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業界動向 2021.03.07

PSVR次世代機の発表が意味するものとは? 現時点で分かることを考察

2月23日深夜、VRにまつわる大きなサプライズが発表された。ソニー・インタラクティブエンターテイメント(SIE)による、PS5向け次世代VRシステム(以下、PSVR次世代機)の開発である。公式ブログおよび同社CEOジム・ライアン氏のインタビューといった形で、一部のゲームメディアが報じた。

本記事ではSIEの発表が何を意味するのか、そしてPSVR次世代機がどのようなデバイスになるのか、期待を込めて(ややねっとりと)考察してみたい。なお非常に限られた情報しか明らかになっていないこともあり、本記事では筆者の推測が多分に含まれることに注意されたい。

「一本のケーブル」が意味すること(1)

「ケーブル一本でPS5にすっきりと接続でき、高精度のビジュアル体験と同時に、使い勝手の向上を実現します。」

2016年、すなわち「VR元年」に登場したデバイスはPCやゲーム機に接続するタイプだったし、知名度・体験の品質・プレイできるタイトルのビッグさといった点からも、PSVRは頭ひとつ、いやふたつ抜けていた。2016年から2021年に至るまで最も出荷されたVRデバイスはPSVRだったことは間違いない。

しかし、SIEが次世代モデルに関する情報を長らく明かさなかった間に、コンシューマー向けVR市場のトレンドは大きく変化している。ハードウェアはFacebookが毎年のように新型デバイスを投入、Oculus Questシリーズを始めとする廉価かつ手軽な一体型デバイスに競争の主軸が移った。この競争についていけなくなったHTCは一部のプレミア向けデバイスを残して産業向けにシフトし、満を持して新規参入したValveもコアゲーマーにVRを提供するにとどまっている。

2020年現在、VRハードウェアの主流は一体型である。接続の手間がかからず、手軽で装着したら即起動できる。このメリットは、VRに対して抱かれがちな「面倒くさい」というイメージを払拭するには十分だった。

その面倒臭さのイメージの一端を担っていたのは、PSVRの複雑な配線だったことには言及せざるをえない。PS4とPSVRの間には、さらなる処理と分配器としての役割を果たすプロセッサーユニットが位置し、PS4とユニットの間を2本のケーブル(HDMIとUSB)で接続、ユニットとPSVRをさらに2本(!)のケーブルで繋ぎ、ユニットをTVと1本のケーブルで繋ぐ、そしてPS4とPS Cameraを接続してようやく準備完了。非常に簡潔かつ美しい説明書に込められた想いとは裏腹に、「PSVRは接続が面倒」という評判はどうしても消すことができなかった。

とはいうものの、SIEが発表した4年越しのPSVR次世代機は「一本のケーブル」で接続するという。そう、有線接続型であり、一体型ではないのだ。一本のケーブルになったということは、ついに「面倒くさい接続」でなくなったことをアピールしているとも読める。番号札がついたケーブルたちと我々が向き合うことはもうないのだろう。

さて、筆者の手元にもPS5があるので考えてみたい。この「1本のケーブル」とはなんだろうか? PS5の背面にはHDMI端子がある。8Kの出力にも耐えうるHDMI2.1規格の端子だ。USB Type Aの端子もある。PC向けVRヘッドセットでも同様だが、基本的にはVRヘッドセットには映像出力(HDMIかDisplayport)とデータ出力(USB)で2本のケーブルが必要となる。PC向けのVRヘッドセットではPC側に対しては2本のケーブルを挿し込み、途中でケーブルが一本にまとまってVRヘッドセットには一本のケーブルで接続される方式が採られていることが多い。

PSVR次世代機も同様の方式になるのだろうか。そうなると、VRへの出力でHDMI端子が埋まることになる。初代PSVRでは、SIEはVRを体験していない人もその様子を楽しむための「テレビへの出力」にこだわり、それゆえ分配器として外部ユニットを使うこととなった。

HDMI端子はTVに繋いだままVRを体験する方法が一つある。FacebookがOculus Linkという名称で力を注いでいる、USBケーブル一本でヘッドセットをつないでしまう方式だ。そしてPS5の前面にはUSB TypeC端子が待ち構えている。

さて、一体どんな接続方法になるか楽しみではないか。

一本のケーブルが意味すること(2)

そろそろ話を次世代VRシステムの「性能」に移そう。有線接続であることは2つのことを意味する。1つは小型軽量化が可能なこと、もう1つはSIEが手が届く範囲のハイエンドのVR体験にこだわり続けていること、だ。

