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VR動画 2019.01.14

【1万字インタビュー】SODが語った、アダルトVRのイマ 根強く人気が続く理由

斬新な企画力を武器にアダルト業界の大手メーカーの地位を築き上げたソフト・オン・デマンド株式会社(以下、SOD)。SODグループで作品の企画・制作を担うSODクリエイト株式会社は「VR事業の立ち上がりは順調」と2017年にMogura VRのインタビューで語りました。

有料動画プラットフォームの「DMM.com」は、2018年のVR動画の売上が前年比2倍成長の40億円を突破していることを明かすなど、アダルトVR市場は2018年もますますの拡大を果たしています。それでは、制作販売を行うメーカーから見た2018年のアダルトVR市場を振り返ると、はたしてどの様なものだったのでしょうか。

今アダルトVRに起きている現象や課題について、メーカー・ユーザー・監督・女優・男優の様々な角度から、SODクリエイト株式会社の制作部プロデューサーの金井陽平氏、制作部VRテクニカルディレクターの柏倉弘氏、プロモーション部の石丸果耶氏の3名に1万字のロングインタビューでお話を聞きました。

2018年で一番変わったのは撮影機材の進化

SODクリエイト株式会社の金井陽平氏

──2017年のアダルトのVR初期の頃に比べて大きく変わった点について教えてください。

柏倉弘氏(以下、敬称略):
一番大きい変化は機材が変化したことです。初期はGoProで撮影したVR作品が多かったですが、今はほとんどの作品一眼レフカメラで撮影しています。また、以前は30fps(※)の作品がメインだったのですが、今は60fps対応の作品がほとんどです。

※1秒あたりに処理するフレーム数、コマ数のこと。

──FANZA(旧DMM.R18)さんが60fpsに対応しましたね。

金井陽平氏(以下、敬称略):
そうですね。配信プラットフォームではFANZAさんとAdult festa VRさんが60fpsの動画に対応しています。プラットフォームに合わせて撮影する側も60fpsに対応しています。

──60fpsならではの演出などはありますか?

柏倉:
60fpsならではの演出というのは無いですね。ただフレームレート数が従来に比べて倍になったので、映像が非常に滑らかですよね。映像が滑らかになったので速い動きのシーンなどは、60fpsになって品質が良くなりました。

──60fpsなどフレームレートが高いとカクつかなくなりますね。

柏倉:
カメラのシャッタースピードの調整もありますけども、60fpsになったことで映像自体は綺麗になっています。

──アダルトの分野では180度の立体視の作品が多いですよね。

金井:
ほとんどの作品が180度ですね。360度の作品は少ないと思います。

180度立体視の映像がアダルトにハマる訳

SODクリエイト株式会社の柏倉弘氏

──なぜアダルトだと360度の作品は少ないのでしょうか?

柏倉:
アダルトの世界だと基本的には被写体に近づいて撮影することが多いんです。被写体との距離にすると1m以内がほとんどです。
金井:
アダルトの作品で求められるのは、その場全体のシチュエーションを表現することよりも、そこにいる女の子との距離感です。アダルトのお客様は出演者の女の子に対して何々したいというニーズがあります。
柏倉:
アダルト作品での表現は女の子と何かをしたいというものですね。また映像的にも近くに寄らないと被写体がクッキリしないというのもあります。

──ユーザーに360度の作品はそもそも求められていないということでしょうか。

金井:
アダルトの業界でも実験的な作品として360度の作品はありました。SODでも360度の作品は発売しています。ただ、発売してみた結果として今までになかった360度アダルトという新しい映像だったので反応は大きかったのですが、マイナスな意見が多かったです。アダルトで求められるのは被写体に対していかに没入できるかということです。周囲の環境や広い空間を認識して没入感を高める360度映像はアダルトのユーザーとの相性がイマイチなところがあるのかなと思います。
柏倉:
また、360度にすることでスティッチの問題も出てきてしまいます。先ほどの話にも出ましたが、アダルトは1m以内に女優さんがいるシーンが多いので、スティッチが大変になってしまいます。

──たしかに近接した距離だとスティッチのズレが出てしまいますね。

柏倉:
適材適所という面で言えば、アダルトは180度で十分と言えるかもしれません。近接した演出を避けるというのも難しいですので、それなら180度で良いのかなと思います。

女の子の唾を飲まされる体験の作品が人気

──ジャンルではVR作品だと単体と企画でどちらが人気あるのでしょうか?

