様々な映像空間を体験することができました。

https://vimeo.com/263377583

蝶やコウモリなど、人とは異なる知覚をする生物の世界を体験するというコンセプトだそう。部屋を見回すと、さっきまで見えていなかったものが視界にプロジェクションされ、新たな発見があるといった面白さもありました。

プロジェクトページはこちら

展示名:HeadLight: Egocentric Visual Augmentation by Wearable Wide Projector
展示者:Shunichi Kasahara(SonyCSL)

水に沈んだ光の妖精

電気通信大学 小泉研究室が展示していた「FairLift」は、水に映った妖精を水ごと手で掬い上げるデモです。水中や水上にCGオブジェクトを投影し、手を使ったインタラクションを可能にするシステムを応用したものです。再帰透過光学素子を利用することで、水盆の奥側に置いたプロジェクターの映像を水面に結像させます。会場では水面の上方に距離センサを設置していました。

展示名:FairLift: Interaction with Mid-Air Images on Water Surface
展示者:Yu Matsuura, Naoya Koizumi(電気通信大学 小泉研究室

注目の網膜投影システムと広視野角のARディスプレイ

落合陽一氏が率いる筑波大学 デジタルネイチャー研究室らは、近年、AR/VR分野で注目が高まりつつある網膜投影技術に関する展示を行っていました。レーザプロジェクタと透過型ミラーデバイス(TMD)を用いて、従来の技術より広視野角・低消費電力で、シンプルな網膜投影システムを実現しています。TMDとは、ある光源をTMDに関して面対称な位置に結像させるもの。

会場では3種類の光学系で実装した網膜投影デバイスを展示。シースルー型のもの(左)、非シースルー型のもの(右)、画像の解像度を荒くする代わりに視野角を限界まで大きくしたもの(中央)。

展示名:Make Your Own Retinal Projector: Retinal Near-Eye Displays via Metamaterials
展示者:Yoichi Ochiai, Kazuki Otao, Yuta Itoh, Shouki Imai, Kazuki Takazawa, Hiroyuki Osone, Atsushi Mori, Ippei Suzuki(筑波大学 デジタルネイチャー研究室Pixie Dust Technologies, Inc.

また、同研究室のブースでは、広視野角な映像の提示を可能にしたシースルー型のARデバイスも展示していました。

このデバイスには、透過型ミラーデバイス (TMD) をヘッドセットの機構に応用していますこれにより、実際のレンズに関して面対称な位置に生じたバーチャルなレンズを目で覗き込む、という機構を作り出すことができます。



Oculus Riftの開発者版であるDK2を分解して得た基盤を映像提示に利用。

展示名:Transmissive Mirror Device Based Near-Eye Displays with Wide Field of View
展示者:Kazuki Otao, Yuta Itoh, Kazuki Takazawa, Yoichi Ochiai(筑波大学 デジタルネイチャー研究室Pixie Dust Technologies, Inc.

期待の次世代技術、可変焦点

イスラエルのLemnis Technologiesが展示していた「Verifocal」は、VRでも焦点を合わせることのできる可変焦点技術を実装したデモです。マイクロソフトのWindows Mixed Realityヘッドセットを改造したデバイスで体験を行いました。

従来のVRでは目とディスプレイの距離は固定されています。VRの中で手に持ったメモに書いてある文字が小さいのでよく見ようと、手を顔に近づけても文字ははっきりと見えずにボヤケたままです。VRの中で焦点を合わせることができない問題を解決するための技術が「可変焦点」の技術となります。


レンズの周囲には可変焦点を実現するためのアイトラッキング(視線追跡)のセンサーが配置

今回の展示では、可変焦点をONとOFFにした場合の、ピントの合い方を比べることができました。ヘッドセットの解像度が限界にはなりますが、遅延もなくクッキリとなることを確認しました。

展示名:Verifocal: a Platform for Vision Correction and Accommodation in Head-Mounted Displays
展示者:Pierre-Yves Laffont, Ali Hasnain, Pierre-Yves Guillemet, Samuel Wirajaya, Liqiang Khoo, Teng Deng, Jean-Charles Bazin(Lemnis Technologies)
(その他:Mogura VRによる記事

印刷されて……ない!?

東北大学 橋本・鏡研究室は、2400fps(毎秒2400回の映像提示)という追従性能を持つフルカラープロジェクターを展示していました。高速で動く物に対するプロジェクションマッピングなどに応用できます。著者らのこれまでの研究を発展させ、カラー化やHDMI入力に対応したものになります。

SIGGRAPH会場での展示。追従精度があまりにも高く、まるで紙に画像が印刷されているようにすら感じてしまいました。

展示名:A Full-Color Single-Chip-DLP Projector with an Embedded 2400-fps Homography Warping Engine
展示者:Shingo Kagami, Koichi Hashimoto(東北大学 橋本・鏡研究室
 

鏡を使ったライトフィールドディスプレイ


長岡技術科学大学から展示されていたのは、凸面鏡が集まって構成されたミラーボールを一軸方向に高速回転させ、プロジェクタの映像を様々な方向に反射することで実現するライトフィールドディスプレイです。


ウサギが走っている様子が表示。球体内から光線が出ているかのような状態が作られ、投影されたウサギはボールの中にいるように見えます。体験者がどの位置に立っていても(ヘッドトラッキン等
不要で)、奥行き感のある適切な映像を見ることが出来ます。

展示名:Spherical Full-Parallax Light-Field Display Using Ball of Fly-Eye Mirror
展示者:Hiroaki Yano, Tomohiro Yendo, Kohei Matsumura, Akane Temochi, Masaki Yamauchi, Hiroaki Matsunaga (長岡技術科学大学)

次ページでは、様々な感覚を再現するデバイスなど後半の紹介となります。


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