Home » 「脳で書く」「皮膚で聴く」フェイスブックが考えるコンピューティングの未来【後編】


活用事例 2017.04.20

「脳で書く」「皮膚で聴く」フェイスブックが考えるコンピューティングの未来【後編】

4月19日にサンノゼで行われたフェイスブックの年次開発者イベントF8の基調講演から、前編に続き、後編の内容をレポートしていきます。

イベントの2日目に行われた基調講演では、サービスの発表が行われた1日目の基調講演と異なり、同社のR&D;部門のリーダーが次々と登場しフェイスブックが考える未来についての講演を行いました。

後編ではブレイン・コンピューティングについての内容を中心にレポートしていきます。

次世代の入力装置

私たちは、PCを操作するときにマウスやキーボードを使っています。また、スマートフォンやタブレットをはじめ、指を使ったタッチ操作も増えてきました。さらに音声入力もAIの進化とともに活用可能性が高まりつつあります。

今後、VRやARなどのもたらすバーチャル・コンピューティングが実現したとき将来の入力はどのような形になるのでしょうか。

2日目の基調講演でイントロを務めたフェイスブックCTO、Mike Schroepfer氏は、VRの入力装置として、現在Oculus Riftとセット販売されているハンドコントローラーOculus Touchを紹介しつつ、その先にあるのは人間の脳であり、ブレイン・コンピューティングが鍵になると、その後の議論を先取りする簡単な前触れを行いました。

また、VR/ARの未来について語ったマイケル・エイブラッシュ氏は一般に普及する完全な「フルAR」には、専用のインタラクションが必要だ主張。PCにたとえて、マウスやGUIにあたる入力インターフェースになるだろうと予見しました。

フェイスブックの未来部門「Building 8」

その後に登壇したのは、Building 8を率いるレジーナ・デューガン氏です。Building 8は、「消費者向けのソーシャルファーストな新製品を創出することに重点を置いたFacebookの製品開発・研究チーム」です。

このBuilding 8を率いているのがレジーナ・デューガン氏です。米国DARPA(国防高等研究計画局)の局長を務め、グーグルのR&D;部門であるATPTに転籍、Project Tangoなどに関わった後に2016年からフェイスブックのBuilding 8に引き抜かれたテクノロジーのスペシャリストです。

言葉を介さない「サイレントタイピング」がもたらす直接入力

登壇したデューガン氏はスマートフォンが人と人とこれまでにない形で繋ぐようになったとしつつ、人間はまだ大きな制限を受けているとして、ブレイン・コンピューティングの話を始めました。

人間の脳というとてつもない性能を誇るコンピューターを活用しない理由はないと語るデューガン氏。脳は860億個のニューロンを抱え、それぞれが1kHz(キロヘルツ)の処理能力を有しています。そこから導きだされる人間の脳の処理能力は1Tbps。毎秒1TBの情報を処理することができます。

しかし、この脳の処理能力は、通信速度という制限によって大きく制限を受けてしまっています。人間が話すスピードは40から60語。つまり1980年代のモデムほどの通信速度しか出ていません。

そこでデューガン氏が掲げたのは「脳から直接タイピングをしたら、どうなるのか?」という命題です。

Building 8は現在、脳から直接文字を入力するようなサイレント音声入力装置を研究しています。脳から直接入力した際の文字入力のスピードは100語/分(英語での換算)で、スマートフォンでタイピングを行う速度と比べて5倍になるとのこと。

文字入力だけでなく、脳で考えたことが即座に入力されるため、ARやVRでいわゆる「操作」を行う必要がなくなります。脳で考えるだけで操作が実行されるのです。

デューガン氏は、何を考えているか全てを読みられるというプライバシーの観点からの懸念があるかもしれないと言及。この技術は「どの写真を共有するか選ぶときに、どれを選べばいいか」を考えるときにその他にも思い浮かべている様々なことの中から関係する一部だけを読み取ることになると説明しました。

この脳からの直接の文字入力を、センサーの移植手術などなしに実現することがこの技術を「普及させる」ためには必要だと述べました。Building 8のミッションは普及させるような製品を作ることだからです。


「暗いのでもっと明度を上げたい」「あと2キロ走らないといけなくなる?」「周りの音量下げたい」などの指示を脳から直接コンピューターに送り込むことができるようになります。ARでは特に有用な入力方法となります。

「皮膚で聴く」情報を脳に直接送りこむ

では脳から、ではなく、脳へ情報を伝えるにはどうすればいいのでしょうか。目などの感覚器官を経由した知覚よりもさらに高速に、脳に直接情報を伝える方法はないのでしょうか。

デューガン氏は、人間の持っている皮膚という“デバイス”に着目しています。人間の皮膚は広げると2平方メートルあり、触覚センサーや温度センサーなどさまざまなセンサーと神経ネットワークが複雑に絡み合っています。

デューガン氏は、Building 8で開発した腕に巻くデバイスを紹介しました。このデバイスで被験者は、横に座っている人物がパネルを押して選択した選択肢を皮膚で感じ取ります。流れたデモの様子では、「黒」、「円柱」、「投げる」などの単語レベルの断片的な情報から、「黒い円柱を投げる」など3単語のフレーズまで、皮膚を介して伝達している様子が分かります。

 

Building 8ではこのように脳とのやりとりをより高速化するためのハードウェア開発を進めています。そして、ブレイン・コンピューティングという言葉が想起させる、SFでよくあるような人体にプラグなどを埋め込んで脳に直接作用するハードウェアではなく、身体に身につける程度のウェアラブルなものを目指しています。

言語は不要になる

こうした脳への直接的な入出力が実現するとどういうことが起きるのか、デューガン氏は「言語が不要になる」と一つの例を示しました。英語も中国語もスペイン語も、言語は自己が考えていることを他者に伝えるために生み出されたコミュニケーションツールです。脳で直接のやり取りができるようになると、言語はもはや「飾り」になります。

デューガン氏はこれからは、「読み書き」ではなく「思い、感じる」ことになると将来の可能性に期待を込めて語りました。

そして、講演の最後の数分を技術の紹介ではなく、この技術の目指すゴールについて語ることに費やしました。

ブレイン・コンピューティングの未来について期待を込めて語ったあとで、技術の進歩が最善の選択を可能にすると語ったデューガン氏。スマートフォンによって人と人の関係性が豊かになったり、実家を出た後のBluetoothヘッドホンで運転中に毎日母親に電話をかけることでお互いの関係が深まったエピソードを披露。「失敗するリスクは、新しいことをすすめる上で支払わなければいけないものだ」と基調講演に集まった開発者に新しい技術へ向かうスタンスを伝えた上で、一呼吸おいて講演の最後に言ったのは「お母さんに電話をかけましょう」というメッセージでした。

フェイスブックは、人と人とのつながりのあり方を追求しています。VRやAR、AIそしてブレイン・コンピューティングといった新たなコミュニケーションの形に、そのビジョンを前提として向かい合っていることを象徴する一言でした。

Building 8が開発する製品が最終的にはどのようなものになり、何年後に発売されるのか、入出力のあり方を変える製品として期待をしたいところです。

F8 2017 2日目の基調講演はこちらで観ることができます。(デューガン氏の登壇は1:18:00付近から)

前編はこちら

 

VR/AR/VTuber専門メディア「Mogura」が今注目するキーワード