Oculusは2019年3月、PC向けVRヘッドセット「Oculus Rift S(Rift S)」を発表しました。Rift SはOculusが過去に発売した「Oculus Rift(Rift)」の改良版です。性能を向上させた次世代モデルというよりは、使いやすさを向上させたアップグレード版、という位置付けです。
Oculusはこのタイミングで「Oculus Rift 1.5」とでも呼ぶべきRift Sではなく、「Oculus Rift 2」、すなわち次世代デバイスを出すことも可能だったと考えられますが、なぜ改良版という道を選んだのでしょうか。フェイスブックのVR/ARコンテンツ部門とパートナーシップ関連の統括を担当するジェイソン・ルービン(Jason Rubin)氏が、その背景を語りました。
正しいトレードオフを選択
ジェイソン・ルービン氏はメディアRoad to VRのインタビューに応じ、ハイエンドな次世代デバイス開発や販売について語りました。
まず同氏が挙げたのは、リソースの制約です。「企業が何をするにもコストがかかります。次世代のハイエンドデバイスによって、あるユーザー層を非常に喜ばせることは可能でしょう。しかし、次世代デバイスを開発するためにはまずプロトタイピングが必要です。その他にもサプライチェーン管理、倉庫管理、出荷、などなど……。そして規模の限られた企業では、この業務のために、今まさに進行している仕事に充てる人員がいなくなってしまいます」とコメント。同氏は「全てはトレードオフです」とし、「(社内で)白熱した議論が行われました。しかし私は、正しいトレードオフを選択して今に至っていると思います」と、その考えを述べました。
「ありとあらゆるユーザーの要望」を叶えるのは難しい
ルービン氏は「Rift Pro」あるいは「Rift 2」的な次世代のハイエンドデバイスを待ち望む熱心なVRユーザーに関して、次世代デバイスに対する意見や要望があまりに多種多様である、としています。結果、これらのユーザー層全体を満足させるのは困難だと考えている、とルービン氏は語りました。
「Riftユーザー10人に『(次のVRヘッドセットには)どんな機能が欲しいですか?』と聞いたら、ある人は我々が(Rift Sに)追加した高解像度を挙げるでしょう。これは既存のエコシステムを壊しません。またある人は“ワイヤレス”を挙げるかもしれません。これもエコシステムを破壊しませんが、高解像度とはトレードオフになります。また『体全体のトラッキングが欲しい』と言うユーザーもいるでしょう。もしこのような意見を聞く立場にいたら、本当に必要なのは、“彼らが求める機能を全て詰め込んだ、3,000ドルから4,000ドルのデバイスだ”、と考えるはずです」
2018年5月、Oculusは次世代VRヘッドセットのプロトタイプ「Half Dome」を発表しました。このモデルはハンドトラッキング、可変焦点、140度の広視野角(Riftの視野角は110度)といった機能を有しています。
「Rift S」は「Half Dome」のこうした特長を一切備えていないことは、驚きを持って受け止められました。確かにフェイスブックはプロトタイプとしか説明していませんが、発表から既に1年近く経過しているにもかかわらず、です。
その理由には、ルービン氏が話す“次世代デバイスへの意見が多種多様すぎるため、全員を満足させられない”点もあると考えられます。
適正価格がつくまでに次世代デバイスを開発
ルービン氏は、「次世代ヘッドセットの登場は、適正な価格で市場に出せるまで待たなければならない」とも話しました。そして同社がすべきことは、現在のOculusのエコシステムをより大きくすることだと説明します。
「どこかのタイミングで、我々は次世代モデルを出すでしょう。(中略)しかし我々のゴールは、それをただちにすることではなく、出来るだけ多くの人々をエコシステムに引き入れることです。エコシステムをRiftと次世代デバイスの二つの流れに分けることは、現時点では正しくない、と考えています」
ルービン氏はデバイスの価格について、発売当時のOculus Riftとコントローラーのセット価格に言及しながら、次のように述べています——「我々は現行のRiftを踏まえ、800ドルもするデバイスを販売したいとは思っていません。何千ドルもするセットについては言うまでもないでしょう」「今当社が進めているのは、現在よりも大きなエコシステムを構築することです。私達はゲーマーが、非常に高解像度のスクリーン、高精細・高品質で軽量、かつ使用中に自身の手を見られるヘッドセットを求めていると知っています。我々はそのようなデバイスを開発する予定です。我々が次に何をしたいのかがはっきりし、そのことに対して適正な価格がつくまでに、です」
Oculus Quest、Rift S発売の意義
ルービン氏は、“エコシステムを大きくすることは、次世代デバイス向けソフトウェアの開発がスムーズに行われるためにも重要である”と考えているようです。
最後に、ルービン氏がOculus QuestやRift S発売の意義を語った言葉を紹介します。
「ただ新たなハードウェアをリリースするだけにしたくはありません。たとえユーザー数が多くても、デベロッパーがそのデバイスのために開発を行いたいと考えるほど十分でなければ、『この新しいデバイスにはソフトウェアがないのに、なぜ買ったんだ?』と言われることになってしまいます。現時点でリリースするのは困難でしょう。また我々は、(Oculus QuestとRift Sという)2つのデバイスは、より多くのユーザーを当社のビジネスに取り込むために正しい選択だと考えています。ひとたび多くの人々がVRを欲しがり、VRを体験し、VRが大好きになれば、その一部の人達は次世代デバイスを受け入れる下地になるでしょう」
2019年春発売のOculus Rift Sについては、こちらの記事でも紹介しています。
(参考)Road to VR
Mogura VRはRoad to VRのパートナーメディアです。