小型軽量化への期待

一体型VRヘッドセットは、デバイス単体でバッテリーやプロセッサを搭載しなければいけないがゆえに、小型軽量化が難しい。しかし外部からVRヘッドセットを電力を供給し、かつパワフルな描画をしてもらえるのであれば、ヘッドセットにはディスプレイとセンサーが搭載されていれば良いわけだ。

有線接続の場合、現時点の「弁当箱」のような形状よりも、メガネに近い形状のデバイスを作れることは明らかだ。機能は限定的なものの、すでに中国ではHuaweiやPicoがメガネ型のVRデバイスの製品投入を行っているし、日本でもバナソニックが高性能なVRグラスを作っていることから現実的だろう。


(パナソニックの眼鏡型VRデバイス。プロトタイプの段階だが、5K解像度や6DoFを実現している)

ハイエンドのVR体験を保証する解像度とパネル

続いて「ハイエンドのVR体験」について。次世代VRデバイスの具体的なスペックはどの程度になるのだろうか?

PS5のグラフィック処理能力はPCで言うところのGeForce RTX 2060 Super相当だと言われている。RTX2060 Superはいまでこそ次モデルが出てしまったが、それでも性能的にはミドルハイのレベルに位置している。

現在、VRヘッドセットの解像度は片目2K程度にまで向上しつつある。一般で入手できるうち性能が高いHPのReverb G2(2021年発売)は解像度が両目4K相当、最低動作環境に記されているGPUはRTX2060 Super(もしくは2世代前のハイエンドであるGTX 1080)である。

そう考えるとPSVRの次世代機は片目2K程度なのではないかという予想が立てられる。Oculus Quest 2でも同程度の解像度だが、描画処理を行うGPUの性能が段違いだ。体験の質もそれに伴い、大きく異なるだろう。なお、ウルトラCとしてアイトラッキングを搭載し、処理負荷を下げることでさらに高い解像度を目指す……という夢のようなシナリオも考えられるが、価格が現行機程度では到底収まらなそうだ。なお、PS4に関してはPSVRの発売と同じ2016年11月に処理性能を向上させた「PS4 Pro」を発売している。「PS5 Pro」でさらなる描画性能…という展開はあるかもしれない。

そしてPSVR関連で、気にしておきたいのはパネルである。2016年に発売されたOculus Rift、HTC VIVE、そしてその後に続いた各種VRヘッドセットの多くでは有機ELが使われていた。液晶に比べ、有機ELは完全な黒を表現できたり、コントラストの表現に優れるなどの特長があるがゆえの採用だ。

しかし、その有機ELは、ほとんどがスマホ向けに設計された「スペックよりも解像度の低い」有機ELだった。他2機種はサブピクセルが一部欠けた「ペンタイル配列」と呼ばれる有機ELを使っており、その中で唯一PSVRだけが「フルRGB」の有機ELを搭載、公称値通りの解像度を実現していた。これはパネルも自前で製造しているソニーグループのSIEにしかできなかったことなのだろう。

今では多くのVRヘッドセットのパネルは液晶に移行した結果、自動的にフルRGBが実現しており、パナソニックやVarjoを除くと有機ELを採用するデバイスはほとんどない。しかし、”質感”にこだわるSIEがPSVR次世代機で有機ELを再度採用する可能性はある。

そして、パネルの描画頻度を示すリフレッシュレートについて。この数値が高いほど滑らかで安定したVR体験が実現する。これも初代PSVRのパネルが特殊だった部分だ。その実力を発揮することはほぼなかったが、120Hz対応である。ほとんどのPSVRのコンテンツは60Hzであり、リプロジェクションという独自機能を使って120Hzであるかのように見せていた。また、他のVRヘッドセット同様90fpsにも対応していた。PSVR次世代機では、120Hzでの駆動が目指すべきものとされている可能性はある。余談ではあるが、Oculus Quest 2も最初は72Hzだったが、90Hzに対応。今は120Hzへの対応が噂されている。

トラッキング、オーディオ……気になるポイントだらけ

ハイエンドの体験の追求はケーブル以外の情報からも垣間見える。トラッキング方式は一新されるそうだし、PS5のオーディオはSIEが自信をもって提供しているものだ。

PSVR次世代機では、トラッキング方式は一新される可能性が高い。初代PSVRはPS4の周辺機器であるPlayStation Cameraを使った光学式のトラッキングを採用していた。トラッキング用にカラフルに光るコントローラーの写真を見たことがある人も多いだろう。パッと見おしゃれではあったが、精度は外部センサー型やヘッドセットのカメラでトラッキングを行うインサイドアウト型に劣る。そして何より、正面を向かないとトラッキングが失われる、といった問題点があった。

