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テック 2020.01.06

企業からの注文が急増中、チェコ発の高性能VRヘッドセット「XTAL」インプレッション

東欧チェコの首都・プラハにあるスタートアップ企業VRgineers。同社が開発する最新のVRヘッドセットXTALは、視野角180度・両目のディスプレイの解像度を合わせて5Kを誇るPC向けVRヘッドセットです。


(VRヘッドセット「XTAL」。アイトラッキングやハンドトラッキングも内蔵している)

「産業向けVRヘッドセット」登場の背景

“VR元年”とも言われた2016年以来、多くのVRヘッドセットが登場しました。スマートフォン装着型、PC接続型、そして2018年に登場した一体型。4年が経過した2020年1月時点で、すでにその多くは市場の中心から姿を消しました。VRヘッドセット市場は技術の進化が速く、またフェイスブックやHTCなどの大手企業が積極的に参加しているため、その競争は苛烈です。

当初はコンシューマー向けに、ゲームを中心とするエンターテインメント機器として登場したVRヘッドセットですが、昨今ではトレーニングやシミュレーションなど、産業利用が進んでいます。

機器の価格が直接売上に影響するコンシューマー向けのVRヘッドセットと異なり、企業向けのデバイスは性能がニーズに見合えば購入されます。その結果、XTALのように産業向けを意識し、「高性能で高価なVRヘッドセット」が登場しています。XTAL以外にもフィンランドのVarjoが開発した「VR-2」、Acer傘下のStarVRが開発した「StarVR One」(発売未定)があります。

VRgineersは、2014年頃からVRヘッドセットの開発を開始。当初は「VRHero」という名前のヘッドセットを開発していました。XTALは産業向けのニーズを汲み取って作ったとのこと。


(プラハのオフィスで研究開発を行っている)

アイトラ、ハンドトラッキング、なんでもてんこ盛りのVRヘッドセット

XTALは広視野角がウリになっている通り、デバイスが横長です。装着してみるとヘッドセットのずっしりとした重さを感じられるほど。アイトラッキングが搭載されているため、自動で瞳孔間距離が調整されピントが合う仕組みも。

解像度5Kを謳うだけあり、映像は非常にくっきりと綺麗に見えますが、視野角を考えると現行のOculus Rift Sとの1度あたりの解像度(画素の密度)には大きな差がないかもしれません。VRgineers社の共同創業者Vasek Bittner氏によれば、くっきり見える理由は「世界でも製造技術を持っている工場が少ない独自のレンズを使っている」からとのこと。確かに数値上の解像度から得た印象よりも、非常にクリアに見えます。

ときに、ゲームなどになじみのない体験者にとって、コントローラー操作はつまずきやすいポイントです。しかしXTALでは、コントローラーを使う必要はありません。アプリケーションを立ち上げた状態で被った後は音声操作でシーンを変更、Ultraleap社が提供している高精度のハンドトラッキング用センサーを内蔵しているため、自分自身の手を使って操作を行えます。当日体験したデモは住宅のVRシミュレーションでしたが、物をつかむなどの動作は手だけで自然に可能。コントローラーを使うことはありませんでした。

この「コントローラー不要の操作」をはじめ、XTALは企業利用を強く意識した設計になっています。例えばトラッキング。XTALは各種トラッキング方式に対応していることを売りにしており、PC向けVRで一般的なSteamVRだけでなく、OptiTrackなどのハイエンドなトラッキングシステムにも対応。ヘッドセットに網のように張り付いているパーツを交換することで変更が可能です。そのほかでも、Autodeskの3DCGソフトVREDに対応している点も企業のニーズを意識したものと言えます。

何より気になった”重さ”

見え方や操作などには難点がないものの、体験中常に気になったのはその重さでした。体験中もずり落ちてきてしまうので、片手で支えてなんとか、といったところ。スタッフも「これからの課題の課題は遅延とディストーション(歪み)と重量だ」と挙げるほどでした。

今後はマイナーアップデートを半年に1回、時々で大きなメジャーアップデートを行っていくそうです。重さに関しては今後の改善頼みとなりそうです。

販売は好調

XTALの価格は米ドルにして6000ドル(約72万円)。決して安くはないVRヘッドセットですが、ヨーロッパを中心にその販売台数を伸ばしています。Vasek Bittner氏によれば、「企業からの注文が急激に増えている」との談。試しに1台購入した企業が、徐々に社内で取り組みを拡大することで購入台数が増えていっているとのこと。導入企業にはアウディなどの自動車メーカーや米海軍なども名を連ねています。

重さの部分ではまだ過渡期的な印象を受けましたが、実直に企業のニーズを汲み取り、デバイスの性能・機能を拡張している点がXTAL最大の特長であるように見受けられます。


(VRgineers社の共同創業者Vasek Bittner氏)

VRgineersでは、視線操作の導入やAR用パーツの発売なども計画中とのこと。CESでは両目の解像度を合わせて8Kのモデルが登場するとの話もあり、VRに期待を寄せる企業のニーズにどこまで向き合って進化を続けられるのか、注目したいところです。

(参考)VRgineers


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