【VR映画ガイド第66回】抑圧されたアリの社会をのぞきこんでみよう

Studio Syroが制作する「Tales from Soda Island」シリーズの第4弾

VRアニメーションスタジオのStudio Syroが制作する「Tales from Soda Island」シリーズの2021年6月に公開された第4弾「The Golden Record」を今回は取り上げたいと思います。
Studio Syroは2020年に設立されたVRアニメーションスタジオです。

代表作である「Tales from Soda Island」シリーズは2020年5月に「The Multiverse Bakery」が発表され、その後も8月に「The Neon Jungle」、12月に「The Quantum Race」と公開されてきました。「The Golden Record」はこのシリーズの4作目になります。その全てが以前ここでも取り上げたQuillを使って制作されています。どの作品もセリフはないですが、動きだけでよくわかるストーリーになっています。

「The Golden Record」はこれまでのSoda Islandシリーズとは少し異なり、カラフルな世界ではなく、アリのような生き物が働く抑圧された社会が舞台です。ある日、主人公のアリのような生き物が退屈な日常から抜け出し、エイリアンの人工物（1977年に打ち上げたボイジャー探査機に載せた、地球の生命や文化の存在を伝える音や画像が収められたレコードのようなもの）を拾ってきたことから話は展開していきます。

オススメのポイント

1. 「Tales from Soda Island」シリーズの世界観

「Tales from Soda Island」シリーズは前作まででカラフルな視覚を持った独特の世界観を構築しています。特に2作目の「The Neon Jungle」はSoda Islandの魅力がよくわかる作品だと思うので、ぜひこちらも見ることをお勧めします。

また、シリーズを通して体験してみると、リンクしている部分もあり、それを見つけていくのも楽しみの1つです。

「Tales from Soda Island」シリーズは元々、音楽レーベルとして始まり、そのカラフルな世界が2Dで視覚化され、最終的にQuillを使うことでVRで再現されたそうです。明確な世界観がしっかりと描かれています。

この作品は6Dofなのですが、高い所から下をのぞき込んだり、この壁の向こうはどうなっているのだろうという部分も壁を突っ込んで見てみたりと、その先もしっかりと世界が構築されているのでそれを見るのも面白いです。

今回の「The Golden Record」では今までのシリーズで見ていたカラフルな世界は外側にあります。今後、シリーズの次の作品が出てくることでこのSoda Islandのある世界のことがこれからより明らかになると思うと楽しみです。

2. 制作ツールQuillの特性を活かす

制作ツールのQuillは自分の手でバーチャル空間に直接描くことができるため、クリエイターは「体験者の身体はどこにあり、何に注目するのか」をより意識して描きやすい感じがします。

「Tales from Soda Island」シリーズが全般的に、体験者に特定のポイントをのぞき込ませるようなシーンが用意されています。「The Golden Record」では街を見下ろすシーン等がそれに当たります。こうした体験者の身体を誘導させるような仕組みづくりができるのも、Quillの特性なのかもしれません。

3. その楽器から音が鳴っているとわかる空間音響

「The Golden Record」は音が1つの重要な要素なのですが、空間音響が使われているので、音がVR空間で正しい方向から聞こえきます。主人公が楽器を作り、音を出すシーンがあるのですが、その楽器から音が鳴っているということがちゃんとわかるのはVRならではの表現だと思いました。

人間は視覚優位な生物なので視覚で補ってしまえる部分は多いのですが、音で見せたい方向を示す演出やその場所から音が鳴っているかというのを明確にする表現など、VRにおいて音の重要性は今後増していくのではないでしょうか。もっと空間音響を重視し、それをメインの表現とする作品も出てくるかもしれません。

作品データ

タイトル	The Golden Record
ジャンル	アニメーション
制作プロダクション	Studio Syro
制作年	2021年
制作国	アメリカ
本編尺	約16分30秒
視聴が可能な場所	Oculus TV