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VTuber 2018.05.09

開発の苦労話から未来の展望まで飛び出した「VTuberハッカソン展」レポ

2018年4月22日、「VTuberハッカソン展」が開催されました。本記事ではVTuberハッカソン展の模様と講演の内容についてレポートします。

VTuberハッカソンとは?

VTuberハッカソンは、VRニュースサイトPANORA(株式会社パノラプロ)と、VRコミュニティSilicon Valley Virtual Reality(SVVR)の日本支部であるSVVR JAPANの主催によって2月24日から25日にかけて行われたイベントです。

参加者は定められた期間内に1分30秒のバーチャルYoutuberの動画を作り、発表します。審査員には多数の豪華ゲストが登場し、短い期間内で作られたとは思えない発表作品によって大いに盛り上がりました。

今回レポートするVTuberハッカソン展では、VTuberハッカソンに参加したクリエイターや、審査員として登場したGOROman氏などによる講演や展示が中心となっていました。

VTuberハッカソン当日のイベントレポート記事はこちらです。

いざ会場へ!

VTuberハッカソン展が行われたのは、恵比寿駅から徒歩10分ほどの場所にある「アドバンスドテクノロジーラボ」。この会場は株式会社リクルートテクノロジーズによって運営されています。


(会場には多くの見学者が)

ニュースサイトPANORA運営の広田氏からオープニングトークがあった後、「シークレット」としてVTuberハッカソン2018の開催が発表されました。

会場は、ニュージーランドなどの海外も含む全国13会場。これらの開城で勝ち上がったチームが、12月に行われる「プレミアム大会」の参加権を手にします。追加の開催地やスポンサーなども募集中とのことです。

最優秀賞受賞 チーム「KAKUNI」トーク

はじめに、VTuberハッカソンで最優秀賞に輝いたチーム「KAKUNI」が登壇しました。本チームがハッカソンで製作したのは「音楽室の偉人が美少女になってみた!」。バッハとモーツァルトが女子高生になる、という設定のVTuberです。HTC Viveでモーツァルトを、Viveトラッカー3つでバッハを動かすことにより、一台のPCで二人を同時に動かすというシステムをハッカソン中に構築しています。

チームKAKUNIによれば、このハッカソンでは「最初は片方ずつ製作するつもりだったが、掛け合いをやりたかったので二人動かすシステムを構築した。時間があればキャラクターへの表情付けや、ARも使用することを考えていた」とのこと。次があればテレビ番組「電波少年」のような尖った企画をやりたい、と話していました。

また、発表中に「推しのVTuber」の話題になった際は、大阪あいりん地区を紹介するVTuber「日雇礼子」の名前が飛び出し、会場の笑いを誘いました。

LT枠 「VTuberハッカソンで無茶をした話」

チームKAKUNIの登壇が終わり、持ち時間15分のLT枠に移ります。次の登壇者は「肉1.5倍」チームからエンジニアのizm氏、3Dキャラモデラーの暁ゆ~き氏が登壇しました。

NOITOM賞・CGCGスタジオ賞・玉置賞を受賞した「水無月ライムの日課を紹介しますっ!」は、バーチャルキャラクターの「水無月ライム」とそのお供の「デコポン」が、高層ビルの階段を上りながら自己紹介するというもの。VTuberハッカソンでは唯一の360度動画という挑戦的な作品です。

プレゼンは先日公開されたドワンゴの新サービス「バーチャルキャスト」を用い、実際に水無月ライムを動かして行われました。izm氏は「通常の企業案件では2,3ヶ月くらいをかけて行うが、ハッカソンで使えるのは31時間。ゼロべースかつ2日間でVTuberを作るのはやめとけ」とハッカソンのハードさを語りました。当日の開発プロセスはizm氏のブログ記事で詳細に綴られているので、どのような現場だったのか知りたい方はぜひこちらを。

