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話題 2023.05.23

裸眼なのに、まるでVR ソニーの空間再現ディスプレイ「ELF-SR2」を体験

5月12日(金)、ソニーは空間再現ディスプレイELF-SR2を発表しました。裸眼で立体映像を見ることができるディスプレイ型デバイスで、既存モデルを大型化した27インチモデルとなっています。


(画像出典:ソニー)

同日には、本製品の体験会も開催されました。今回MoguLive編集部は「ELF-SR2」の体験会に参加。より大きくなった空間再現ディスプレイの実力と、開発に至った経緯や「使い道」などを探りました。

サイズは大きく、要求スペックはコンパクトに

体験会ではまず、「ELF-SR2」の製品概要が説明されました。

ソニーが開発している空間再現ディスプレイは、独自の高速ビジョンセンサーと視線認識技術によって、画面を見る人の瞳の位置情報を把握し、立体映像をリアルタイムに生成して左右の目に届けるディスプレイ型デバイスです。現在、15.6インチサイズの「ELF-SR1」が発売中です。

今回発表された「ELF-SR2」は、ビジネスでの用途を想定したデバイスです。主軸となるユースケースはインダストリアルデザイン、医療教育・ヘルスケア、建築・設計ですが、同時にエンターテイメント用途や、ショールーム・展示用途での活用も見込まれています。

初号機となる「ELF-SR1」と比較して、ディスプレイサイズは27インチ(419*622)に拡大。人間の視野角をほぼカバーし、なにより様々な物体の原寸大表示ができるサイズであり、3Dモデルを使った試作品レビューや、人体構造チェックにより適したデバイスになりました。解像度も向上し、4K映像に加え、2K映像の4K映像へのアップコンバートも可能となっており、そのほかにも様々な映像補正処理が追加されています。


(画像出典:ソニー)

第2世代高速ビジョンセンサー搭載により、視線認識やトラッキング性能も向上。マスクを装着したままでも作動します。そして、認識処理は接続PC側のソフトウェア処理から、ハードウェア処理に移行しており、CPUの負荷は激減。「ELF-SR1」の動作にはハイエンドPCが必要だったものが、ゲーミングノートPCでも動作するようになり、導入ハードルが劇的に改善したのが大きな特徴です。

このほか、アームスタンドによる設置にも対応したほか、ソニー公式製も含めた様々な業務用アプリケーションが使えるように。アプリ開発者だけでなく、営業や店舗運営、医療従事者など、様々な人が扱える、コンテンツプレビューツールへと発展を遂げています。

「えっ? これVR?」 デモ機・デモアプリ体験で思わずびっくり

ここからは、体験会でのデバイス・アプリケーション展示の紹介に移ります。

こちらが「ELF-SR2」の実機です。大型ディスプレイだけあって、視認性は十分。ディスプレイに映る3Dモデルは裸眼でもたしかに立体に見え、ディスプレイの大きさゆえか、あまり目に疲労感を感じにくい印象です。

旧型機種の「ELF-SR1」と並べてみると、その大きさの差は一目瞭然。正面に座って見てみれば、視界のかなりの割合を立体映像が占めるため、「箱の中に立体がある」というより「目の前に立体的なものが広がる」という体験が得られます。

サイドパネルはマグネット式でかんたんに取り外し可能です。サイドパネルがあると周辺の光景から遮断されるため没入感が高まります。一方、サイドパネルを取り外し、アームスタンドに設置すれば、「立体映像を表示できるサブモニター」のように使うこともできます。

サブモニターとしての利用例として、医療用のDICOMデータ表示アプリや3Dモデリングツール「Maya」との連携事例も展示されていました。2023年度中には「Maya」向けのプラグインが提供される予定で、「Maya」上で作業した結果を「ELF-SR2」でリアルタイムに確認する、といったフローが構築できるとのことです。

点群データを表示できるアプリのデモ展示もありました。点群スキャンした寺社の中をコントローラーで自由に移動できるコンテンツだったのですが、「眼前に広がる立体空間を自由に移動できる」体験を前に、「これってほぼVRなのでは?」と一瞬錯覚するほど。そのくらい、立体映像と侮れない没入感を実現しているということです。

やがては「一家に一台」に。担当者に空間再現ディスプレイの今後を聞く


(画像出典:ソニー)

空間再現ディスプレイは、「裸眼で立体映像が見える機器」というユニークで魅力的ですが、まだまだ私たちの生活にはなじみが薄いデバイスです。

ソニーの空間再現ディスプレイは、これまでどのように活用され、そして今後はどう活用されていくのか。「ELF-SR2」製品担当を務める、ソニー株式会社・インキュベーション メタバース事業開発部門の太田佳之さんに話をうかがいました。

