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VRChat 2022.08.19

VRChat最深部の謎「Dahlia」とは何なのか? 新たな展開を見せる世界の秘密に迫る

こんにちは、VRChatワールド探索部のタカオミです。

バーチャルの世界に存在する、たくさんの”DEEP”なカルチャーやスポットを紹介する企画「バーチャルDEEP散歩」。今回はその中でも特に異様な、VRChatにおける最大級の謎と言っても過言ではない作品群「Dahliaシリーズ」についてご紹介します。

「Delta home」

突然ですが、VRChatのワールド内でこのようなマークを見かけたことがありますでしょうか?

装飾として置かれているものもあれば、なんらかのギミックを作動させないと現れないものもありますが、実はこのマーク、以前はいろいろなワールドに設置されていました。

しかしこのマークがなんのマークなのか? ということを知る人はいません。

わかっていることは「Dahlia」と呼ばれる”何か”に関係している、ということだけです。デザインにはいくつかのパターンがあるようですが、このマークを掲げているワールドはすべてDahliaに関係したもの、あるいは、Dahliaに魅せられた人々が二次創作的につくりあげたものです。

VRChatにはかつて、「Dahlia Bar (ダリア) 」、「Hidden Dahlia」、「Jacket+ ⋔⟒⋔⍜⍀⟟⏃⌰」など、数多くのDahliaワールドが存在していました。その数は50以上とも言われています。どれもクオリティが高く、恐怖や不安を感じさせる作品が多いのが特徴です。

そして、それらはなんのために制作されたのか、Dahliaとはなんなのか、そういったことはすべて謎に包まれています。数名いるとされる作者たちですが、VRChatにその姿を見せることはほとんどなく、Twitterを調べてもアカウントは見つかりません。

一体だれがなんのためにつくっているのか?

そのミステリアスさ、不気味さから、一部の人々から熱狂的に愛されているDahliaシリーズ。今回はそんなDahliaの魅力や、秘められた謎の真相を知るため、noteTwitterで考察を発信しており、Dahlia関係者のひとりと接触した経験もあるという「Quieter」さんにお話を伺いました。

探究者が語る「Dahlia」の謎と魅力

――今日はよろしくお願いします。まずは、QuieterさんがDahliaと出会ったきっかけを教えてもらえますか?

cat tail」というワールドがきっかけです。

その日の私はVRChat内に数多くあるBARの近況を調査していました。その中で、「cat tail」に偶然立ち寄ったのです。

全体的な内装やデザイン、Barのつくり、飲料の表現をチェックしていると、視界の端に気になるものをその時見つけました。「関係者以外立ち入り禁止」のステッカーがドアに貼ってあったんです。

「cat tail」

このような表現は珍しいものではなく、それまでも他のワールドでさんざん見てきたので、プライベートエリアの類だろうと思って興味はすぐ失せたのですが、「とりあえずワールドにある全ての扉は開ける。ボタンは押す。オブジェクトは持ち上げる」といった平生から染み着いた動きの一連で、その立ち入り禁止のドアにも触れてしまったんですね。当然ロックがしてあるだろうと思ったのですが、それがそんなこともなく、すんなり開いてしまったのです。

その後の顛末はnoteにも書きましたが、扉の先にある室内はバックヤードのような場所で、大きな搬入用扉がありました。事務机にはいくつかの小物と、銃、血の跡がついた肉切り包丁、そしてテープレコーダーが置いてあります。そのテープレコーダーに触れると、視界は乱れ、色を失い、搬入用扉にマークが現れ……、そして背後では、何かが詰まった死体袋が宙づりになっていました。

「cat tail」

異様な光景に気圧され、店内に戻ろうとしたのですが、入ってきた扉が開かなくなっているのです。「これはまずい」と思いました。搬入用扉の横には謎のシンボルが並べられたキーパッドのようなものもありましたが、暗号の謎を解くことも叶わず、その日はそのまま立ち去りました。

