2024年1月にラスベガスで開催されたCES2024にて、ARグラスメーカーXREALは、新たなARグラス「XREAL Air 2 Ultra」を発表した。
XREAL Air 2 Ultra は、XREALが展開する「XREAL Air 2」シリーズの最上位モデル。XREAL Air 2の他のモデル(XREAL Air 2、XREAL Air 2 Pro)は、空間にPCやスマートフォン、ゲーム機のディスプレイを表示するメガネ型空間ディスプレイといったところだったが、カメラを使った空間認識やハンドトラッキングの機能が搭載されており、“空間コンピューティング”を実現するデバイスだと謳われている。
そもそも、XREALは2019年からARグラスを発売して以来、メガネ型デバイスを世に送り出している。初めて発売した「Nreal Light」(2019)は、当時HoloLens2やMagic Leapなど比較的大型のデバイスでできた“空間コンピューティング”の体験をメガネに近い形状で実現しようというデバイスだった。その後、登場した「XREAL Air」(2022)は、Nreal Lightから「ディスプレイ」表示機能にのみ絞り、形状を小型に、そして安価に展開するという割り切ったモデルとなった。いわゆるARグラスから、ディスプレイ機能のみを残しているため、メガネ型ディスプレイと呼ぶのが正確だろう。
その割り切りが功を奏してか、グローバルでこの製品は大当たり。発売された2022年時点で10万台を出荷するなど、市場のニーズを掴んだと言える。
そして2024年に入って満を持して発表されたのがXREAL Air 2 Ultraだ。5年ぶりとなる本格的なARグラスはどのような出来なのか、またなぜ今このタイミングで発売に踏み切るのか、体験レポートと交えてXREALを率いるCEO、シュウ・チー氏のインタビューを交えてお届けする。
空間認識やハンドトラッキングの体感が変化
XREAL Air 2 Ultraを体験してまず気づくのは、ARグラスとしての体感の良さだ。Nreal Light(※後に社名変更に合わせてXREAL Lightに名称変更)と比べていわゆるスペックは大きく変化していない。ディスプレイの解像度(片目1920×1080ピクセル)、視野角(52度)も同じだ。一方、独自のセンサーは一新。空間認識や手の動きを認識するハンドトラッキングなどARグラスの体験を支える点が異なる。XREALのデバイスを追ってきた人なら、Nreal LightのXREAL Air 2 Ultra世代版とでも言うと良いだろうか。両ラインの特長を組み合わせたモデルになっている。
5年前のNreal Lightと比べると、空間認識の精度が上がり、眼の前に浮いているものから真横を向いて目線を外して元に戻してもピタッと同じ位置に残っている。Nreal Lightの頃は課題があり、基本的にはマーカー等を使って精度を補っていたことを考えると大きな改善だ。
また、指の動きを認識するハンドトラッキングも精度の高いものとなった。「XREAL独自のアルゴリズムを採用している」(チー氏)とのこと。表示領域の外で指を動かしても、ある程度の範囲は反応するので、常に腕を前に上げて操作しなくても問題ない。座りながら水平に前を見ている時に、机の上に腕を乗せながら指での操作ができるといった具合だ。目線を上げてしまうと認識できなくなったため、ある程度ではある。
また、すべてを手に頼るわけではなく、「マーカー認識」など複数の操作に対応している。
鍵を握るDimming
XREAL Air 2 Ultraを体験していて視覚関連で非常に使い勝手の良い機能が「Dimming」だ。本来ARグラスは透過型であり、透明なレンズの向こうに現実空間が見える。周りが見えて良い一方で、いくら輝度を上げだとしても「周りが見えなくても良い」ような集中したい場面には向かない。ARグラスでは、アナログに黒いカバーが付属する場合もあるが、XREALが上位機種に採用したのが「Dimming」という機能だ。メガネの側面のボタンを押すだけで3段階に透過度合いを変更できる。最も暗いものにすると、表示されている領域以外は黒くなってほぼ何も見えず、まるでVRヘッドセットで体験しているように感じられる。
XREALでは、Air 2 Ultra以外にも2023年に発売されたAir 2 ProにこのDimming機能が搭載されている。「Air 2 Proの市場の反応は想像以上に良かった」(チー氏)とのことで、Dimming機能はユーザーの受けも良いようだ。
見た目への徹底したこだわり