柏倉:
単体と企画のどちらが人気あるかというと、これは時代の流れで変わってくるという回答になってしまいますね。
金井:
VRの初期は企画ブームで企画ものが人気ありました。例えばハーレムものなどのシチュエーション、こんなこと良いなできたら嬉しいなという企画作品が売れている時期がありました。

──2017年頃は企画ものの作品がランキング上位に多かったですね。

金井:
ただ、今は単体の作品が人気ありますね。特にメーカー専属の女優さん単体のVR作品が人気です。AV業界のトップスターが出てきて、超人気女優と1対1でという作品が今のトレンドです。トップスターの女優さんがVRに出演して、その女優さんのファンが流れてきて女優さん単体の作品が売れているのかなと思います。

──トップスターの女優さんが出演するようになり、出演する単体の作品が人気ということですね。

金井:
一方で面白い傾向も出てきています。企画ものが減ったことで逆にフェチものの人気が出てきています。(人気のジャンルは)女優単体とフェチという両極端な傾向がありますね。

──フェチものというのはどういった作品があるのでしょうか?

金井:
SODの作品だと女優さんの唾を飲まされる体験ができる『唾飲みVR』という作品があります。

──唾を飲まされる体験……。

金井:
もちろんバーチャルですよ(笑)。仰向けに寝て口をアーンと開けているところに上から女の子から唾を垂らされるという作品ですね。これは発売当初から人気の作品です。

『唾飲みVR』のキャプチャー画面

──斬新な作品ですね……。

金井:
これはVRならではの作品です。通常の2Dの映像のDVDだと全然楽しくないですよね。

──たしかに通常の動画で唾を垂らされている様子を見ても人気は出ない気がします。

柏倉:
そうですよね。全体的に汁ものVRは人気があります。唾ものも口だけに垂らすのでなく体の複数の箇所に唾を垂らされるという演出で進んでいきますね。
金井:
他に面白い内容ですと、自転車をこいでる女の子のパンチラや脚立の上にいる女の子のパンチラ、ミニスカートで踊っている子のパンチラを見るなど最近ではパンツを間近で見るだけの作品なども多いです。

太陽の位置も計算して水中撮影を行った『プールの時間VR』

──面白いアイディアの作品ですね(笑)。SODの作品だと個人的には屋外プールが舞台の作品『プールの時間VR』も好きです。

柏倉:
そうなんですね。あの作品は私が監督した作品ですよ。

──屋外のシーン、水中のシーンともにすごく良いなと思いました。

柏倉:
プールでの水中のシーンがあったのでGoProで撮影した作品ですね。GoPro専用の水中ハウジングを使って水中の撮影をしました。アームを使ったのですが、カメラマンが上手かったので水中のシーンも綺麗に撮れました。水中から地上を見上げるシーンは綺麗に撮れたなと思います。

──良いシーンですよね。プールの外に水着姿の女性の先生がいるのが水面に見えたり、絵的にも綺麗でとても良い演出だなと思いました。ああいう水中のシーンはテスト撮影はされたのでしょうか?

柏倉:
僕がお風呂で水中撮影のテストをしたくらいですね。撮影中に映像を出力してチェックすることができないので水中の撮影も全て勘で撮ってますよ。

──屋外のシーンもとても綺麗だなと思いました。

柏倉:
アクションカメラって屋外の環境でないと綺麗に撮れないんですよね。なので、あの作品は屋外であることにこだわりました。GoProで撮れる映像だと最高の品質の作品だと思います。ただ、屋外なので太陽の位置に気をつけました。西日になって太陽の光が傾いただけで一気に画質が悪くなってしまったりとか。そういうことを事前に計算しなければいけない作品でした。

──個人的には水中もそうなのですが、プールに入る前のシーンも好きでした。更衣室のシーンで人間の目の高さから足元の高さにローアングルに移っていって見上げるように誘導する演出やプールに入る前の準備体操が異常に長かったりとか。

