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活用事例 2023.08.14

バーチャル化する土木建設:AR締固め、VR教育研修、コンクリート3Dプリンタ

土木建設業界でのXR技術活用が進んでいます。数年前から作業工程のバーチャル化が試みられ、製品・サービス展開も進みました。本記事では、AR締固め、VR教育研修、コンクリート3Dプリンタなど、コンクリート打設工事に関する事例をまとめて紹介します。

コンクリート打設工事とは

一般的なコンクリート打設工事は、遠隔地の工場で作られた生コンクリート(生コン)を運搬して行われます。空気にふれたコンクリートは数時間で硬化することから、入念な施工計画や受け入れ準備・検査を行った上で、鉄筋などで組んだ型枠へコンクリートを流し込み(打ち込み)、振動機・圧送技術などで充填し(締固め)、表面を均す(仕上げ)工程を、短時間で行わなければなりません。

各工程はやり直しがきかず、現場の環境・状況にも左右されます。コンクリートのひび割れや水漏れ、早期劣化などを防ぐには、熟練者の判断や作業員の目視チェックが欠かせません。この作業は高齢化に伴う人手不足を背景に、暗黙知の継承と施工の省力化が求められており、早くからXR技術が注目されてきました。

2018年頃から省庁・大手企業が研究開発を進めてきたほか、2022年から今年にかけて、専門技術会社やハードウェアメーカーが現場に密着した製品・ソリューションを発表しています。

MR/ARツールで打込み・締固めの工程管理

振動機(バイブレータ)の位置特定

ユアサ商事と錢高組、インフォマティクスが3社共同で、「MRによる締固め管理システム」を開発しています。コンクリートに挿入した振動機(バイブレータ)の位置をリアルタイムで判定し、締固めの程度を数値化。作業者のMRヘッドセットと管理者のタブレットPCで閲覧できる仕組みです。2024年の実用化を目指して精度・速度向上を進めています。


(出所:ユアサ商事。MRヘッドマウントディスプレイを用いた作業イメージ)

実映像に作業経過をARで表示

イクシス(iXs)とオリエンタル白石は、2022年に「AR締固め管理システム」を実用化し、各社へ導入しています。作業図面をもとにARマーカーを設置して、「締固め」作業をどの位置に・どれだけの時間行ったかを実映像に重畳表示できます。イクシスによれば、直近の製品アップデートで複数機器の挙動を広範囲で記録・管理できるようになりました。


(出所:イクシス。計画図面に照らして施工状況を把握できる)

大手各社の共同研究も実用化へ

「締固め」工程は、高品質なコンクリート構造物を作るために重視されており、大手建設会社も共同研究とその実用化を進めています。清水建設(共同研究者:法政大学、東京都市大学、東急建設)は、5G通信と機械学習を組み合わせたデータ処理システムを開発したと発表しました。三井住友建設は、3Dモデリング技術を応用して、垂直方向の「打ち重ね」作業にも使えるシステムの「実用化に目途」がついたとしています。

検査・点検のVR教育研修

現場では「見えない」状況もVRで学ぶ

大林組と積木製作は、VRヘッドセットを装着した受講者が「鉄筋配筋の間違い(不具合)をゲーム感覚で探せる」教育研修システムを2022年から販売しています。3D空間内で正誤チェックに回答させることで、現実には立ち入りづらい場所の状況確認も行えるとしています。


(出所:積木製作。教育研修システム「VRiel」操作画面」

現地へ「行かなくても」専門技術を体験

国土交通省九州地方整備局は、2018年頃から3Dデータを活用した体験型コンテンツの制作を進めていました。同省中国地方整備局も2021年からVRヘッドセットを用いた研修・講習会を行っており、その利点を「現場の選定が不要で、移動時間を省略でき、天候にも左右されない」としています。


(出所:国土交通省中国地方整備局中国道路整備センター)

コンクリート×3Dプリンタで無人化

工程全体の省力・機械化

コンクリート打設の工程全体を省力・機械化する試みも登場しています。日揮ホールディングスは2022年に、コンクリート打込みに用いる基礎型枠を屋外設置した3Dプリンタで造成し、型枠施工を従来の半分ほどの日数で完了する目途が立ったと発表。現地調達できる一般的な部材を用いたオンサイトプリンティング(屋外印刷)の有効性評価を継続するとしています。


(出所:日揮ホールディングス。屋外設置3Dプリンタで基礎型枠を造成)

清水建設は2023年6月に、独自開発したコンクリート材とロボットアーム型3Dプリンタを用いて、複雑な形状の建築物をデザイン・造形できるようになったと発表しました。建築材料の指定認定を受けるなど、法制度にも対応したプリント施工の普及を進めています。


(出所:清水建設。アーチ状構造体のプリント状況)

(参考)錢高組イクシス清水建設(1)三井住友建設大林組国土交通省(1)国土交通省(2)エドガ日揮ホールディングス清水建設(2)


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