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業界動向 2022.09.27

日本のVRコンテンツ市場は「かなり特殊」で「これからもっと面白くなる」。Metaの担当者に聞く戦略と今後【TGS2022】

9月に行われた「東京ゲームショウ2022(TGS2022)」に初出展したMeta。ブースにはVRヘッドセット「Meta Quest 2」を体験するために多くのユーザーが並び、活気ある様子を見せていた。

一方で2022年の8月以降、円安やインフレ等に伴うMeta Quest 2の値上げが発表され、さらに日本国内ではメタバースサービス「Horizon Worlds」は現状未展開。今もなおMeta Quest 2自体の売り上げは、VRヘッドセットの中では群を抜いて高いものの、今後日本市場でどのようにVRサービスを展開していくのかはやや見えづらい状況でもある。今回はTGS2022開催中に、MetaのHead of Japan and Korea Strategic Contenc Publishingを担当する池田亮氏に直接取材。コンテンツ戦略や日本市場の現況について話を深く聞いた。

スタジオの動きは順調、開発ノウハウの共有にも意欲アリ

——Metaが提携・買収したスタジオのコンテンツ開発やリリース状況について教えていただけますか。例えば「Beat Saber」ではダウンロードコンテンツ(DLC)が継続的にリリースされ、非常に順調なように思われます。他スタジオの新規タイトルについてはいかがでしょう?

池田亮氏(以下、池田):
スタジオコンテンツが順調なのは間違いありません。リリース予定のタイトル等については、残念ながら現段階でお伝えできることはないのですが、各スタジオは非常に明確なミッションを持ってコンテンツを開発しています。それぞれのスタジオは「Metaのスタジオが作るとこんなVR体験ができる、クオリティの高いコンテンツが作れる」と示してくれるようなチームだと思っています。ハードコアなコンテンツだけでなく、カジュアルなものも作っています。

——他の開発者のベンチマークになるようなものが作れていると。

池田:
そうですね。開発者の皆さんとは、「どういう機能や表現、ゲーム性にすればQuest 2ならではの遊び方や体験を提供できるのか」を常に考えてコミュニケーションをとっています。

——ありがとうございます。続いて「App Lab」の現状について教えてください。App LabからQuest Storeへ“昇格”とも呼べる移動をするケースがありますが、これはどのような理由に起因するものでしょうか? ユーザー数やDL数、クオリティ、酔い対策等、さまざまな観点があるかとは思いますが、開発者の方の参考になるような情報があれば、お願いします。

池田:
我々としては、“昇格”という表現は我々としては誤解を招くので避けたいと考えています。特定の指標を持って「このタイトルをQuest Storeへ出すべきだ」と決めているわけではなく、それぞれのコンテンツや開発者の皆さんの戦略や方針に合った場所で提供すべきと考えて、個別判断しています。開発者やスタジオによっては、逆にQuest StoreからApp Labに移行するケースもあります。

開発者の方がQuest Storeで出したいと言った時、我々はストアでヒットするか、あるいはストアに合っているかの判断しますが「何かの数字を達成したからQuest Storeに移動させよう」という考え方は持っていません。というのも、アプリによってはプロモーション目的のものもありますし、「短期間だけ出したい」「ソフトとしてリリースしたい」「テスト目的に使いたい」など、ストアの用途も多岐に渡るんです。テスト版やイベント限定のアプリ全てをストアで出すわけにはいきませんから、その受け皿としてApp Labがあるのです。そのため、“昇格”や“降格”といった考え方は採用していません。

「最終的にはQuest Storeに出したいが、App Labでユーザーの反応を見て、ブラッシュアップしてからQuest Storeに出します」というチームや企業もありますし、そうした様々な用途に応えるためにあるのがApp Lab、という位置づけです。

——今のお話を聞くと、Quest Store、App Labを含めて、そういった作り手の様々な要望について考え始めると非常に大変なのではないかという印象を受けます。審査周りもお忙しそうに思えますが。

池田:
開発者の方々含め、いわゆる“噂”は私の耳にも届いておりまして、「Quest Storeに出すのは困難である」というご意見は頂いています。実際にはそんなこともなく、用途に合っていれば最短で2週間くらいで企画申請の承認は通りますし、我々としては「大変なプラットフォーム」であるとは思っていません。Chris Pruett(Meta コンテンツエコシステムディレクター)が2022年2月のGDC(Game Developers Conference)でも話していましたが、VR初心者の方の視点によっては「すべてがStoreに並んでいて全部体験できる」というよりは、「セレクトされた体験がStoreに並んでいる」ことが重要だと考えています。