柏倉:
あの準備体操のシーンが長いのは、作品前半で出演者全員をしっかりと映さなければという意図もあって、結果的に長くなってしまいましたね。更衣室でのローアングルになるカメラワークは手持ちで動かしました。

高品質な作品でも減点方式で評価されてしまうレビューのツラさ

──VR作品にはどのようなレビューが付くのかについても教えて頂ければと思います。

金井:
評価の高いレビューでいえば、細かい演出まで言及して頂けているレビューは嬉しいですね。

──VRならではの「細かい演出」ということでしょうか?

金井:
僕も色々なところで言っているのですが「VRは舞台」に近いと思います。2DのDVD動画は映画を撮っている感覚に対して、VRは舞台の作品を撮っているような感覚です。舞台上のメインでない片隅で起こっているちょっとした演出に気づいて頂けたりすると嬉しいですね。

──どういった細かい演出があるのでしょうか?

金井:
SODの矢澤レシーブ監督が好む演出の1つで鏡を置く演出というのがあります。女優さんの後ろに鏡を置いて、鏡越しに女優さんのお尻が見える瞬間を入れるとかですね。

──ラッキーな瞬間ですね。

金井:
そうですね。そういう細かい演出に気づいてくれると嬉しいですね。

──逆に低評価されてしまうレビューについて教えてください。

金井:
レビューで悪く言われてしまうので代表的なのが「小人化」「距離感」とかですね。

──「小人化」というのはどういうものでしょうか?

金井:
出演者のスケールが小さく見えてしまうことですね。悪い評価に繋がるのは作品の内容というよりも撮影テクニック的なものが多いです。
柏倉:
評論家のように厳しくコメントいただくことが多いですね。
金井:
また、今はレビューが少しでも悪くなると売れなくなる傾向があります。5段階評価で星4を切ると売れなくなってしまいますね。VRのお客様は若い方が多いので、有料のVR作品に対して慎重な姿勢があるのかなと思います。お金を払うから絶対失敗したくないと思っているのかなと。

──インターネット世代の特徴という感じがしますね。

金井:
たとえば「画質が悪い」のような低評価のレビューが並んでしまうと全く売れなくなってしまうんです。監督も大変だなと思います。あと私が思うところですが「減点方式」で評価するレビューが多いのかもしれません。めちゃくちゃ面白い作品でも「画質がイマイチだからマイナス星1」とかありますよ。
柏倉:
まるでフィギアスケートなどの採点競技ですよ。

──食べログだと星4はすごい美味しいお店ですけども……。

金井:
星4以上のお店なんて凄い珍しいですし、めちゃくちゃ美味しいお店ですよね。でもVRの場合は誰もが満足する作品でないと厳しいところがあります。

キスと耳元で囁くシーンが入るのはスタンダード

──誰もが満足するという意味では180度の立体視の場合は人によって瞳孔間距離に違いがありますし、使用するVRヘッドセットでも差が出てくるかと思います。先ほどの被写体のスケールが小さくなってしまう現象も、環境によって生じてしまうこともあるのかなと思うのですが。

柏倉:
その通りではあるのですが、レビューをする人は自分が見た環境しか分からないので、その環境での評価ということに繋がりますね。ただ「Gear VRで視聴」「PSVRで視聴」とか▲▲環境で視聴したよと書かれたレビューも多いですね。
金井:
あと価格にも厳しいですよ。価格が1,000円以上は星マイナス1とか。240分の長尺なのでお得なのにマイナス1にされてしまったりもあります。その作品は「内容も良い、演出も良い、映像も綺麗、だけど値段が1,280円で1,000円を超えるから星マイナス1」とレビューされてしまったり。こっちは星4以上でないと売れなくなってしまうので、星5を増やさなければいけないのですが……。こんなに良いのに星4なのか……と思ってしまいます。

──価格も減点対象になってしまうのですね。

金井:
あとキスが無いから減点とかもあります。「キスシーンが無いからマイナス1」とか!

