Home » バーチャルYouTuberの切り込み隊長「ミライアカリ」は、文化の壁を壊せるのか


VTuber 2018.01.28

バーチャルYouTuberの切り込み隊長「ミライアカリ」は、文化の壁を壊せるのか

2017年12月から大きな話題となっているバーチャルYouTuber。前回の記事では、ピンク色が基調の、ほんわかポンコツ(?)AIバーチャルYouTuber「キズナアイ」を紹介しました。

今回は、金色の髪に色っぽい水色の衣装、あの『初音ミク』のデザイナーであるKEI氏デザインの明るいはつらつ娘・ミライアカリをご紹介します。2018年1月末時点で40万近くのチャンネル登録者数を誇る人気バーチャルYouTuberです。

メインの動画更新は本人のYouTubeチャンネルで行われていますが、ニコニコ動画にも公式ページが存在しています。

【自己紹介】ねぇ…聞いて欲しいの…【MiraiAkariProject#001】
2017年10月25日からスタートした「Mirai Akari Project」。キズナアイが切り開いたバーチャルYouTuberの道を追いながらも、他のバーチャルYouTuberと少し異なる立ち位置と経歴を背負っています。

幅広いネタを配信し、ときには海外の人にも突撃して会話するミライアカリ。彼女を観察すると、日本のYouTuberファン界隈とオタク・サブカルチャー層の溝が見えてきます。果たしてバーチャルキャラクターは、文化のギャップを切り開けるのか。 

バーチャル芸人、ミライアカリ

キズナアイが天然ポンコツスタイルのキャラだとしたら、ミライアカリは苦労人キャラ。記憶喪失だった彼女が自分を取り戻すべく、鋼メンタルでなんにでも挑戦。当たって砕け散る、自称バーチャル芸人です。

ミライアカリは裏方担当のキャラクター「エイレーン」から無理難題を出されることもあるため(例・知らない相手に「おっぱい」と言わせる等)、動画の構造が若手アイドルの体当たり番組のようになっています。恥ずかしい目にあって困っているのを見るのが、楽しい。

 だから、ハプニングが多い。笑いの神に恵まれたかのような奇跡の連続は、彼女が話題になった要因の一つです。

たとえば、「斉藤さん」というランダムで人に音声チャットがつながるアプリをミライアカリが使ったところ、見知らぬ相手が彼女をキズナアイと間違えるという、まさかの展開。この動画が出た当時は、動画内で他のバーチャルYouTuberについて触れるということがほぼなかったという背景もあり、ファンの間で語り草となった動画です。

【斉藤さん】初体験!あなたと繋がりたい!!【MiraiAkariProject#006】

また、ミライアカリが動画のネタ切れになった時ですらも、ミラクルが起きました。動画内で企画ネタを考えている際に「一人紅白歌合戦とか、聞いたらわかる。つまんないやつやん」と言ったところ、ほぼ同時にあげたキズナアイの最新動画のテーマが偶然にも「一人紅白歌合戦」。しかも別のバーチャルYouTuber「富士葵」もすでにそれをやっている。

ミライアカリは、Twitterで慌てて謝罪に回るハメに。なお、キズナアイは彼女に対してTwitterで「謝ってないで、全力でネタにするんや!!」と応援。いいA.I.だー!

【募集】なーんも思いつかない…!!!
 
危なっかしすぎる彼女、どうにも目を離せない。かくして「応援したい」という気持ちがどんどんわきあがる、愛されキャラに成長しました。

彼女の特徴のひとつが、エゴサーチの早さ。公式で配布しているミライアカリのMMDモデルを使った動画があがったらすぐ巡回。Twitterではマメにリプライを返信。他のバーチャルYouTuberの生放送を視聴し、名前を書いてないのにファンアートをアップしたらRT、などなど。自称エゴサーの姫。楽しそうに自分に絡んできてくれたら、そりゃファンになっちゃいます。

【大晦日生放送】ミライアカリの2.5次元から配信中!

大晦日の年越し生放送では、動画配信当初に苦労したこと、激動の2017年12月に一気にフォロワーや登録者数が増えたことを、声優が素で泣きながら報告。視聴者数は開始5分で1万5千人、中盤からは3万人と非常に多く、配信者にお金を送る「投げ銭」の額も、有志のカウントによると180万円超という金額に。バーチャルYouTuberとファンの交流が、形としてはっきり見えた出来事として、話題になりました。


 

ミライアカリとVRChat


ミライアカリ動画の特色のひとつが、ネットワーク上で多人数でコミュニケーションを取れるソーシャルVRアプリ「VRChat」での動画。世界中の人がアバターを使って交流しているVRChatの空間に、ミライアカリが自らの姿そのままで飛び込んでいき、精一杯がんばって英語で会話をする。

目の前のアバターたちは、中身が男か女か何歳か、どこの国の人かも全くわからない。そこではライブをする人もいれば、落書きをしてまわる人もいる。

彼女が未知の空間の中に体当たりで飛び込んでいく様子は、非常にワクワクさせられます。写真撮影をすると、海外のノリの良いみんながミライアカリを中心に集まってくる。映画『サマーウォーズ』を彷彿とさせる光景です。

【検証】世界アニメキャラランキング2017in

VRChat#2【MiraiAkariProject#014】

【インタビュー】世界中の人にアニメの元凶聞いてみた!in VRChat#4

彼女の動画には、なりたい自分になって、リアルではできないことを表現し、言葉が通じない相手とでも仲良くなれる……という「VRChat」のいいところが一通り詰まっている。0からのVRChat入門動画もあり、積極的にVR世界を広めようとしています。 

