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業界動向 2019.03.01

マルチユーザーVRのNVIDIA Holodeckで変わる米国建築デザインの今と未来

CannonDesign でビジュアライゼーション担当ディレクターを務めるアーネスト・パチェコ氏は、マルチユーザー VR を活用してデザイナーとクライアントを構想中のビルの中へ一緒に入れる [提供: CannonDesign]

本記事は「Redshift 日本版」とのライセンス契約を結んだ転載記事であり、ジェフ・リンク氏の執筆した原稿を翻訳したものを、オートデスク株式会社の許諾を得てMogura VRに転載しています。


幼少時代をメキシコで過ごしたアーネスト・パチェコ氏の、最大の楽しみは父親と Atari のビデオゲームをプレイすることだった。建築家のパチェコ氏は現在、CannonDesign でビジュアライゼーションの担当ディレクターを務めている。だが、ゲームや後のインタラクティブ デザインへ対する情熱が、マルチユーザー VR という形で技術革新の最先端におけるキャリアへ進化するとは、その当時は全く予期していなかった。

そして、それ以上に信じられない思いを抱くのが、クッキーを食べるパックマンの黄色い顔を作るのに使われたビジュアライゼーション技術が、人間をもとに感情へ反応する、リアルな 3D アバターを生成できるまでに成熟した点だ。米ミズーリ州セントルイスにあるオフィスで、彼はデザイナーとクライアントがVRヘッドセットの HTC VIVE Pro を装着し、これから建築する建物や部屋の中へ一緒に入って、未来を効果的に作り出す決定を共同で行う姿を目にしている。

18年に及ぶパチェコ氏のキャリアは、平坦なものではなかった。だが、150万円ものハードウェアが数カ月でゴミになってしまうような、デジタル製品開発の急激な加速に戸惑いつつも、自身の仕事をエンジョイしてきたという。その彼が、マルチユーザー VR で身体やムードを読み取り、クライアントを没入型の世界へ誘うことで初期デザインやプロトタイピングを変革する方法について語ってくれた。

VR コラボレーティブ デザインのプラットフォームである NVIDIA Holodeck で、最大16人のユーザーが同じ空間内でアバターとして話したりインタラクションしたりできる [提供: CannonDesign]

[提供: CannonDesign]

[提供: CannonDesign]

[提供: CannonDesign]

[提供: CannonDesign]

マルチユーザー VR は、デザイン ツールとしてはどのような魅力がありますか?
VRは隔離された体験であり、それを打破するのは非常に困難でした。まず、デバイスを頭に装着する必要がありますが、それは快適なことではありません。このテクノロジーに慣れていない人には、うまく機能しないものだったのです。

そうした状況も、2017年に登場した NVIDIA Holodeck で大きく変わりました。我々は NVIDIA とのパートナーシップを通じて、Holodeck の建築設計向けベータテストを手伝いました。これは我々に必要なツールを備え、マルチユーザーにも対応した最初の VR プラットフォームでした。従来とは全く異なり、最大16人がひとつの部屋の同じ空間内に存在できるので、誰もが快適に感じます。VR の中に入ると、お互いを見たり話しかけたりすること、コラボレーションすることや、ものを持ち上げることができます。本当に素晴らしい。初めて試したときは、とても驚きました。

CannonDesign はヒューストン・カレッジ・オブ・ナーシング大学付属病院の基本設計を行なっていますが、そのデザイン レビューは VR でどう変わりましたか?
医療分野のプロジェクトでは、重要な空間は、現場にラフなモックアップを作ることが多くなっています。そこを看護師が歩き回り、機材の配置やカウンターの高さなどを確認します。VR によって、病室も看護師が確認できるようになりました。必要に応じてすぐに変更を行ない、レンダリングしたファイルをエクスポートして再び試すのですが、物理的なモックアップを再度作る必要はありません。これまでは物理的なモックアップを作るのに 2-3週間はかかっており、そのコストが 400万円近くなることもありました。しかも無駄が多い。最後には廃棄しなくてはなりませんから。

CannonDesign はヒューストン・カレッジ・オブ・ナーシング大学付属病院の基本設計に Holodeck を活用することで、物理的なモックアップに時間やコストを費やすことなくクライアントからの変更を実現した [提供: CannonDesign]

VR によって、クライアントにより多くのモックアップを作れるようになり、設計のプロセスがスピードアップしました。クライアントはその日のうちに変更のリクエストを戻し、そこから1日か2日で変更を行えます。Holodeck の登場前はモックアップ全体を作り直す必要があって、それに 1-2 週間かかる場合もありました。

そうした迅速なフィードバックは、施工段階においても役立ちますか?
もちろんです。例えば、高さを確認できます。ヘッドセットを装着して仮想空間に入ると、身長も現実と同じです。195cmの私と同じように身長が高ければ、あなたは 195cm あるように見えます。そして、アバターも同じように振る舞います。だから、例えばアンドリューという人と同様の見た目とボディランゲージのアバターは、話しかけなくても、それがアンドリューだと分かります。

ヒューストン大学のクライアントが VR の中で、病室や、アニメになった自分を見たときの反応はどんなものでしたか?
驚くほどうまくいき、わずかな指示だけで使いこなしました。最初は学校をドールハウスのような視点で見て、次に現実大にして空間を感じられるようにしました。

設計に関して、CEO は幾つかの点を心配していました。機械室の場所や、ベッドにどれくらいの空間が割り当てられるのか、ナースステーションで使われる材料は何か、などといったことです。「ナースステーションの前を木でなくガラスにしたら、ナースステーションの周りを歩き回らなくても、施術者は壁の裏にある機材を見られるのではないか」というコメントがあったので、それをその場で実行しました。

VR の中では、クライアントのどんな感情が見られますか?
いろいろありますね。イライラしていることもあります。がっくりと肩を落としていることもあります。ちょっと驚きですよね。NVIDIA Holodeck のような VR プラットフォームと、HTC VIVE Pro や AI が組み合わせられると、アバターは特定の位置にいるように振る舞えます。あなたが膝を曲げれば、アバターもしゃがみこみます。アニメーションによる表情もあります。微笑んだり、悲しんだり、興味を持たなかったり、ハッピーだったり。それに、気分を示すようなボディランゲージも生み出します。


バーチャル建築のさらなる深化に備えるアーネスト・パチェコ氏 [提供: CannonDesign]

だれかがデザイン レビューでイライラしていると感じたら、どう対応しますか?
「どうしたんですか?そう感じているのはなぜですか?疑問はありますか?」と尋ねます。そうした不安に対処する機会が提供され、彼らの感情をその場で反映できます。共感が得られることで、この体験に皆が興味を持ち続けられます。

設計のビジュアライゼーションの未来は、どのようなものになると予想していますか?
AI やジェネレーティブ デザインと結びつくようになるでしょう。例えば、CannonDesign のビルには独特の特徴や個性があり、各タイプの場所や高さ、その他の状況に制約があります。そのビジュアルなロジックを、Autodesk Dynamo Studio をつないでさまざまなコンセプトを探り、特定のタスクを自動化します。コンピューターは瞬時に何千ものデザインのイテレーションを実行して、ユーザーはそのプロジェクトに最適だと感じるものを手選別します。

ひとつのプロジェクトに、1万ものオプションを検討する時間はありません。プロジェクト期間内に 10 や 20 なら試せますが、それはかなり多い数です。でも、そうした大変な仕事はコンピューターに任せて、それ以外のこと、各ビルディングに特有なこと、パーソナライズしたことにフォーカス可能になります。


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