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AR/スマートグラス 2024.05.14

半年使って考える サングラス型ディスプレイ「XREAL Air 2 Pro」の価値

サングラス型ディスプレイが増えてきた。

本サイトの読者の方々はよくご存知だと思うが、この2年間で「サングラス型ディスプレイ」が急速に存在感を増している。

その中でもトップシェアなのが「XREAL」だ。

3月に公開された、米国調査会社・IDCのXR関連ヘッドセットの出荷台数調査でも、同社がシェアを高めている様子が確認できた。


(紫色がXREAL、ただし詳細は後述するが、単純に「XR機器」に集計すべきかという点には疑問がある。)

同社製品の中でも一般向けかつハイエンドであるのが「XREAL Air 2 Pro」だ。


(XREAL Air 2 Pro本体)

筆者はサングラス型ディスプレイについて、主要な製品を全て所有しているが、中でも日常的に利用しているものの1つがこのXREAL Air 2 Proである。

Mogura VR編集部から「日常的に使っている人として、どんな評価なんですか?」という記事の依頼があったので、ちょっとまとめてみたい。

■「サングラス型ディスプレイ」とはなにか

筆者はこの種の製品を「サングラス型ディスプレイ」と表記している。広告では「ARグラス」と表記されることが多いだろう。

だが、この種のものが「ARグラス」と言えるかというと微妙なところはある。そのため、あえてそう呼称しているわけだ。この点こそが、現状の製品の特徴そのものである。

サングラス型の形状の中に、眉のあたりにあるマイクロOLEDを使ったディスプレイを配置し、プリズムで反射させて目に届ける。


(XREAL Air 2 Proのディスプレイ部。上の方にあるディスプレイを反射して目に届ける構造)

USB Type-Cのコネクタがあって、Display Port(Altモード)に対応、入力された映像を表示する仕組みだ。

バッテリーは搭載されておらず、アプリなどを単体で動かす機能もない。表示に関わる機能はすべて、接続した機器の側に依存することになる。

XREAL Air 2 Proの前身となっているのは、2022年春に発売された「XREAL Air」(発売当時はNreal Air)。Air 2 Proも、若干の追加機能があるものの、基本的な部分に変化はない。

5月末から出荷が始まる「XREAL Air 2 Ultra」は、機能面で大きな違いがある。位置把握用のイメージセンサーが搭載されているのだ。これによって、ハイエンドなスマホなどと組み合わせることで、いわゆる6DoFや物体のポジショントラッキング、ハンドトラッキングなどに対応する。

それに対し、XREAL Air・Air 2・Air 2 Proは3DoFのみで、物体のポジショントラッキングなどはできない。

筆者が「ARグラス」でなく「サングラス型ディスプレイ」と呼ぶのはそのためだ。「眼前に大きなディスプレイがあるように見せる」ことは可能なのだが、現実とCGを重ねて「現実を拡張する」わけではない。

両者は明確に機能も用途も異なるもので、同じ呼称で呼ぶべきではないだろう。だからXREAL Air 2 Proは「サングラス型ディスプレイ」であって「ARグラス」ではない。

■シンプルに「ディスプレイである」ことが価値

では、「サングラス型ディスプレイだと価値がないか?」というとそんなことはまったくない。

スマホやPCなど、Display Port USB-Altモードで映像出力ができる機器とつなぐだけで空中に大きなディスプレイが見える、というのはシンプルかつ快適だ。一般的なXR機器と比較した場合、低コストかつ画質もよく、手軽に使えるという意味では、この形態には大きな価値がある。

逆に言えば、最大の制約もここにある。

Display Port USB-Altモードに対応していない機器をつなぐには、変換機器などを併用する必要がある。ディスプレイとして相応の電力を消費するので、スマホに直結した場合、スマホのバッテリー消費が大きくなるという点も問題ではある。この辺はまた後から述べることとしよう。

XREAL Air 2 Proは片目1920×1080ドットのディスプレイを採用している。通常は左右の目に同じ映像を見せるため、単にスマホなどをつないだ場合には、「目の前に1920×1080ドットの映像が見える」と思えばいいだろう。

水平視野角は46度。だから、視野全体に映像が広がるのではなく「視野の中央に映像が見える」といった感覚に近い。

ここで重要なのは、スマホなどから映像をそのまま映し出した場合、「視野中央に大きなディスプレイがある」感覚に近くなる。広告では「目の前に330インチの画面」と表現されているが、これはかなり誇張気味だ。周囲が暗いと相対的な距離が分かりにくくなるので大きく見えるが、現実的なところでは「50cmほど前に30インチほどのディスプレイ」というところかと思う。サイズの感じ方はあくまで相対的な話であり、重要なのは「高画質なディスプレイが視野の中央に現れること」と考えよう。

