大阪大学准教授の安藤英由樹氏らは、電気刺激を用いて加速度を感じさせるデバイスを開発しました。通常VRコンテンツでユーザーに加速度を感じさせるためには、モーションチェアー等に乗せて動かす必要がありますが、本デバイスはヘッドセットに搭載するだけで加速度の効果を与えることが可能です。
この加速度を感じさせるデバイスは小型化・無線化を実現しており、Oculus Goなどの一体型VRヘッドセットにも搭載が可能。よりリアルな体験を実現することが期待されています。
今回Mogura VRでは、このデバイスを開発した安藤准教授にメールインタビューを行いました。
一体型HMDがターゲット
――これは、どのような仕組みのデバイスですか?
- 安藤:
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「多極前庭電気刺激」と呼ばれる技術を用いています。前庭感覚インタフェース技術の理論と応用がもともとの研究ですね。この技術については5年ほど前から多極化の試みが成功し、VRブームと相まってCEDEC2016で展示なども行っています。
今回はOculus Goのようなスタンドアロン(一体型)のHMDデバイスをターゲットとして、小型化と無線化により、Oculus Goの上に乗せるだけで実現できるように工夫したものになります。
(※前庭電気刺激/Galvanic Vestibular Stimulation,GVS……内耳の奥にある“前庭”に微弱な電気を流すことで、加速度感覚や角速度を感じさせる技術)
(※Mogura VRによるCEDEC2016本展示のレポートは以下)
――どのような背景で開発に至ったのでしょうか?
- 安藤:
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東京大学で「パラサイトヒューマン」の研究に従事している中で、見学・体験したGVSがきっかけとなっています。そもそもは医療用でメニエール病などの診断に用いられていましたが、体験を機にインタフェースに利用できると考えたからです。特にGVSはほとんど(条件・身体反射といった)無意識な脳の情報処理に関与しており、これらを用いて人間の行動を意識下で助けてあげるという方法論を構築しました。
またこの技術のVR応用として、2005年にSIGGRAPHでレーシングシミュレーターに組み合わせるデモを行っていました。
2012年頃より青山一真先生(現・東京大学VR教育センター特任助教)と多極前庭電気刺激に取り組むようになり、多極(4極)前庭電気刺激に成功しました。ちょうどそのころからVRシステムの低価格化(いわゆるVRブーム)が始まり、低コストかつ安全な装置を開発しようということになり、現在に至っています。
VR酔い改善の技術としても注目
――今後、どのような用途での活用を期待されていますか?
- 安藤:
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まずはVR系アミューズメント分野において、単に加速度に情報の追加によるリアリティの追求にとどまらず、ヘッドマウントディスプレイ使用などで問題となるVR酔いなどを改善する技術として注目しています。
また実際には普及を検討すると、技術的的問題よりも安全面や倫理的問題も考慮する必要があります。これについては大阪大学発ベンチャーを目指して、これまで複数のビジネスコンテストで優勝した経験を持つ、学生の北尾太嗣氏が代表となって活動しています。大阪大学新産業創出協働ユニットの支援を受け、リスクマネージメントに関する方法論の確立にも取り組んでいます。
今回の技術については、9月19日から開催されるVR学会大会でも「前庭電気刺激がVR酔いに与える効果の検討」のタイトルで発表が予定されています。