――おしゃれなバーかと思ったら、宙吊りの死体袋に出会う……。なかなか強烈な体験です。

この時に、「日常から、非日常への剥離」というかなり刺激的な感覚を覚えまして、これは誰かにも体験してもらおうと、よくご一緒させていただいていたVRCにおける先輩である「しきせ」さんにお見せしたんです。すると「他のワールドでも、これと同じマークを見たことがある」とお誘いをうけて、おそらく私がその後にDahlia1.0で最も高い評価をする事になるDahliaワールド「LIFE ON MARS?」に降り立つこととなったのです。

「LIFE ON MARS?」

そこは名前の通り火星をイメージした光景が広がっていて、荒涼とした赤い大地にいくつかの人工モジュラーが設置してあるだけというシンプルなものでした。環境やオブジェクト、いま考えればライティングやサウンドのディティールがすごく丁寧で、シンプルながらも「品質が高い」と感じさせられました。

結局、同じマークは何処にあったのかというと、スポーン位置からかなり遠く、通常の探索では諦めて引き返してしまうような場所にありました。それは何もない赤い大地にあるからこそ、その巨大感を増した、極大のキューブでした。その中腹にこれまた巨大なマークが描かれています。

「LIFE ON MARS?」

その異様な光景もさることながら、その巨大感がいよいよ迫ってくるという時に、それまでのアンビエントな曲は影を潜め、ノイズの様な、壁一枚隔てた部屋で言葉の通じない誰かが嗚咽しているような、そんな音があたりを包み始めました。

その時の体験をよく憶えています。「不穏」という表現が最も最適でしょう。日常が浸食され、剥がれ落ちていく感覚。結局キューブにたどり着いてからはそこにPC向けのポータルが一つあっただけで、当時Quest単機の私たちは、その先へは進めませんでした。

――なるほど。そこからDahlia考察の旅が始まっていったのですか?

そうですね。Dahliaの世界はどれくらいあるのだろう? いったい何人の関係者がいるのだろう? といった、蒐集(しゅうしゅう)的な楽しさから考察を始めました。

その後、Dahlia一連のワールド群が、ダークサイドをモチーフにした壮大なriddle(謎かけ)構造であると気付き始めた時に、私はそこに美しさを見つけてしまったんです。

国内外のネット内から得られるDahliaに関する情報を掘り起こし、ワールドモチーフを探り、ワールド内にある文章や曲の意味と出典を探し、関係者を洗い出し、各ワールドの共通点を探し、共通に使用している象徴、作成者の癖、そういったことを抽出する日々でした。

その内、同じように興味をもって調べてくださる方など出てきて、特に「あのまろかりす」さん等とは、未だ解明に至っていないDahliaの真相に迫ろうと情報の共有や、事実の確認、予想などを楽しく行って、この頃は大いに調査も捗り、お陰さまで勇気をたくさんもらいました。

また、これは大きな出会いだったのですが、私が興味を持つ遥か前からDahliaに対して関心を持って調査をしている方々などのご意見も聞ける機会や、特に「cloma」さんとの出会いでは、作成された独自の調査リストが非常に有効で、その後のDahlia探索に大きな助けとなりました。こういった視野を同じ方に向けてくださる方々との関わりが、私の考察を更に推し進めていったことは間違いありません。

――Dahliaという謎を通じて、志を共にする仲間とも出会えたわけですね。Dahliaシリーズのワールドについて、いくつか紹介していただけますか?

はい。まずは「Dahlia Bar (ダリア) 」。こちらはクラブイベント等でもよく使用されていたワールドですので、ご存知の方も多いかもしれませんね。実はこのワールドには2つの暗号ロックが存在し、Dahliaの探究者たちはこの謎に必ず挑むことになります。

ですが、ロックはこのワールドの情報だけでは解くことができず、他のDahliaワールドでヒントを得る必要がありました。ロックを解いた先には、Dahliaワールドの集大成のような部屋が存在しています。

「Dahlia Bar (ダリア)」
【VRC depth】 深淵を覗き見る覚悟を求む【Dahlia Enigma】Quieter/くわいえった@VR より引用

「Lost Signal」というワールドは一番インパクトがありました。中央のハートに触れて環境を悪化させると、黒いボードに新たなパターンが出現して、その一見、点と線のみの模様に見えるものをモールス信号として解析するとアルファベットが並び、この世界のテーマが「地獄」なのだとわかる、という内容になっています。

