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業界動向 2023.07.06 sponsored

大企業がXR/メタバースの取組を続けるには? JTに聞く、技術開拓と事業活用の勘所(聴き手:PwCコンサルティング)

新規事業を経常利益に貢献するまで成長させた企業は20%に満たないとされ、複数の企業調査によれば、DXの成功率は10%未満だといいます。XR/メタバース領域もその例に漏れず、導入のスピード感と成果品質のバランスを保つのは至難の業です。

その一方で、2018年以前から関連技術に着目し、持続可能な技術投資を続けながら、今なおトレンドテクノロジーの社内普及に意欲的な事業会社があります。自社グループの「企業としての存在意義」(Purpose)をJT Group Purpose「心の豊かさを、もっと。」と策定した、日本たばこ産業株式会社(JT)です。

PwCコンサルティングと制作する本連載。第2回は建築業界第3回はヘルスケア業界に焦点を当てて、消費財メーカーにおけるXR活用の現況についてお聞きしました。

連載の最終回となる第4回は、JTの山形典孝さん、水野早織さんにお話を伺います。おふたりの所属するIT部は、2018年にトレンドテクノロジーの活用を模索するグループテクノロジーチーム(当時の名称はTDCデジタルチーム)を立ち上げ、大企業としては早い段階から積極的にXR活用を模索してきました。

PwCコンサルティングは、これまでにもJTの社内PoCなどに伴走してきました。チームを初期から牽引してきたおふたりとの対話を通して、さらに「地に足のついた」XR活用の可能性を探ります(連載第1回はこちら)。

山形典孝 / Noritaka Yamagata
日本たばこ産業株式会社 IT部。電機メーカーを経て現職。業務部門から課題をヒアリングし解決策の提案を行うだけでなく、事業部門に有用になると推察されるテクノロジーを、利用シーンに変換して提案をするシーズベースの取り組みも実施。また、MOT(技術経営)をベースとした最新テクノロジーの調査方法の確立、データ経営の推進にも従事。2017年4月入社。

水野早織 / Saori Mizuno
日本たばこ産業株式会社 IT部。電機メーカーのITグループ企業を経て現職。社内システムの導入から、社内各部門の課題を解決する新規テクノロジーの調査、PoCまでIT領域において幅広く従事。近年では、社内のデータ活用推進にも貢献。2018年8月入社。

岡本弘毅 / Hiroki Okamoto
PwCコンサルティング合同会社 Technology Laboratory。建築、広告関連企業を経て2016年より現職。デジタル分野での長年の経験から、XRなどのテクノロジーを組合せたビジネス、UX開発に従事。多様な産業に、ビジネス課題を解決する、ユーザー中心のデザインを実現することに尽力。

中山晋吾 / Shingo Nakayama
PwCコンサルティング合同会社 Technology Labratory。国会議員秘書、IT企業を経て2022年より現職。 PwCコンサルティングに入社後は、XRやメタバース、Web3.0領域の市場調査、アイディエーション、PoC推進、事業計画策定支援に従事。

トレンドテクノロジーの社内普及を担うチーム

PwC岡本:本日はよろしくお願いします。まずはおふたりのご所属である、グループテクノロジーチームのお仕事についてご紹介ください。

山形:私たちのチームミッションは「JTグループにおけるテクノロジー活用推進により、企業価値向上に貢献すること」です。その達成に向けて、私たちのチームでは主にトレンドテクノロジーと呼ぶ新たな技術を追いかけています。

水野:直近で言えば生成AIのような、最新の技術をキャッチアップしながら、プロトタイプとなるツールやコンテンツなどの試作も手がけつつ、各事業への活用可能性を検討しています。

PwC中山:チームが発足してから5年ほど経過して、その間にさまざまな技術革新があったかと思います。昨今も、さまざまな企業が大急ぎで生成AIサービスを事業へ導入している印象です。チームの社内での立ち位置に変化はありましたか。

山形:5年前は1チームの活動として細々と取り組んでいましたが、社内理解の土壌もできて、今ではIT部全体として、JTグループの発展に向けて最新技術を活用・推進するよう意識しています。世の中を見ても、さまざまなトレンドテクノロジーを業務へ適用する事例が増えてきたと感じています。

技術進歩を見守りながら、社内普及に試行錯誤した5年

PwC岡本:グループテクノロジーチームは、発足してからすぐにXR分野のコンテンツ開発に着手されましたよね。改めて伺います。これまでにどんなXRコンテンツをつくってきましたか?

