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業界動向 2023.02.28 sponsored

PwCのコンサルタントが明かす、企業のXR活用を概念実証(PoC)で終わらせない「経営の知恵」と「現場の工夫」

コンサルタントの起源は、19世紀末に米国の技術者で経済学者でもあるF.W.テイラーが科学的管理法を考案し、製鉄工場で業務効率化を成し遂げたという逸話にあるとされます。

20世紀には経営手法の近代化とともに専門の分岐が進み、なかでもITビジネスを得意とするコンサルタントは、1970-80年代に法人向けコンピュータ市場が拡大して以降、企業のあらゆる課題に向き合ってきました。顧客データベースや会計管理システムの導入、業務効率化の推進、デジタルマーケティングの実践、人材育成、組織開発、新規事業への投資……。

時代とともに注目トピックも移り変わり、統計学、ビッグデータ、IoT、AI、DXなど支援領域も拡大しています。

PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)は、PwCあらた有限責任監査法人やPwCアドバイザリー合同会社などともに、PwC Japanグループのメンバーファームの1つです。PwCコンサルティングは昨今の潮流を踏まえ、2018年に「XRアドバイザリー」サービス、2021年にはメタバース・コンサルティングサービスの提供を開始しました。

一方で、プロフェッショナルサービスファームとして、XR・メタバースに取り組む際に経営者が知っておくべき「6つの論点」を整理するなど、一般向けの知見提供にも積極的です。

もっとも、クライアントの営業の秘密に深く接するコンサルティング業務は、その実態が当事者以外に見えにくく、世間が「コンサルタント」に抱くイメージも千差万別です。では、エンタープライズ向けXR活用支援の世界では今、何が起きているのでしょうか?

今回は、「Mogura VR」編集長・すんくぼ(久保田瞬)が、PwCコンサルティングのTechnology Laboratory(2020年7月設立)に開設された専用ワークプレイスを訪問し、XR/メタバース領域のコンサルティングを手掛ける岩花修平さん、板橋清周さんにお話を伺いました。

XRデバイスや関連ガジェットが所狭しと並ぶ、意外(?)にテッキー(techie)な職場で、お二人との対話から見えてきたのは、立場が異なる人々をつなぐ「言葉」と「数字」の重要性でした。PwCコンサルティングのメタバース・コンサルタントは、経営支援と業務改善のために何を心がけているのか。その知恵と工夫とは――

岩花 修平 / Shuhei Iwahana
大手会計事務所系コンサルティング会社、外資系統計解析ソフトウエアベンダーを経て現職。主にエネルギー業界、製造業に対し、経営管理ソリューション、統計解析技術(アナリティクス)を活用したソリューションの提供やIoTアナリティクスのコンサルティングサービス事業の立ち上げなどにリーダーとして従事。PwCコンサルティングに入社後は、デジタル関連で関心の高いドローン、空飛ぶクルマに関連する事業の展開を中心にIoTやAI、デジタルツインのソリューション提供にも携わっており、黎明期におけるテクノロジーの事業での活用検討から事業拡大アプローチにも注力している。

板橋 清周 / Seishu Itabashi
大手通信キャリア、ITベンチャー企業を経て現職。AIとIoT、クラウド基盤を用いた画像解析サービスやデジタルサイネージサービス、VRを用いた送客サービス等、先端技術を活用した新規事業立ち上げ、5Gネットワークを用いたPoC等を複数リード。事業戦略立案、UI/UX開発、スクラム体制での製品開発管理、製品コンセプト策定や運用管理などにも携わる。PwCコンサルティングに入社後は、XRとクラウド技術を中心に先端テクノロジーを活用したPoC推進やソリューション導入支援等に従事。前職の経験を活かし、UX企画やソリューションの開発、拡張等も手掛ける。

「現地・現場・現業」の経験を活かす

──お二人がPwCにジョインしたきっかけは?

板橋:大手の通信会社を経て、あるECサービスの企画職に就きました。そこでVRに触れる機会があったんです。その後、AIやIoTを活用するベンチャーに進みましたが、またXR領域に携わりたいと考え、今はコンサルタントとしてこの分野に帰ってきたような形です。

岩花:もともとはソフトウェア企業で、AIやアナリティクスの専門家として働いてきました。そこで「IoT×アナリティクス」をテーマに新規事業を立ち上げて、今でいうダイナミックプライシングの仕組みや、デバイスを用いた異常検知システムなどの開発に関わりました。

ただ、その企業はあくまでソフトウェアがベースで、自分としてはより幅広いフィールドで新たなことに携わりたかったため、PwCコンサルティングに転じることにしました。現在はXR、ドローン、IoT、AIといった分野に関連するデバイス・ビジネスの立ち上げに伴走しています。