──厳しいですね(笑)。

柏倉:
特にお客様に喜ばれる演出がキスと囁きです。「囁きが無い!」「キスが無い!」とお怒りのレビューが出てくるくらいですので。

──バイノーラル(※)対応の作品だと耳元で囁かれると効果的だなと感じます。囁きの他にバイノーラルで効果的な演出はあるのでしょうか?

※音場を含めて再現するステレオ録音方式の1つ。通常の録音よりもその場にいるような臨場感を与えることができる。

柏倉:
あとは耳舐めとかですかね。バイノーラルだと効果的で、これが視聴者にも伝わるんですよ。
金井:
レビュー対策で「キスシーンを入れて」「耳元で囁くシーンを入れて」とかフルラインナップで揃えるようにするという傾向もあります。

──その場合、内容が似通った作品が多くなってしまうのではないでしょうか?

柏倉:
実際に似通った作品が多くなってきていますね。そういった企画が似てきてしまう状況があるので、先ほどの唾もののフェチ作品とかが出てきているという現象も起きているのかなと思います。
金井:
企画が似たものになっているので、メーカー専属の女優さんのVR作品で差別化をしているというのもあります。

──メーカー専属の女優さんなので、そのメーカーでしか見れないということですね。

金井:
そうですね。SODでも、紗倉まなさんや市川まさみさんなど専属女優を起用した、他社では発売できない作品を出しています。


SOD専属女優の紗倉まなさん

ゾンビに襲われるAV、SODだからこそ撮れる作風

──お二人は今後はどういう作品を作っていきたいですか?

金井:
SODとしては、これまでに見たことが無い映像に挑戦したいですね。唾ものもこれまでに無い映像体験です。VRの良いところだと思うのですが、新しい映像体験、これまでに無い映像が作れるので、そういった作品はお客様にも一度は見てみたいと訴求できるところですね。私たちも「これをVRで撮ったらどうなるんだろ」と新しい企画がどんどん出てくるところに面白さがあります
柏倉:
他社のメーカーさんでは撮れないような作品を撮ってみたいですよね。SODは自社で企画を考えることができるメーカーです。他のメーカーさんだと制作は制作会社さんに任せるところもありますので、どうしても普通に撮れる作品が多くなりやすいというのはあります。自分たちで新しい企画を起こして撮影できるというのがSODの強みなので、挑戦しやすい環境ですね。

──そういえばSODさんのゾンビものの作品『ゾンビVR』には衝撃を受けました。

金井:
あれは衝撃的な作品ですね。本番シーンとか凄い面白いですし、ぜひ最後のオチまで見て欲しい作品ですね。レビューもめちゃくちゃ良かったです。あれはもっと売れても良いと思うんですけどね……。主演でゾンビ役の蓮実クレアさんの演技も上手で良かったですし。ああいった作品だからこそ大きく売れたりするとアダルトのVR市場がもっと盛り上がるのかなと思います。

──本番で食べれられてしまいますからね。凄い体験だなと思いました。

柏倉:
他じゃできない作品ですよね。SODらしい作品だと思います。こんなんやってるのウチだけですよ(笑)。

──チャレンジするのはSODさんの特徴といういうことですね。

金井:
そうですね。挑戦できるのも今だからというのはあるかなと思います。DVDだとさすがにSODでもゾンビとかの企画は通りにくいと思います。VRだからこそ通った企画なのかなと。そういった挑戦を行うことで業界全体を動かしていきたいですよね。
柏倉:
SODでしか見れない作風というもあるのかなと思います。
金井:
ウチでしか見れないけどエロの要素が全く無いとか(笑)。エロの要素は無かったけど結果的に面白いから良かったとか、これまでにもそういったお客様からの声をいただくことはありましたね。
柏倉:
売れたら万歳ですよね。あまりに突飛過ぎた内容で売れないことも多いですけど。しかし、VRでは変わった新作を出すとランキングは瞬間的に上がります。その新着の瞬間にジャッジされますけど1回は波が来るんです。あれだけ作品が多い中で皆さんよくチェックされているなと感じます。面白い現象ですよね。

──ユーザーの皆さんは新作をチェックしているんですね。

柏倉:
新作のチェックはされているのかなと思います。これも今の特徴なのかなと思いますし、皆さんVRに対して飢えているのかなと思います。

──新しい映像に飢えていると。

柏倉:
もちろん通常のDVDで安定した作品を好む方も多いと思いますよ。ただし、VRに関しては私たちの唾ものの作品の売上が跳ねましたので、新しい映像体験に飢えている人も多いのかなと思います。

ユーザーがこだわる江戸っ子の様な粋なVR鑑賞方法とは

──アダルトは30分以上の長尺の作品が多いかと思いますが、VRヘッドセットを長時間付けるのは疲れてしまったりするのではないでしょうか?

