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イベント情報 2018.03.01

新たなバーチャルYouTuberの可能性を見た VTuberハッカソンレポ

2018年2月24日から25日にかけて、VRニュースサイトPANORA(株式会社パノラプロ)と、シリコンバレーに拠点を置くVRコミュニティSilicon Valley Virtual Reality(SVVR)の日本支部であるSVVR JAPANが主催する「VTuberハッカソン」が東京で開催されました。本記事では、このハッカソンで制作された番組や、その舞台裏をレポートします。

「VTuberハッカソン」は、昨今話題になっているVTuber(バーチャルYouTuber・バーチャルユーチューバー)を見て、キャラクターを生み出したい人たちを後押しし、「VRコンテンツをつくるのって面白い!」と気づいてもらうことが目標として掲げられています。

VTuberハッカソンでは期間中に制作したモデル、またはモデル使用許諾を取ったモデルを使用し、1分30秒の番組を作成。作成した動画をYouTubeに投稿し、それぞれの内容を審査員が評価します。審査員からの賞以外にも「オーディエンス賞」が準備されており、こちらはハッカソン終了から成果物デモ展示イベントまでの再生回数が一番多かった作品が受賞します。


(会場審査員の玉置氏、にゃるら氏、GOROman氏)

審査員にはVRコンテンツ制作などで知られる株式会社エクシヴィの代表取締役社長、近藤 “GOROman” 義仁氏、ライター・コラムニストのにゃるら氏、株式会社バンダイナムコエンターテイメントのCS事業部 「サマーレッスン」プロデューサー・ディレクター玉置 絢氏の会場審査員とに加え、後日投稿されたYoutube動画を見て決めるバーチャル審査員にはバーチャルYouTuberのシロさん、ねこます氏、ミライアカリさん、輝夜月(かぐや るな)さんと豪華な顔ぶれです。





受賞チーム・番組・審査員コメント紹介

それでは、当日のハッカソンで見事受賞したチームと番組、そして審査員のコメントを紹介していきましょう。

最優秀賞、ツクモ賞、AVA賞受賞:チームKAKUNI「音楽室の偉人VTuber」

最優秀賞を受賞したのはチームKAKUNIの「音楽室の偉人VTuber」。学校の音楽室にかかっている、ちょっと怖い肖像画をVTuber化。今回は音楽家の中からバッハとモーツァルトを選んでいます。

バッハとモーツァルトのモデルを制作するには時間が足りなかったとのことで、既存モデルを改変。バッハとモーツァルトをモチーフにした女の子が、額縁の中から体を伸ばしてお互いに落書きするなど、掛け合い漫才のような番組に仕上がりました。

【#01バッハちゃんねる】音楽室の偉人がVTuberになってみた!

使用PCは1つで、バッハ役がHTC Viveのヘッドマウントディスプレイを装着。モーツァルト役は取り付ければトラッキングが可能になるViveトラッカーを頭と両手に装着することでキャラクターを動かしています。

シナリオはメンバーでネタを出し合って作成したとのこと。2回目も見たくなるような面白さです。当日の発表資料こちら

GOROman氏コメント:KAKUNIさんのコンテンツは女子高生のバッハとモーツァルトということで、小学生、小さい子が見てもウケがよさそうなこと、技術的に見てもHTC Viveとトラッカーで2人同時にキャプチャできる技術力、そしてシナリオの面白さと編集をたった2日で仕上げたことに感動しました。

にゃるら氏コメント:単純に高クオリティで「2人組」というのは今まで見たことがなかった要素なので、新しいバーチャルYouTuberとして界隈を背負ってもらいたいと思いました。

玉置氏コメント:複数選ぶのは難しいね、という話があったのですが、1位はすんなりと決まりました。完成度が高いことに加えて、1回目のハッカソンでこのコンテンツが1位なら「ああ、確かに」ってみなさんがおっしゃるんじゃないかなと思って選ばれたのではないかと。

株式会社Project White 駒形一憲氏コメント:純粋に「見続けたい」と思い、選ばせていただきました。

株式会社アカツキ・ヴァーチャルアーティスツ/AVA.Inc 代表取締役社長 吉澤馨氏コメント:(ヴァーチャルアーティストである)LUMiを使ってくれたこともありますが、「作るを増やす」という弊社の企業理念にそって、音楽を好きになる手段として使ってくださったことが一番の理由です。

