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テック 2016.03.30

VRでゲームプレイより重要なのは”実在感”。脱出ゲーム『I Expect You To Die』開発者が語る秘訣

『I Expect You To Die』は、Oculus Rift 製品版と現在開発中の手に持つコントローラーOculus touchを使用する一人称視点のゲームです。

I Expect You To Die

手と指の動きを再現するOculus Touchコントローラー(第2世代プロトタイプ)

プレイヤーはシークレット・エージェントとなり、様々な場所から脱出を試みるというもの。同作品は、Unity Award 2015でVRexperience賞を受賞する等、注目されているタイトルの一つです。今回、GDCに合わせてOculus社が開催したメディア向けイベントにて体験しました。GDCで行われた講演と併せて記事にまとめています。

脱出しないと、やられる…!焦りまくる圧倒的な実在感

今回、体験できたシーンは、爆弾が仕掛けられた車の中から脱出するシーンと、謎が仕掛けられた洋館から脱出するというもの。筆者は車のシーンを体験しました。車の中には、ドライバーや車の鍵からお金まで様々なモノが転がっています。筆者は銃で車の窓ガラスを撃って外に脱出を試みましたが、毒ガスが充満していました。なかなか一筋縄では通してくれないようです。落ちている紙にも爆弾を解除するヒントが隠されていますが、なかなか難しい。様々な道具を組み合わせて、どう活かすかは自分次第。パズル的要素と脱出ゲームをVRで組み合わせたゲームです。

I Expect You To Die

物に手を伸ばし、指を引いてトリガーボタンを押す事で物を掴むという動作の他に、テレキネシスモードと呼ばれるものがあります。

I Expect You To Die

ポイントをあわせて

I Expect You To Die

遠くの物を引っ張ってこれたり……。そのまま、空中でモノを静止させることも!まるで、超能力者になったような感覚もVRならでは。

まるで自分が主人公になっているかのような気分。脱出するまでは現実空間なんて考える暇がないほど、没入します。現実ではない世界にいるという感覚=プレゼンス(実在感)は圧倒的です。

I Expect You To Die

圧倒的なプレゼンスの秘訣

VRでは、プレゼンスが高いほど体験はより新鮮なものになるとされています。『I Expect You to Die』の圧倒的なプレゼンスは一体どのようにして制作されたのでしょうか。サンフランシスコで行われたGDC2016で、「Lessons Learned from I EXPECT YOU TO DIE New Puzzles, New Hands」をテーマに、メイキング等の講演が行われました。

登壇したのは、同ゲームの開発を行ったShell Games CEOのJesse Schell氏とゲームデザイナーのShawn Patton氏。

I Expect You To Die

左からJesse Schell氏、Shawn Patton氏。

まず、彼らが講演で示したのがこのスライド。VRゲームにとって大事なものは、ゲーム自体の面白さよりも、プレゼンス(実在感)と語りました。VRではゲームとしての趣向を凝らすよりも「そこにいる感覚」を高める方が、あたかも別の世界にいるかのように楽しめるということです。

I Expect You To Die

I Expect You To Die

そして、プレゼンスをサボテンの近くを飛ぶシャボン玉のイメージに例え、プレゼンスは簡単に無くなってしまうという説明に入りました。また、プレゼンスを壊す要因として挙げたのが以下の7項目です。

1.VR酔い

I Expect You To Die

酔いが生じてしまうと現実の不快感がこみ上げ、一気にプレゼンスがなくなります。映像は滑らかに見えなければならず、フレームレートは60fps以上が必要とのこと。ヘッドマウントディスプレイのトラッキングで動かせない、固定の視点はNG。急な加減速はもちろん、水平線が一定になるように保つ事などがVR酔いを防ぐために必要です。VR酔いの軽減に関しての詳しい知見はOculusが公開しているベストプラクティスガイドに詳述されています。

2.混乱する操作方法

I Expect You To Die

操作方法やUIが分かりやすくできているのか?ということ。イベントなどで様々なVRコンテンツを体験すると分かることですが、操作方法が分からないままデモが終わってしまい、何が何だか分からない事が多々あります。確かに実在感どころではありません。

3.モノを使った動作の作り込みの甘さ

I Expect You To Die

例えばこの画像の通り、現実の局面ではネジを回すのにドライバーが手元になかったら……。意外と別の物が役に立ったりします。現実同様にVRの中でも、正解のドライバーだけでなく、他のアイテムで試した時にもちゃんと使えるように自然な反応が出るように作られています。

4.度を越したコンテンツ

I Expect You To Die
分かりやすい例がVRホラーです。プレイヤーは、怖すぎる体験をするとその空間に存在している事を拒否してしまいます

5.非現実的な音響

I Expect You To Die

ネジが地面に落ちる音でも状況によって聴こえ方が異なります。そうした音の表現もきちんと再現しないと作り物の空間だと気づいてしまいます。

6.かけ離れた身体感覚

I Expect You To Die

Oculus Touchは現実の手を動かし、VR内の手を実際に動かすことができるデバイスです。VR空間内で自分が身体を動かしている感覚と実際に動いている手や足の感覚が離れないようにする必要があります。

7.操作感が異なる

I Expect You To Die

6と近いものですが、こちらはコントローラーの選定に関するもの。実際の動きとリンクしないと、プレゼンスが削がれてしまいます。もともとこの『I Expect You To Die』は、Oculus Rift DK2向けにマウス操作のゲームとして公開されていました。Oculus Riftをかぶりながら、マウス操作で物を選んで掴むという操作を行うのは非常に非直感的なものでした。

I Expect You To Die

プレゼンスの維持を確認しながら、ゲームを工夫していく中でのトライアル&エラーを繰り返すには大きなコストが生じます。そこで彼らが編み出されたVRゲーム開発手法の1つが「Brownboxing」と呼ばれる段ボールを使ったプロトタイプ。実際に手を動かしながら挙動を確かめています。開発者はイメージを膨らませながら、現実世界で物理的に開発をする様子は実在感の高いVRゲームならではです。

Oculus Touchは今年中の出荷ですが、同じように手を動かすことのできるHTC Viveは4月から出荷されます。今後、一層実在感の深いVR体験ができるようになってくることに期待したいところです。


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