水野:最初に制作したのは、バレーボールをモチーフにしたVR動画です。当時は折りしもPR部(パブリックリレーション部)が、JTサンダーズ広島の選手たちの迫力あるプレーを間近で捉えつつ、同じコートに立っているような臨場感をもって擬似体験できるVR動画を制作していました。

PR部は試合会場で体験会を開催したとも聞いています。私たちはその動画素材を提供してもらって、JT社員向けにゲーム要素を加えたバレーボールコンテンツ(非公開)を企画・制作したんです。

【公式】[360 #VR]Vリーガーのスパイクをレシーブできるか!? #JTサンダーズ広島 #体験入部編
(PR部が公開した360度動画はいまも視聴できる)

PwC中山:反響はいかがでしたか。

山形:当初はVR技術の社内認知を高めるために、インターナル向けPoCとして企画提案しました。当時はデバイスの制限も多く、PwCコンサルティングとアイデアを出し合いながら形にしていきました。ふり返ると改善点もありますね。でも、HMDで視聴してくれた社内のみんなが、とても驚いてくれたのを覚えています。

PwC中山:どういった経緯で、スポーツVR動画を作ると決めたのですか。

山形:突き詰めると、私たちの個人的な興味が出発点でしたね。関連ニュースが数多く報じられていましたし、VR/AR市場の年間平均成長率を70%ほどと推計した調査も読んだ覚えがあります。周辺情報を追いかけるうちに、VR技術は将来的に、さまざまな事業部のマーケティング・PRに資するだろうとも直感していました。

水野:その後も、WebARコンテンツをECサイトへ掲載したり、VR会議やVR工場見学にトライアルしたりと、色々なことに取り組んできました。とりわけJTらしいチャレンジとして挙げられるのは、2020年に制作したスマホアプリ「AR喫煙所」かなと。


(灰皿などの喫煙アイテムを風景写真に重ねて表示できる)

PwC岡本:改めてご説明いただけますか。

水野:AR喫煙所は、喫煙スペースを設置したい場所にカメラをかざすだけで、灰皿や植栽、パーティション、喫煙ブースの3Dモデルを配置し、完成イメージをシミュレーションできます。営業担当者の企画提案を支援する業務アプリですね。

山形:当時は、営業担当者が資料で説明しても、現地の風景がどのように変わるのか、敷地所有者がすぐには想像しづらいこともあったんです。もちろん、その資料作成にも時間と労力がかかります。そこで、営業担当者のコミュニケーションコストを下げつつ、設置イメージを敷地所有者とその場で共有できるようにしよう、と。「屋外喫煙環境整備のためのAR喫煙スペースシミュレーション」In-House(*1)版アプリケーションと銘打って、企画開発されました。

PwC中山:よりリアルなスケールで、将来イメージを共有する用途ですね。

山形:このアプリはリリース後、すでに私たちの手からは離れているのですが、最近たばこ事業部の担当者から「まだまだ現役で使われていますよ」と聞きました。今なお存続しているのは、事業部やユーザーに愛好されているからかな、と感じています。長く使ってもらえるのは、作り手冥利に尽きますね。

*1:社内用、内製、自家製など。

技術成熟度とコストメリットの間で

PwC岡本:これまでのXR技術活用を通して、どのようなメリットや課題を感じましたか?

水野:これまで多くの実証実験を行なってきた経験から言うと、エンタメ要素を絡めたマーケティング・PR施策では、大いに活用できる手応えを感じています。ただ、実践投入するには、まだまだいくつもハードルがありますね。

PwC中山:何がハードルになったのでしょうか。

山形:つまるところ、普及性に欠けたのです。機材もまだ重く、数万人いる社員すべてにVR機器を配布導入するのは難しい価格帯です。MRデバイスも、導入の労力や運用コストに見合う効果を考えづらいのが実情でした。

PwC中山:理想と現状のギャップに、悲観したこともありましたか。

山形:いえ、私はそこまで悲観はしていなくて。「まったくダメ」ではなく、「課題感があるな」程度に受け止めています。これからさらにデバイスの改良が進めば、先ほど話したような重量や価格の課題は、そう遠くないうちに解決されるでしょうから。

水野:今年1月にも米国でCES 2023(Consumer Electronics Show 2023)に参加してきたのですが、さまざまな展示を拝見して、とくに今後のXR/メタバース領域の発展には期待感を持てました(*1)。

過去に訪問したときよりも、より高い没入感を目指すソリューションが増えていましたね。視覚効果にだけ頼るのではなく、触覚や嗅覚など、その他の五感を同時に刺激するものをよく見かけました。帰国後には海外のスマートグラス向けレンズ開発会社をJT本社にお招きして、技術解説をして頂きました。

そのほかにも、生成AIやデジタルツインも含めて、あらたな経済圏を生む爆発力を秘めたトレンドがいくつもあります。引き続きキャッチアップを続けながら、事業への活用可能性を模索していきたいです。

