HTC NIPPON株式会社は、2018年12月3日に開発者向けカンファレンスイベント「VIVE JAPAN デベロッパー ミートアップ 2018」を開催しました。ロケーションベースVRセッションでは、株式会社コロプラ 仮想現実チームの比留間和也氏と柏原崇生氏が「VRの今後企画・開発からアテンドまで。ロケーションベースVRを一気通貫で行って見えてきたもの」というタイトルで講演を行っています。
本記事では、「VR未体験者の来場が多く見込まれるイベントにおける、コンテンツ作りの狙い」「現地でのアテンドで得た知見」が共有されたこのセッションの様子をレポートします。また、本講演の全編を収録した動画はこちらから。
(株式会社コロプラ 仮想現実チームの比留間和也氏(左)と柏原崇生氏(右))
コロプラと「仮想現実チーム」
コロプラは2014年8月にOculus DK2で「the 射的! VR」をリリースして以来、主要なVRデバイス向けにコンテンツを開発していています。
比留間氏や柏原氏を含むコロプラの「仮想現実チーム」ですが、VRをメインとしならも、最近はXR研究プロジェクトとして、ARなども視野にいれて研究・コンテンツ開発をしているそうです。
「仮想現実チーム」のロケーションVRへの挑戦
コロプラ「仮想現実チーム」ではXRを広める目的で、最近はコンシューマーゲームだけでなくロケーションベース向け、イベント向け、BtoB向けにも活動をしています。
例えば、東京ミステリーサーカスで開催中(2019/2/24まで)のリアル脱出ゲーム「さよなら、僕らのマジックアワー」におけるARギミックはコロプラによって開発されているとのことです。
そんな「仮想現実チーム」が今年の4月から取り組んできたロケーションベース向けVR。
8月の岐阜での「ぜんため(全国エンタメまつり)」、10月の徳島での「マチ★アソビ」、同じく10月に中国江西省での「世界VR産業大会」(と、12月に福岡で開催された「CEDEC+KYUSHU」)といったイベントに、コンテンツ開発から当日の運営まで含めて「仮想現実チーム」が担当する形で出展をしてきました。
本セッションでは、開発したイベント向けロケーションVRコンテンツの紹介とともに、イベント向けだからこそ開発時にに注意してきたことや実際にアテンドして気付いた点について、情報の共有が行われました。
イベント向けVRコンテンツの紹介
「仮想現実チーム」がイベント向けに開発したVRコンテンツは以下の4つです。
「STEALTH OPS VR」
警備ロボットのサーチライトをかいくぐり、足音を殺し、息をひそめる。未体験のスリルを味わえる作品。VIVEのトラッキングエリアをフルに使い、4つの階層を踏破するステルスアクションです。
「GUN CLOSE ENCOUNTER」
ルームスケールをフルに使った対戦型VRシューティングゲーム。極限の緊張感の中、1対1のギリギリの撃ち合いに勝利せよ! こちらは「STEALTH OPS VR」開発中に、ガンシューティング要素、対戦要素を追加したら面白いのでは、というところで開発されたタイトルだそうです。
「SAMURAITNING」
「斬って!斬って!斬りまくれ!己の反射神経の極限に挑め!」移動せず、VIVEトラッカー付きラケットを振ることにより、前から飛んでくる弾を刀で斬りまくるゲームです。
「NOLEMON NOMELON」
Oculus Go向けのゲームで、VR空間の左右で異なる部分をコントローラーで指示していくという簡単操作の「間違い探し」ゲーム。Unreal Engine 4でのモバイルVRゲームを開発するという事例でもあります。
「イベント向け」コンテンツの開発にあたり留意したこと
これらのタイトルは、前提としてイベント「ぜんため」向け開発されました。イベント向けであるということ、つまり体験者はVR初心者が多いだろうという想定のもと、各コンテンツが開発されているということです。そこで開発にあたり、全コンテンツに共通して「徹底的にインプットレス」、すなわち、インプットの種類を少なくしていく、という方針が立てられました。
具体的には、コントローラーからの入力を極力排除し、基本的にはコントローラーをもってもらうだけでOK、あってもトリガーを押すだけにするだけのゲームになりました。また移動はコントローラーの操作ではなく自分の足を動かして行うようになっています。
「GUN CLOSE ENCOUNTER」では、銃は常に持っている状態であり、銃を拾ったり弾丸をリロードしたりするという操作もありません。開発中に「PUBG」のように銃を拾ったり弾数制限があるようにして社内テストをしたこともあったそうですが、その状態ではプレイにならなかったそうで、インプットが多いものはイベントではまず無理であろうと判断がされました。
その判断の結果、イベントでは「普段ゲームはやらずテトリスをちょっとやったことがあるくらい」という女性も、トラッキングエリア内をアグレッシブに動き周り銃を乱射し、対戦相手に圧勝した、というエピソードもあったそうです。