ディスプレイの実解像度はそこまで高くないが、画素密度は高いし発色も良いので、見かけの画質はかなり良好。スマホにつなぎ、そこに表示した映画などを見るのはかなり快適だ。筆者も飛行機での移動の際などに使っている。

音質も悪くない。メガネのツルの部分にスピーカーが内蔵されていて、そこから迫力のある音が出る。こちらも満足度が高い。

ただ、その仕組み上周囲への音漏れは避けられないため、乗り物の中などではヘッドホンを併用するのが現実的ではある。

■Proは「背景の暗さ」をコントロールできる

前出のように、XREAL AirとXREAL Air 2 Proは、仕組み上大きな違いはない。

XREAL AirとAir 2は、ごくわずかな改良を含めた「生産時期によるマイナーチェンジモデル」というところで、買い換えるほどの差はない、といっていい。

では「Pro」はどこが違うのか?

ポイントは「背景の暗さをコントロールできる」点にある。

Proでは背景の透過度を0%・35%・100%と切り替えられる。


(右側にあるツルにあるボタン。手前の小さいボタンで透過度を変更し、奥の細長いボタンで映像自体の明るさを変える)

周囲が明るいところで映像に没入したい場合、透過度が高いと邪魔に感じる時がある。そういう場合には、透過度を少なくして周囲を暗くするわけだ。従来はプラスチックのシェードをつけて明るさを調整していたが、こちらの方が使い勝手はいい。

■他社製品とはどこが違うのか

XREAL Air 2 Proのようなサングラス型ディスプレイは複数存在する。

現実問題として、各製品の差は、現状さほど多くない。つないで映像を見るだけなら、画質や視野角の差はあれど、その差は小さいものでしかない。大きな違いは、Proが持っているような「調光機能」の有無、そして「視力調整」の考え方だろうか。

他社製品では近視に関する視度調整機能を持っているものもあるが、XREALは採用していない。画質の鮮明さが下がりやすいこと、本体が厚くなりやすいことなどを勘案し、調整用レンズを採用している。


(視力補正が必要な場合には専用レンズを入れる。筆者も度に合わせて作った専用レンズを使っている)

自分専用のレンズを作って調整するので、より視野ははっきりするが、レンズを作る分予算がかかる点は覚悟しておく必要がある。

サングラス型ディスプレイの選択は、実のところサングラス型ディスプレイそのものではなく、その周辺で決まる、といっていい。

主な用途は「映像を見ること」だが、接続方法やつなぐ機器、つなぐ機器で動かすソフトによって変化が生まれる。

特に現状、大きいのは「Mac/PC連動」だ。XREALはMacとWindows PC向けの「Nebula for Mac」「Nebula for Windows」を公開している。後者はまだベータ版という扱いだが、機能としては近い。


(Nebula for Macの画面)


(Nebula for Windowsの画面)

簡単に言えば、これらのソフトを使うことで、バーチャル空間上にマルチディスプレイやワイドディスプレイを再現するものだ。

何度も述べてきたように、XREAL Airは「目の前の視野46度に、1920×1080ドットのディスプレイを表示する」デバイスだ。そこに、Mac/PCの側で「バーチャル空間にマルチディスプレイを作り、自分の首の動きと連動して表示する」ことで、視界よりも大きなディスプレイを表示可能になる。


(Macで利用中の画面。仮想的にいくつのディスプレイを作るのか、それをどのくらいの距離に配置するかを設定できる)

Mac版はAppleシリコン搭載製品であればどれでも問題なく使えるが、Windows版は高性能なGPUが必須で、NVIDIAのGeForce RTX 3060以上が推奨とされている。

本来この種の機能は、屋外でマルチディスプレイが使えるようになるため、ノートPCなどを外で使う時に便利なものだ。そうすると、高性能なGPUが必要なWindows版はまだ実用性が低い、とも言える。

またその性質上、視野角46度という「中央の狭い窓」の中にだけ表示されるので、以下のイメージ図のように、「視野の中の一部」(水色の四角錐の底面)だけが見えるため、不自然に感じるのは否めない。


(どんな風に見えるかをイメージ図にしてみた。水色の四角錐が視界範囲のイメージで、板が仮想ディスプレイ。仮想ディスプレイを配置しても、実際に見えるのは四角錐とディスプレイが重なっている範囲のみ)

個人的には、単純なディスプレイとして表示した方が違和感は少なく使いやすいとも思っているので、現状はこの種の機能は「オマケ」的な意味合いが強いと感じる。

繰り返しとなるが、ディスプレイとしての品質は高く、そのこと自体がXREAL Air 2シリーズの最大の魅力なのだ。

まずは映画やゲーム用のディスプレイとして、次にPCのマルチディスプレイ……という風に考えるのがいいだろう。


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