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VRChat 2023.11.02

「未来のドブ板通り」に、無料配布の3Dモデル――横須賀市の本気すぎる「メタバースヨコスカ」の狙いとは

10月27日、ソーシャルVR「VRChat」に横須賀市公式ワールド「DOBUITA & MIKASA WORLD」がグランドオープンしました。横須賀市の「ドブ板通り商店街」と「三笠公園」をモチーフにしつつ、「未来の横須賀」として構成されたワールドです。

そして同日には、ECサイト「BOOTH」にて、「スカジャン」や横須賀グルメの3Dモデルの無料配布がスタートしました。スカジャンは「VRChat」向けの人気アバターやVRoidアバターに対応しており、グルメの3Dモデルと合わせて商用利用も法人利用も許可された、とても自由な3Dモデルとして配信されています。

この一連の施策を仕掛けてきたのが、横須賀による観光発信企画、メタバースヨコスカプロジェクトです。本記事では、10月27日実施のメディア向け完成披露会の様子も交えて、「メタバースヨコスカ」と「DOBUITA & MIKASA WORLD」の概要と狙いについて紹介していきます。

ちょっと未来のドブ板通り商店街へ

「メタバースヨコスカ」プロジェクトは、「VRChat」を活用した横須賀市の観光情報発信の取り組みです。横須賀市公式の企画で、横須賀の魅力を様々な角度から発信するべく、「ワールド公開」「3Dアセット配布」「イベント開催」など、複合的な取り組みで構成されています。

第1弾ワールド「DOBUITA & MIKASA WORLD」は、横須賀の「ドブ板通り商店街」と「三笠公園」をモチーフとしたワールドです。アメリカの雰囲気もまざりあう独特の町並みは、「未来の横須賀」をコンセプトに、近未来的かつ仮想世界っぽいアレンジが加えられています。ちなみにQuest対応済みです。

そもそも現実の横須賀市は、神奈川県南東部に位置する、東京湾と相模湾にはさまれた町です。古くから軍港都市として栄え、いまでも貿易港として機能しているほか、アメリカ海軍基地や海上自衛隊基地・艦船など、当時の名残が見られます。自然も多く、東京湾最大の自然島・猿島が特に有名です。

その中でも「ドブ板通り商店街」は、米兵向けの商売が盛んだったことから、日本とアメリカが混ざりあった独特の雰囲気の商店街として発展し、現在でも横須賀の代表的な観光地となっています。アメリカ海軍由来の文化も多く持ち込まれ、「スカジャン」などの独自のファッション文化やグルメが生まれています。

ワールドの入口には、そんな「ドブ板通り」という不思議な名前の由来や、横須賀グルメを紹介するパネルが設置されています。まずはここで横須賀の基礎知識を知りましょう。

同じ場所に置かれたバイクは手に持って動かせるので、キービジュアルのようなバイクをつかった記念撮影もできます。

商店街の通り沿いには、様々な店舗が立ち並びます。「DOBUITA」というグラフィティが描かれた黄色いシャッターもありますが、これは実際のドブ板通りにあるものをフォトグラメトリで再現したものだそう。ド派手なシャッターは記念撮影にぴったりです!

また、横須賀の名勝の写真を表示できる、広めの空き地もあります。ここはイベント開催時に活用していきたいとのことで、すでに「VRChat」の代表的な飲み屋街「ポピー横丁」とのコラボも企画されているとのことです。


(ワールド制作クリエイターは「手配書」のような形で紹介されている)

ワールド制作は、様々なワールドを手掛けてきたVoxelKeiさんが担当。さらにプロップモデラーにはるらさんやイカめしさんなどが、BGMには音楽家VTuber・やまみーさんと、多くが「VRChat」を中心に活躍している人たちがアサインされています。数々のVRChat案件を手掛けた株式会社往来が関わっているだけあり、納得のキャスティングです。

無料と思えぬクオリティ。スカジャンを着て横須賀を歩こう!

