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医療・福祉 2019.02.12

医療機関向けのVR導入ガイドが登場、今後あらわれる“バーチャル患者”の役割 – 起業家医師から見た医療×VRのいま

医療向けAR/VRは米国を中心に導入が進んでおり、活用範囲の規模と質の両面において進化を続けています。外科医等のトレーニング、手術のシミュレーション、リハビリ、疼痛や不安の軽減など、領域は拡大。AIとの組み合わせで医療機器として承認を得るなど、治療方法としての価値も高まっています。

本記事では医療向けAR/VRの今を、起業家医師の視点で切り取っていきます。

医療機関向け「VR導入ガイド」が登場

米国より、VR導入を検討する医療機関向けに、導入のノウハウをまとめたレポートです。具体的には6点のポイントがあります。

1. VR導入のゴールを設定する
医師のためにVRを導入するのか、それとも患者のために導入するのか、を明確にしよう。

2. VR導入のコンセプトを創る
チェックリストに回答していくことで、コンセプトをまとめていこう。
・誰が使うのか?
・利用者は一人か複数か?
・利用者は何らかの障害を持つ人たちなのか、など

3. チーム(VRサービス提供企業)を見つける
あなたと同じ視点を持つことのできるチームを選ぼう。企業ポートフォリオ等の情報が役に立つ。技術的に実現困難なものがないか、チームの助言を有効に活用しよう。

4. 適切なハードウェアを選ぶ
多様な選択肢の中から絞り込もう。
・何人の人が使うのか?
・何処で実施されるのか(病院か、患者の自宅か)?
・予算はいくらか、など

5. VRを導入する環境を配慮する

6. VR導入後の効果分析を行う

筆者がまず感じたのは、「導入ノウハウが発信されるほど、病院でのVR活用が身近となっている」という驚きです。VR導入に関心を持つ医療機関が確実に増えている状況と考えます。一方、ガイドが「開発する」というプロセスを含んでいることも興味深い点です。米国でVRの導入を牽引する医療機関は、一定規上の病院であることが多いという事情が反映されているのではないかと思います。クリニックが気軽に導入できる、外来患者を対象とした汎用のVRサービスに対するニーズも大切にしていきたいとい筆者は考えます。

本トピックに関し、筆者オリジナル記事をFacebookにも掲載しています。よろしければこちらもぜひご覧ください。

(参考:The Healthcare Guys、2019年2月12日時点)

AI時代における、ヴァーチャル患者の役割

米国医師会のJournal of Ethics掲載の記事です。ヴァーチャル患者(Virtual Patients, VP)とその基盤であるVR技術に関する論文を検証したものです。なお、VPはシミュレーション技術とVRを融合したもので、米国医科大学協会は「実際の臨床シナリオをシミュレーションする、特定の種類のプログラム」として定義しています。

[VP活用のメリット]

1.効率性:

人口の高齢化で医療ニーズが増し、現場の医療スタッフの医学教育に割ける時間が減っています。VPは、インターネットに接続されたコンピュータさえあれば、利用する時間も場所も選びません。VPは利用できる学生の数に上限がありませんし、必要であればすぐにプログラムを更新できます。

 2.効反復練習:

病態や状況を再現して繰り返して利用することが可能です。例えば、精神科でのインテイク(必要な情報の把握)では、同一症例を何度も繰り返すことで精神医学の中核的な知識の習得が容易になります。

[VPのリスク]

1.バイアス:

現時点でVPは人口の多様性を十分に反映していません。VPの肌の色が、学生の「無意識のバイアス」を引き起こすという研究結果も発表されています(ラテン系である場合、処方される鎮痛薬の量が白人系よりも少ない、等)

2.悪意を持ったプログラミング:

法執行機関のアドバイザーによると、「サイバー犯罪は指数関数的に拡大。最も危険で防御が難しいのは、AIシステムに意図的に悪意が込められているタイプ。」

3.ハッキング

[まとめ]
医学教育におけるVP活用の今後を考える基点となる、「関係者全てに対する問い・課題」
・VPが誤ったフィードバックを提供することには、どんな危険性が伴うのか?
・フィードバックが誤っていた場合、だれが責任を取るのか?
・故意にVPを悪用する可能性はどの程度あるのか?
・教官と学生の対面でのやりとりはVPに代替されて少なくなっていくのだろうか?
・VPの活用が多くなることは、教育や学習にどのような影響をもたらすのだろうか?

筆者は、VPは医学教育において模擬患者(Simulated PatientあるいはStandardized Patients,  SP、健康人のボランティア)を補完していくものと考えます。精神科インテイクを含む医療面接は、診断・治療への見立てを正確に行うという側面もありますが、生身の人間の息遣いや上気する肌の温度から「患者の不安を感じ、寄り添う」ことの重要性を学び実践するという側面もあるからです。

 

模擬患者とは、健康人のボランティアで、「ある疾患の患者の持つあらゆる特徴(単に病歴や身体所見にとどまらず、病人特有の態度や心理的・感情的側面にいたるまで)を、可能な限り模倣するよう特訓を受けた健康人」と定義されています。筆者自身「医師の育成に貢献することで、医療をより良いものにしたい」というSPの熱意に打たれ、医師となることへの思いを新たにしました。この熱意と思いこそ、VPのリスクを軽減する力になるtと考えます。

こちらのテーマについて、筆者オリジナル記事をFacebookにも掲載しています。よろしければこちらもぜひご覧ください。

(参考:AMA Journal of Ethics、2019年2月12日時点)

手術を体験できる VRアプリが、Oculus Storeで利用可能に!

これまでの外科トレーニングは、「経験豊富な外科医を手本に手術を行う」「プラスチック製の人体模型で練習する」という方法しかありませんでした。こうした現状を乗り越えるべく、VRによる手術シミュレーションなどが登場しています。

様々な種類の手術のトレーニングはもちろん、合併症や生死の決定などの様々な状況を経験することができます。開発を手がけたGIBLIB社によると「手術手技やベストプラクティスはかつてない速さで進化している。最新の技術力を習得するために必要な教育コンテンツへのアクセスを確保したいというニーズは高く、そのニーズを満たす必要がある」とのこと。

筆者が初期研修で一緒だった心臓血管外科志望の研修医(現在、心臓血管外科医)は、手術の際に両手を自由に使いこなしたいと、いつも左手で箸やペンを使っていました(本来は右利き)。彼のように外科医を目指す医学生や研修医が、早い段階から手術を数多く「体験」できることは、外科医としての技量を一段も二段も上げることに繋がるでしょう。一方で、高みを目指す外科医とそうではない外科医との間の技量の差が、今以上に広がっていくのではないかと思います。

本取り組みについて、筆者オリジナル記事をFacebookにも掲載しています。よろしければこちらもぜひご覧ください。

(参考: AR POST、2019年2月12日時点)


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