最優秀賞を受賞したコンテンツは、2018年4月4から6日に東京ビッグサイトで開催される第4回 先端デジタル テクノロジー展でPANORAと共同出展。「バーチャルのじゃロリ狐娘YouTuberおじさん」として知られるねこます氏と共演することになります。





NOITOM賞、CGCGスタジオ賞、玉置賞受賞:チーム肉1.5倍「水無月ライムの散歩」

人類が衰退した後、誰かに見て欲しいメッセージとして美少女水無月ライムが相棒のロボットデコポンとの日常を360度で撮影している番組「水無月ライムの散歩」。今回のハッカソンでは唯一の360度映像コンテンツです。たったの1日で水無月ライムとデコポンを3Dモデリングしていますが、とても1日で作られたようには見えないクオリティです。

水無月ライムの散歩



「水無月ライム」は表情豊かです。


「デコポン」は背後の構造も作り込みが凄いですね。

モデルが作成されてから音声収録を行うとハッカソンの期間に間に合わないため、先に声優による音声を収録してから音声に合わせてモーションをつけ、その後モーションにあわせてステージを作成するという作り方をしています。ハッカソン会場の都合上、階段を上がるパートは実際の動きから再現することが難しいため、足の動きはキャプチャではなくアニメーションを作成しています。

また、現実の自撮り棒と360度カメラで実況しているような臨場感を出すため、カメラの揺れも再現しています。誰もいない建物を明るくしゃべりながら散歩しているライムからは、まるで本当にその世界から配信しているような印象を受けます(360度見れるコンテンツですが、VRヘッドセット向けではないため、VRヘッドセットで見る場合は酔う可能性があります)。

一体どんな世界なのか? 本当にこの世界にいるのは彼女達だけなのか? と気になる番組。ハッカソンだけで終わらせず、ぜひシリーズ化してほしいと思ってしまうほどの魅力があります。

株式会社アユート事業部 青木大輔氏コメント:「Perception Neuron」 を使っていただけたことに加え、シナリオもしっかりした作品だと思いましたので選ばせていただきました。

CGCGスタジオ株式会社 井上尚樹氏:オリジナルキャラクターを扱ったチームに賞をあげたいと思っていたのですが、2日間で作られたこと、キャラクターがかわいいこと、ゲーム的な作品だったことから選びました。

玉置氏コメント:プレゼンの場だと360度動画はわかりにくいですが、自分のiPhoneで見るとこちら側からインタラクションがある感じがするんです。VTuberはTwitter等での交友もありますが、基本決められた動画を受け手として見るということになります。一方で360度動画の方が相手を見ている感覚があり、「今どういう見かたをしようか」と考える双方向性が、アイデアさえあればすでにあるフォーマットで実現できるという提案がされており、今後360度動画を使うVTuberが増えるのではないかと感じています。そのような発展を遂げたという点が重要だと考えました。

当日の発表資料はこちらです。

Psychic VR Lab賞:チームザバイオーネ「二人羽織琴葉姉妹日記」

「二人羽織琴葉姉妹日記」は映像を撮影しながらアバターを取り替えることで、1人でもVTuber2人で漫才を行っているような番組になっています。VRヘッドセットを装着し、VR空間内の目の前にあるアバターの左腕を右腕でつまみ、自分の左腕にそれをつけることでアバターを動かせます。まるで二人羽織のような体験です。片方に入っているときはもう片方は棒立ちになってしまいますが、シナリオと編集次第では「棒立ちである」ことが特色になったり、あるいは掛け合いが発生して1人の時よりも表現の幅が広がります。

今回は株式会社Psychic VR Labが手がけている、Webブラウザのみで稼働するVR製作配信クラウドサービス 「STYLY 」を使用。ハッカソン期間内に、当初は想定していなかったアバターを取り替える機能をつけて作成されています。HTC Viveがあれば誰でも1人で2人になれるVTuberです。


(賞品のchloma × STYLY HMD collectionFloating metal Parka for HMD(black × white)をその場で着用、会場の求めでポーズを取るザバイオーネ氏)

株式会社Psychic VR Lab 代表取締役社長 山口征浩氏コメント:「STYLY」をたくさん使っていただきありがとうございました。

同社CTO 藤井明宏氏コメント:社内ハッカソンで作ったもので、なかなか使いにくかったと思いますが、特徴を見事に活かしてくださいました、ありがとうございます。

当日の発表資料はこちらです。





ユーザーローカル バーチャルYouTuberランキング賞:チーム坪倉輝明「おうち de VTuber」

ソーシャルVRアプリである『VRChat』内でVTuberスタジオを作成したのがこちらの「おうち de VTuber」。カメラの切り替えや、ステージもボタンひとつで変更可能。アバターの着替えルームもあります。