続けて同チームの暁ゆ~き氏も、「モデリングRTA(リアルタイムアタック)をした」「スポーティーで作りやすそうなキャラデザインを心がけ、モデリングしづらい要素を最初から排しておいた。他にも色々と工夫して作業をカットしたが、やはり短時間で作るのは難しい」とコメント。ハッカソン特有の時間制限が及ぼした影響や、限られた時間の中でやりくりする難しさについて語りました。早く作る方法は「わからないことをやらない」というコメントも飛び出し、会場を沸かせていました。

LT枠 「FaceVTuber立ち上げ話」

登壇者は「FaceVTuber」を開発した藏内 亮氏。FaceVTuberは、Webカメラとブラウザで動作し、簡単にVTuberになることができるWebサービスです。外部モデル(MMD)の読み込みにも対応しています。

藏内氏は「初心者向けの、VTuberになれるエントリーモデル的なものを作ろうと思った」と開発のスタート地点を語るところからスタート。1月頭から製作をスタートし、3月12日にリリースとなりました。

「FaceVTuber」はWebサービスなので、WindowsやOS XといったOSを選ばず使用できることが強みになっています。現在は顔しか動かせないのですが、腕なども動かせるように開発を進めているとのこと。先日発表されたVR向け3Dアバターファイル形式「VRM」の読み込み対応も検討しており、今後の展開が楽しみなサービスです。

「最近流行のバーチャルユーチューバーになりたい!!」
でも,特別なハードウェアが必要だったり,ソフトウェアの設定が大変だったり,難しい!!
そんな悩みを解決するのがFaceVTuber!!
ブラウザで動く,簡単バーチャルユーチューバー体験をみんなでしよう!! https://t.co/bcTbdr36UR#FaceVTuber pic.twitter.com/NCyxe31oK3


— FaceVTuberOfficial (@FaceVTuber) 2018年3月12日

LT枠 「VRChatワールド作成の知見」


(トラブルによりスクリーンが映らず、やむなくPCの前に群がる来場者たち)

こちらのLT枠の登壇者はUUUPA(ウーパ)氏……なのですが、スクリーンにPC画面が映らないというトラブルが発生。「もう直接PC画面を見てくれ」とのことで、来場者がPCの前に群がるという珍妙な事態になりました。

来場者の中から協力者を募り、ソーシャルVRアプリ「VRChat」内でプレゼンが行われます。VRChat内にて使用されたワールドはハッカソン展会場の「アドバンスドテクノロジーラボ」を再現したものでした。

今回UUUPA氏が作成したワールドにはテレビ番組「世界・ふしぎ発見!」を彷彿とさせる「ボッシュート」機能を搭載。このワールドではクイズを出題することができ、不正解者は真下に落下する仕組みだとか。こうした仕組みやアバターなどを利用し、VRChatを利用した勉強会を行ってゆくとのことです。

相変わらず #VRChat のWebPanelについて調べていたけど、なんとか目途がたったので、これから開催に向けてアバターを作ったり、フレンドを増やしたりしていきたい。←ワールドの作り方は分かったけど、VRChat自体の経験値が無い。https://t.co/qKuZtjlpXR

— UUUPA@ATL広尾入り浸り中 (@UUUPACOM) 2018年4月6日

LT枠 「もっと世知辛いおじさんシステム」

登壇者は「ゆるUnity電子工作部」の白井氏。VTuberハッカソンで製作した動画「もっと世知辛いおじさんシステム」は、低予算でのVTuberデビューを目指したものになっています。

使用機材はWebカメラとノートPCのみ。UnityとARライブラリ「Vuforia」でAR機能を実装し、お面をマーカーとすることで低予算でのVTuber化を実現しています。Vuforiaを使った開発にあたり、使用していたPCスペックが足りずたびたびARマーカーが外れてしまうことや、画角が足りないなどの苦労話も語られました(ちなみに結論は「良い物を買おう!」とのこと)。

