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話題 2020.09.27

死後はVR世界に転送される? 話題のアマプラのドラマをレビュー

「Amazonプライム・ビデオ」で配信中の「Upload(邦題:アップロード ~デジタルなあの世へようこそ)」が現在話題となっています。

人間の死の直前に、VRに“アップロード”できる近未来を舞台にしたSFドラマで、風刺の効いた世界観が高い評価を受け、シーズン2製作が決定。何より注目したいのが、VRヘッドセットが、劇中で大きな役割を果たしているところです。

一体、作中でVRはどのような設定となっているのか? 今回は筆者の目から見た「Upload」シーズン1をレビューします。

開始10分で死ぬ主人公

ストーリーは、アプリ開発者として順風満帆な人生を送っていた主人公ネイサン(トム・クルーズみたいな笑顔が素敵)が、突然自動車事故に遭うところからスタートします。

まだ若く、死ぬことなど想定していなかったネイサンは人生終了を前にして混乱。しかし彼の恋人であるイングリッドの(半ばゴリ押しの)サポートで、仮想現実「レイクビュー」に精神をアップロード。一種の精神体として“死後の人生”を生きることに。

死後の世界は、いくつかのバーチャル空間に分かれており、そのすべてが企業運営です。滞在費に加え、各種サービスに金銭が必要。悲しいことに死後も資本主義が付きまとうのです。(ちなみにお金が無い人向けの部屋もあるにはあります…)

ネイサンは恋人のイングリッドの支援で費用が負担されていますが、これが後々問題を引き起こすことに…。

死後のVR世界でも恋愛が発生!?

ネイサンが死んだ直後、もう1人の主人公ノラにスポットライトが当たります。彼女は、レイクビューを運営しているホライズン社の社員。顧客サービス“エンジェル”の一員として、仮想空間内のトラブル解決から新規顧客のアバター作成まで、幅広い業務をこなしています。

最初は、あくまでも業務でネイサンに接していたノラですが、1話終盤にVR内自殺(データ流に飛び込む)を試みたネイサンを止めて以降、仕事の枠を超えて親しく交流するようになります。そしてイングリットがいるにも関わらず、2人の関係は徐々に恋愛と発展していくことに…。

そこからさらに、生者と死者の関係性が多角的に描かれていきます。イングリッドのように、恋人が身体を失っても気にしない人もいれば、アップロードされた人に対して嫌悪感を覚えたりする人もいる。中には「所詮、死人」と見下す人までいます。死後のVR暮らしをどう受け止めるべきかを巡って、様々な意見が飛び出すのは興味深いところです。

個人的には、既に死んでいるネイサンが現実世界に郷愁を感じ、逆に生きているノラが仮想現実に魅力を感じているという、両者の立場の違いが浮き彫りになるシーンはお気に入りです。

ちょっと先のVRを想像させるガジェットが登場

「Upload」は、ここ数年のVR業界をちゃんとリサーチした作品だと思います。中国の歩行デバイス「KAT」シリーズを彷彿とさせるトレッドミル型(と思われる)機器が普及しているのには関心しました。

性行為目的用の“VRスーツ”の形状には笑ってしまいましたが、触覚フィードバックスーツの究極系のようなかたちで「意外とこれ実現しちゃうんじゃ?」と、うなってしまいました。

「(VRについて)もう少し掘り下げてほしい」と思ってしまうシーンもいくつかありましたが、世間一般の人が想像するVRと、ヘビーユーザー目線のVRを上手く“平均化”できていると思います。VRの“あるある”な、1人パントマイムのような動きが見れるシーンもありました。

ただ登場するVRデバイスの個性が描かれなかったことは残念でした。従来のVRヘッドセットタイプや「Quest 2」をより小型化したようなもの、未来感のあるメガネ型などが登場するのですが、性能差の描写はほぼありませんでした。(強いて言えば、恋愛シーンはメガネ型が使われがちな印象)

せっかく貧富の差などもテーマになっている作品なので、貧乏気味の人は現行型がメジャーで、富裕層は未来型を持っているといった、「持つものと持たざるもの」の距離感の描写にも力を入れてほしかったのが本音です。

ITブラックネタ満載のコメディパートに思わずニヤリ

作中に挟み込まれるコメディ展開も注目です。恋人イングリッドは、筋書きのみを見ると悲劇のヒロインですが、蜂に刺される謎の美容術や膣形成術(!?)に取り組むなど、破天荒セレブなキャラ付けです。ネイサンの葬儀で口論になった挙句、バーチャル上から彼を消そうとする一幕も。

レイクビューの住人も実にコミカル。“いいね”欲しさにグランドキャニオンで踊り狂った挙句、転落死した少年ディランや、ネイサンに熱っぽい視線を送るAIコンシェルジュなど、強烈すぎる面々が物語を盛り上げてくれます。

IT業界に、ほぼ全方位攻撃しているかのような風刺も強烈。評価スコアに振り回される人々やプライバシー設定したスペースを無断で覗く企業、何をするにもまず課金といった風潮など、IT業界を取り巻く問題に対するパロディが大量投入。そのあたりの事情をある程度知っている人なら、ニヤニヤが止まらなくこと間違いなし。

ちなみにルークは一種の“無課金厨”に近いキャラクターで、可能な限り無料で(時にはバグ技を使っても)サービスを受けようとする姿がしばしば登場。個人的には、フェイスブックの、あの「リブラ(※デジタル通貨)」が割と市民権を得ているのがツボでした。

シーズン1ラストの衝撃を受けてほしい

「Upload」はコメディとシリアスが高いバランスで両立された良作です。初回を除き、1話約30分構成なので、忙しいときでも視聴しやすいのもポイント。ただ性的なネタが割と多いのは、好みが分かれる部分かもしれません。

なお本作にはもうひとつ軸となるプロットがあります。それは「なぜ、ネイサンは死んだのか」という謎。根幹部分のネタバレなので詳細は避けますが、うまく練られた展開に驚かされるはず。

最後は、文字通り「何!?」と叫びたくなる衝撃の“オチ”で完結するシーズン1。まだ見ていない人は、ぜひその目で確かめてみて欲しいです!

執筆:井文


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