「Lost Signal」

そして次に「Hidden Dahlia」ですが、ここは「神殿」的な位置にあるワールドだと認識しています。神秘的な雰囲気を持つ巨大建築物。ここには、行き方を知らなければ絶対に辿り着けない、わずか1ドットの扉を開いた先に「玉座の間」が存在します。これは、Dahliaに深く関わる集団「flowers」の座であると考えられます。

「Hidden Dahlia」

それ以外にも様々なワールドがありますが、例えば「The Platform (El Hoyo)」、「Woo-jin’s Penthouse」、「Brutalist Office」などはそれぞれ「貧困、階級、飽食」、「復讐」、「除外、冥界」といったテーマが存在しています。これらのことから、Dahliaワールドは人間の持つ正負の「負の側面」をテーマとして制作されていることがわかります。

――Hidden Dahliaには行ったことがありますが、そんな扉があるとは知りませんでした。あのワールドには、VRChatを強制的にシャットダウンさせるメモリークラッシュのギミックもありますよね。

そうですね。そういったシステムはおそらく危険性の演出で、「現実のPCに負荷をかける」ことでVRやフィクションの壁を超えようとしていたのではないかと思います。

――演出のためにそこまでするというのがすごいですね……。Dahliaワールドは50個以上あったとも言われていますが、それらのワールドを制作しているのはいったい誰だったのでしょうか?

先ほども言及した「flowers」と名乗る17名が関わっていることがわかっています。中でも「JACKET+」「Hydrangea+」「ZION_」「@Nectar」の4名が、ワールド製作者の任についていました。

しかし……、2022年の2月に、これらのDahliaに関するワールドほぼすべてが消去され、誰もアクセスできない状態になりました。

それと同時に「Farewell」というワールドが公開され、それまでのDahlia世界の終わりと、Dahlia公式の管理者が先述の4名であることを宣言し、それ以外(消失を免れたもの)は公式なDahliaワールドではないという宣言がされています。

なにも解き明かされないまま、突如としてその存在が消え去ってしまったのです。

「Farewell」

――Dahliaワールドの消失は当時界隈でも話題になっていたので知っていましたが、一気に数十ものワールドが非公開になっていたとは、衝撃です。Dahliaを愛していたQuiteterさんの心情としてはどういったものだったのでしょうか?

夢中で追いかけていたものですから、それはとても喪失感がありました。しかし、ある意味、物語の観測者としては嬉しくもあったのです。

それまでのDahliaの姿は、私がVRChat内で興味を持つ時点で既に完成していて、大げさに言えば、過去の遺跡を辿る考古学者的な視点でDahliaを見ていることもあったのですが、全体の消失という大きなストリームがまさに目の前で起きたことによって、物語が正に傍らで息をしている感覚を得て、それが喜びに変わったのだと思います。

その後は、「何故消失したのか、消失しなければならなかったのか、本当に消失してしまったのか」の新たな検証を始めながら、完全に戻ってこないという事ならば、私が一からDahliaのコア要素を引用した世界を構築しようかとも考えていました。そんな最中、2022年6月に「Another Version of the Truth」というワールドが静かに現れました。

「Another Version of the Truth」

Black Dahlia 2.0」として公開されたこのワールドには、「Farewell」で言及されていた「Dahlia世界の終わり」が首謀者のひとりである「Hydran」による嘘であったこと、そして「Hydran」が新たに始まったこの「Black Dahlia 2.0」を破壊しようとしていること、その前に彼を止めなければならないこと、が書かれています。

――Dahliaはこれまでその内容を明かすことがほとんどなかったわけですが、Black Dahlia 2.0では明確にストーリーを語っていますね。

Dahlia 2.0は、たった今はじまったLiveのコンテンツなのです。謎は明かされつつあり、そして新たな謎も生まれている、まさに渦中である状態です。Dahliaを観測し、その波に乗るのは、いまが最も良いチャンスかもしれません。