――これまで、ソニーの空間再現ディスプレイはどのような領域で活用されてきたのでしょうか? とりわけ、エンタメ領域での活用事例があればご教示ください。

太田:
弊社の空間再現ディスプレイは、基本的にはBtoB領域での活用を想定しているデバイスで、主に医療と点群データ領域で実売を得ています。

一方で、一般の方を対象とした用途についても模索を続けている最中です。代表的な例だと「マジカルミライ」での初音ミクのインタラクション体験アプリですが、いわゆるエンタメ系イベントにもテストマーケティング的に出展し、一般の方への露出を行いつつ、アンケートで様々なご意見を集めています。

アメリカではNFT 3Dアートと「ELF-SR1」のセットを数個販売するという取り組みも行い、発売からほどなくして完売するという実績を得ています。

――3Dアートと空間再現ディスプレイのセット販売は、まるで絵画と額縁をセットで販売するような感覚ですね。

太田:
この事例のように、ゆくゆくは「各家庭に一台」くらいの普及を目指しています。そのためには「これはどんなデバイスか」を広く知ってもらう必要があると思い、様々なイベントに出典している次第です。いわば仕込みの時期ですね。

――「ELF」シリーズに対して、クリエイターからはどのような反応やフィードバックがありましたか?

太田:
大きなものでは「大画面にしてほしい」と「PCの負荷を軽減してほしい」がありましたね。「ELF-SR1」はある程度のスペックがないとちゃんと動かないデバイスだったので、「ELF-SR2」ではこの点をハードウェア処理に移行したことで解決を図りました。

――「ELF-SR1」の動作にはどの程度のスペックが必要だったのでしょう?

太田:
参考値ですが、CPU8コア以上、GPUはRTX2070以上、が最低ラインという感じでした。これが「ELF-SR2」ではゲーミングノートでも動作するようになりました。画質を妥協するのであれば、もう少し低めのスペックでもなんとか、といったところです。


(画像出典:ソニー)

――「ELF-SR2」はどのような活用が見込まれているのでしょうか? すでに決定している利活用事例などもあればご教示ください。

太田:
ミュージアムや展示会でのニーズがやはり大きいですね。具体的な利活用例ですと、静岡県浜松市にある大河ドラマ「どうする家康」の大河ドラマ館でのデジタルコンテンツ展示が挙げられますね。普段は別の場所に所蔵している浜松由来の美術品を、「ELF-SR2」を用いてデジタルで展示するという使い方をされるとのことです。

こうした美術品は、なかなか一般の方には公開されないことが多かったり、出土したものは風化を防ぐためにすぐに戻してしまうため見られないことが多いのですが、それをバーチャルで体験いただけるのがメリットです。

――貴重な美術品などをデジタルデータにすることで、「期間限定展示」を「常設展示」にできるのは大きな利点ですね。

太田:
意外と「美術品を立体スキャンした3Dデータは持っている」というところは多いんですよね。しかし、そのデータを見せるための機器やアプリがなく、発注するためのコストをかけられないところも多い。「ELF-SR2」は、ハードウェアとソフトウェアの両輪で、デジタルデータの活用をプッシュできればと考えています。そのために、ソニー公式のビューワーアプリも含めた、様々なアプリケーションを利用できるように準備した次第です。

――これまではアプリは自前で用意しなければいけなかったものが、「とりあえず買って使える」ものになったとなると、今後より多くの場所で見かける機会がありそうですね。

太田:
一般の方向けにコンテンツ展開を目指している企業に対して、「ELF-SR2」を提供する機会が増えていくことを期待しています。「またこれ見たよ」とイベント来場者の方に飽きられるくらいに使われてほしいところです(笑)。

――今後、空間再現ディスプレイはどのような商品戦略で展開されていくのでしょうか?

太田:
医療や点群データ方面はもちろん、先述したような展示用途やクリエイターの活用など、多方面でご利用いただけるように目指していきます。

VRクリエイターの方にも訴求したいところです。制作したコンテンツの確認をするとき、毎回ヘッドセットをかぶるのはなかなか大変だと思います。空間再現ディスプレイであれば、ヘッドセットをかぶらずとも、位置関係も表現された大画面で確認できるので、開発効率があがり、コンテンツ制作に大きく貢献できるのではないかと考えております。SDK(開発者向けキット)を用いれば、様々なVRコンテンツを10分程度のビルドだけで空間再現ディスプレイ対応可能です。

とはいえ、没入感そのものはVRが勝るところです。我々は空間再現ディスプレイとVRは排他的なものではなく、両立するものとして捉えています。クリエイターのよい選択肢として、今後さらなるご提案ができればと思います。


(画像出典:ソニー)

「ELF-SR2」公式サイトはこちら

(参考)プレスリリース


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