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セミナー 2023.07.14

地方自治体による「バーチャル」施策はどう広がったのか 「先駆者が語るメタバース・VTuberを活用した地方創生の可能性」レポート【後編】

株式会社Moguraが主催する、自治体関係者限定の無料ウェビナー「先駆者が語るメタバース・VTuberを活用した地方創生の可能性」が5月12日に開催されました。前編に続き、後編ではパネルディスカッションの模様をお届けいたします。

出演者は、茨城県公認VTuber「茨ひより」をプロデュースする営業戦略部プロモーションチームリーダーの関健一氏、「バーチャル沖縄」を手がける株式会社あしびかんぱにー代表取締役社長の片桐芳彦氏、群馬県のデジタルクリエイティブ人材育成拠点「tsukurun」を運営する産業経済部戦略セールス局eスポーツ・クリエイティブ推進課主任の南齋浩樹氏です。ファシリテーターはMogura VR編集長の久保田瞬が務めました。

パネルディスカッション

久保田瞬(以下、久保田):
みなさんはお互いの取り組みをご存知だったり、見たことはありますか?

関健一氏(以下、関):
あしびかんぱにーさんの取り組みはすごいなと思ってて、県庁さんとの役割分担はどんな感じでやってるのか、少し詳しく聞けるとありがたいなと思いまして。

片桐芳彦氏(以下、片桐):
我々って県の公式ではなくて、あくまでも企業としてやっていて。「ねむ」もそうですし、「バーチャル沖縄」も自前の資金で全て作っているものなんです。ただ県庁からもバックアップを色々いただいて、「世界のウチナーンチュ大会」については県の一部資金をいただいていたり、リアルイベントの支援でうちが入っていたり、バーチャル沖縄も作っていく過程で戦略事業としてご支援いただいているので、細かいご依頼を受けながら一緒にやっております。

関:ありがとうございます。なんか非常に心強いなと思って、茨城県にもそういった民間の会社があるとありがたいなって思いながら、ご説明を伺いました。そういう会社がたくさん増えると、さらにバーチャルやメタバースが広がるなと思います。

施策を始めたきっかけ

久保田:
茨城県さんが、VTuber「茨ひより」やメタバースをやろうとなったタイミング・現場での立ち上がりを伺いたいです。

関:
うちの場合は「いばキラTV」の運営という大括りの予算で委託をお願いしてるんですね。なのである意味自由度があるということもあり、前年度末に次年度の内容を考える中で、何か面白いコンテンツを作ろう、今やれば全国初の自治体になるぞという思いの中で、最近だとChatGPTを使ったAI茨ひよりを3月にやろうと決めて、4月のニコニコ超会議に出したという、「やっちゃえ!」みたいな県ですね。

久保田:
年度をまたいでいてすごい。ありがとうございます。あしびかんぱにーさんはどうだったんですか?

片桐:
会社の創業以来からのミッションが「沖縄から大きな魅力を世界へ」という形で、実はバーチャル沖縄も、私ではなく若い社員たちからの提案から始まったもので、沖縄の魅力を届ける手段手法として採用し進めている状態です。

久保田:
群馬県さんはいかがでしょう。

南齋浩樹氏(以下、南齋):
群馬県としての始まりとしては知事から、「将来、人口が減って様々な産業構造が変わっていく中で、群馬県が新たな成長機会に対応するために」というところで、クリエイティブな拠点を作ろうという大目標だけがあって、そこを目指すためにどうするかっていうのを、我々職員ヒアリング等をしながら煮詰めて、人材育成が必要となり、人材育成施設を作りました。さらにメタバースというワードも出てきて、そういうものを活用するためにはどうしたらいいかというところもまた職員が煮詰めて事業が動き出した形です。

久保田:
「tsukurun」はトップダウンだったんですね。三者三様でスタートは全然違いながらもメタバースをやってらっしゃるっていう共通点で、先ほど片桐さんからも地域の企業さんと一緒にやっていくというようなキーワードもありましたが、まず役所の中の人たちや地域の企業さんたちに新しい概念への抵抗があったり、周りの理解を得ていくという部分は皆さんどうだったんでしょうか?