商店街には、入店できる店舗が3つあります。ひとつはブティック。「メタバースヨコスカ」の目玉ともいえる「スカジャン」が展示されています。

このスカジャン、なんと「BOOTH」にて無料配布されています。人気アバター15体(森羅まめひなた桔梗カリンライムルーナリットリーファマヌカセレスティアサクヤ水瀬杏里ドラゴニュート・ヴラウ相楽リオ)に対応済みの3Dモデルと、アバター制作ツール「VRoid Studio」向けのテクスチャが配布中です。

刺繍とカラーバリエーションの組み合わせは全18種。デザインは本職のスカジャン絵師・横地広海知さんが手掛けている本格派です。そして、3Dモデルは人気バーチャルファッションブランド「EXTENSION CLOTHING」のアルティメットゆいさんが、VRoid向けテクスチャを人気VRoidクリエイター/VTuberのLUCASさんが制作。さらにディレクターとして、バーチャルファッションショー「Voyage」の主催・ゆいぴさんが参画しています。

豪華クリエイター陣が参画したことで、スカジャンはとにかくハイクオリティな仕上がりになっています。スカジャンだけでなく、男女それぞれでトータルコーディネートが組まれており、袖を通すだけであっという間に「横須賀のイケてるヤツら」になれちゃいます!

ちなみに、今回のスカジャン無料配布に合わせて、ブランド「Melty Lily」からはスカジャンに合うコーデが、ブランド「Lemiel atelier」からはスカジャンコーデに合う髪型も発売。こちらもブティックにて展示されているので、いろいろなコーディネートを考えるのにピッタリです。

3Dモデルも無料配布! 個性的な横須賀グルメにお腹が減る

そして、「カレーショップ」と「ハンバーガーショップ」も入店することができます。

カレーショップでは、横須賀グルメの代表格「よこすか海軍カレー」が提供されています。席数はカウンター含めてそこそこ。壁のポスターがいい味を出しています。

「よこすか海軍カレー」は、日本海軍の料理教科書「海軍割烹術参考書」に記されたレシピをもとに作られた横須賀グルメ。栄養バランスを考慮した名残で、カレーに加えてサラダと牛乳を添えるのが鉄則で、このワールドでもその組み合わせが忠実に再現されています。

この「よこすか海軍カレー」は、食べ始めと食べ終わりに、ダンディな男性の声が聞こえてきます。どこからともなく聞こえてる「うんめぇ!」という声はけっこうシュールですが、これもどこか味わい深かったりします。

ハンバーガーショップでは、同じく横須賀グルメの「ヨコスカネイビーバーガー」が提供されています。横須賀米軍基地から提供されたレシピをもとに、2008年に生まれた比較的新しいローカルグルメで、牛肉本来の味を活かしたアメリカンな味が特徴だとか。

「ヨコスカネイビーバーガー」はキッチンで実際に調理することができます。パティをアツアツの鉄板で焼き、バンズにトマトやレタスとともに挟めば、あっという間に完成。モスバーガーワールドよりもシンプルに作れるバーガーは、豪快に3口で食べ進められます。

店内には、バーガーに合いそうなポテトが盛られた皿や、「ヨコスカチェリーチーズケーキ」の姿も。アメリカンなメニューも相まって、店内は「ダイナー」な雰囲気が漂っています。

このほか、三笠公園エリアの屋台にも、海鮮丼やカレーパン、プリンや地ビールといった横須賀グルメの3Dモデルが並んでいます。そして、上記の横須賀グルメの3Dモデルも、なんと「BOOTH」にて無料配布中です。「うまそう……」と思ったら、自分の作るワールドに持ってくる、なんてこともできるわけです!

船内ものぞける? 記念艦三笠に乗り込もう

そして、商店街に続いているのが「三笠公園」です。東郷平八郎の立像や、世界三大記念艦「三笠」がある、横須賀を代表する公園です。

公園にはライブステージがあります。かなり大きい上に、動画再生プレイヤー「iwaSync3」と、音声・映像配信サービス「TopazChat Player」も完備。音楽ライブが実施しやすい環境となっています。

そして、記念艦三笠には乗り込むこともできます。甲板はもちろん、艦橋へのぼることもでき、主砲も間近に見ることができます。巨大な戦艦ということもあり、横須賀の町並みが一望できるスポットです。


(正面甲板で記念撮影!)

艦内の一室にも行くこともできます。東郷平八郎の肖像など、貴重な写真なども展示されているエリアです。

三笠を中心とした観光が楽しめるだけでなく、ライブステージでは11月4日に、音楽ライブ「メタスカVRフェス Vol.1」も開催予定です。「StrollZ」、93poetryさん、やまみーさん、「CROWK」、「JOHNNY HENRY」と、「VRChat」で活躍するアーティストたちが出演します。オープン後も、イベントという形でまだまだ盛り上がっていきそうです!