PS5用に発売されているHD カメラは、実況用の撮影を行うカメラであり、果たして正面という弱点を維持したままトラッキングに使用されるか怪しい。さすがに、インサイドアウト型のトラッキングシステムが搭載されるのではないだろうか。もちろん、グルグル回ってしまってもケーブルが絡まないようにする必要はあるが……。


(PS5のHD カメラ)

次世代VRシステム向けのコントローラーは新たなものが発売されるようだ。PS5向けのDualsenseコントローラーに搭載された振動システム「ハプティックフィードバック」、「アダプティブトリガー」が搭載される可能性は高い。筆者がPS5向けのゲームで体験した限りは、物の触感が再現できるかというとまだなようだが、これまでPS Moveコントローラーの大雑把な振動と比べると大きな進歩だろう。

また現時点では一切触れられていないが、オーディオには期待したい。PS5にはTempestと呼ばれる3Dオーディオシステムが搭載されている。対応する純正ヘッドホンは本体同様売り切れが続いているように、人気を集めている。次世代VRシステムにスピーカーが内蔵されるのかは分からないが、音にこだわった体験はできそうだ。

発売は2022年? 2023年?

気になる発売日だが、「2021年内ではない」ことだけが明らかにされている。もしかしたら歴史が発売日のヒントを教えてくれるのかもしれない。かつてSIEでPSVRを担当していた元ワールドワイドスタジオ・プレジデントの吉田修平氏は、次モデルについての筆者の食い下がるような質問に、「自分たちはゲーム機のメーカーであり、頻繁に新モデルを出すようなことはしない」と明言していた。PS4からPS5まで7年の年月を要しているし、PSVRが次モデルに移るにもこれくらいの時間で製品サイクルを考えているのだろう。


(SIEの元ワールドワイド・スタジオプレジデントの吉田修平氏。2018年に行われたインタビューにて撮影)

PSVRの開発用プロトタイプこと「Project Morpheus」の発表は2014年3月。そして、製品としてPSVRは2年後の2016年10月に発売された。PS4が発売された2013年から3年後のことである。奇しくも今回の「次世代VRシステム」発表はProject Morpheusが発表された2014年から7年後、2021年に行われた。PS5が発売されたのは2020年末ということを考えると、次世代VRデバイスが発売されるのは2023年末になるのではないだろうか。

VRゲーム開発には時間がかかる。特にハードウェアへのあらゆる面での最適化は、初代PSVRのコンテンツ開発者を悩ませた大きなポイントだ。PS5向けに一新したシステムへの最適化は容易ではないだろう。ローンチ時に各社がタイトルをリリースをするとしたら、2022年末までの1年半強という期間は短いように感じられる。

PSVR次世代機は「周辺機器」の殻を破れるのか

思えばSIEは2016年のPlayStation VR(PSVR)発売以来、コンテンツの供給を絶やすことはなかった。「バイオハザード7 レジデント イービル」という大型タイトルにはじまり、「みんなのゴルフVR」や「ASTRO BOT: RESCUE MISSION」「アイアンマンVR」などの専用タイトル、「Beat Saber」のPSVR移植、そしてPlayStation 5における互換性や既存PSVRタイトルの高クオリティ化……。しかし、コンシューマーが真に望んでいるのは次世代ゲーム機であるPS5にふさわしい、次世代のVRデバイスだ。解像度が両目合わせてもフルHD程度しかない既存デバイスを使い回すことではない。

発売が2022年にせよ、2023年にせよ、PSVR次世代機の発表は間違いなく朗報だ。なぜなら初代PSVRは500万台以上を売り上げたVRデバイスであり、その後継機を発売するだけの価値がVRにある、とSIEが考えている何よりの証拠だからだ。

問題はPSVR次世代機がどこまで「殻」を破れるかである。SIEのPSVRに対する取り扱いは、「PS4というゲーム機の周辺機器」というスタンスで一貫していた。PSVR次世代機も同様にPS5の周辺機器ではあるが、初代PSVR以上にゲーム以外の用途を見据えられるかどうかが重要になりそうだ。なお、ソニーグループ内には、現在プロジェクト・リンドバーグと呼ばれる横断組織があり、VRを使った音楽ライブやストーリーテリングなど没入型コンテンツの制作が活発に行われている。これらはゲーム以外の様々なコンテンツを没入型にしようとする試みであり、その体験機器としてPSVR次世代機が念頭に置かれている……ことに期待したい。

https://www.youtube.com/watch?v=Dmo5Hq4ROBk

PSVR次世代機で、SIEはVR市場を、ひいてはユーザーたちを再び沸かせることはできるのだろうか。“答え合わせ”には、もうしばらく待つ必要がありそうだ。

2021/03/08 21:45 PS Moveコントローラーの振動について、振動機能がない記述になっているため事実関係を確認し、修正致しました。


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