ここからは私の考察ですが、このDahlia2.0の登場により、Dahlia 1.0のワールドが消失したことが、物語上の要素として活きてくる可能性が出てきました。今まで見てきた世界(1.0)はDahliaの偽造した表世界で、この2.0では、偽造することが出来なくなったむき身の裏世界が展開されるのでは? という風に感じています。VRChatユーザーの皆さんにとっては、「ヨツミフレームさんのアレ」と例えるとわかりやすいかもしれませんね。

とにかく、現在の状況は、1.0からDahliaを追っている私のような人には、この上なく楽しく、次のアクションが何なのか、まさに今日、この瞬間も探しに行こうとウズウズしているような状況です。ただ、もしかすると新規のユーザーさんは、入り込みづらいと感じるかもしれません。

しかし、この物語には……、ここで初めてお話ししますが、「3.0」というと表現が大きすぎるかもしれませんが、2.0のその先の物語が用意されています。そこにたどり着くためにも、実は私も、いま現在もがいている最中なのです。本当はこっそり楽しむために秘密にしておきたかったのですが、こうして多くの方にDahliaに興味を持っていただき、それがさらなるDahlia世界を豊潤にするものと信じて、お話しします。

Dahliaは和名を「天竺牡丹」といいます。Black Dahliaなら「黒天竺牡丹」です。そして現在「放射冠(Corona Radiata)」という新たな用語がDahlia2.0で観測されています。このキーワードが何を意味するのか、またそこに展開される世界で、何が現れ、解明されていくのか、私自身もワクワクしながら解析と予想を積み上げている状況です。

――お話を聞いていて、今後Dahliaがどういう展開をするのか、その行く末を私もすごく見てみたくなりました。

そう言っていただけてよかったです。最後に、これまでのお話を「しきせ.Cloma.あのまろかりす.Tae Hyun.Veskas.Hayase Asakura.qchan949.rocksuch.Atori.(敬称略)」他、すべてのDahlia探索における協力者、また共にDahliaを追い求めた方々へ、何より未だに未知と思慮の場を創り続けるDahliaそのものに、感謝と敬意とを捧げます。

――今日はありがとうございました。

開かれた新たな扉、未だ明かされていない謎を追う

Dahlia考察者によるワールド「The Investigation」

このインタビューを行った翌日。VRChatに新たなワールド「The Four of Us are Dying」が公開されました。そこではさらにDahliaの真相へ近づくことができる情報と、新たな展開を示唆する内容が提示されています。果たして、Black Dahlia 2.0が破壊される前に、「Hydran」を止めることはできるのでしょうか?

リアルタイムでストーリーが進行しているコンテンツだけに、この先の展開は全く読めませんが、Quieterさんの言う通り、「この波に乗るなら今がチャンス」であることは間違いなさそうです。

「The Four of Us are Dying」

現状、公式に確認できるワールドは2つのみですが、「Farewell」に書かれていることが嘘だとするならば、「JACKET+」「Hydrangea+」「ZION_」「@Nectar」の4名以外が制作した、Black Dahlia 2.0のワールドも存在するのかもしれません。もしかすると、既にどこかのワールドに重大なヒントが隠されているのかも。

少なくとも2020年初頭にはその存在が確認されていたというDahliaワールド。今後の展開が本当に楽しみです。この記事を読んだあなたにもぜひ、このDahliaの謎を観測してほしいと思います。腕に覚えのある方は、謎解きを試みるのも良いかもしれませんね。Quieterさんは既に何らかの情報を掴んでいるようですが……。もし何かわかったことがあったら、ぜひ教えてくださいね。

以上、VRChatワールド探索部がお届けする「バーチャルDEEP散歩」でした。
またどこか、バーチャルのDEEPな世界でお会いしましょう。

「cat tail」(Quest対応)

「Farewell」

「Another Version of the Truth」

「The Four of Us are Dying」
(PC接続型VRヘッドセット、および高スペックPCが必要です)

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そちらもぜひチェックしてみてくださいね。

取材、文章:タカオミ
写真:Quiteterさんより提供、一部タカオミ撮影


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