ステルスアクションである「STEALTH OPS VR」では、銃を撃つなどの動作は無いのにも関わらずVIVEコントローラーをもってプレイするようになっています。それは、手の当たり判定として利用するためで、手の部分がゲーム内の見えただけでも敵ロボットに見つかってしまうというようになっています。
開発当初は多くのVIVEトラッカーを体中に装着し、全身をトラッキングしてプレイする形であったそうです。しかしながら、足などにトラッカーが無い状態でも、つまり足に当たり判定が無くてもゲームの面白さは変わらなかったといいます。
それよりも、動きにくい、膝を床についたときに何かがあるなど、むしろトラッカーは邪魔ですらあったそうです。さらにイベント時には装着の手間もかかったり、ロングスカートのプレイヤーは足に付けられない、センサーが隠れてしまうなども考えられるので、トラッカーの装着はなく、頭(ヘッドマウントディスプレイ)と両手(コントローラー)だけに当たり判定があるゲームになりました。
アテンドで見えてきた課題
これらのコンテンツを展開するにあたり、10名ほどの開発メンバーが実際にイベント会場にてアテンドをしており、そのプレイの様子を見ることでイテレーション(問題点を発見し、改善をするというループを繰り返す)しているそうです。
フルスケールのコンテンツを作ったことによる課題
プレイヤーにVIVEとPCを接続するケーブルが絡まないようにアテンドするのが大変だったといいます。特に、身長が低い人が身長が高いプレイヤーをアテンドするのが苦労したといいます。
当初はワイヤレスで運用できるようTPCastを用いて「ぜんため」で出展をしたそうですが動作が安定せず、現状は有線で運用するようにしたそうです。またVIVE PROとPCとをつなぐディスプレイポートケーブルなども、長すぎると起動しないなどのトラブルがあったそうで、2mくらいまでにしたほうがいいという現場からのアドバイスもありました。
そこで今回コロプラ「仮想現実チーム」が提案したのは、「バーチャルスケール」による問題解決です。水平方向の移動に対してスケールをかける、例えば物理空間で1m水平移動したときに、VR空間では1.2m移動させるということで、狭い物理空間でも想定したサイズのVR空間でプレイさせることができるということです。
なお、バーチャルスケールの倍率は上げすぎるとVR酔いに繋がってしまいます。柏原氏によると、1.2倍では誰も気づかず、1.5倍にすると気付く人が出てきて、2倍にすると皆が酔ってしまうということでした。また、今回開発したコンテンツは暗闇の中をゆっくり進むものだったからゆえにバーチャルスケールとの相性がよかったのではないかと比留間氏は述べていました。
自分の足で動くコンテンツにしたことによる課題
没入度が高まることにより、怖くて逃げ出したくなるというのも含めて、VR空間であることを忘れて走り出してしまうプレイヤーもいたそうです。
その対策として、すばやく動くと音がなり敵に見つかりやすくなるというペナルティを設け、ゆっくり動いてもらうようなゲームルールにするということをしました。
それでも走ってしまうプレイヤーもいたそうで、そういう時はヘッドマウントディスプレイに繋がっているケーブルをアテンド担当が引っ張り、走らないように促すこともしたそうです。
徐々に前に移動してしまう問題
「SAMURAITNING」の事例で、移動はしないゲームにも関わらず、気持ちが入れ込んでしまうとプレイヤーが徐々に前に動いてしまうというケースが見られました。
その対応策として、足元に立ち位置を示すマーカーを設置してみたものの、プレイに熱中しているプレイヤーは下を見ることはなく、効果は見られませんでした。
次に、前に行き過ぎると立入禁止テープが表示されるようにしたものの、こちらも熱中するプレイヤーには効果がなかったそうです。
ということで、現状での解決策としては、やはりケーブルを引っ張るという対応をしているそうです。VR ZONEのドラゴンボールVRのように、ベルトで固定させるというのが安全ではないかという話も出てきました。
アテンドによる失敗と気づき
開発者がアテンドを担当することで、例えば以下のような失敗や、それに対しての気付きもあったそうです。
・アテンド初心者だと、音が出ていなかったり、メニューが表示されたままであったり時に、VR初心者は何が正解かが分からないためそれが異常であるかをコメントできないため、そのままの状態でプレイさせてしまう
・VR空間で矢印などで誘導しても、体験者はなかなか周りを見渡してくれず、それを意識した上でコンテンツを作る必要がある。
(矢印とターゲットで誘導しようとするも、なかなか目標地点に移動してくれない)
そして、比留間氏が「VR開発している人は、一度でいいからイベントなど「現地」に赴き、そして実際にアテンドをしてみてください。」と述べ、今回のセッションを締めました。