どのように組織や市民の理解を得ていったのか?

片桐:
沖縄出身の企業でほとんどが沖縄の子たちですので、もちろんVTuberもメタバースって言葉も当時はまだまだだったんですが、やっぱり同じ地元出身の若い子たちが熱を持って話していると、びっくりするぐらい「やってみましょう」っていう形になりますので、やはり地元の企業さんと地元の会社がやると、力がより強くなるのかなと実感しています。

南齋:
内部組織で言うとeスポーツ・クリエイティブ推進課という中で(他部署と)壁があり、なかなか理解は進まなかったです。ただ、実際にものができて活動を進めていく中で、「もしかしていいことやってるんじゃないかあいつらは」と、理解されてきたところです。地元企業では車の製造業が盛んなので、メタバース産業と少し遠い企業の方が多く、そういう方々に見学に来てもらったり、逆に群馬県の方から出張して実際にどんなものかを体験してもらい、理解を得つつあるところなのかなと思っております。

関:
VTuber「茨ひより」を作るにあたって、「若い方には理解してもらえそうだけど、上に説明していくのに大丈夫だったのか」と言われるんですけれども、かなりスムーズだったようです。当時どんどん(話が上に)行って、最後の難関は知事だったと思うんです。当時の担当が多分ドキドキしながら説明したら、言われたのが「ずいぶん地味だね」と。そういう意味では知事がかなり前向きだったので、勢いでやった感じはありますね。地域の方からのクレームもなく、今はかなり定着していて、県民からも愛されて。ただ、まだ全国区になっていないので、そこは今後の課題だと思っています。

運用中に直面したハードルは?

久保田:
VTuberやメタバースを進めていく中で、技術面も含めて、「これは大変だったな」というハードルはありましたか?

南齋:
メタバースでイベントを実施するために「どのような技術的なハードルを乗り越えないといけないのか」というところから、知らないことばかりで、かつ技術者数も多くなく、進めるのが難しかったかなというところです。新しい分野なので、ツイッターで「メタバース空間を作ってくれる方を募集します」というプロポーザルを実施したんですけど、それもなかなか情報が正確に伝わらず、そういうところがハードルであったと思っております。

関:
VTuber「茨ひより」のときはさほどでもなかったんですが、「AI茨ひより」は3月にやろうと決めて4月のイベントでのお披露目だったので。(ニコニコ超会議の)4日前にテストをやったんですけど非常に回答の精度が低く、全然関係ないことをスラスラと喋るんですね。「これがChatGPTなのか」と思ったんですけど、あと4日で直るのかなと心配になって。結果的にかなり改善はされたんですけど、技術的な部分を早期にというのは、リスクを少し感じました。

片桐:「バーチャル沖縄」は県公認という形で進めていきたいものですから、国際通りや首里城を作っていこうとなると、許認可の調整はかなり苦労しました。

取り組みが広まったカギは?

久保田:
いま実績を上げている取り組みも、ゼロからのスタートだったと思います。振り返ってみて、「これがあったから広がった」というポイントはありますか?

南齋:
メタバース空間の話で言えば、写真&動画コンテストをやったことによって、いわゆる原住民の方々に認知が広まって、楽しんでいただけたのかなと思っております。界隈には界隈の先駆者がいて文化を築き上げていらっしゃるので、そういうところに適した形で入っていくことが重要なのかなと。

片桐:
我々は点ではなく線だと考えていまして、沖縄の観光も活性化していますので、むしろここからさらに見つけていただいて、広がっていく機会がさらに増えると思っております。観光と紐づいた設計や露出をしていくことが鍵なのかなと考えています。

関:
うちの県に「竜神大吊橋」というかなり長い吊り橋があって、そこから「茨ひより」がバンジージャンプする動画があるんですね。これがすごい絶叫で、こういうチャレンジングなことをやったのがよかったのかなって思ってます。他にも、「茨ひより」が早口言葉をやってみたり、茨城弁で「ごじゃっぺ」という言葉があるんですけど、それも噛んだり、駄目なときが結構あるんですね。色々とチャレンジするような、そういうキャラクター性も良かったのかなと。

