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業界動向 2021.05.06

HoloLensはどのように“現場”に入っていくのか?実践して見えた道筋

2020年12月8日から10日の3日間にわたって開催された「XR Kaigi 2020」では、日本マイクロソフトの講演を含め、MRデバイス「HoloLens」に関するセッションが複数ありました。

今回はその中から、あらためて振り返っておきたいセッションをMogura VR編集部がピックアップ。インフォマティクスとホロラボがそれぞれ登壇したセッションの内容をダイジェストでお伝えします(※記事内に登場する各種データはXR Kaigi 2020開催当時のもの)。

「HoloLensで実現する建設現場DX」(株式会社インフォマティクス)

イベント2日目(12月9日)に行われたセッションのひとつ「HoloLensで実現する建設現場DX」には、インフォマティクスの事業開発部マネージャー金野幸治氏が登壇。マイクロソフトのMRデバイス「HoloLens」を利用した、建設現場のDX(デジタルトランスフォーメーション)や生産性向上をどのように進めているかを、事例を交えつつ語りました。

インフォマティクスは空間情報の扱いを強みとするシステムインテグレーター企業。同社のソフトウェア「GyroEye(ジャイロアイ)」は、スマートフォンやタブレットを利用して3D CADデータや図面テキストを現実空間上に重ね合わせて表示するARシステムです。2014年の販売開始以降も改良を続け、2016年のバージョン2.0ではVRに対応、そして2017年にはHoloLensで利用可能なMR版「GyroEye Holo(ジャイロアイ ホロ)」を発表しました。

MRは建設現場と相性がいい

金野氏はMR(Mixed Reality)の特長として「建設業界では建築・土木・構造物の維持管理・建設現場における教育など、多岐にわたってMRを活用した取り組みが進んでおり、建設現場との相性がいい」と語り、GyroEye Holoの活用事例と合わせて解説しました。


(実在の空間の上にHoloLensで3D情報を重畳し、作業者のガイドとする)

写真は「墨出し」と言われる、地面や壁面などに工事に必要なさまざまな基準線や印を書き出す作業。青く見えるのは配管、白い線で見えるのが平面詳細図、赤い線が「インサート」と呼ばれる部品を埋め込む場所です。これらが実際に存在するデッキプレートの上下に三次元的に投影されており、作業者は映像を見ながらステッキ状のマジックで墨出しをしています。

このときの投影精度は20メートル四方のエリアで3、4センチのズレに収まっており、初期の実証実験としては十分だったと言います。また、墨出し図面を書かなくてもよくなったことで図面の制作時間は1/3に短縮、現場での墨出し時間も大幅な削減が見込めるなど、生産性の向上に寄与し、現場でのデジタルトランスフォーメーションを期待できる分野のひとつになったのではないかと今野氏は語りました。


(トンネル施工管理におけるMRの取り組み事例)

トンネル施工管理における事例では、施工中のトンネル坑内にプロジェクションマッピングのように映像を重ねて表示。通常、コンクリートでトンネルの外壁を覆うと内部の情報を確認することは困難です。しかしMR技術によって情報を重ねれば、あたかも透視するように確認できるため、施工管理上大変有用だとのこと。

また、各測点の情報を表示することでハンズフリーで確認ができるほか、HoloLensで空間をスキャンできていれば、遠く離れた位置からでも対象物に対して追加情報を入力することも可能です。さらに現場で入力した情報を、事務所に戻って二次元展開図にプロットし直すことも確認できたと言います。


(橋の建築にHoloLensを活用する試み)

橋梁分野における国土交通省「PRISMプロジェクト」の取り組み事例は、橋梁のコンクリート型枠が設計通りに施工されてるかをMRで計測し、その結果をリアルタイムに帳票と連携させるというもの。

この取り組みではHoloLensで2点間を計測する際、HoloLensに搭載されるIMUによって水平・垂直方向を判断して、面の反対方向に水平・垂直線を取るという手法を実装したそう。また、これまでは計測した情報を事務所に持ち帰り、事務所で帳票に転記するという工程がありましたが、これらの工程を短縮することで生産性を26%向上させることができたと言います。

なお、HoloLensの投影精度については、空間の環境認識を行うことである程度精度を高めることができるものの、環境認識の特性上どうしても誤差は発生するとのこと。そこで同社では、トータルステーションという測量機と連携することで大幅な高精度化と安定化などを実現する「GyroEye Holo TS+(ジャイロアイ ホロ ティーエスプラス)」というアドオンソフトを開発しました。


(HoloLens 2にも対応したGyroEye Holoのアドオン「GyroEye Holo TS+」)

Azure Mixed Realityサービスも組み込んだGyroEyeシステム


(GyroEyeシステムの製品構成。左上の「XRoss野帳」は今後追加予定)

GyroEyeシステムは、二次元図面や三次元モデルをHoloLensなどに対応したデータに変換するための「データコンバータ」、データの変換や管理を行うためのクラウドシステムである「CMS」、データをHoloLensやiOSで表示したり活用したりするための「ビューワ」の3つで構成。このシステムにより、BIM/SIMのデータから、建築物を現場で原寸大で再現し、HoloLensを通じてMRで見ることができます。

また、最新のGyroEye 2020.2バージョンでは、マイクロソフト社のMixed Realityサービス「Azure Spatial Anchors」も組み込まれています。一般的にAzureサービスを利用するためにはクライアントが個々にクラウド契約をする必要がありますが、GyroEyeではインフォマティクスで契約しているテナントを共用する形を採っているため、クライアントが契約する手間や費用はかからないそうです。