──PwCコンサルティングに入社し、どのような印象を受けたでしょうか。

板橋:PwCコンサルティングには、様々な業界を経て経験を積んだメンバーが多いです。いわゆる「コンサルっぽさ」が、良い意味で薄いというか。

岩花:確かに。たとえるなら「動物園」のようで……(笑)。

──XR/メタバースのアドバイザリーサービスを始めたのも、コンサルティング領域が広がる延長線上にあるのでしょうか。

板橋:おっしゃるとおりです。クライアントから多種多様なご要望をいただくなかで、近年は「XRを有効活用できないか」というご相談が増えています。


(PwCのTechnology Laboratoryにはセミナールームや大型デモ機も備える。オフィス内には最新機器をはじめ、数々のガジェットが備わっていた。)

──お二人からご覧になって、いま、XR活用の現場では、何が起きていますか。

板橋:これまでに私が担当した事例でいえば、電力系プラントや廃棄物処理施設、工場などが挙げられます。現場の作業や運用の改善ですね。特に、危険な現場での安全性向上にXRを用いるケースです。

工場には機械の点検や廃棄物処理など、危険で負荷の高い仕事がたくさんあります。かなり年配の方がその業務に携わることも珍しくないんです。しかも、実はその方にしかできない「熟練のノウハウ」があるケースが多く、(退職・離職などで)その方が居なくなると業務に支障が出かねない。

こうした技術のブラックボックス化は、あらゆる現場で起きています。「熟練スキルの技能伝承のため、XRを活用できないか」というご相談は特によく受けますね。闇雲に導入をすすめるのではなく、まずは現場へ足を運び、「本当にXR活用が有効なのか」を見極めた上で、クライアントにご提案しています。

──昨今、生成AIの進化が加速した結果、「AIに何を指示するか」というメタ知識の重要性が改めて叫ばれています。同様に、仮に業務工程をすべて機械化できても、新人と熟練者の間にある「経験知」の差が残ってしまうと。

板橋:おっしゃるとおり、「どんな時に」「どういった目的で」「何をすべきか」という判断には、ノウハウの蓄積が必要なんです。多くの企業が、XRに限らず、新技術の導入や業務のシステム化によって、そうしたノウハウを蓄積・伝承する方法を模索しています。

──ただ、AR/MRグラスは見た目にインパクトがありますよね。現場にこうしたデバイスを持っていくと、予想外の反応がありませんか。

板橋:たしかに否定的な反応は大きいですね(苦笑)。ファーストインプレッション(第一印象)はたいてい良くありません。「覚えるのが大変そう」「自分たちに使いこなせるのか」「現場で壊れるのでは」といった意見をいただきます。そういった拒否感を乗り越えるために、まず大事なのは「業務が楽になる使い方」をイメージしてもらうこと。

もちろん、変化への適応が早く、前向きな反応をくださる方もいますが、現業への導入を進めるにつれて「狭いところでゴーグルを装着すると危ない」「温度変化が大きい環境だとデバイスが持たない」といった課題が見えてきます。こうした運用上の課題をいかにクリアするかが、技術定着の鍵を握ります。

現場で「価値」を感じてもらう、経営に「意味」を伝える

──ここまで現場寄りの話を聞きましたが、大組織になるほど、重要な意思決定はマネジメント層や事業責任者、IT担当者などが複雑に関与しながら行われます。経営トップと現場の間にあるギャップは、どうすれば埋められるでしょうか。

板橋:そこがまさに私たちの付加価値を生み出せるポイントだと捉えています。経営側と現場の架け橋となり、お互いの目線合わせをする役割を担えるからです。

というのも、PwCコンサルティングには事業会社を経験したメンバーが多く集まっています。それゆえ、カルチャーとして「現場主義」が強いんです。現地へ足を運び、現場の人たちと話して、現業に一緒に取り組みます。この泥臭いとも取れる仕事を、嫌がらずにやれる人ばかり。だからこそ、経営と現場の間をつなぐことができるのだと感じています。

岩花:「現場に入り込む」ことは、私たちコンサルタントが第三者の立場から経営と現場の調整役を担う上で、大きな意味があると思います。担当するプロジェクトで試行錯誤する中で、経営側と現場、それぞれが持つ想いのギャップをどうやって埋めるかを考えて、実行する。それこそが私たちコンサルタントの使命ではないかとよく考えます。

また、「経営サイドは導入したいが、現場から否定的な意見が出る」というケースだけでなく、その逆もあります。

──現場が導入したがっても、経営者がそれを止める……。

岩花:XRを用いた営業向け販売支援ツールの事例でご説明しますと、営業部門のスキルや経験知は属人性が非常に高いものです。担当者が現に知り、経験したことに頼らなければ、咄嗟の行動判断や意志決定ができない。その補助ツールとしてXRを使うわけです。多くの営業現場でも、特に若い方は「これは便利ですね」と前向きになってくれます。