金井:
早送りやスキップなどそれほどしないで見てくれているのかなとは思いますけどね。レビューを確認していると細かいところまでよく見て頂けているなと思います。240分の作品とかもありますので、超長尺の作品はストリーミングで見ているのかなとは思います。

──240分だとダウンロードするだけで大変そうですね。

金井:
お客様のレビューだと本当に細かいところまでよく見ていただけているんだなと思います。病院の外来診療が舞台の作品で、溜まり過ぎてしまって体に悪いのでヌキますという物語の作品があるのですが、最後のシーンの保険証を返してもらって診察料を支払ってという場面で料金が数百円なんですね。それを見たお客様からのレビューに「安過ぎ(笑)。こんなに安ければ絶対通う」とあって、本番が終了しても終わらずに最後までよく見てくれているなあと感心しました。VRだと最後まで見てくれる方が多いのかなと思います。

──最初から最後まで見る方も多いということですね。

金井:
ヌキどころしか見ないという人は少ないかもしれません。本当にマニアックな方は最初の導入部分からしっかりと見て、出演男優と自分が同じ人物である感覚を育んで、その世界にしっかりと入り込んで没入する、そして本番を楽しむというのが良いとされているらしいです。マニアの方によれば、導入部分を適当に流し見して本番だけを見るのは粋じゃないと批判されるみたいですね。
柏倉:
江戸っ子みたいだね。前振りをしっかりと堪能した後に本番なんですね。

──ユーザーのこだわりもすごいですね。VRで人気を得る監督はどういった方がいるのでしょうか。

金井:
VRだと女の子との距離感が大切です。この距離感というのは監督独特だったりしますので、良い距離感を作れるというのは一番です。

──距離感の演出が大切ということですね。

金井:
人気の監督ということでいえば、矢澤レシーブ監督はVRでようやく輝けた監督ですね。ロッカーの中や添い寝、サイレントでの本番といったVRならではのシチュエーションの作品・流行を作り出した監督ですが、通常の2Dアダルトでは全く鳴かず飛ばずでSOD社内でも肩身の狭い思いをしていました。それがVRで才能が開花されて、新しいファンも獲得されました。VRが自分の生きる道だと考えているかと思いますし、新しい手法なども積極的に作品に取り入れてく貪欲さがあります。

──最近だとカメラを動かす作品も出てきているかと思います。

金井:
それも日頃からVRを見ている監督とそうでない監督で差が生まれるんです。VRを見ている監督だと「これくらいの動きであれば酔わないだろう」と自ら考えて撮影できるんです。しかし、VRをあまり見たことがない人だと普通の2Dの映像の感覚でカメラを動かしてしまうことがあります。そういう作品は、実際発売してみたら「これ酔うだけで気持ち悪い」と言われてしまったりします。

ヘルメットにステレオのカメラセットを取り付けた機材

──普段からVRを見ている人とそうでない人で作品へのアウトプットも違うんですね。

金井:
僕がVRを担当しているからなのですが、制作前の監督さんとの打ち合わせをする時に、事前に自分でVR作品を見てこられる監督の方が、良い作品を撮ることが多いのかなと感じています。本気度の高い人、VR自体を好きな人でないと人気を得るのが難しいのかなと思います。VRならではの演出が入っていない作品は、お客様も普通の作品だったという感想で終わってしまうのかなと思います。

女優には自然な演技が求められ、上手なアドリブが高評価される

──女優さんについてはどうでしょうか。もうほとんどの女優さんが一度はVRに出たことがある状況なのではないでしょうか?

