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VR動画 2022.01.15

【VR映画ガイド第83回】映画の未来の可能性を示す長編VR映画

第78回ベネツィア国際映画祭で最優秀VRストーリー賞を受賞

VR映画作品として本当に素晴らしい作品が誕生しました。第78回ベネツィア国際映画祭で最優秀VRストーリー賞を獲得した「END OF NIGHT」です。

歴代の受賞作品の中でもVRのストーリーを語る作品として屈指の完成度です。約50分という今までの作品の中でもかなり長尺の作品ですが、時間の長さを感じさせません。シチュエーションやキャラクター設定などがよく練られ、これこそVRを通して体験する作品だと思いました。

物語が始まると体験者は主人公である老人ヨーゼフと一緒に手漕ぎボートに乗っています。ヨーゼフは体験者に向かって昔話をし始め、彼の話と共に手漕ぎボートは過去への旅に出ます。第二次世界大戦中のナチス占領下のデンマークから安全なスウェーデンに向かってヨーゼフは体験者を乗せてボートを漕いでいます。その旅は、過去に彼が逃亡した夜の痛ましい回想となっています。

オススメのポイント

1. フォトグラメトリーとボリュメトリック技術を使った映像

人の記憶、夢の中という設定のため、作品全体の雰囲気が古いフィルムを見ているような粒
子の粗い白黒の映像になっています。フォトグラメトリーとボリュメトリック技術を巧みに使い分けて撮影されていて、景色などの背景が少し荒めのフォトグラメトリーの表現がおぼろげに思い出される辛い記憶のような表現としてうまくハマっていました。

一方、主人公ヨーゼフなどの登場人物はボリュメトリック技術で撮影されています。シーンごとに登場人物の顔や表情がはっきりと描けている人物や、きちんと描けていない人物がいるのですが、それが少し不気味で違和感があり、人の記憶の曖昧さや物語の全体的な雰囲気をうまく表現されていました。
ボリュメトリック技術については過去にこの連載で取り上げているので、そちらをご確認ください。

2. 物語に体験者を誘導する演出

作品はヨーゼフの過去の記憶を手漕ぎボートで辿ることで進行します。手漕ぎボートを漕ぐヨーゼフは、体験者を記憶の中に導く案内人です。この表現は、遊園地のアトラクションの乗り物のようなものに乗って探検する感じに近く、体験者はスムーズに作品世界に没入できます。また、ヨーゼフが見る方向を案内するので、視点も迷うことなく物語が進行している方向に目を向けることができます。

過去の辛い記憶から逃れられないヨーゼフが、なぜ手漕ぎボートを漕いでいるのか、またその行き着く先はどこなのか、その答えを記憶の中をボートで辿るという設定により、VRとして違和感のない、映画として完成度の高い作品になっています。

3. 実際にあった出来事から描くストーリー

物語は1943年に実際にあった事実を背景にしています。当時、デンマークはナチスの支配下にあり、ユダヤ人を海路でスウェーデンに移す活動がデンマーク全体で行われていたそうです。そのお陰でデンマーク在住の約8,000人のユダヤ人のほとんどの方がナチスの脅威から逃れることができたそうです。

しかし、数百人のデンマーク系ユダヤ人はドイツ軍に捕まってしまいチェコスロバキアにあるテレージエンシュタット・ゲットーに移送されてしまいました。「End Of Night」はそんな歴史的事実をベースに描かれた作品になっています。David Adler監督は作品についてこう語っています。

「この作品は私の家族や故郷で本当にあった物語をベースにしています。この物語は過去に、どこか遠くの国で起こった話ではありません。どの時代にも起こりうることであり、現在でも起こっているのです。」

VRという先端技術を利用して、過去にあった悲惨な過去の記憶をこのような形で擬似体験させていく手法は凄いと思いますし、時代を超えてVRで伝える意味のある作品です。私自身、記憶に残る強烈な体験になりました。

作品データ

タイトル

END OF NIGHT

ジャンル

ドラマ

監督

David Adler

制作年

2021年

制作国

デンマーク、フランス

本編尺

約50分

視聴が可能な場所

Viveport:https://www.viveport.com/d9178f37-13cd-4d37-b70f-a31f77b6e4bc

Teaser

END OF NIGHT_TRAILER from MAKROPOL on Vimeo.

この連載では取り上げてほしいVR映画作品を募集しております。
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