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業界動向 2018.10.22

Global AR Online Pitchを振り返って:世界のARスタートアップの今

(本記事は、2018年9月11日にGFR Fund Blogにて掲載された記事を翻訳したものです)

今年5月に我々GFR FundThe VR Fund及びSuper Venturesと、初のグローバルでのARピッチイベントであるGlobal AR Online Pitchを共催してから約4ヶ月が経ちました。開催時に弊社の古森が記載したこちらの記事でも触れていますが、最終的には241社のスタートアップから応募を頂き、その中から投資家が選んだ8社が、ファイナリストとしてテレビ電話にて50社以上の投資家にプレゼンテーションを行いました。

執筆時点(10月12日)では、その8社の中から少なくとも3社が資金調達を実施できたので、業界にとって意味があるイベントだったと言えるかと思います(※Global AR Online Pitchでは優勝者等に賞金を渡すことはせず、純粋なスタートアップと投資家とのマッチングの場として開催)。

元々Global AR Online Pitchを始めたきっかけは、まだまだARスタートアップとARに興味を持っている投資家の間にギャップがあると感じたためでした。そのギャップは国境を跨ぐと更に大きく、その為に敢えてこのピッチイベントを物理的に開催するのではなく、オンラインで実施しました。

振り返ると、その読みは恐らく正しかったのだと思います。結果的にグローバルから241社の応募を頂きました。この241社のプロフィールは、直近のAR市場の縮図として捉えることができます。現在、グローバルで見るとAR/MRが盛り上がっているのはどの地域なのか? どの様なビジネスモデル・業態が多いのか? スタートアップのステージは? 等々。以下、順に見ていきたいと思います。

地域別では北米が最多、それ以外ではヨーロッパやイスラエルが奮闘


 

筆者が業界の方からよく聞かれる質問の1つに、「AR/MRスタートアップはやはり北米が多いのでしょうか?」というものがあります。241社の所在地域の分布を見ると確かに一番多いのは北米(56%)で、次にヨーロッパ(26%)、アジア(14%)と言う順番になりました。一方で241社は5つの大陸に亘る35ヶ国、94都市に分散していることからも、AR市場の裾野は確実に広がっており、グローバルなトレンドであると言っても過言ではないと思います。

国別に見ると、アメリカ出身のスタートアップが50%とトップを占めます。アメリカの中で見るとカリフォルニア州が最も多く(全体の4割、サンフランシスコやロサンゼルスと言った大都市がある州)、次に多いのはニューヨーク州やマサチューセッツ州(ボストンがある州)と言った東海岸地域が全体の2割程度を占めます。

ARスタートアップがカリフォルニアに集中しているのは2つの理由があると思います。1つはアップル、グーグル、フェイスブック/オキュラスと言ったプラットフォームの多くがカリフォルニアに存在すること、もう1つは、弊社もそうですが、多くの投資家がカリフォルニアにいること、が大きいと思います。ただ、アメリカだけで見ると確かにカリフォルニアは多いですが、241社全体で見るとカリフォルニアにいるスタートアップは全体の約20%に過ぎないので、やはりグローバルに目を向ける必要があります。

アメリカ以外の国を見てみるとヨーロッパが奮闘しており、イギリスやフランス、ドイツといった経済規模の大きい国が並びました。イスラエルが上位に入ってくるのも納得で、これは技術に強い国ならではでしょう。AR業界では著名なカンファレンスであるAugmented World Expo(AWE)はアメリカやヨーロッパで開催されていますが、今年11月頭に初めてイスラエルで開催される理由も分かるというものです(筆者もスピーカーとして参加予定)。

アジアからは唯一、インドが入っています。本来であれば中国のARスタートアップもそれなりの数があるとは思われるのですが、今回、募集が英語(及び日本語)中心だったため、そもそも中国スタートアップにリーチができなかった可能性があると考えており、次回は改善していきたいと思います。

ファイナリストに選ばれた8社の出身国はこの全体の割合をほぼ反映した形で、半分がアメリカ、残りはロンドン、ウィーン(オーストリア)、アムステルダム(オランダ)、メルボルン(オーストラリア)と多岐に亘りました。残念ながらファイナリストには選ばれませんでしたが、最終選考まで残ったスタートアップも様々な国の出身で、韓国、アルゼンチン、イスラエル、カナダ等が含まれました。