金井:
これだけVR作品が多いので、一度はVR作品に出たことがある女優さんがほとんどではないでしょうか。ただ、出演したことはあるけどもVRについては良く分からないという方は多いと思いますけどね。

──女優さんの中でVR作品への出演をNGされるケースもありますでしょうか?

金井:
NGは無いかなと思います。ただ、女優さん視点だとVRに出演するのは大変だと思います。男優さんに任せて受け身だとダメですからね。女優さんが男優をリードして進めないといけないんですね。VRの方が女優さんは神経をすり減らしていると思いますよ。
柏倉:
ベテランの女優さんは演技上手ですよね。喋るのが上手いと作品のレベルも上がります。女優さんが喋るのが上手だと自然な感じになるんですね。一生懸命に喋っているというよりも自然に喋れる方がリアリティーが出てきます。
金井:
でも僕なんかは一生懸命なのが好きだったりしますよ。ドラマ仕立ての作品で演技が下手な人が好きなんですよ。演技が上手い人だと「本番も演技なんじゃないか……」と疑心暗鬼になってしまって……。逆にすっごい演技がド下手な人だと本番のシーンが「これはリアルだな……」と思えるんですよね。めちゃくちゃ下手な演技を目の前で見せられるのですが、本番が始まったらすごく良い反応だったりすると「演技じゃない……。俺、すごいじゃん!」と思っちゃうんですよね。
柏倉:
それは良いパターンかもね。ただ、やっぱり演技が上手な女優さんはAVの世界に入り込ませてくれますので、色々なメーカーさんから声が掛かります
金井:
あとアドリブがあるとお客様から評価されやすいですね。

──アドリブもあるんですね。

柏倉:
全部が全部台本に書いてあると演じる女優さんも大変ですので、流れでアドリブをやってもらう場合もあります。

──アドリブが評価されるとのことですが、視聴者側はアドリブだと分かるのでしょうか?

柏倉:
お客様はここがアドリブだっていうのは分からないとは思いますが、アドリブの箇所が「自然で良い」と指摘頂けることがあります。ファインプレーのアドリブがあると高評価されますね。
金井:
例えば波多野結衣さんはアドリブめちゃくちゃ上手いです。波多野結衣さんのアドリブシーンはめちゃくちゃ面白いですね。

VR映えする女優の条件

──女優さんもVRの勉強はされるんですか?

金井:
これは人によりけりです。もう引退してしまった女優さんなのですが、Sさん(※編集部注:すでに引退した女優さんのため伏せ字)という女優さんはとても勉強家でした。Sさん出演のVR作品はめちゃくちゃ売れましたね。

──Sさんは演技上手ですよね。

金井:
Sさんは実際にVRを見ている人はこういう風に見えているんだろうなと想像しながら演技をされていたようです。勉強熱心な方なので台本を早く送らないと怒られてしまうんですよ(笑)。撮影当日までにきちんと台本読み込むタイプなので。

──女優さんと監督さんの相性はありますか?

金井:
相性はあります。監督の意図と女優さんの解釈が違うと良い作品にならないですね。女優の演技と監督の意図が上手く絡むと良い作品になります

──女優さんはVRだから勉強されるのでしょうか?

金井:
VRだからというよりも元々意識の高い女優さんだから勉強されているのかなと思います。意識高い系の女優さんは演技上手ですよ。女優さんの中には自分が出演したVR作品を全部自分で買っている方もいます。そういった方は、VRだと実際にこういう風に見えていたから次回はこういう風に演技しようなど研究されますね。

──SODさんでは女優さんにVRについて指導をされたりしますか?