——ありがとうございます。さて、VRコンテンツは従来のゲーム以上に「つくる」ことが難しいという印象を受けますが、この点についてはどう思われますか? 日々コミュニティ等含めて改善されているとは思いますが、まだノウハウやナレッジの水平共有がなされていない印象を受けます。

池田:
VRの開発はとても難しく、特殊で、経験やスキルが必要になってきます。学んだその日にいきなりハイクオリティなものを作れるようになる、といったものではないので、開発者コミュニティ全体にノウハウを共有していくべきだと我々も考えています。しかし、VRゲームにせよアプリにせよ、私が見ている限りでは、個々のプロジェクトの課題はかなりバラバラで、個別なものが多いです。今はStore向けで承認されたプロジェクトを個々にサポートしている状態ですね。

将来的にはケーススタディやナレッジをさらに蓄積し、「こういうトレーラーがいい」とか「最初に入ってきたユーザーを逃さないためにはこういった作りにした方がいい」のように、溜まってきたノウハウをより多くの開発者さんに開放していこうと考えています。

メタバースにおけるゲームは「入口・きっかけ」に。クリエイターを重視

——メタバース構築におけるゲームの役割についてお聞かせください。直球気味の質問ですが、Metaとしては「メタバース」をどのように定義づけていますか?

池田:
非常に難しい話ではあるのですが(笑)、メタバースはソーシャルテクノロジーの次の進化系であると考えていて、モバイルインターネットという観点で見てもその後継であり、次に求められるものと考えています。

ただ、見えていないことやまだ分かっていないこともたくさんあります。日本の「メタバース」はすっかりバズワード気味になっていて、日本のゲーム会社の方々と打ち合わせをすると「トレンド」的な言葉であると感じられます。一方、アメリカのゲームスタジオと打ち合わせでは、メタバースはそれほど強調されてはいません。

我々はメタバース自体、次の10年という長期間のスパンで徐々に移行していくものと考えていますが、メタバースはMeta一社で作り上げていくものではないので、みなさんで作り上げて空間を共有していくと考えています。

——今のところ、一般消費者向けの「メタバース」と呼ばれているものは、ゲームと強く繋がっていると思います。「Roblox」や「Fortnite」、また「Rec Room」のようなタイプのものは特にそうですよね。メタバースの展開・構築における「ゲームの役割」について、どのように位置づけているか教えていただけますか。

池田:
どのプラットフォームにおいてもゲームは最も人気のあるコンテンツですし、Meta Questプラットフォームでもゲームが一番人気があるコンテンツジャンルとなっています。メタバースと考えたとき、ゲームがメタバースに導くための入口・きっかけになると考えています。

——ゲームにおけるUGC(ユーザー生成コンテンツ)についてどのように考えていますか? 例えば「Horizon Worlds」にもクリエイティブモードが用意されおり、海外報道を見ても、Metaは(FacebookやInstagramがそうであるように)ユーザーによるコンテンツをかなり意識しているようですが。

池田:
「Horizon Worlds」においては、クリエイターの存在が非常に重要だと考えています。残念ながらまだ日本ではリリースされていませんが、そのサポートをするようなシステム・取り組みは複数行っています。「XRFund」というファンドがありますが、9月にはその取り組みの一環でN/S高とパートナーシップを組み、次世代のXRクリエイターを育成する「Immersive Learning Academy」を作りました。一方で「UGC」という言葉はあまり使わないですね。

池田:
UGCコンテンツに注力しているアプリはたくさんありますが、Meta StoreとしてはUGCをサービスとして強く提供しているわけではないので、その言葉はあまり聞きません。一方で、Horizon Worldsチームではそういった仕組み、および言及は多数あります。

日本のコンテンツ市場は“VRに限らずかなり特殊”。これからが面白い

——日本市場はユーザーニーズがかなり特殊だと思うのですが、実際のところはどうなのでしょうか? 米国やヨーロッパと比べて、大きな違いはありますか?

