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VR動画 2017.05.04

トライベッカ映画祭でVR作品多数出展 触覚も含めリッチな体験が広がり

2002年に設立され、毎年ニューヨーク・マンハッタンで開催されるトライベッカ映画祭は、昨年2016年度より従来の映画だけでなく、VRなどの新ジャンルの映像も積極的に募集し上映しています。VRアニメーションの中でも評価の高い『Allumette』(Oculus Rift、HTC Vive、PlayStation VRで無料配信中)も、2016年のトライベッカ映画祭にてお披露目となり、大きな注目を集めるなどがありました。

2017年のトライベッカ映画祭も、引き続きVR関連の部門が開催され、なおかつ映像だけにとどまらない体験をもたらす作品が訪れた人々に深い印象を与えました。本映画祭で披露された『Draw Me Close』の脚本家であるJordan Tannahill氏は、活き活きとした体験を想起させるには触覚が重要だと述べています。

本記事では、映画祭での体験をそれぞれの作品のキーである「木々」「ベッド」「電車」を中心にしつつ振り返ります。

※本記事は、Upload VRの記者であるKevin Ohannessian氏のレポートを元に記載しています。

木々の手触りと香りが目の前に広がる:「TREEHUGGER: WAWONA」

現実空間に設置された、大きな木の模型の周りに立ちながら体験するVRコンテンツでした。プレイヤーの両手にはViveトラッカー、体には触覚刺激が呈示されるベストが装着されています。模型の一部から松の香りが送り出されたり、VR上で目の前に見える物体に、その手で直接触ることもできます。コンテンツの後半では、木の中で輝く縞模様と、プレイヤーの手の動きから生成される光る軌跡とが輝き合い、自然と人とが混じり合って行くような感覚を味わうことが出来ます。

Treehugger Chapter 01: WAWONA Teaser from Marshmallow Laser Feast on Vimeo.

本作を手掛けたクリエイター集団Marshmallow Laser Feastのエグゼクティブ・プロデューサーのNell Whitley氏が語るには、はじめはViveコントローラーを使っていましたが、途中からViveトラッカーを採用したとのこと。指先で触ることができる体験の重要性から、トラッカーに切り替えたと語りました。また、次なる方針としてはバイオセンサーを導入して、プレイヤーの情報を木々に反映させたものを作りたいとも述べていました。

ベッドの上で追体験する葛藤:「Unrest」

ブースは小さなベッドルームを模して作られており、ベッドだけでなく、書棚、花嫁と花婿が写った額縁、大きな時計も設置されていました。プレイヤーはOculus Riftを装着し、かつOculus Touchを両手に持った状態でベッドに横たわります。そしてプレイヤーは、ジェニファー・ブレア氏という女性の生活を追体験することとなります。

物語は、筋痛性脳脊髄炎などと呼ばれる症状についての説明、さらにその患者の25%が寝たきりであるという情報の説明から始まります。次に目の前には、先ほど目にしていたブースの風景とそっくりの部屋が表示されます。

コントローラで部屋の中の物を指すと、ブレア氏が彼女の人生について、まだ症状に苦しむ前だった結婚式の日のことや、毎日ベットの中で過ごす日々のことを語り始めます。

多くのVR体験では歩いたり四方八方を向くことができますが、本作ではプレイヤーはベッドに寝ているためベッドから離れることはできません。それだけに、寝たきりに苦しむブレア氏の日常をプレイヤーは否が応でも体験することとなります。

部屋の中の体験からしばらくすると視界が暗転し、その後、ニューロンの連なりが映し出されます。光るパルスの伝達は一見すると上手く行っているように見えますが、突然クラッシュし失敗することがあります。それと同時に、ブレア氏の頭の中で繰り広げられる激しい葛藤(※編集注 思うように動けないこと)をプレイヤーは耳にします。

本作のディレクター兼プロデューサーは、本作の主人公でもあるブレア氏です。目に見えない病気や障害は、外から見ると何の問題もなさそうに感じられますが、実際に患者の内部では、知覚や感情が大きく乱れたり痛みを伴います。VRという媒体で擬似的に体験してもらうことでより多くの人に苦しみを理解してもらいたいと、ブレア氏は語っていました。

日常にあるものがいつも通りに:「Blackout」

映画祭の会場の中心部には20フィート(約6メートル)ほどの、ニューヨークの地下鉄を模したブースが設置されていました。その地下鉄の中には、実際の車両の中のように金属製の垂直のポールが設えられていました(※ニューヨークの地下鉄には、つり革は無く、乗客は体を支える際には座席上部の金具や通路中心部に設置されたポールにつかまります)。なお、本作のテスト段階では、金属製のポールはVR上では表示されつつも実体はなく、試験に携わった人々から不満点としてあげられていたため、とのこと。

体験して物語を楽しんでいると、自然と金属のポールを掴んでいることに気づきました。(地下鉄に乗ってポールを掴むという)あまりに日常的な動作が、作品への没入感をより高めました。体験では、車内に乗っている人々の考え事や生活についてのストーリーが語られます。本作に登場する人物は、製作者らが実際に撮影した人々へのヒアリングを元に生成されています。映画祭の最中にも続々と(ヒアリングを行い)物語の登場人物が追加されていました。

触覚でVRがさらに真に迫るものとなる

今回紹介した作品はいずれも、それぞれ方法は異なりつつも物理的なインタラクションを組み込んでいました。特別な感覚を味わえたり、共感を強く覚えたり、あるいは没入感が高まります。現在のところ、こういったリッチな触覚刺激などを交えたVRはイベントなどに限定されていますが、今後は触覚も含めた体験もより一般的になっていくかもしれません。

(参考)
Beds, Trains, and Trees: VR Gets Physical at Tribeca(英語)
https://uploadvr.com/tribeca-beds-trains-trees/

 
 

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