各社から様々なARグラスが登場している中で、XREALは特に「デバイスそのものの外見や重さ」と性能の両立にひときわこだわっているように見受けられる。Air 2 Ultraでは、金属の中でも軽量で丈夫なチタン製のフレームを採用し、前世代機となるnreal Lightと比べるとスタイリッシュさは段違いだ。かけてみた感想としても、軽く、弦が太くなりすぎていないため耳に引っかかる感覚も少ない。
チー氏は、「Ultraの2基のセンサーは他のどのメガネ型デバイスに使われているセンサーよりも小さく、自然な見た目になるように設計している」と細部へのこだわりを語った。小型軽量化はARグラスの大きな課題だが、「将来的には、ARグラスは一日中装着して過ごすデバイスになるだろう。そのときには40〜50gにはなっていないとならない」(チー氏)とまだまだ先を見ている。
ARグラスのサイズはその光学方式にも左右される。XREALが採用しているバードバス(Birdbath)方式は、視野角を広く保つためには分厚くなってしまうため、一般的に小型軽量化には向かないと考えられている。そのため、ウェーブガイド(Waveguide)方式など異なる方式のデバイスも登場し始めている。今後、XREALがさらなる小型軽量化を目指す中で、他の光学方式への乗り換えもありうるのか尋ねてみると「私たちは、自分たちの技術をさらによくできると自信を持っている。今後もバードバスで、驚くようなものを披露していく」とチー氏は今後の方向性を楽しそうに語った。
空間コンピューティングのエコシステムを作る
Air 2 Ultraはたしかに完成度の高いARグラスと言えるかもしれないが、購入時にアプリケーションがいきなり大量にストアに並んでいるわけではない。あくまでも開発者向けを念頭に置いたデバイスとして発表された。
その意図を、チー氏はこう語る「これから空間コンピューティングのアプリを作るニーズが一気に高まるだろう。しかし、まだ空間コンピューティングの開発エコシステムは存在しないし、作っていかなければならい段階だ。Air 2 Ultraは3,499ドルのApple Vision Proよりもずっと廉価であり、SDKには、SLAM、スペーシャルアンカー、ジェスチャコントロールなど空間コンピューティングのアプリを開発するための要素が揃っている」。
2024年2月に発売されるApple Vision Proを強く意識しながら、より手頃な空間コンピューティングのデバイスとしてAir 2 Ultraをアピールしていた。空間コンピューティングは、いわゆるMxed Realityのデバイスで実現できる。そういう意味では、2023年10月にすでにMetaがQuest 3を製品投入しているほか、Magic Leap 2やVarjo XR-4など複数の選択肢がある。その中で、手頃な価格で手に入るメガネ型デバイスとしてAir 2 Ulrtaは存在感を放つかもしれない。
矢継ぎ早な新製品投入と生産体制に自信
XREALはこのAir 2 Ultraで「XREAL Air 2」のラインナップを3モデルに増やした。2023年に発売されたデバイスは周辺機器も含めると3モデル。XRのハードウェアとしても異例のペースで新製品を投入している。「シリーズで部品や構成は共通なので展開しやすい」(チー氏)とのこと。
とはいえ、近年気になるのは部品の調達や生産ラインの構築などが需要に追いつかずに在庫切れを繰り返してしまうという展開だ。チー氏にきいてみたところ「パートナーと柔軟な生産体制を構築している。XREAL Airが人気になったときに一気に拡大して対応した。いまでは月45,000台を完成させることができる。今後もニーズの増加に対応していく。」と自信を見せていた。
矢継ぎ早に製品を出しているようで、XREALが製品開発で重視しているポイントがある。「私たちは常にユーザーの反応を見ている」(チー氏)。確かに過去のチー氏のプレゼンテーションでも、自社デバイスがどのような層にどのように使われているのか市場のデータをしっかりと分析し、ユーザーの要望や評価に耳を傾けている様子が伝わってきた。XREAL Air 2 ProでのDimmingの採用、2023年夏に発売した接続用デバイスXREAL Beamなど、ユーザーの反応を受けて製品に採用された機能や製品も多い。
(2023年5月のAWEで発表されたグラス型ディスプレイXREA Airのユーザー分析)
「2023年はXREALにとってこれまでで一番良い年だった」と振り返るチー氏。「2024年はさらに大きな年になるだろう。今年発表する製品をぜひ楽しんでもらいたい」とのこと。「Air 2 Ultraでは解像度と視野角が進化しなかったが、今年の後半に登場する製品では変わるかもしれない」と楽しみな情報を明かしてくれた。
2024年は空間コンピューティングをテーマにAppleが話題の渦の中心に来ることは間違いない。その中でXREALがどのように我々を驚かせてくれるのか。社員600人のスタートアップのチャレンジに期待したい。