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VRChat 2022.07.28

VRChatのセキュリティアップデートに、一部ユーザーが猛反発 原因はなにか?

7月27日(水)、ソーシャルVR「VRChat」は最新アップデート「2022.2.2」を配信しました。アップデート内容にはセキュリティ強化の一環として、マルチプレイヤーゲーム向けのチート対策ツール「Easy Anti Cheat(以下、EAC)」の導入が含まれています。

しかし、EACの導入に対し、一定数のVRChatユーザーが反発。Steamページへの低評価投稿や、別のソーシャルVRへの移動といった行動を起こしています。なぜ、このような状況となっているのでしょうか? 大きな反発が確認されたMODユーザーの動向を中心に、これまでの流れを整理してみます。

VRChatの「MOD」とはなにか

EACの導入で、特に大きな影響を受けるのは「MOD」です。「MOD」とは、PCゲームに改造・変更を加え、機能やコンテンツを拡張するプログラムやファイルの総称を指します。とりわけ海外のPCゲームでは有志が作成することが多く、「Mincraft」や「The Elder Scrollsシリーズ」、「グランド・セフト・オートシリーズ」など、MOD文化が盛んなゲームタイトルも存在します。

「VRChat」におけるMODは、「改造クライアント」とも呼称される、「VRChat」のシステムなどに変更を加えるアプリケーションを指します。種類は様々ですが、いつでもミラー(ユーザーを映す鏡)を呼び出せる機能やテレポート機能など、「VRChat」をより快適にするユーティリティ的なものも存在する一方、他のユーザーをクラッシュさせたり、アバターのデータを抜き出して自分のものにする(いわゆる「アバターの盗難・リッピング」)といった悪質なものも存在します。

EACの導入によって、MODの起動が検知された場合には「VRChat」の起動が抑止され、「VRChat」起動時にMODを起動した際には強制的に「VRChat」がシャットダウンされるようになります。つまり、MODの使用が完全に禁止されることになります。

MODコミュニティの反発とボイコット運動

7月25日(月)に発表されたEACの導入予告に対し、大きく反発したのが海外の「VRChat」向けMODコミュニティ「VRChat Modding Group」です。

日本時間 7月26日(火)AM4時ごろ、同コミュニティのDiscordサーバー管理者は、EACの導入では悪意のあるMODは防ぎ切れず、逆にEACをかいくぐる形で悪質化し、「健全なMOD」が終わりを迎えると発言。EAC導入を「貪欲な企業による反コミュニティ対策」と批判し、Discordサーバーの参加者に、以下のようなボイコットを呼びかけました。

・有料プラン「VRChat Plus」の解約。
・少なくとも一週間「VRChat」へログインせず、プレイヤー数を減少させる。かわりに「NeosVR」や「ChilloutVR」を利用したり、別のゲームなどで遊ぶ。
・EACの導入に反対するCanny(要望・不具合報告)への賛成投票を行う。


Steamページのレビュー評価推移。2022年7月27日18時時点)

こうした呼びかけの影響か、「VRChat」のSteamページでは「不評」レビューが急増。7月25日(月)には2,811件、7月25日(火)には6,709件の「不評」レビューが投稿され、「最近のレビュー」が急落する事態となっています。また、「移住先」として提示された「NeosVR」や「ChilloutVR」の同時接続数の急増も確認されています。

しかし、7月27日(水)のアップデートによってEACは正式に導入。「VRChat Modding Group」のDiscordサーバーでは、引き続き「NeosVR」や「ChilloutVR」へ乗り換えるよう勧めつつ、「今後どうするか検討する」と声明を発表しています。

MOD利用者はなぜ反発したのか?

そもそもなぜ、「VRChat」にEACが導入されたのでしょうか? 導入が告知された公式ブログ記事では、悪質なMODへの対策に加えて、クリエイターやサポートチームへの負担が、導入の主な理由として提示されています。

MODクライアントは、ユーザーに通知することなく悪意のあるアクションを実行します。たとえば、嫌がらせをする人やストーカーにユーザーの位置を報告したり、アバターをリッピングして保存したり、自動化されたアクションを介してユーザーに大量の嫌がらせをしたり、分散型の「ゾンビ」ボットネットのノードとして機能したりします。私たちは、このような事態を何度も直接目撃しており、警戒しています。

さらに、すべてのMODクライアントは、悪意のないクライアントであっても、クリエイターにとって負担になります。私たちは、ユーザーに発生した問題をデバッグするのに何時間も(あるいは何日も)費やした挙句、その原因がMODクライアントにあることに気づいた多くの人々と定期的に話をしています。このようなフラストレーションは、最終的にVRChatクリエイターに萎縮効果をもたらし、彼らの熱意を傷つけ、素晴らしいものを作ることを妨げます。

この問題はVRChatのサポートにも及びます。アップデートの度に大量のバグレポートが寄せられますが、結局はMODが原因となっています。開発者の時間を奪うだけでなく、このサポートの負担は、これらの改造をインストールすることで何になるのか分からなかった、技術に疎いユーザーをも苛立たせています。

公式ブログより引用。筆者訳)

しかし、「健全なMOD」とされるものの多くは、ユーザーが「VRChat」を快適にプレイするために導入されているものと思われます。つまり、MODユーザー側からの視点では、EACの導入は「快適なVRChatの利用」を妨げるものとなり得ます。

また、MODの中には、聴覚に障害を持つ人へのサポート(ユーザーごとの細かな音調調整、字幕表示、音声からテキストへのリアルタイム変換など)を提供するものも存在し、EACの導入はハンディキャップを持つユーザーのアクセシビリティを損なうという指摘も存在します(当該のCannyはこちら)。

MOD機能の多くは「VRChat」には公式機能としては現状存在しません。日常的に必要な機能として導入していると捉えれば、EAC導入への反発は自然な感情と解釈できます。とりわけ、ハンディキャップを持つ人にとっては、「VRChat」がプレイできるかどうかの生命線に関わることでしょう。

しかし、「VRChat」のコミュニティガイドラインには「VRChatクライアントまたはSDKのいかなる部分も修正してはならない」という一文が存在します。例え「健全」であっても許容し得ない、と読み取るのが当然とも解釈できます。

一連の事態を受けて、「VRChat」運営チームからは7月26日(火)に「フィードバックをもとに開発ロードマップの優先順位を見直す」と追加声明を発表していますが、Steamページには7月27日(水)時点でも低評価が多く投稿されています。

本件については、「EACはセキュリティ的に危ういのではないか」という指摘も見られ、問題は多角的である可能性があります。事態の沈静化は、まだ先かもしれません。

(参考)VRChat公式ブログ


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