LT枠 「おうち de VTuberの説明とその後」

登壇者はメディアアーティストの坪倉輝明氏。VTuberハッカソンで発表した「おうち de VTuber」は、ユーザーローカル バーチャルYouTuberランキング賞を受賞しています。

「おうち de VTuber」は、VRChatを利用した撮影ステム。様々な角度から撮影できるほか、背景セットを簡単に切り替えられたり、テロップ機能など、バーチャルYouTuberの動画撮影に必要なことをVRChatで行うことができます。

LTでは、実際にVRChatで撮影された「コトダマン」のCMや、VRChat上に作ったオフィスやショールームを紹介。またその場でVRChatの生放送の様子を中継するなど、終始VRChatの魅力について熱く語っていました。

LT枠「AutoVision SDK」

登壇者は、飛び入りで参加した高田一輝氏。AutoVisionは、現在開発中の完全自動運転車に利用されているシステムです。ナビに「ミライアカリ」の声が利用されていたことで、ネットでも話題になっていました。

高田氏は、AutoVisionのシステムをゲームなどに転用できるよう画策しているとのこと。現在Unity用のSDKを開発しているとのことです。

GOROman × みゅみゅ教授 スペシャルクリエイタートーク

今回のVTuberハッカソン展の目玉、VRエヴァンジェリストとして活躍するGOROman氏と、配信者として活動している「技術全振りおじさん」みゅみゅ教授氏によるトークコーナーです。

AniCastについて

AniCastは、バーチャルSHOWROOMERの「東雲めぐ」に利用されているシステムです。Oculus Rift、Oculus Touch、パソコンがあれば、自宅からでもハイクオリティな配信を行うことができます。開発にはGOROman氏が携わっています。

GOROman氏は「AniCastは弊社(XVI.inc)のメンバーが勝手に作っていたもので、趣味として展示したところGugenkaの方が猛プッシュしてくれたのがきっかけです」と開発のスタートを語りました。2017年の12月にはプロトタイプが完成、その後各関係者からも評価を受けて現状に至ったのだとか。

加えてAniCastのルーツはVRコンテンツ「Toybox」であることを明らかにしました。AniCastを現在の形にするにあたって、ToyboxやFacebook spacesのエッセンスを注入したそうです。

バーチャルキャストについて

続けて「バーチャルキャスト」に話題が移ります。バーチャルキャストは株式会社インフィニットループと株式会社ドワンゴが共同開発した配信システムです。ユーザーの配信に乱入できる「凸機能」など、様々な機能が盛り込まれており、開発にはみゅみゅ教授が携わっています。

2018年2月ごろにバーチャルキャストの製作を開始し、4月13日ににリリース。コアとなるシステム部分は2~3年前にすでに完成しており、みゅみゅ教授が“個人的に遊んでいた”とのこと。今回のバーチャルキャスト製作にあたり、一から作り直したそうです。

「そもそもなんで作ろうと思ったのか?」

続けてトークは「そもそもなんで作ろうと思ったのか?」というより根本的なところへ。GOROman氏は1998年ごろのバーチャルアイドルブームやゲーム業界での経験を例に挙げ、数々の技術的な制約や難易度で「当時はあまり可愛くできなかった」ことが心残りとなり、現在のMikulusやAniCastなどに繋がっている、と語りました。

一方みゅみゅ氏はニコ生で配信していた時のことを回想し、リスナーにきちんと応対して自分よりも、まったく喋らない女性配信者の方が多くのリスナーを獲得していた経験から、“ならいっそ、自分も可愛くなればよいのでは”」という結論に至ったとのこと。もともと放送が過疎気味で、ではどれだけ人を集められるか? という、純粋な探求心から来ているそうです。

何にこだわった?苦労した?