「「おうち de VTuber」in VRChat』チーム:坪倉輝明
https://www.youtube.com/watch?v=MVWe4fPd1po


VRChat内でユーザーが集まって相談し、どのような番組にするか、各人の役割などが決まります。「VTuberをやりたいけれどスタッフや友人がいない人、そんな人でもVTuberになることが可能」であり、美少女キャラクターが集まって番組を作成している、そんな制作過程すら見ていて面白いコンテンツになりそうです。

デモ中もリアルタイムでVRChat内のカメラ映像をモニターに映し、代わる代わる体験者がデモ用のアバターに入っている様子が流れていましたが、参加者が変わると周囲の美少女が集まってきて「この子かわいいー」と頭を撫でてくれる映像は、番組のシナリオがなくともそれだけで面白いと感じました。

株式会社会社ユーザーローカル代表取締役社長 伊藤将雄氏コメント:人気を出すためには周りの力を借りるということが大事だと思いますが、坪倉さんの作品はVRChatの仲間の力を借りてわちゃわちゃ感が出ていたところで選ばせてもらいました。

Xenoma賞:スプリンパンチーム(松)「バイオリンを演奏するスプリンパン♪」

スプリンパンチーム(松)による「バイオリンを演奏するスプリンパン♪」。現実側で本物のバイオリンを演奏している動きを、そのままキャラクターの動きとしてVR内に再現できます。美少女キャラのまま自分の動きを見せることができるので、YouTubeの動画で楽器の演奏を見せたくても自分の顔は見せたくないというケースなどに役立ちます。

バイオリンを演奏するスプリンパン♪

エレキバイオリンと弓にコントローラー、手首と首の後ろにViveトラッカーを取り付けることで、CGキャラクター美少女であるスプリングパンに自然な動きが伝わります。さらに株式会社Xenomaのユーザーの動きを認識するスマートアパレル「e-skin」を着用し、運動量が多くなるとキャラクターの周囲からオーラが発生します。エレキバイオリンなので音を出すとVR内で音符が出現するなど、見た目も派手な演奏シーンができあがります。

Xenoma Inc. 銭氏:バイオリンで洋服が動いてるときだけオーラが発生するという、行動したことに反応するような使い方をしていただけて嬉しいですね。ありがとうございました。

当日の発表資料はこちらです。

Vive賞:チームUltra Vives Japan「お兄ちゃん系モンスターYouTuber バートン誕生!」

お兄ちゃん系モンスターYouTuber バートン誕生!

美少女や美男子キャラクターが多いVTuberですが、今回Ultra Vives Japanが選んだのはなんと「モンスターでお兄ちゃんなキャラクター」。ビジュアルなども非常に濃く、一度見るとなかなか忘れられないキャラクターに仕上がっています。

動きはNoitom社の全身モーション・キャプチャデバイス「Perception Neuron」で動きを再現、表情はiPhone Xの「TrueDepthカメラ」で配信者の表情をキャラクターの表情と連動させています。目の動きまで追随するため、非常に豊かな表情を実現でき、怖い顔でも愛らしいキャラクターとなっています。


番組内ではリズムゲームをしているひとコマも。

会場の「(Vive)Proじゃないの?」の反応で、急遽賞品が「Vive Consumer Edition」 から「Vive Pro」に変更されるサプライズもありました。

VIVE JAPAN 西川美優氏コメント:今回は色々な切り口があったと思うのですが、出来上がりの質、使っている技術、そして完成したコンテンツがグローバルで勝負できるかを評価しました。結果このお二人を選びました。初日からViveステーションを立ち上げバリバリモーションキャプチャしていたのが印象的でした。

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AITalk賞:チームTMCITXR「世界初のMR YouTuber 茜ちゃん!!!」

CGキャラクターは物理的に触ることができませんが、「世界初のMR YouTuber 茜ちゃん!!!」では茜ちゃんに触られた感触が得られることを目指しています。今回チームTMCITXRは低周波マッサージ器を使用、キャラクターに触れられた瞬間に電気が流れ、感覚とは違っても「何かに当たる」感覚がキャラクターの実在・表現として感じられるようになっています。

世界初のMR YouTuber 茜ちゃん!!!

MR YouTuberは現実とVRが混じったというイメージでネーミングをつけているとのこと。

株式会社エーアイ 濱田明日香氏コメント:バーチャルユーチューバーが好きな者として、バーチャルユーチューバーと物理的なお触りができることは夢オブザ夢なので、ちょっと刺激的なお触りが体験できました。ありがとうございました!