金井:
VR出演が初めてという方には説明をします。VRのお客様はこういうプレイを好むからこういう演技をしてくださいねという基本的なことは教えます。

──キスシーンが近づきたりするとズレてしまったりとかありますよね。

金井:
カメラに近づき過ぎると立体視が破綻してズレてしまいますよね。なのでキスシーンはここまで近づいてくださいとか説明します。キスシーンのベストな距離感、カメラとの位置はここですよとか本番前に説明します。でも、本番が始まってしまうと熱が入ってカメラに近づき過ぎてしまうこともありますね。
柏倉:
キスする時の上から入るか正面から入るかでも変わりますよ。そういったキスの入り方も練習したりします

──VR映えする女優さんもいますよね。

柏倉:
そうですね。VRで映える肌の子と映えない肌の子がいます。同じライト、同じ肌の色でも映える映えないというのがあります。おそらくライトの光の肌の反射率、吸収率だと思うのですけども、ライティングが綺麗に映える肌の女の子がいるんですよね。光の量は同じなんですけども、映えない子は光が跳ねてしまったりとか……。最終的にはポストプロダクションで色味の調整はしますけどね。
金井:
あとVRで大事なのは愛嬌だと思いますね。普通のDVDよりも非常に距離感が近いので、愛嬌のある女優さんの方が売れますね。次は顔が綺麗な方です。やっぱり、こんな綺麗な子が目の前にいてという要素が人気になったりします

「特徴の無い体であることが大事」VR男優の知られざる世界

──前回のインタビューでVR男優の話も反響がありました。今でもVR男優は重要なのでしょうか?

金井:
VR男優は今でも大事です。

──VR男優には何が求められるのでしょうか?

柏倉:
自分から何も動かないでも大丈夫というのが一番大事です。普通の作品に比べて刺激が少ないので、それでもずっと興奮状態を持続するのが大変です。撮影時間も長いですし、これは結構大変ですよ。

──あと本番中も静かにしていないとダメなんですよね。

金井:
そうですね。声もダメですし(大きい)呼吸もダメです。息を潜めて興奮を続けることが求められます。
柏倉:
撮影をスムーズに進めるためにも興奮状態を維持できる人は大切です。カメラが自分の顔の位置にあるので顔はカメラに当たらないように捻って。でも体の軸は真っ直ぐで固定して動かさないようにして。マイクも自分の顔の近く、カメラの横に置いていますので声は出してはいけない、息もひそめなきゃいけない、そんな状態でも興奮できる方ですね。

──VR男優さんも大変ですよね。

柏倉:
下手な人は動いちゃうんですね。基本的には体の軸は動かしちゃダメなんです。見ている人とVR男優の体が一体化していないとダメなので。だから軸を動かさない状態で固定してもらいたいんですけども、どうしてもずっと固定するのが辛くて我慢できない、持続できないんですよね。我を忘れて動いてしまう人がいるんですよ。

──なるほどですね。

金井:
あとは男優さんの体型も大事です。アダルトゲームの主人公の特徴とも重なるかもしれませんが、VR男優はユーザーと似た体型の方が良いですね。VR男優があからさまに自分と体型が違うとダメですね。

──たしかに腹筋がバッキバキに割れてたりすると、この人は自分とは違うなと思ってしまいます。

金井:
そうですね。腹筋が割れていたりするとイマイチだったりします。特徴が無くて当たり障りのい体がVR男優には求められます。

──当たり障りのない体(笑)。

金井:
あとは体毛が少ない人ですね。昔見た作品で男優さんの胸毛が濃くて、さらにその胸毛に白髪が混じっていた男優さんがいたんですよ。あれは気になりました……。

──それは気になってしまいますね。

金井:
VR男優さんは特徴の無い体ですね。中肉中背で少し痩せ型の人です。痩せ型なので、痩せすぎの人もダメですね。VR男優さんはビジュアル大事ですね。

──最近はVR男優さんが腰を動かしたりする作品もありますよね。

柏倉:
動かす時も体の軸は固定して腰だけ動かす感じですね。たとえ動いても呼吸はなるべく抑えてくださいと撮影前のリハーサルで説明します。また女優さんが優しい場合は、男優さんの手を取って動かしてあげるとかもあります。女優さんが導いてあげるパターンですね。

──優しいですね(笑)。そしてやはりVR男優は特殊な世界なのですね。

金井:
本当に特殊な世界ですね。最近は良いVR男優さんのスケジュール抑えるのが大変だったりすることもあります。「うわ、この日、男優さんスケジュール合わせられないよ」とかあったり。業界ではVRを撮るならVR男優という認識になってきていますので、どのメーカーさんも独自のVR男優さんを育成していると思います。SODの中にもレギュラーのVR男優さんはいます。