*1:2022年には多数の企業がバーチャルリアリティやテレイグジスタンスの技術を「メタバース」と銘打って出展。2023年には主催者が「Metaverse of Things(MoT)」を提唱して話題になった。

事業部門の真剣な悩みに、新技術への熱意をぶつける

PwC岡本:私たちの後学のためにも、XRの事業活用を社内提案する上で「ここは押さえると話が進みやすい」といった勘所はありますか

水野:先行事例の実績紹介やコスト削減期待の訴求、対外的なブランディング効果の説明はもちろんですが、セキュリティの観点も大きなポイントです。「データの安全性がしっかりと守られているかどうか」は、どの事業部に提案を持っていく時でも、かなり綿密に検討しました。

山形:個人的な所感ですが、提案する際に「絶対に成功する」とは言わないことも、けっこう大事かもなと。「これ、面白くないですか?」と話を持ちかけるようにしています。

PwC中山:山形さんの熱い思いも伝わる、すてきな問いかけですね。

山形:新しい技術の導入には、トライアンドエラーがつきものです。石橋を叩きすぎては、トレンドの先取りはできないと感じていて。いま、生成AIの導入も進めていますが、それも「技術検証をしたら、ある程度使えそうだと分かった」と持ちかけているんですよね。

PwC中山:XR/メタバース技術の導入に当たって、社内ではどんな方が乗り気になって、協力してくださったのですか?

水野:マーケティング部門のほかには、営業部門にも協力的な方が見つかりましたね。新しい取り組みに熱心な販売店さまを見つけてくれて、「その内容ならこの支店の店長に相談できそうだ」と紹介してくれて。

山形:なんと言いますか……普段から自分の仕事で「真剣に悩み抜いているひと」は、「これ、面白くないですか?」と問いかけたときに、打てば響くような答えがもらえますね。いつも「現状を変えられる、何か新しいもの」を探している方とも言えるでしょうか。

私たちはその悩みに対して「絶対」「確実」とは言わずに、「分からないこともあるけど、一緒に試してみよう」という誠実な姿勢を持ち続けることが必要だなと思っているんです。

「未来の選択肢」を増やすために、先端技術トレンドを追い続けたい

PwC中山:とても納得感のあるお話です。XR/メタバースの技術導入には、社内説得のほかにも、制作や実装を支援するパートナー企業との連携が不可欠かと思います。私たちのような、みなさんをサポートする存在に期待することはありますか。

水野:山形の話にも通じますが、課題を隠さないで話してほしいです。新しい技術に課題が多いことは私たちも認識しているので、そのあたりは取り繕わずに「こういう欠点はあるが、こちらは利点になる」と伝えてもらえると、一緒にお仕事をしやすいなと感じます。

山形:加えて、自社の課題へ一緒に向き合ってくれる方だとなおうれしいですね。「こちらの要件通りにつくる」というより、「同じ目線で一緒に悩み、積極的にプラスアルファの提案をしてくれる」パートナーさんはありがたいです。

また、私たちのような比較的規模の大きい企業だと、隠れた制約もそれなりに多いです。だからこそ、時には正直に「そういう社内事情なら、無理せずに今はやめておきましょう」と、ストップをかけてくれると、一緒にいいものがつくっていけるなと思います。

PwC岡本:ありがとうございます。最後に、今後のXR/メタバース活用に向けた抱負をお聞かせください。

水野:今は空間コンピューティングに世界が再注目していますが、これからも新しく便利な技術は次々と出てきます。それらへ常にアンテナを張り続けながら、JTグループでの活用方法を探っていきたいですね。

近頃は、私たちの活動は社内変革に留まらず、新たな事業領域の開拓にもつながる可能性があると感じ始めています。JTグループの「未来の柱」のひとつとなるような事業の種を、私たちが発掘してけたらと思っています。

山形:不確実性の高いテクノロジートレンドを追うには相応のコストがかかります。成功よりも失敗が多いです。それでも私たちが多方面でチャレンジを続けるのは、その積み重ねが“未来の選択肢”を増やすことだからだと思うのです。

JTグループはたばこだけではなく、食品、医薬品、香料などの研究開発もしています。社会に「心の豊かさを、もっと。」育むための要素技術やアセットを豊富に持っている企業です。それらを「もっと」活用していくために、社内外の連携をうまく図りながら、自社の未来を切り開いていきたいです。

PwCコンサルティングXR/メタバースチームのWebサイトはこちら

(統括: 笠井康平(Mogura)/ 企画制作: 森部綾子(インクワイア)/ 編集: 長谷川賢人 / ライター: 西山武志 / フォトグラファー: 栗原論)

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