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にゃるら賞:チーム豊「幼馴染を女の子にしてみた。」

にゃるら氏が「男同士の百合チーム」と評した、2日間で幼馴染を女体化した3Dモデルを作成しVTuberにしたチームです。作成されたモデルは本人とよく似ていて、作成者の愛情が伝わってくるようです。

幼馴染を女の子にしてみた。

にゃるら氏コメント:ねこますさんを発掘した身として、夢を叶える欲望を実現しようとする人が好きだったので、「女体化したい幼馴染の願いを叶える」というのは凄い百合だなと思いました。

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GOROman賞:チームマッスルラビット「マッスルラビット『逆さ吊り腹筋』」

【VTuberハッカソン】マッスルラビット「逆さ吊り腹筋」by栗坂こなべ

人気のあるYouTuberは「長い間、話題にできるものを持っている」のではないかと分析。栗坂こなべ氏は自身が興味を持つ「筋トレ」をテーマにした番組を作成しました。キャラクターはLive2Dで2日間で作成、非常にかわいいキャラクターながら、制作者自身が逆さになって腹筋をする際は顔のみに絵を表示するという、「リアルな肉体に可愛いお面が付いている」だけのようなギャップの激しさが魅力のVTuberとなりました。

VTuberはキャラクターと自分の動きを合わせることでキャラクターに息を吹き込みますが、本作品ではキャラクターの顔を自分の動きに合わせ、後でマウスで移動させています。

GOROman氏コメント:これはバーチャルユーチューバーなのか!? という葛藤もありましたが、結果として楽しいハッカソンでしたね。2回目もぜひ。

当日の発表資料はこちらです(動画)。

番外編:最安価のVTuber チームゆるUnity電子工作部

VTuberになるためには全身のモーショントラッキングや、VRヘッドセットであるHTC Vive、あるいはOculus Riftなどに加え、ハイスペックなPCが必要ですが、「『もっと世知辛いおじさん』のシステムを作ってみた」は手の動きがとれるLeap Motionと画像認識に使えるARエンジン「Vuforia」でお面をマーカーにして認識させることで、PC上に表示したキャラクターに腕と指の動きまで連動させています。

「もっと世知辛いおじさん」のシステムを作ってみた

今回のデモでは表情とセリフはすでに収録したものを再生していますが、配信者の手の動きが入るだけで、キャラクターとの一体感が生まれています。

何より本ハッカソンの中で最も機材が安いのが特徴。 Leap Motion本体はメルカリで3,000円で購入(定価は約1万円)、PCスペックもいわゆるVR ReadyとされるようなハイエンドなゲーミングPCである必要はなく、ゲームエンジンUnityが動くスペックでOKとのこと。画像認識にはWebカメラ(1,700円)を購入、PCを除けば合計5,000円以下で作成可能です。

紙製お面をマーカーとして使うので、子供向けワークショップで好きなキャラクターの顔を切り抜いてVTuberを体験したり、お面を変えるごとに違うキャラクターに変身することができるなど、夢が広がるシステムです。

システム自体を作るにはUnityを使うことになりますが、安価で誰でも体験でき、うっかりキャラクターの画像が外れてしまっても中の人はお面をつけているため顔バレすることもない、という安心感のあるシステムです。

指をトラッキングすることで「指の表情」とでも呼ぶべきものが生まれ、指が動かないキャラクターよりもずっと表情豊かに見えることは大きな発見でした。

「バーチャルのじゃロリ狐娘YouTuberおじさん」ことねこます氏のお疲れ様動画も!

ハッカソンの最後には、「バーチャルのじゃロリ狐娘YouTuberおじさん」として知られるねこます氏のハッカソン参加者をねぎらう特別動画が流れ、ハッカソン2日目最後にもかわからず会場のテンションは一気にヒートアップしました。

自身もハッカソンに参加してみたいと思いつつ、初参加が審査員側であることに恐縮するねこます氏からの2分30秒の動画。モデルを作成し、シナリオを作り、動画を撮影、編集してテロップをつける大変さをハッカソン参加者は実感しているだけに、ハッカソン参加者のためだけに動画を作ったねこます氏の熱量に改めて感動していました。

今回のハッカソンの成果物は動画がYouTubeにアップされ、ハッカソン終了から成果物デモ展示イベント前の再生回数が一番多かった作品がオーディエンス賞受賞となります。


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