それは、あまりにも圧倒的な物語体験でした。
およそ20分ほどの視聴のあとに、スタッフロールが流れ始めます。しかし、それを終えてなお、この世界から離れたくないという思いがありました。『Allumette(アリュメット)』は、それほど濃密な時間をくれた映像作品だったのです。
VRアニメーション『Allumette』トレイラー
本作は、童話「マッチ売りの少女」をモチーフとして制作されたVRアニメーションです。現在はPlaystation VR(PSVR)、Oculus Rift、HTC Vive向けに配信されています。制作を行ったPenrose Studiosは、これまでにも「星の王子さま」をモチーフにしたVRアニメ『The Rose And I』の制作などを行ってきました。
VRのアニメーションは、普通のアニメーション体験とは異なる部分があります。今回は、そういった特徴を伝えつつ、本作の見どころを紹介しようと思います。
アニメの中に自ら入り込む感覚
ある冬の日、少女アリュメット(※)は、大きな箱を背負いながら1人で街をさまよっていました。アリュメットが地面に座り休んでいたところ、吹きすさぶ風によって箱が地面に倒れてしまいます。
※アリュメットはフランス語で「マッチ」の意味
衝撃で開いた箱の中からは、3本のマッチが。それらを大事に入れ直していく中で、ふとアリュメットは、最後に手に取った1本のマッチに火を点けます。すると、火の明かりが広がるとともに、少女の目の前に、1年前に母と過ごした日々が広がっていき――
本作は、キャラクターたちの具体的な台詞や状況描写の字幕はありません。目の前に広がる映像と登場人物たちの演技によって、視聴者が自然と物語を体感できる内容となっています。
VRアニメーションである本作の特徴のひとつは、まるで自分がアニメの世界に入りこんだような感覚を味わえる部分にあります。たとえば、本編開始前にオープニングのテロップが流れるさなか、真冬の夜の街明かりがだんだんと点灯し、自分の周りにVRの街並みが作られるシーン。そこではまさに、ファンタジーの世界に少しずつ入り込んでいく感覚を味わうことが出来ます。
世界のすべてが生きている
もうひとつの特徴は、たとえ自分が見ていない部分でも、物語は進んでいるということ。本作は、空中都市のような世界を舞台に、登場人物たちのやりとりによって物語が進行します。しかし、視聴者は、必ずしもメインとなるシーンだけを見なくともよいのです。
登場人物だけでなく、世界の細部まで全てに命が吹き込まれており、そして全てが自分の目の前で移り変わっていきます。主人公であるアリュメットたちによるやりとり行われている最中でも、体験者は自由に視点を変え、本筋とはあまり関係のない、雲の上に浮かぶ街のディテールや、広場に集まって歌を聞いている人たちの姿などを見ることもできます。
視聴者自らが世界に入り込める本作が、テーマとして伝えたかったことはどういったことなのでしょうか。トレイラームービーの解説には、こう書かれています。
「アリュメットは、娘と母ふたりの愛と犠牲、そして深い絆の物語です」
20分ほどの短編に冠するテーマとしては、やや壮大に感じるかもしれません。しかし、実際にこの作品を体験をしてみると、本作が表現したかったテーマとは、そしてこの作品を通して自分が感じたことは、たしかにそういうことなのだ、という実感を得ることができました。
期間限定で無料ダウンロードが可能となっているため、はじめて見るVRアニメーションとしても、ぜひオススメしたい作品です。
『Allumette』公式サイト
http://www.penrosestudios.com/
・ソフト情報
タイトル:『Allumette』
ジャンル:アニメーション
発売元:Penrose Studio
発売日:2016年10月13日発売
対応プラットフォーム:PlayStation VR、Oculus Rift、HTC Vive
価格:無料(期間限定)
プレイ人数:1人