あとは、ツイッターでかなり高頻度でツイートして、リプライやリツイートもしているので、ファンの方々の共感が得られているのかなと思っています。県内外の属性までは見られないのですが、なんとなく県内が多いのかなと思っていて、これからどうやって県外の方々に「茨ひより」を知っていただくのかが大きな課題だと思っております。

今後も長期的な視点で取り組み継続

久保田:
今後について、言える範囲で構いませんので、教えていただければと思います。

関:
(重要なのは)これからどんどん「ひより」のファン、さらに県のファンに茨城へお越しいただいたり、県産品を買っていただくような流れを作っていくことだと思います。これからインバウンド、海外への進出という部分でどうPRしていくかも考えておりまして。海外輸出も含めて茨城のプレゼンスを上げていく意味で、日本のサブカルをどう活かしていくか。ハイレベルな課題ではありますが、チャレンジしていければと思っております。

片桐:
これから運営を継続してさらにブラッシュアップしていきたいです。AR/MRもどんどん入れていって、旅の途中でもさらに発見度が上がっていったり、観光地にプラスアルファの面白さを増やすことで、県内も盛り上げていければいいかなと思っています。

南齋:
群馬県は長期スパンで見ると、2040年のクリエイティブ拠点化を目指し「tsukurun」で人材育成をし、クリエイティブな企業さんに群馬県に来てもらって、いわゆるクリエイターエコノミーのようなものを作っていきたいと思っております。短期的なスパンで言えば、今年は子供たちにワールドを作ってもらいたいと思っております。きっと楽しいものになると思います。ご興味ある方はぜひご注目いただけますと幸いです。

一言、アドバイスを!

久保田
今回聞いている方は自治体の方が大多数だと思います。まずは自治体の方に向けて、行政として新しいテーマにどう取り組んでいくのか、そしてもう一つ、自治体さんと一緒にこういったテーマで地域のことに取り組みたい、開発会社や制作会社の方へのご意見やアドバイスをいただければと思います。

南齋
自治体職員向けに対しては、我々も今ようやく「何かいいことやってるな」って思われ始めている段階なので、なかなか難しいですね。もう地道に、健気に事業を進めるしかないのかなと思います。一方で企業の人たちに対しては、自治体で新しいことをやりたがってるところは多いので、案外比較的柔軟に動くことができますので、まずはお気軽にご相談をいただければと思っております。

片桐:
VTuberにしてもメタバースにしても、作って終わりではなく、むしろ作ってからの運営継続が本当に大変だと思います。そこを見越した作り方で運営を軽くすることもできますので、そこまで練られた上でスタートされることをおすすめしたいです。

関:
うちのチームは県庁の中でも珍しくフリーアドレスを採用していて、みんなが色々な形で関われるようにしていたりします。私自身もう年齢を重ねてなかなかアイディアが出てこないので、年に何回か全チーム内の職員でコンペをやったりしています。実際、コンペで出たアイデアを採用して昨年度のニコニコ超会議ではメロンタワーを作ってみたり、メロンのつかみ取り企画をやったりしています。「東京のセミナーにもどんどん行こう」という話もしていて、外部の方と接触することで道が開けるのかなと思っております。企業の方に向けては、多くの企業さんがいる中でどこと繋がるかっていうのはなかなか難しく、ニコニコ超会議等の出展の場で声をかけていただくと、顔と顔が繋がって繋がりやすいのかなと。こういう機会、セミナーを通してご連絡をいただくと、(我々の話を)聞いていただいた上での繋がりという安心感を持てたりするのかなと思います。

視聴者からのQ&A(代読:久保田)

久保田:
「tsukurun」のカリキュラムでは、どのようなVRコンテンツを体験してもらっているのでしょうか?

南齋:
「tsukurun」VRでは今のところ、対象年齢を満たしている方にはVRChatとオープンブラシを体験してもらっています。クリエイティビティを伸ばしてもらいたいと思ってるので、オープンブラシで3D空間に絵を描くという体験を積極的にやってもらっています。

久保田:
「AI茨ひより」はどういう目的で作成されたのでしょうか?

