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セミナー 2023.01.13

ベテランガジェットライターから見た「XR Kaigi 2022」オフラインは「人と技術と作品をつなぐ場」だった

2022年12月22から23日にかけて、東京都立産業貿易センター浜松町館にて「XR Kaigi 2022」オフラインが開催されました。会場全体の取材レポートを、執筆・編集歴33年のガジェットライターで、ゲーム・AI・VRなど多分野に詳しい武者良太氏に執筆していただきました。


(撮影:武者良太、以下同じ)

XR・メタバースに関わる人・技術・作品をつなげる場に

出展ブース数は合計で83。来場者は2日を通じて2,188人(公式発表)。機材を展示したブースは特に注目度が高く、体験コーナーの予約枠も早々に埋まるほどの人気に。

出展社・出展団体と来場者の交流パーティや、XRクリエイティブアワード、XR Kaigiアワードの授賞式も行われ、人とテクノロジー、人と作品だけではなく、「XR・メタバースに関わる人と人をつなげる場」としても機能していると感じました。

今回の会場は3フロアで構成。1つは出展ブースと体験ブースが集合した「XR Kaigi」フロア。出展ブースは最新のXR関連機材やサービスなど、開発者・クリエイターの興味を引くコーナーに。

体験ブースは、地方自治体、社団法人、学生を中心としたチームでインタラクティブ作品を企画制作するInterverse Virtual Reality Challenge(IVRC)のほか、XRクリエイティブアワード(主催:XRコンソーシアム)のファイナリストによる作品が集まりました。

2つめは、B2B向け展示会といえる「Meet XR」フロア。出展ブースはXR業界に興味を持つ企業や投資家向けで、プラットフォーム、アバター生成、3Dデータ活用事例やエンターテイメント事例など。

3つめのジョブコーナー&ラウンジフロアでは、XR業界のリクルーティングが行われていました。

ここからは、興味深い展示を行っていたブースをご紹介しましょう。

自己表現としてのVTuber活動をサポート(ソニー/mocopi)

XR Kaigiフロアのソニー株式会社のブースでは、2023年1月20日より発売予定のモバイルモーションキャプチャー「mocopi」の展示が行われていました。

自分の動きを記録できるモーションキャプチャーは古くから存在してきた技術でしたが、専用のスーツを着て、多数のカメラに囲まれた空間でしか利用できませんでした。

しかし「mocopi」はコインサイズのトラッカーを頭部、両手首、腰、両足首に装着して使えるもの。モーションデータを記録するスマートフォンとはBluetoothで通信するため、着替えずにどんな場所でも使えます。

対応スマートフォン(*1)は別途必要となりますが、お手軽に、全身を動かすVTuberになれる機器です。自分の顔はネット上で公開したくないけど「TikTok」などに動画をアップロードしたい、という需要も生まれるかもしれません。また、VRChatでのフルトラッキングセンサーとして使える機能も高い注目を集めています。

*1:現状は(Android)Xperiaシリーズと(iOS)iPhoneシリーズに対応。詳しくは公式サイトを参照のこと。

「計測」をエンタメに落とし込む(デザイニウム/めじゃにまる(Measuranimal))

様々なARコンテンツを開発している株式会社デザイニウムは、動物や食べものを「単位」に見立てて距離や体積を測れるAR計測アプリ「めじゃにまる(Measuranimal)」を展示していました。

机の長さは「猫」で何匹ぶんか。鍋の中には「鮨」が何貫入るのか。3Dモデルを使うことで「測る」という行為をエンターテインメントにするアプローチは、子供とのコミュニケーションが活発化するものでしょう。また、人間を3Dスキャンしてリアルな3Dモデルを生成し、そのモデルを用いた計測も可能です。なお、3Dモデル生成にはin3D(イスラエル)の技術が使われています。

対応スマートフォンはiPhone 12以降。現在TestFlight(*2)でパブリックテストを実施中です。

*2:iOS開発者向けのβ版アプリ配布用アプリ

音の反響CGで暗闇でも部屋の様子が見えてくる(岐阜大学工学部/Mecholocation)

Interverse Virtual Reality Challenge (IVRC)出展作品の1つ、岐阜大学工学部が展示していた「Mecholocation(メコロケーション)」を体験しました。音の反響を頼りに、周囲にある物や壁、床の位置や形を認識できるシステムで、コウモリやイルカなどが持つエコロケーションの擬似体験ができます。

展示デモを体験したところ、最初はパススルー表示の実空間が見えましたが、その後にブラックアウト。暗闇の中で手を叩くと、音の粒が広がり、周囲の壁や床などで跳ね返る様子から周囲の形状がわかります。

制作にはiPhoneとPC、「Meta Quest 2」を使用。iPhoneのLiDARセンサーで3Dスキャンした空間データをUnity経由で「Meta Quest 2」に転送し、「Meta Quest 2」のマイクで捉えた音を可視化。自分の手の位置もわかるようになります。「Meta Quest 2」のハンドトラッキング技術を使っています。