ところが、その話を経営側に持ち込み、「全社に導入しましょう」と提案する段階になると、雲行きが怪しくなります。「そのツールを導入したとして、実際の効果はどうなんですか?」「どれだけ売上に貢献するんですか?」と、「待った」がかかるわけですね。

社内稟議が導入のハードルになるケースは珍しくありません。そこで「なぜ導入が必要か」という説得材料を用意することも、私たちの大きな役割です。期待できる効果や実用性を示せなければ経営層は納得しませんし、導入できても現場に定着せず、やがて使われなくなります。

──導入前から、きちんと運用できる状態を考えていくと。

岩花:そうなると、経営と現場をつなぐだけでは不十分です。現場に入り込み、社内外の関係者たちをつないで、XRが価値を発揮できる仕組みを構築していく。ときには、現場から「使えない」と言われたり、経営側から「ROI(※)が出ない」と言われたりしても、ユースケースを変えながら実務へ定着させる方法を探っていく。

こうした業務支援は複雑で難しいのですが、「ロジカルにストーリーを立てて説明していく」という点で、まさにコンサルティングワークの経験が活きますね。

(※)Return on Investmentの略語。投下資本に対する獲得利益の割合を求める。財務資本の費用対効果(いわゆる「コスパ」)だけでなく、消費時間や労働力、信用・ブランドといった非財務資本に着目することもある。

流行に囚われず、「本当の課題」と誠実に向き合う

──業界動向やご自身の支援事例を踏まえて、将来の教訓としたいことはありますか。

板橋:これは悩ましい話なのですが、やっぱりXRやメタバースは、「バズワード」なんですよね。誤解を恐れず言えば、これまでコンサルティング業界やSIer業界では、バズワードを振りかざして最新技術の導入を推し進め、お金を稼ごうとする動きが一部にあったことは否めません。後から振り返れば、真にクライアントのためにならないこともあった。その過去を反省すべきだと思うのです。

XR/メタバースに関連するPwCコンサルティングのサービスでは、そういった不誠実なことは絶対にやりたくありません。結果として「クライアントに何が残ったのか」に誠実に向き合いたい。だからこそ、新しい技術テーマに囚われすぎないことを意識しています。

当然ですが、XRを導入しなくても構わない現場もあるわけです。現場の課題解決のために、「本当にXRを導入すべきか?」「クライアントの本当の課題はなにか?」と立ち止まって考え、課題の当事者と議論することを大切にしたいですね。

むしろ、XR以外の方法がベストソリューションになることもあります。次々と新技術が出現していることを考えると、ハプティクスデバイスやAIなど「技術の組み合わせ」で実現可能なことも増えるはずです。それらを見越して「何ができるのか」「何ができないのか」を早めに把握することが重要でしょう。

──先ほど、現場の方がデバイスを見て驚いたり、若手の営業の方が喜んでくれたりしたとおっしゃいました。すぐには定量化できないメリットもありそうですよね。

岩花:「社員のモチベーションに好ましい影響を与える」など、必ずしも定量化できないメリットも大いにあります。そして、経営層が投資判断をする際には、定性的な効果をきちんと評価できることが重要です。たとえば、測定しづらいインパクトをあえて数値化する「採点表」をつくることがあります。

その指標はROIでも良いと思います。大事なのは、経営と現場で共通の目的を置き、全員のモチベーションに沿う整理ができること。拒否反応を示されることがある中で、「便利なもの」で「重要性が高い」と感じられる施策をセットで進めることが、私たちの支援の肝です。

急速な技術変化が「当たり前」の未来に備えよう

──ここまでのお話を踏まえて、最後に改めてお聞かせください。なぜ企業はXR/メタバースに取り組むべきなのでしょうか?

岩花:XRとは「スマートフォン」のような概念に近いものだと見立てています。産業投資が進み、日常生活に溶け込むほど、誰もが保有する当たり前のデバイスになる可能性が十分あります。そんな未来に向けて、今からクライアントと共に準備を続け、いつでも動き出せるようにしていきたいと思っています。

板橋:この10年、20年は世の中の技術の進歩がかなりの速さで進んでいますよね。だからこそ、この変化に適応するために「自社が取り組むべきか否か」を常に考え続けることが大切ではないでしょうか。

それを支援するために、PwCコンサルティングでは、XR・メタバースに取り組む際に考慮すべき法的論点セキュリティリスク教育・研修などの論点についても助言を提供し、自らも実践しています。こうしたテーマごとにルールメイキングを支援し、ときに現場に入って泥臭くプロジェクトの支援を手掛けることが、私たちに求められている使命だと捉えています。(了)

(インタビュー: すんくぼ(Mogura)/ 統括: 笠井康平(Mogura)/ 企画制作: 森部綾子(インクワイア)/ 編集: 長谷川賢人 / ライター: 石田哲大 / フォトグラファー: 栗原論)

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