VRでは珍しい2Dで描かれたショートアニメーション
今回はヴェネツィア国際映画祭、サンタモニカ国際映画祭、バンクーバー国際映画祭等様々な映画祭で評価されたVRアニメーション、「In the Land of the Flabby Schnook」を紹介します。
「In the Land of the Flabby Schnook」はFrancis Gelinas監督率いるcouleur.tvの制作です。Francis Gelinas監督はアニメーションと映画の分野で14年以上働いた後にcouleur.tvを2006年に設立しています。couleur.tvはミュージックビデオ、テレビアニメ、CM等を制作している制作プロダクションで、今までインスタレーション的に空間に展開する映像は作っているようなのですが、VRは初の作品のようです。
今回紹介する作品は6分の2Dで描かれたショートアニメーションで、小さな男の子が暗闇と向き合う物語です。暗闇が怖い小さな男の子が姉にどうやって暗闇を怖がらなくなったのかを聞くところから話は始まります。姉は弟を夢のような世界に引き込み、弟はその中で様々な恐怖と向き合っていきます。ストーリーは複雑ではないのですが、360度を見回し、不思議なものを探していく楽しみがあります。
オススメのポイント
1. 360度に展開する2D映像
「In the Land of the Flabby Schnook」は2Dで作られたVRアニメーションです。3Dアニメが多いVRアニメーションの中では、2Dで作られたアニメーションは珍しいと思います。ある程度の前後の層的な構造はあるのですが、基本的には体験者の周囲360度をキャラクターがぐるぐると動き回ります。
体験者に迫ってくるような表現はないのですが、影絵的な面白さもあり、ユニークな表現になっています。アニメーションの世界の中に入り込める6Dofの面白さとはまた違った3Dofの面白さというのを生かしています。
あまり大きくない部屋で360度に投影可能な場所があれば、子どもたちにも見せることができるので、そういう見せ方も面白いのかもしれません。また暗闇の部屋でタブレットを持ってみせるというのもいいかもしれません。
2. 子供への視線
VRのヘッドマウントディスプレイをつけることはできませんが、多くの部分で子どものことが意識されて作られていると思います。前述した通り、360度の投影もしくはタブレットでの視聴を考えているのかもしれません。
まず体験者の目の高さは少し低めに設定されています。これは、子どもが見ることを想定している、もしくは子ども目線で見て欲しいのだと考えられます。
また、Francis Gelinas監督はこの映画について次のように語っています。
「この映画に悪者が登場しないことを重要視しました。私の考えでは、善と悪がニュアンスなく対立する物語は、子どもたちに二元的な世界観を与えてしまいます。私は、相手をどのように見るかは、自分が置かれている場所やその時の気持ちによって変わることが多いということを説明したかったのです」
このように「In the Land of the Flabby Schnook」は子ども視線を意識して作られています。各言語に吹き替えして、子どもたちに見せることができたらより面白そうです。
3. 効果的な演出
最近のVR映像では空間音響を使うことは当然となっている感じはあるので、特別驚くことはないのですが、「In the Land of the Flabby Schnook」でも空間音響は使われています。
特にキャラクターが360度をぐるぐる回るので、音を鳴らすことでそっちに目を向けさせるなどの効果的であると思います。また、広い空間で子どもたちが叫んだ時に反響する音が響いてくるのも面白かったです。
また子どもが懐中電灯をかざすことで、細部が見える箇所がいくつかあるのですが、これが最後の伏線にもなっていて、さりげないですがなかなか効果的であったと思います。その他、オマージュもあったり、画面作りも遊び心があり、何回か見返すとその都度発見がありました。
作品データ
タイトル |
「Au pays du cancre mou(In the Land of the Flabby Schnook)」 |
ジャンル |
アニメーション |
監督 |
Francis Gelinas |
制作年 |
2020年 |
制作国 |
カナダ |
本編尺 |
6分 |
視聴が可能な場所 |
Oculus TV |
Trailer
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