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にじさんじ 2023.12.25

「にじさんじフェス2023」を振り返る VTuberと参加者の距離がより近くなったイベントに

12月23・24日、東京ビッグサイトで「にじさんじフェス2023」が開催された。VTuberグループ「にじさんじ」の年内最大規模のリアルイベントであり、出演するメンバーも過去最多。期間中、音楽イベントはもちろん、VTuberが制作したアート作品の展示や、対面でのトークルーム、公式番組にちなんだミニゲーム体験などがあり、雰囲気としては「にじさんじVTuber総出の文化祭」という印象である。

著者は昨年の幕張メッセの際も取材したが、今回は明らかに出展物のボリュームが増しており、またコロナ禍では不可となっていた声出し応援も解禁されたことから、参加者の盛り上がりは稀に見るものだった。

昨年は特に女性参加者の多さが目立っていたが、(正確な数値は分からないものの)男性の姿も増えていたように見える。また今年は(海外渡航緩和の影響で)英語圏グループ「にじさんじEN」メンバーの出演数も増加していたことから、イベント会場では海外ファンの姿も見られていた。あらためて、今イベントを振り返る。

VTuberたちが有明に来ている

「にじさんじフェス」の大きな特徴として挙げられるのが「VTuber本人が現場にいる」という感覚があることだろう。会場のそこかしこに本人たち直筆の落書きが残されており、現地でなければ書けないようなメッセージが記されている。また音楽ライブでは舞台袖から、本人たちが円陣を組んで掛け声を発している声が、生のまま漏れ聞こえてくる。こういった「VTuberがVTuberの姿のまま現実で生きている」というコンセプトは、昨年から引き続き大切にされており、「にじさんじフェス」ならではの個性になっていると言える。


(VTuber本人の作成したアート作品の展示が見られた)


(私物の化粧品を展示するエリアも)


(著者の死角より突然現れたVTuber?の謎ノ美兎さん。会場では複数人が巡回していたようだ)

今年は特に海外VTuberたちの渡航が叶ったことで「彼ら彼女らが日本の有明、現地に来ている」という事実に感動する参加者も少なくなかったようだ。会場では、本人たちのメッセージや展示物を食い入るように見つめ、熱心に写真を撮る人の姿が目立っていた。


(卒業した童話組2名についてのコメント)


緑仙によるイラスト:すでに卒業したSEEDS一期生も描かれている 写真提供:大宮にいえ

また著者の印象に残ったものとして、すでに卒業してしまったVTuberについて、現役のVTuberが“仲間”としてメッセージを残しているらくがきが見られたことだろう。そういったメッセージをSNSに投稿し、にじさんじ始動から5年という月日の間に起こったドラマの数々に思い浸る者も少なくなかったようだ。さらに、VTuber同士がお互いに文通のようなかたちで落書きを使用しているメッセージも見られ、今回の展示物の数々は「ファンへの感謝のメッセージ」でありつつ「にじさんじメンバー同士の友情」を感じさせるものだったと思う。

VTuberと一緒にいた記録を残せる

今回、出展物のなかでも特に興味深かったのは「ARフォトスポット」だろう。会場の各所に設置されているQRコードをスマホで読み込むと、画面がカメラモードに切り替わり、3D姿のVTuberが目の前に出現。こちらに向けて語りかけてくれたり、ポーズを撮ったりしてくれる。

このコーナーには非常に多くの人が集まっており、一緒に写真に映り込むファンや、映像を撮影してSNSに投稿するファンが多く、大きな話題となっていた。

これまでにも「にじさんじ」を運営するANYCOLOR社は、VTuberとARの組み合わせに積極的で、4周年の際にも、フォトスポットと同様のARアプリ「STYLY」を活用して、VTuberを空間に登場させる施策を行っていた。また、本人たちのパフォーマンスと現実の景色を融合させたうえで、バーチャルな演出を施すライブを「ARライブ」と総称しており、先述した通り「VTuberがVTuberの姿のまま現実で生きている」というイメージを、より強調するために、ARを活用していると言えるだろう。

現状ではVTuberとユーザーが一緒の空間にそのまま存在するのは、技術的に難しく、メタバース活用や大型スクリーン撮影など、さまざまに試行錯誤されているのが現状だ。しかし手持ちのスマホで気軽にVTuberと撮影した気分を味わえるという点で、このARフォトスポットはかなり成功していたと言える。このような施策は、今後のVTuberリアルイベントの満足度を高める大きなカギになっているのではないだろうか。

「にじさんじ」をハブに助け合う参加者たち

もうひとつ、印象に残った出来事を付記しておこう。今回のイベントでは、その来場者数の多さから、荷物の紛失や取り違えなどが、かなり多かったようだ。そんな中で、にじさんじ所属の黒井しばが、X(旧Twitter)で「#にじフェス落とし物」というハッシュタグを作成し、参加者に落とし物を発見した際はこのタグに呟いたうえで、インフォメーションセンターに届けるように呼びかけた。

実際に、このハッシュタグは多くのユーザーに活用され、多くのファングッズの落とし物が写真つきで投稿。実際に、その多くが持ち主のもとに届いていたという。神田笑一も、そのことを嬉しそうに報告している。

実際、にじさんじファンのお互いを支え合おうとする姿勢は、過去のライブからすでに見られるものだった。2019年10月に開催された「にじさんじMusic Festival」にて、花畑チャイカが「ゴミ拾って帰れよ!」とファンに呼びかけたところ、その場に残っていたファンが率先してゴミを回収し、ほとんどゴミが落ちていない状況になっていたという。

こういった、にじさんじファンのマナーの良さは「好きなものを応援している同士だから助け合いたい」という気持ちが大きく作用しているのかもしれない。会場を見渡してみれば、来場者たち同士で連絡を取り合って集合し、和気あいあいと過ごす姿が多く見られた。また、今回現地に行けなかったユーザーのために、現地の様子を詳しく撮影してSNSにシェアするという動きも積極的だったように思う。このイベントはすでにVTuberのコンテンツを楽しみに行くというだけではなく、同じものを好きな人同士で集まる交流の場にもなりつつあるのかもしれない。


(加賀美ハヤトの巨大ロボット「ダイカガミ」と一緒に撮影できるフォトスポット)

総じて、にじさんじVTuberとの距離をより身近に感じられるだけでなく、ファン同士のつながりもより深めていると思えるリアルイベントだった。5年もの間に育まれてきたこの文化を、来年どのように継いでいくのか、期待したいところだ。


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