会場内のデモでは椅子に座って音の広がりと空間の形状を見るものでしたが、広い空間を使った「暗闇の中での迷路アトラクションにも活用できる」そうです。

メタバースで自分の居場所を見つけてもらう取り組み(ゆずタウン/不登校学生居場所支援プログラム)

一般社団法人京都知恵産業創造の森・京都XRソリューションのブースでは、一般社団法人ゆずタウンが実施した「不登校学生居場所支援プログラム」の実績展示がなされていました。

2022年9月26日から10月8日にゆずタウンは、広島市内在住の不登校学生を対象としたプログラムを実施。VRChatのワールド散策、ワールドクリエイターやVR内で小説を書く執筆者との出会いなどを通じて、社会には様々なコミュニティがあると学生たちに知ってもらい、「学校の外にも自分の居場所があるかもしれない」と、体感的に興味の幅を広げてもらうための体験活動となっていました。

高画質・高性能を追及したVRヘッドセット(シフトール/パナソニック/MeganeX)

シフトール/パナソニックブースで展示されていたのは、2020年のCESで試作機が公開されたメガネ型VRグラス「MeganeX(メガーヌエックス)」。解像度5120×2560ピクセル(両眼)、10bit HDR表示が可能な1.3インチMicro有機ELパネルに3枚構成のパンケーキレンズ(うち2枚はガラス製)を用いています。

映像面では同クオリティの「MeganeX Business Edition」の実機を体験したところ、視力が0.1以下の筆者でも、視度調整機能を使って明瞭でシャープな視界を得ることができました。発色と解像感に優れていて、有機EL平面ディスプレイを見るときと同じ感覚で仮想空間内を見渡せることに驚きました。

ただし、バッテリーレス・有線接続のライトウェイトモデルではあるものの、ややフロントヘビーな面があり、左右のテンプルの末端を後頭部でベルト止めしなくてはならない仕様がやや残念でした。

2月頃に予約開始、6月頃に販売開始予定のワイヤレスモーショントラッカー「HaritoraX ワイヤレス」の展示も行われていました。各センサーを有線接続しなければならなかった従来の「HaritoraX」と比較すると、装着が簡単であり、日常的に全身を仮想空間内に持ち込むことができるデバイスといえます。

計6つのワイヤレスセンサーを胸、腰、両膝、両足首に装着することになるため、充電の手間がかかる側面もありますが、固定用ベルトをつけたまま充電できる充電ケースも提供予定とのことです。

VRヘッドセットがなくとも仮想空間にログイン(XR Future Pitch 2022/mirrorX)

「XR Future Pitch 2022」ブースで体験できたのは、テレビの前に置いたスマートフォンのカメラでモーションキャプチャーを行い、仮想空間にログインできる「mirrorX」(開発・提供:mirrorX株式会社)。VRヘッドセットや高機能なPCを必要としないのが特徴で、自分が上体をひねるとアバターが周囲を見渡し、腿上げ運動をすると仮想空間内を自由に動けます。

VRヘッドセットを用いるソーシャルVRは一人称視点ですが、「mirrorX」はコンソールゲームのような三人称視点です。そのためスマートフォンのカメラが捉えた自分の動きをつぶさに見ることが可能で、フィットネス目的の利用でも価値があると感じました。

指先から伝わる触感を仮想空間に(ミライセンス/3DHaptics)

株式会社ミライセンスのブースでは触感フィードバック型デバイス「3DHaptics」が体験できました。灰色のユニットから伝わる刺激が脳を錯覚させ、触る・押す・引っ張るといった触覚を得られます。

チュートリアルでは、デモンストレーターが操作するスマートフォンアプリの操作によって振動が変わり、「デバイスを持つ指が前後左右に引っ張られる」という受動的な感覚を覚え、自然と身体ごと動きそうになることに驚きました。

VRヘッドセットを装着してからのデモで、仮想空間内のオブジェクトに自分から触れると、能動的な触感が伝わってきました。面白いことに、バーチャル空間なのに素材ごとの手触りの違いがわかるほどの解像度がありました。

最近ではVRヘッドセットの高解像化が進み、映像のリアリティが高まったからこそ、触覚のなさが物足りないと感じることもありました。「3DHaptics」のように複雑な刺激を皮膚に伝えるアクチュエータがコントローラーに実装されることで、仮想空間により没入できると感じさせてくれました。

ソーシャルVRの活用に悩む企業の駆け込み寺(Gugenka)

株式会社GugenkaのブースではソーシャルVRを活用したプロモーションやイベントの相談を受け付けていました。多くの実績がある企業だけに、ブースに立ち寄る来場者が後を絶たず、活発な交流が行われていました。

サンリオバーチャルフェスティバル」は、「サンリオ・ピューロランド」をモチーフとしたワールドに複数のステージを用意して音楽フェスを実現したもの。「コードギアス反逆のルルーシュ x FLOW バーチャルライブ」は、アニメ作品とその主題歌を担当したロックバンドの演奏を組み合わせて、ストーリー仕立ての音楽コンサートを作り上げていました。

(執筆:武者良太、編集:笠井康平)


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