熱中するコミュニティに満足してもらう――横須賀だからこそ為せる、”わかっている”ユーザー訴求

見どころが多いワールドの公開だけでなく、イベントも企画し、さらに3Dモデルも制作して、無料で配布。その配布物も、複数のアバターとVRoidに両対応した衣装という、ユーザー需要をよく理解した選出。初となる試みながら、「メタバースヨコスカ」プロジェクトの一連の取り組みは、非常にVRChatユーザーの需要を”わかっている”一手です。


(横須賀市観光課・小山田さん)

このプロジェクトのプロデューサーを担当しているのが、横須賀市観光課の小山田さん。自身もゲーマーというこの方は、2年ほど前から「VRChat」の可能性に着目し、独自に視察していたとのこと。そして今年2023年、面識のある人のいた株式会社往来に声をかけ、「メタバースヨコスカ」プロジェクトが始動したのだそうです。

もともと横須賀市は、位置情報ゲームの「Ingress」や「ポケモンGO」、アニメ作品「ハイスクール・フリート」といったコンテンツとのタイアップ実績があります。

「人々を熱中させるコンテンツ」を見出し、そのファン・コミュニティにも満足してもらう施策を打つ経験があり、そして新しい企画への挑戦に積極的な都市なのだそうで、だとすれば(担当者個人とはいえ)2年という準備期間すら設ける嗅覚の鋭さには納得がいくところです。

その象徴とも言えるのが、強力な布陣とともに制作されたスカジャンです。「VRChat」ではアバターファッション文化が大きく花開いており、ハイクオリティかつ個性的なアバター衣装に、ユーザーは大きく注目します。これを無料で配布するという一手は、スカジャンを通した横須賀というブランドの普及に、かなり効果的と言えるでしょう。

そして、今回のスカジャンリリースにあたっては16名ものアンバサダーが起用され、配布開始前から、Xでのプロモーションを展開していました。アンバサダーは常日頃から「VRChat」でファッションを楽しむ人や、ダンサーが起用されており、写真・動画の両面でユーザー認知拡大を仕掛けていました。これも、現在のアバターファッション業界ではよく見られるプロモーション展開です。

また、スカジャンや横須賀グルメの3Dモデルは、利用規約がかなりゆるいのも特徴です。個人利用はもちろん、商用利用や法人利用まで許諾されており、かなり使いやすいアセットとなっています。小山田さんによれば、県外の企業などにも関心を持ってもらうことで、横須賀市と企業との連携も生み出したいとのこと。個人だけでなく企業もターゲットとした、「3Dアセットを通した観光誘致・地域振興」こそ、「メタバースヨコスカ」最大の狙いと言えるでしょう。

と、戦略的な側面こそありますが、小山田さん自身もアバター改変を自ら行うなど、プライベートでも「VRChat」を満喫していることが伝わってきました。そして小山田さんも株式会社往来さんも、ともに「クリエイターを大切にしていきたい」と語っており、そんな姿勢がかつてない規模のクリエイターのアサインにつながっているものと思われます。

「VRChat」という場を個人的にも好きになり、そこに携わる人々へのリスペクトを持つこと。これは、「VRChat」を軸にした事業が成功する上で、大きなカギとなるポイントです。そして現在、「メタバースヨコスカ」公式「BOOTH」ショップでは、男性向けスカジャンのいいね数は1300超、女性向けスカジャンは2800超と、大きな注目を集めています。この数値こそ、「メタバースヨコスカ」への注目の高さがうかがえるのではないでしょうか。

「メタバースヨコスカ」プロジェクトの展開は、今回の「ドブ板通り」ワールドの公開にとどまりません。12月には猿島をモチーフにしたワールド公開も予定しており、その先にも様々な施策を控えているとのことです。自治体による「VRChat」を通した観光発信が、どのような形で実を結んでいくか。先行きにも期待したいプロジェクトです。

「DOBUITA & MIKASA WORLD(メタバースヨコスカ」へのアクセスはこちら。
https://vrchat.com/home/world/wrld_ef280de9-4953-4068-8bbf-83a72c4e6f63


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