池田:
日本のコンテンツ市場はVRに限らずかなり特殊だと思っていますが、現状、明確なトレンドは日本のVRアプリストアだけではまだまだ出てきていないと思います。VRでは無料ベースのものだけでなく有料コンテンツも多数出てきていますが、まだまだニッチなところへの掘り下げや、サブジャンルで高品質なコンテンツがたくさん出てくる、といった状態ではないように思っています。

例えばMeta Storeで言うと、北米ではシューティングやホラーがかなり人気ですが、日本国内においてはこれら二つは北米ほどの存在感はない……といった差がありうるでしょう。しかし今後コンテンツが増えてくると、「日本やアジア地域固有のトレンド」が次第に見えてくると思います。リズムゲームの「Beat Saber」は日本国内でも非常に人気がありますが、「日本国内特有の文脈を強く持ったVRリズムゲーム」等が出てきたとき、「Beat Saber」の人気が続くかは分かりません。

かつて国内で「パズルアンドドラゴンズ(パズドラ)」や「モンスターストライク(モンスト)」がリリースされた後、海外で高い人気を誇っていた「キャンディクラッシュ」がその“壁”をなかなか超えられない時期がありました。これから日本の会社からコンテンツが出てくるとは思いますが、そういった立ち位置のものが出てくると、より明確に日本のプレイヤーのトレンドは変わってくるだろうなと思います。まだ分析をするには早いのかもしれないですね。

池田:
まだ発展途上なので、コンテンツのトレンドと言うには至っていません。しかし、それは後ろ向きな話ではなく、良いコンテンツがもちろん出てきています。その中でコンテンツやジャンルが進化していき、マーケットへとアジャストしていくものだと思います。

既に存在するジャンル・システムのVRゲームに、日本のプレイヤーにより喜ばれる仕様を備えたヴァリアントが出てくる……ということはあり得ると思うんですよね。日本は新しいコンテンツや独自の遊び方がどんどん生まれるマーケットなので、プレイヤーや市場にフィットするコンテンツはこれから出てくると思います。

——より面白くなるのはここからなのではないかと。

池田:
そう思っています。

——一方でMeta Quest 2が北米中心に飛躍的に販売数を伸ばしたと予想されていることもあり、日本市場のサイズ感は数としては相対的に小さくなっている可能性を危惧しているのですが、このあたりについてはいかがでしょう。オープンな質問で恐縮ですが。

池田:
販売本数は非公表ですが、日本市場のサイズ感は相対的にも小さくなってはいません。非常に好調で、Meta Quest 2は継続的に販売台数が伸びていますし、Storeの面でもそうです。日本市場は我々にとって最も重要な市場のひとつだと捉えていますし、これからも継続的に力を入れていくべきだと考えています。

——日本には強力なIPがデジタルゲームやマンガ、アニメ中心に複数ありますが、これらをVRコンテンツに取り入れていくことについてはどうお考えですか?

池田:
日本は、グローバルで認知されている強力なIPが数え切れないほどあります。ただ、開発者の皆さんには、「IPものやオリジナルに限らず、まずは日本を含めた全世界のユーザーさんに喜んでもらえるようなコンテンツづくりをお願いします」とお話をしています。我々もそこに注力しており、VRの良さを引き出してもらえたら、と考えています。

先ほど述べた通り、日本のIPは全世界のユーザーさんに認知されているので、それを活用していただけるのであればぜひ活用していただきたいです。ただ、「IPがあればいい」という理解ではなく、他のプラットフォームでは体験できない、VRならではの機能を活かしたIPコンテンツ作りをしていただきたいと思っています。

——最後にひとつ。答えにくい質問かもしれませんが、Meta Quest 2の価格改訂について聞かせてください。円安やインフレ、半導体周りの状況を見ていると致し方ないことかとは思うのですが。

池田:

値上げした背景はおっしゃるとおりで、一部開発者の方々からも「まあ、仕方ないよね……」というお声は頂いています。一方で「ビジネスとして影響が出るのではないか」との心配は出ている部分もありますね。とはいえ、我々としては、価格改訂後も、このようなスペックを持ったデバイスは市場で優位性のある、優れた商品としてあり続けると思っています。

——ありがとうございました。

(聞き手: 水原由紀 / 執筆: ノンジャンル人生 / 編集: ゆりいか)


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