(GyroEyeシステムに組み込まれたAzure Spatial Anchors)

さらに次期バージョンでは、HoloLens 2とSurfaceなどのタブレット上の図面や帳票と連携する新アドオンソフト「XRoss野帳」も追加予定とのこと。


(新アドオン「Xross野帳」では、マイクロソフトの音声テキスト変換サービス「Speech To Text」も採用)

今後もMRで建設現場のDXを推進


(インフォマティクスの今後のMRに関する取り組み予定)

最後に金野氏は、内閣府みちびき実証実験や国土交通省PRISMプロジェクトなど、インフォマティクスが進めているXRソリューションの予定を紹介。「建設現場のデジタルトランスフォーメーションを推進すべく、建設業のみなさんと一緒に取り組みを進めていきたい」述べ、セッションを締めくくりました。

「HoloLens 2 界隈の現状と未来」(株式会社ホロラボ)

イベント3日目(12月10日)に行われたセッションのひとつ「HoloLens 2 界隈の現状と未来」には、ホロラボの代表取締役CEOである中村薫氏が登壇。同社のHoloLensとのこれまでの関わりや、HoloLens 2を活用したMR(Mixed Reality)の今後の展望などについて語りました。

ホロラボは初代HoloLensが日本でリリースされたのと同じ、2017年1月に設立されたXR企業です。自社サービスとして「mixpace(ミクスペース)」「HOLO-COMMUNICATION」「手放しマニュアル」「TechniCapture(テクニキャプチャ)」を開発・提供しているほか、受託開発や他企業の開発支援なども行っています。

中村氏はホロラボがこれまでに携わってきた案件を振り返りつつ、HoloLensのアプリケーション開発や業界動向を解説。起業してからここまでの間に、導入フェーズの段階でいう概念実証(PoC)から、パイロットの段階まで進んだクライアントが増え始めていると言います。特に建設業のクライアントは早期から取り組んでいるケースが多く、パイロットの段階まで進んでいるところが多いそうです。


(HoloLensのアプリケーション開発には、ビジネスアプリケーションや3Dエンジン、3DCG/3D CAD/3D BIMなど、多くの知識や技術がバランスよく求められる)


(ホロラボの顧客業種の割合。その半分近くを製造業が占めている)


(東急建設との最新事例。BIMのモデル、属性情報や図面、サイズなどを切り替えながら重畳表示することで検査業務を支援)


(HoloLensの導入フェーズ説明。この数年で現場導入の見通しが立ってきたという)

中村氏はHoloLensの導入フェーズの段階を説明しながら、「入社すると最初にPCやタブレットが支給されると思いますが、同じようにHoloLensが支給されるような状況までいければ、本当にHoloLensが実際の業務の中に溶け込んでいくような形になるのではないか」と述べました。


(ホロラボが提供するパッケージサービス一覧)

2020年以降のHoloLens界隈はどうなるのか

続いて中村氏はHoloLensに関係のある業界全体の動向について言及。新型コロナウイルス感染症の影響もあり、それほど動きが多かったわけではないものの、それでも2020年は重要な年だったのではないかと言います。


(2020年5月にオンラインで開催されたMR DevDays 2020では、投資収益率(ROI)が実証されている分野が出てきたことが報告された)


(2017年5月、HoloLensの生みの親であるアレックス・キップマンの来日講演では、まだビジョンを語る段階だった)

HoloLensはこの3、4年で「未来的な何か」というところから「実際の業務に役立つもの」へと移ってきたと語る中村氏。そしてこの先、Azure Remote RenderingやVuforia Area Target、5Gスマートフォンとの連携など、新しい技術への取り組みが重要になると述べました。


(HoloLens本体だけでできることの制限を解放できるサービスやツールに注目する)

また、HoloLensが実際にビジネスの現場に導入されるようになることで、既存の業務の中にHoloLensをどう連携させていくか、DXの観点からも考えていく必要が出てくるだろうと指摘。チームマネジメントや組織文化の改編、デジタル技術への理解など、人にフォーカスした改革では「トップダウン」「人材の内製化」が必要になるだろうと述べました。


(HoloLensを業務の現場に導入するために考えるべきことは少なくない)


(DXとは言いつつ、実際は人の行動や意識の変化をともなうアナログな行為であろうという指摘)

DX文脈でのHoloLens 2試行例

続けて中村氏はDX文脈でのHoloLens 2試行例として、HoloLensを既存のシステムに組み込む際の環境の変革案をいくつか提示しました。


(HoloLensでの作業結果報告書の自動生成。作業の効率化だけでなく、HoloLensをスムーズに業務導入するための手助けにもなる)


(mixpaceへファイル変換の自動化。マイクロソフトの各種サービスと連携してさらなる効率化が可能に)


(BIM 360とmixpaceの連携。建設業ではBIM 360がデータのハブになっており、実際の業務でも使用されているケースが多い)

最後に中村氏はまとめとして「2020年はHoloLens 2の実導入が現実化」「さらに先に進むため会社組織としてデジタルへの意識改革が必要」「新しい技術の調査と、適用に向けた試行の継続」をあらためて挙げ、セッションは終了となりました。


(働く人の意識改革と、新しい技術に対する調査・試行の継続が重要であるとまとめた)

XR Kaigi 2020のセッション動画をYouTubeで公開中

今回レポートしたセッションをはじめ、XR Kaigiの公式YouTubeチャンネルではセッション動画を多数公開しています。イベントに参加した人も未参加の人も、ぜひ一度チェックしてみてください。

(参考)XR Kaigi 公式YouTubeチャンネル


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