ミライアカリがぶつかり続ける文化の壁


ミライアカリは、下ネタがとても多い。トークにガンガンお色気要素を突っ込んできます。本人いわく「シモネタの方からアカリに擦り寄ってきてくれる」

バーチャルYouTuberのほとんどは、かなり気を使って下ネタを避けています。それに対して、アウトなネタでも見つけたら無視できず、自らどんどん踏みにいくミライアカリ。人を傷つける言葉は決して言わないけれども、自分をシモに落とすネタは(例・自分の下着の話、M体質だという暴露等)どんどん言ってしまう。やらかしが多い、バーチャルYouTuber界トップレベルの爆弾娘ともいえます。

 

一方で、彼女は現実のニュースリアルYouTuberネタインターネットミームなど広い話題のネタを持っています。アニメ・ゲーム・美少女などを主軸としたオタク・サブカル好きの層、ニコニコ動画ファン層、リアルネタ中心のYouTuberファン文化圏……それら視聴者をカバーするような全てのネタを扱うため、コメント欄やTwitterでは、視聴者のネタの理解度や捉え方がバラけているのが見られます。

例として、ミライアカリが他の実在YouTuberのモノマネをした時には、YouTuberのファン層にはウケていました。一方で、ニコニコ動画を主に見ている層、オタク層と思われる視聴者は、ほとんどが「だれ?」という反応。

さらに、YouTube動画の前に入る『Tik Tok』のCMが、YouTube視聴者に不評だという話題を受けて、そのモノマネを披露したこともありました。このネタは多くのYouTuberがやっている定番ネタ。しかしニコニコ動画含むその他の媒体では、ほとんど話題にあがらない題材です。

【初笑い】メンタルの強さみせてやんよ

【Tik Tok】〇〇がうざい広告やってみた!【MiraiAkariProject#009】

彼女の2017年まとめニュースでは、世間で起こったゴシップニュースも紹介しています。数が多くなってきたバーチャルYouTuberですが、リアルのニュースネタや現実の人間を扱うことは、現時点ではあまり多くありません。入れるとしても「おもしろニュース」のような話題を扱う場合が多め。賛否両論あるアンタッチャブルな案件を、あえて取り上げていくミライアカリのスタイルは非常に珍しいです。

【たぶん世界最速!】2017年まとめニュース!【MiraiAkariProject#015】

オタク・サブカル層がバーチャルYouTuberに求めるものは、現時点では「キャラクター性」の方でしょう。アイドル的に愛情を注ぎ「推す」文化に、体を張っている頑張り屋のミライアカリはピタッとはまりやすい。直接触れ合える生放送との相性は抜群によく、最近では金曜日の毎週放送が決定しました。

一方で、かねてからのリアルYouTuberファンや、エイレーンのファン(後述)側は、コメント欄を見る限り「変なことやっている」という「行動」の部分に興味を持っている人が、現時点では多めという印象です。

 

「斉藤さん」でつながった見知らぬ少年に「そっちの路線好きじゃないんで」と、萌え文脈を拒絶された際の、「アカリってどっち系!?」というセリフが印象的。彼女自身は、自分がオタク向けかそうじゃないかについては、あまり意識していない様子。でも、知らない人には見た目でオタクコンテンツとして扱われがち。そもそも「どっちか」に分ける必要はないはず。

最初期からある記憶喪失という設定は、あらゆるジャンルを分け隔てなく吸収して、全てに対しポジティブに楽しめるキャラでありたい、という思いも込められているのではないでしょうか。これは、バーチャルキャラクターだからこそできる試行錯誤です。

彼女はあらゆる文化圏に、片っ端からひるむことなく、炎上もものともせずに鋼メンタルで突撃し続けます。地雷は臆せず踏みます。「歩いた跡が地雷になる」なんて言われることすらも。今後も、こうしたスタンスを続けることで、ネット上の文化の壁を身をもって切り崩す「切り込み隊長」のような存在になっていくのではないでしょうか。

補足:ミライアカリの出自


ミライアカリは、出自がやや特殊なバーチャルYouTuberです。現在のYouTubeチャンネルは、元々はエイレーンが作った「アニメ娘エイレーン」の名前を変更したもので、エイレーン自体は以前から動画投稿をしています。女の子キャラをアバターとして動かし、合成音声でしゃべらせる作風のYouTuberです。

エイレーンは下ネタやアンタッチャブルなネタに踏み込んでいくスタイル(例・世界の要人に妊娠コラを施す、エボラ出血熱の擬人化エボラちゃんを動画に使う等)を取っていました。ミライアカリより先に、嫁アンドロイドYouTuber「萌実」というキャラクターで動画を制作。萌実は現在、バーチャル彼女ヨメミ(萌実の過去という設定)というキャラと一緒に「萌実&ヨメミ-Eilene」というチャンネルを別途持っています。

バーチャル彼女「ヨメミ」【第一話】

ちなみに、ミライアカリはTwitterとニコニコ動画限定で、オルタナティブミライアカリにあたるココロヤミというキャラクター動画配信もしています。アッパーなミライアカリの真逆なので、興味のある方は是非。本当に大した芸人だよ、アカリちゃん。

http://www.nicovideo.jp/watch/sm32464950
【ニコニコ限定】ココロヤミ3パターン

次回はゲーマー・サブカル・ニコニコ動画層に熱烈な支持を受けている「才能の宝庫」なバーチャルYouTuber「電脳少女シロ」を紹介します。 


VR/AR/VTuber専門メディア「Mogura」が今注目するキーワード