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VR動画 2021.12.18

【VR映画ガイド第79回】VRでもない、ARでもない、MRの映画とは!?

VRでもARでもない新しい映画作品

今回紹介する「Fragments」はボリュメトリック技術を使って撮影を行い、さらにMRデバイス、Magic Leapを使って全く新しい映像表現に挑戦しています。

監督はイギリスの国立宇宙センターを拠点とするNSCクリエイティブ社で、企業や教育機関、テーマパークのアトラクションなど数多くの没入型プロジェクトに携わってきたAaron Bradbury監督です。業界の第一人者として注目され、2017年にはスティーブン・スピルバーグ監督に、没入型映画作品についてのコンサルタントもしています。

「Fragments」は最愛の夫、エリックを亡くしたリサ・エリンの音声インタビューを元に制作されたドキュメンタリー作品です。まだ最愛の夫の死をなかなか受け入れられないリサが夫、エリックとの思い出の断片を辿る物語を描いています。

この作品は空間と記憶の間にある複雑な繋がりについて考えさせます。最愛の人が突然いなくなった時、私たちは辛い時期をどう乗り越え、未来に向かって歩くためにどのように思い出を残していくのかを考えさせられます。

Aaron Bradbury監督は「Fragments」について「空間的なストーリーテリングの可能性をより深く追求することができました。登場人物が自分の部屋を歩き回りながら物語を語る姿は、従来のメディアの表現をはるかに超える親近感と、共感をもたらしました。」と語っています。

こちらの作品は2021年12月16日から12月19日まで新宿で開催される「Beyond The Frame Festival」でも体験可能です。

オススメのポイント

1. ボリュメトリック技術の魅力

この作品はボリュメトリックキャプチャで撮影が行われています。ボリュメトリックキャプチャは現実の人物や場所を三次元デジタルデータに変換し、高画質に再現する技術です。ARやMR、VRなどのデジタル空間上で自由に配置・演出を加えることができ、次世代の撮影方法として注目されています。この手法を使った作品はこの連載の第61回で紹介した「Awake Episode One」があげられます。

「Fragments」はこのボリュメトリックキャプチャを使い、現実空間にリサの記憶の断片を表示させます。この表示方法も記憶の断片を想起させる不思議な見せ方をしています。さらにその記憶の断片の映像に寄ったり、まわり込んだり、様々な角度から眺められます。角度によって見え方が変わり、感じ方が変わるのが面白い表現だと思います。

2. 音声インタビューを元にした新たなドキュメンタリーの形

「Fragments」は最愛の夫エリックを亡くしたリサ・エリン本人の音声を利用して構成されています。視覚的な表現は記憶の断片を表現したようなリアルとは少し違うデジタルな表現をしています。

しかし音声では楽しそうに話したり、取り乱したり、喪失したりと複雑な感情がリアルに伝わってきます。視覚的な表現と音声表現のギャップがより悲しさを引き立てます。このようなリアルな音声をもとに構成されるVRドキュメンタリー作品は1つの手法になってきているようです。

この連載の第54回でも紹介しましたが、1943年にBBCの戦場記者のラジオ音声を元に制作された「1943 BERLIN BLITZ」などがそれに当たります。

この手法は音声を元に当時の空間を視覚化することで、より鮮明に過去の様子を伝えられます。「1943 BERLIN BLITZ」では忠実に爆撃機の機内を再現していましたが、「Fragments」ではそのタイトルの通りリサの心境をより鮮明に表現するための視覚表現がなされていました。今後ドキュメンタリーの手法として様々な作品が出てくるかもしれません。

3. MRで映画を表現する意味とは?

ARは現実空間に付加情報を重ねて、現実を拡張することができます。VRは実際の現実から別の現実の中に没入させることができます。VRでもなく、ARでもない、MRで表現するということはどういうことなのか、この作品を体験する前に色々と考えたのですが、MRでストーリーを描く意味とは何なのかを見つけられないまま、この作品を体験しました。その体験の中でARのように現実世界をベースに、物語世界に没入させていくことがMRの表現なのではないかと思うようになりました。

「Fragments」はリサとエリックの日常を描いた作品です。ユーザーが自分の部屋でこの物語を体験した時に、彼らの思い出のカケラが自分の部屋に表示され、物語が進行していくことで、平穏な日常が壊れていく様子が、かなり印象的に、衝撃的に体感することになると思います。

この演出はARやVRではできないですし、MRならではの演出だと思います。「Fragments」を体験して、今後MRによる映画というものも、始まっていく予感がしました。

作品データ

タイトル

Fragments

ジャンル

ドキュメンタリー

監督

Aaron Bradbury

制作年

2020年

制作国

フランス、イギリス

本編尺

約15分

視聴が可能な場所

Magic Leap World:
https://world.magicleap.com/en-us/details/com.nsccreative.fragments

Trailer

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