6月6日、Appleは空間コンピュータ「Vision Pro」を発表しました。価格は3,499ドル(約48万円)で、2024年前半にまず米国で発売予定。2024年後半には“さらに多くの国”で発売されます。
パススルー型のMR、デジタルクラウンで「現実度合い」を調整
「Vision Pro」は、ヘッドセット前面下部に搭載された複数のカメラにより、現実空間をキャプチャしてディスプレイに表示し、バーチャルな情報を重畳します。既存のデバイスでは「パススルーMR(Passthrough Mixed Reality)」と呼ばれる方式です。
(カメラで取り込んだ現実空間の映像の上に、2D/3DのUIを表示する)
このパススルー映像は、ヘッドセット右上に取り付けられたデジタルクラウン(つまみ)で“現実の風景の割合”を減少させることが可能。より没入的な体験との切り替えができる仕組みです。
(右上の「つまみ」で、パススルーのレベルを調整する)
コントローラーは「無し」。ハンドトラッキングや音声、視線で操作
「Vision Pro」はコントローラーを使用しません。音声入力や手の動き、そして視線で操作します。ヘッドセット内部にはアイトラッキング(視線追跡)用カメラ、外部にはハンドトラッキング用の各種カメラやセンサーが搭載されています。
ディスプレイ:詳細は未発表だが「4Kテレビ以上の解像度」
ディスプレイやレンズの詳細なスペックは発表されなかったものの、小型かつ高精細を実現できるマイクロOLEDを採用しており、「2つのディスプレイに2,300万ピクセルを詰め込んだ」ことが明らかにされています。
さらに、視力矯正用のインサートレンズを使うこともできます。このレンズはドイツの光学機器メーカー、カール・ツァイスと協力して制作されています。
何ができるのか:拡張ディスプレイやVR/MRデバイスとして利用可能
OSには「Vision Pro」専用のOSとして「visionOS」を搭載しています。Appleによれば、「macOS、iOS、およびiPadOSの基盤を引き継いだvisionOSは、デジタルコンテンツを現実の世界と融合させる世界初の空間オペレーティングシステム」とのこと。Apple Watch用の「watchOS」にも似た丸いアプリアイコンが並び、選択してアプリを起動します。
インタフェースとしては、「画面の拡張」といった形。ウィンドウが空間に展開したり、動画コンテンツを大画面で見たり、といったことが可能です。360度動画の視聴やVR体験等も可能です。
また、コンテンツ面ではディズニーとのコラボレーションも発表されています。発表では「Disney+」等や各種ディズニーIPのコンテンツを楽しむ様子が映し出されました。
ヘッドセットをつけていてもコミュニケーションしやすい「Eyesight」
「Vision Pro」には、ユーザーとフィジカルな環境で周囲にいる人を繋ぐための「EyeSight」と呼ばれる技術が採用されています。ユーザーの周囲に人が近づくと、ヘッドセットの前面であるガラス面にユーザーの目が表示され、まるで透過型のスノーゴーグルのように、目を見ながら話ができます。
これは従来のVRヘッドセットの懸念点であった「ユーザーの孤独感」や「周囲から見たときの不気味さ、違和感」などを緩和し、より家の中などで自然に使えるようにするためと考えられます。Appleの発表会で流れた複数の動画では、「Vision Pro」を装着したまま家族や同僚と話したり、子供とコミュニケーションをとる様子が何度も繰り返されていました。
(事前に顔をキャプチャすることで、FaceTimeやEyeSightで使える「ペルソナ」が出来上がる)
なお、この「EyeSight」は、ヘッドセットをつけている人の目が透けて見えるわけではありません。事前に「Vision Pro」のカメラを使い、ユーザーの顔をキャプチャ。この顔のデータを元に映像を生成し、レンチキュラーレンズと組み合わせて「透けているように見せる」仕組みです。
チップセットは2つ搭載、カメラで3D撮影も可能
「Vision Pro」には、「MacBook Air」等に搭載されているM2チップと、「Vision Pro」専用に開発されたR1チップの2つが搭載されています。「Vision Pro」には12基のカメラや5つのLiDAR含むセンサー、6つのマイクが埋め込まれており、これらをR1チップが処理・制御します。
また、「Vision Pro」の内側にも多くのセンサーが埋め込まれており、視線の動きを追跡する「アイトラッキング」も可能です。アイトラッキングは、パフォーマンス向上につながる「フォービエイテッド・レンダリング」や、「OpticID」と呼ばれる虹彩認証セキュリティシステム、「EyeSight」での表示などにも使用されています。
カメラは空間認識や「Vision Pro」で現実空間を見るために使われるだけでなく、3Dカメラとして、奥行きのある写真や動画を撮影する機能も兼ね備えています。なお、撮影中は、Eyesightに含まれたインジケーターにより他の人に撮影中であることを明示するとのこと。
空間オーディオなどハードウェアのその他機能
「Vision Pro」には、Macやipad、Airpods Proなどで導入が進んでいた「空間オーディオ」が採用されています。ヘッドバンドの左右にそれぞれ配置されたデュアルドライバーがユーザーを取り巻くような没入感のあるサウンドを展開。また、入力用マイクは6基搭載されています。
頭部固定用のヘッドバンドは複数サイズ用意され、交換可能。着脱も容易であり、ヘッドセットを「脱ぐ」必要はありません。さらに、顔へのフィット感に関しても、Appleは「Vision Proが様々なユーザーの顔に柔軟にフィットする」としています。
また、「Vision Pro」はバッテリーパックと接続して使用することも想定されています。付属のバッテリーパックと接続した場合の連続稼働時間は2時間、コンセント等から常時給電できる場合は一日中使用可能です。
プライバシーとセキュリティ:虹彩認証を搭載
AppleはこれまでもiPhoneなどでプライバシーとセキュリティを重視してきました。「Vision Pro」でもその傾向は受け継がれています。新たに搭載された「OpticID」システムにより、ユーザーの虹彩でデバイスのロックが解除されます。虹彩のデータはAppleのサーバーには保存されず、デバイスの中に暗号化されます。
また、アイトラッキングのデータを含むカメラやセンサーのデータは、開発者やAppleには送信されないとのこと。
開発者向けプラットフォーム:専用App Storeも
Vision Pro向けには新しい専用のApp Storeが用意されています。iPhoneやiPadのアプリに自動的に連携するとのこと。Appleの発表の中では、マイクロソフトのExcelやWordが空間インターフェースに対応していることが紹介されていました。
2Dのコンテンツの紹介が多かった「Vision Pro」ですが、開発ツールを使うことで、3Dコンテンツを作ることも、VRとARが融合したコンテンツを作ることも、2Dのウィンドウから3Dのオブジェクトが飛び出してくるような表現も可能になるとのこと。
開発者向けにはReality Composer Proなどの「Vision Pro」向けのツールが提供されるほか、ゲームエンジンとして広く使われているUnityとの連携が発表されています。
価格と販売国
Vision Proの価格は3,499ドル(約48万円)、2024年前半に米国で発売予定。2024年後半には“さらに多くの国”で発売される予定です。
(参考)Apple
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