ステージはプレシードが6割、ビジネスモデルはBtoBが半数を占める

次にステージやビジネスモデルを見ていきたいと思います。応募があった241社全体の6割が、まだプロダクトもほぼない状態であるプレシードステージ、4割弱がプロダクトはあるがまだ顧客がいない、もしくはマネタイズはこれからであるシードステージでした。売上が立ちつつあるステージであるシリーズAは全体の4%でした(ただし、Global AR Online Pitchでは、最初の資金調達が必要なアーリーステージのスタートアップにあえて対象を絞ったため少し偏った形になっています)。

ビジネスモデルを見ると約半分がBtoB(企業向け)、4割がBtoC(個人向け)、約10%がBtoBtoC(プロダクトは個人向けだがマネタイズは企業から)という分布になりました。ファイナリスト8社の内訳で見ると5社がBtoBでしたので、投資家は売上の予測を立てることができるBtoBを好むことが分かります。

プロダクトはアプリケーションが50%以上、ARKit/ARCoreの影響大か

最後にプロダクトのカテゴリーを深掘りしたいと思います。まずハードウェア、プラットフォーム/インフラ/ツール、アプリケーション(実際にユーザーが使うアプリ、ソフトウェア等)の大きな3つの分類で見るとハードウェアは10%、プラットフォーム/インフラ/ツールは34%、アプリケーションは51%と、アプリケーションが一番多いことが分かります。

これは2017年にアップルが発表したARKit、グーグルが発表したARCoreの影響が大きいと思われます。ARKit/ARCore前の世界はそもそもスマホ向けのARアプリを作る、という概念自体が存在しませんでした(厳密にはグーグルが時間を掛けて取り組んできたProject Tangoというものがありましたが、実験的な位置付けで本格展開からは程遠いものでした)。それがARKit/ARCoreの登場によって、デベロッパー向けに、潜在的に大きな市場に取り組む機会が生まれたのです。このアプリケーションレイヤーは今後、もっと増えていくものと考えられます。

プラットフォーム/インフラ/ツールに取り組むスタートアップが多いことも、業界が黎明期である点を現していると思います。ARKit/ARCoreはリリースされましたが、技術的に充分なユーザー体験を実現するにはまだまだです。弊社古森が昨年11月に執筆したこの記事で触れているARクラウドがその典型例です。ARクラウドは簡単に言えば、現実世界をマッピングしたデジタルコピーをクラウド上に保持することですが、これはARKit/ARCoreでは十分に実現できない一貫性、マルチプレーと言った機能をミドルウェアーとしてデベロッパー向けに提供します。プラットフォームが提供する機能と、アプリケーションレイヤーで実現したい機能のギャップを埋めようとしているとも言えます。この領域は一通り技術やツールが出尽くすと、その後はスタートアップの数は減っていく(淘汰されていく)と思われます。

アプリケーションの内訳を見ていくと、やはりエンタメ・ゲームが多く全体の16%、次にそれ以外のコンシューマー向け、及び企業向けがそれぞれ13%と続きます。業界で見ると、ヘルスケア系、教育系に取り組むスタートアップが多いようです。現在のスマホのアプリの多くがエンタメ・ゲーム系であることを考えると、ARのアプリケーションでも同じ分野が多いのは納得がいきます。ARKit/ARCoreの継続的な進化と、ARクラウドに代表される様々なミドルウェアの登場によって、今後アプリケーションレイヤーでのスタートアップはますます増えていくものと思われます。

ファイナリストから3社が調達に成功

Global AR Online Pitchの目的はARスタートアップに資金調達の機会を提供することでしたが、その目的が目に見える形で実現しました。ファイナリストの1社で、保険業界向けにAR測定サービスを提供するPLNAR社はイベントから3ヶ月後の8月に総額$3.9M(約4億円)のシリーズA資金調達を発表しました(詳細はこちらご参照)。その1ヶ月後の9月には、別のファイナリストであるARWall社(映画・テレビ業界向けにAR映像技術を提供)が$2M(約2億円)のシード資金調達を発表しています(記事はこちら)。更にもう一社が資金調達に成功していますが、未発表なので名前は控えたいと思います。Global AR Online Pitchが直接的、間接的に3社の資金調達に貢献できたので、弊社として主催をした甲斐がありました。

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GFR Fundは2016年4月の設立以来、VR/ARへの投資を専門としており、この2年半に亘って蓄積してきたノウハウや、市場トレンドへのインサイトを反映したグローバルAR/MR市場レポートの販売を開始しました。AR/MR領域での新規事業検討やプロダクトの開発などに伴うトレンドを知りたい方、提携できるスタートアップや投資先などを探している方などを対象としており、上記の241社も一部含む、これまでにファンドが会ってきたグローバルでの注目AR/MRスタートアップ225社のデータも含まれています。

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