話題は「こだわったところ・苦労したところ」に。みゅみゅ教授が「趣味で作っていたころは全く苦ではなかったものの、プロダクトとなると配布する前提(=他人が使用する)なので、色々と大変でした」と切り出します。バーチャルキャストで使用する3Dモデルの権利関係や規約をきちんと読んでもらえるように意識したとのこと。モデル使用には著作権などが絡むところもあり、この辺りは特に慎重になったそうです。

一方でGOROman氏は「自分は特に苦労はしてない」と対照的。「プレゼンス感(実在感・そこにいる感)を落とさないようにこだわった」「アニメの表現では起こりえないことが、3Dではすぐに起きてしまう。それをとにかく排除して、例えば腕は絶対に胸にめり込まないような処理をしている」と強調。さらにリップシンクの遅延を計測し、その分を配信ソフト側で映像を遅らせることでさらにリアルに感じられるような同期を行うなど、並々ならぬこだわりがあることを伺わせました。

VTuberは社会にどんなインパクトをもたらす?

そしてトークセッションは「バーチャルYouTuber(VTuber)のこれから」や社会的な影響をテーマにクライマックスへ。GOROman氏は「AniCast」を利用しているバーチャルYouTuber・東雲めぐについて「平日は毎朝(7:30-8:00)放送しているので、見に来ている人たちはどんどん健康になってるんじゃないかな」とコメントし、会場の笑いを誘います。

さらにGOROman氏は「広い視点から見ると、人類が“そっち側”に行く可能性がある。バーチャルが本体になって、生身ではなくアバターを着てくることが礼儀や社会的なコンセンサスになるかもしれない」と述べ、「今の人間は、生身じゃなくてデジタル側で活動する時間の方がもはや長い。リアルの名前や身体、外見を拡張・変化させるのが自然になる、まるで化粧をするように」と、未来の身体やアバターのあり方について語りました。

一方みゅみゅ教授は「逆に、自分のアイデンティティというものはどこにあるのか?」ということを問いかけたいとコメント。ある日突然バーチャルYouTuberの魂(=中身)が変わってしまったら、ファンはいったいどこに行くのか? ファンは声と中身と外見のどれにつくのか、という問題を提起しつつ、「もし誰か“これがアイデンティティじゃないか”と思うものがあればぜひ教えてほしい」と話しました。

トークセッションの最後にGOROman氏は「バーチャルではコンプレックスやリアル側で絶望していた人にとって、すごく面白い時代になってきた」と締めくくりました。

その後の質問タイムで「推しのVTuber」を聞かれた際には、GOROman氏は「みゅみゅ教授」、みゅみゅ氏は「GOROmanさん」と答えるというお茶目な一幕もありました。

第二のシークレット

GOROman氏とみゅみゅ氏のトークが終わった後、広田氏から第二のシークレットとして「VTuberアセット紹介動画コンテスト」の開催が発表されました。

コンテスト内容は「Unityアセットストアでダウンロードできるアセットを用い、テーマに沿った動画を投稿する」というもの。応募期間は4月25日〜6月15日で、最優秀賞と審査員特別賞には景品としてWindows Mixed Realityヘッドセットが贈られるとのことです。

Unity Asset Portal 「VTuberをかわいく見せるアセット紹介VTuber動画コンテスト開催中!

http://assetstore.info/eventandcontest/collaboration/vtubercontest2018/

展示会

全ての講演を終えた後、余った時間で出展者のブースを観覧できる時間がありました。

こちらはなっつー氏の「YOU ARE VTUBER」。ヘッドセットを被り、動画の指示に従うことで誰でも「バーチャルYouTuberのような動画」の製作を体験することができます。

一方、登壇も行った坪倉氏の周りには人だかりが。こちらでは実際にヘッドセットを使ってVRChatを体験できました。筆者も少しだけ体験しましたが、デスクトップモードでのVRChatと違い、VRヘッドセットを利用したでの没入感は凄まじいものがありました。

VTuberハッカソン展の模様は生放送されており、アーカイブから全ての講演を視聴することができます。

https://www.youtube.com/watch?v=sgIAzuf5Uko


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