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VR体験施設 2024.03.27

黒板ガリガリ、密集したGのうごめき……NTTが最新音響XR技術を活用した“不快な音”を味わうイベントに参加してみた

耳元を飛び交う蚊、黒板の金切り声、不協和音に“アレ”が這いずる音などなど、不快な音だけをコレクションした『不快ミュージアム(nwm × NTT)〜世界で最も「不快な音たち」』が、東京・原宿のUNKNOWN HARAJUKUで開催されました。

会場に足を踏み入れてみると、そこは来場者の声以外はほぼ無音の静かな空間。しかし展示コーナーに近づいていくと、耳元から人間が本質的に嫌だと感じる音が次々と飛び込んできます。不快な音にまみれてからその場を離れると、またさっきまでの物静かな雑踏の音がもどってくる。ストレスから開放された瞬間の快感は、ちょっと病みつきになりそうなくらいに自分のメンタルを癒やしてくれます。これは面白い取り組みです。

家族と、パートナーと話しながら使える「耳スピ」を活用した展示

不快ミュージアムを主催したのはNTTソノリティ。自宅やオフィス、移動中に聴きたい音、聴きたくない音、聴かれたくない音を研究し、音響技術のR&Dや音に関するコンサルティング、音響機器の開発を行うNTTグループの企業です。

なぜ、来場者に様々な不快サウンドを届ける展示会となったのか。その意図の1つとして、NTTソノリティが開発した「耳スピ」こと、パーソナルイヤースピーカー「nwm(ヌーム)」の存在があります。

遮音性に優れ、音楽コンテンツに対して高い没入感をもたらす耳栓タイプのワイヤレスイヤホンが普及した現在ですが、自宅で使えば玄関のチャイムに気が付かないし、移動中に使うと道を行く自動車の走行音や電車のアナウンスが聞き取れないといったデメリットも取り沙汰されるようになり、近年、ワイヤレスイヤホンの機能として外音取り込み機能が注目されています。

この外音取り込みをデジタル処理ではなく、耳穴を塞がないオープンイヤー構造で追求したのが「耳スピ」です。耳元だけに音を閉じ込めるべく、ドライバーが発した音と逆位相の音を外側に向けて鳴らすPSZ(パーソナライズド・サウンド・ゾーン)技術を活用することで、周囲にいる人には音漏れを感じさせないといった特徴もあります。

また耳栓タイプではないために、耳穴内部をイヤーピースで押し上げたり、密閉し続けることからくる負担もありません。

周囲の音も聞き取りながら、自分だけに聴こえる音を体験する。しかも長時間使い続けても疲れにくい。通常のイヤホンとは大きく異なる耳スピの機能・性能を体験できるタッチポイントとして、不快ミュージアムは企画されたそうです。

不快かつ不安な音にまみれる空間音響イベント

会場内には10を超える不快サウンドゾーンが設置されていました。来場者がどのゾーンのそばにいるのか判別するため、トラッキング用として首から下げたスマートフォンのカメラが使われます。

いくつかの展示物を紹介しましょう。「アイドルはきっと出さない音」は、洋式トイレとトイレットペーパーからイメージできる音とはちょっとだけ違ったサウンド。質量のあるアレではなく、気体がもたらす音です。覚悟を決めておそるおそる近づいていったところ。ちょっとだけ肩透かし。でも確かにアイドルにはまったく似合わないサウンドですね。

こちらは「ピアノコンクール3318位」です。何人が参加したコンクールなのかは不明ですが、3318位ということは家族くらいしか褒めないサウンド。ピアノを模したスピーカー内蔵オブジェからは微かにキレイな音が流れているのですが、近づくと解せない不協和音の連続です。これは眼前のスピーカーの音に、「耳スピ」から聴こえる音を重ねて摩擦力の高い和音に聴かせているのでしょう。

「みんな黒板に注目!」はまさにそのもの、黒板をひっかいたときの甲高いノイズです。イギリス・ニューキャッスル大学の神経科学研究チームによる研究では脳の扁桃体が強く反応する音とされているようです。

急な坂道を登ってきて疲れ過ぎてしまったのでしょうか。「崖の上からオウエオ」は本来なら快適な風を楽しめるスポットのはずなのに、登頂後数秒後にマーライオンというべきSEが重なります。何のためにここまで頑張ってきたのでしょうか……。

「5Gの音」はもちろん第5世代移動通信システムの音、ではありません。Gです。複数のGがうごめくサウンドです。しかも5匹ではなく50匹ほどの音を重ねているとか。本能的な恐怖感が瞬時に芽生えます。

「お題:好きな言葉を発してみてください」はマイクで録音した自分の声をデジタル処理でグリッチさせるシステム。不快というよりかは不安に直結するサウンドといいましょうか。しかしボコーダーやボイスチェンジャー、トークボックスのようなボイスエフェクトが作れる可能性も秘めており、この不快音システムを欲しがるミュージシャンはいるかもしれません。

多くの人が「一番びっくりした」と述べていたのが「訳あり物件」です。上部に2台、下部に2台のスピーカーが用意されている狭いスペースの中に入り、ドアを閉じると、壁が薄すぎるアパートごとく周囲から家族のケンカの音が聴こえてきた、と思ったらいきなりドアをダイレクトに叩く音が重なってきました。「耳スピ」の音響もいれたら、6chサラウンド環境です。現実感あふれる立体音響を、不安x不安を感じさせるために活用するとは。NTTソノリティの企画力の高さに、もう勘弁してくださいという気持ちになります。

オープンイヤーイヤホンとスピーカーを合わせた立体音響技術

NTTソノリティの代表取締役CEO坂井博氏(左)いわく、「耳スピを使った最高の音響体験をしてもらうために開催したイベント」。人が得る情報は視覚よりも聴覚のほうが少ないけれども、聴覚だけに意識すると「これってなんの音だろう?」と、 情報に対してより集中する傾向があると言われているそうです。そこで誰もが想像しやすく、人間の感覚に直接直接訴えてくる音として、あえて不快な音に着目したそうです。

不快ミュージアムで使われた技術は、NTTコンピュータ&データサイエンス研究所の中山彰氏(右)いわく、耳スピから聴こえてくる音と、展示物に備わったスピーカーの音を融合させることで最新のサウンド演出を目指す音響XR技術とのこと。遠くから聴こえてくる音はスピーカーで、体験者の近くで鳴る音は耳スピで鳴らすことで音の奥行き、距離感をより明確に表現できるようになるそうです。また耳スピのオープンイヤー構造を活かし、コンテンツクリエイターが意図したとおりの立体音響再生を可能にしたそうです。

音響的に、そして心理学的に誰しもが不快に感じる音を50ほど集めてから厳選した不快ミュージアム。耳スピを活用したエンターテインメントの可能性を強く感じながらも、世にも奇妙なイベントとして興味深いものでした。これは東京だけではなく、全国各地で開催してほしいと感じます。

公式サイトはこちら


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