関:
なかなか難しい質問なんですが、基本的には茨城の魅力を発信するために進めたんですけれども、今のところは、話題先行になっています。VTuberのひよりは時間、それから場所的な部分の制約もあると思うんですね。一方でこの「AI茨ひより」がうまくいけば、24時間というのは言い過ぎかもしれませんけど、かなりの時間、それから場所も含めて活用できるので、魅力発信の機会が増えると思っています。

久保田:
有名VTuberを活用したPRを検討した上で、今回イチからVTuberを作ろうと考えたのではないかと思いますが、イチから作った場合と、既存のVTuberを使ったプロモーションについて、双方のメリットを教えていただけますか。

関:
有名VTuberを使ってやろうという案は当時もありましたが、当然ある程度の知名度があり効果がある一方で、費用感の問題や様々な条件から「1回限りで終わってしまうんじゃないか」と、そうなると厳しいということがありまして。自分たちで作って、「最初の頃は(動画制作数が)10本でもいいからやろう」ってことでやったんですが、意外とそれが人気になって続いたということで、今のような形でやったのが個人的にはよかったのかなと思っています。

久保田:
皆さん、VTuberやメタバースのKPIは設定しているのでしょうか?

片桐:
チャンネルからの広告収入は、継続する上で大事なものですので見ておりますし、バーチャルについても、もちろん累計の登録者だとか登録者とか来場者も見ていて。どちらも人が集まるので、その価値を収入に変えて継続していこうという形でKPIを設定しております。

関:
「茨ひより」の関係では設定していませんが、「いばキラTV」の再生回数については設定しています。オフィシャルなものというより、私達のチームの中で「これぐらいの再生回数を目指しましょう」みたいな感じなので、ガチガチのKPIは特に設定していません。

南齋:
群馬県の場合はリアルの施設があるので、入場者数をKPIに定めています。一方でメタバースの空間に関しては、子供たちの作品を載せるのが目的ですので具体的なKPIを設定していません。

久保田:
メタバースの予算設定に何か基準を設けてらっしゃるんでしょうか?

南齋:
県として人件費のベースがありまして、これくらいの技術を持つ人がこれくらい作業してこれくらいの空間ができるだろうということで、予算組みをしています。

片桐:
弊社の場合、基本的に社内人員で作っておりますので、規模感もありますが、あまり細かい予算を設定せずにどんどん開発を進めている状態です。作った後の運営側のコストが多くなるので、そちらを気にしながら作り方を工夫しているのであれば、細かい予算を設定せずにどんどん進めている次第です。

終わりに:出演者から一言

久保田:
あっという間の1時間半でしたが、今回のウェビナーは以上となります。最後に一言コメントをお願いいたします。

関:
今日は貴重な機会をいただきましてありがとうございました。沖縄県、群馬県さんの取り組みを聞いて大変勉強になりました。まだまだこれから茨城県としてもやれること、やらなきゃいけないことが多いなと思っております。引き続き、チャレンジ精神を持ってしっかりと頑張っていきたいと思います。今日はどうもありがとうございました。

片桐:
VTuberにしてもメタバースにしても、色々な地方から個性があるものがたくさん出てくると本当に楽しいですし、その中で連携もできると思いますので、ご検討されてる皆さんもぜひぜひチャレンジしていただきたいなと思っております。

南齋:
群馬県も新しい技術を積極的に取り入れて、次世代の子供たちを育てていきたいと思っております。群馬県もコラボしてくださる企業様であるとか自治体様を探しているところですので、ご興味があれば、ぜひお気軽にご連絡いただければと思っております。本日は貴重な機会をいただきまして、大変ありがとうございました。

久保田:
今回はご登壇いただきましてありがとうございました。視聴者のみなさまも、1時間半お付き合いいただきましてありがとうございました。ぜひチャレンジを進めていただければと思います。それでは本日のイベント、以上となります。ありがとうございました。

(了)

今回のイベントを主催した「Mogura NEXT」は、株式会社Moguraが企業や行政のXR/メタバースの取組をサポートするコンサルティング・開発サービスです。詳細はこちら


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