ユーザーの70%がVR作品を見たことが無いというアンケート結果も

──VR作品ならではの課題とかありますか?個人的にはモザイクが気になったりしてしまうのですが……。

柏倉:
これは業界全体がモザイクを濃くする流れがありますので(※編集部注:モザイクは第三者機関が審査し処理を行う)。ウチはいかにモザイク処理と戦うかというのもあります。
金井:
目の前でめちゃくちゃ大きくモザイクが全面に映るとかありますからね。
柏倉:
そういう意味では先ほどの唾ものはモザイク少ないですよ。モザイクをかけようが無いですからね。舌はモザイク処理されませんですので。

──なるほど。

金井:
ただそれでも厳しくて、パンツ越しにうっすらと浮かび上がっているとかでもモザイク処理されてしまうケースもありますので。私たちがモザイクをかけられ無いようにギリギリのエロを追求してもモザイク処理されてしまう……。映ってないじゃんとは思うんですけどね。
柏倉:
モザイク処理をしたという結果を求めているんですよね。

──モザイクに対抗するにはフェチなんだと。

金井:
あとはVRの課題で言えば再生アプリやデバイスの進化が待たれます。今のVRは視覚と聴覚がメインなので、これに加えて触覚や匂いが再現できるデバイスが出てきて、再生アプリもそれに連動すると五感をフルに使うVRが体験できますよね。

──匂いのデバイスは「VAQSO」などが出てきたりしてますね。

金井:
僕のやっている簡単な方法なのですが、ヘッドセット自体にうっすらと香水をかけるとかも良いと思いますよ。また、これはパッケージの説明でも推奨したのですが、パンストを自分の手にはめてパンストものを見ると、これが非常にリアルになるんですよ。

柏倉:
昔でいうとコンニャクに穴を開けるとかに近いですね。
金井:
パンストをはめてと推奨したらツイッターの反応は良かったですよ。しかし、VRヘッドセットを装着してパンストを手にはめてという状態を他人に見られたら終わりですけど(笑)。

──ツイッターの反応が良かったとのことですが、アダルトユーザーの多くはVR作品を見たことがあるのでしょうか?

金井:
いえ、VRを見たことがあるユーザーはまだまだ少ないと思います。今でもVRを見たことが無いユーザーはアダルトユーザーの6~7割くらいだと思います。7月と少し前ですが、ツイッターでAV女優のトップスターの南梨央奈さんが「VRを見たことがある人?」とツイッターでアンケートをしたことがありました。

──とても有名な女優さんですよね。

金井:
南梨央奈さんのツイッターのフォロワーは17万人ほどいます。基本的にはファンがフォロワーなのでアダルトのユーザーだと思うのですけれども、約70%が見ていないという結果になりました。他のAV女優さんでもVR作品に出ましたとツイートすると「VR見たことない」「VRの見方が分からない」というメンションを受けるのを多く目にします。

──70%は意外な感じもしますが、見たことない人の方が多いのですね。

金井:
VRは1回見たら面白いと思いますし、魅力に感じるとは思います。けれども1つ言えるのは「VRは処理するハードルが高い」ことですね。DVDは見ながら自分の良いタイミングでしたいなと思ったらできますよね。しかし、VRの場合は今日はこれでするぞと見る前に気合いを入れてからじゃないとできないかなと思います。

──そういったハードルがあると。

金井:
今ではOculus Goといった視聴しやすいヘッドセットもあります。それでも、気合いを入れないと難しいですね。こういう仕事をしている僕でも実際にそう感じます。

──VRを生活に溶け込ませないとハードルが残ってしまうかもしれませんね。

金井:
他人任せになってしまうのですが、アダルト以外のVRコンテンツも流行して一般的な家庭でもVR環境が整うとハードルは低くなるのかなと思います。今でもスマホVRなら2,000円程度で買えますが、コンテンツや用途の幅が広がればとは思います。

モザイク処理費用が2倍に。高騰する制作費と回収に苦戦するメーカーの状況

──SODさんは個室ビデオ店も展開されていますが、こちらの人気はどうでしょうか?

石丸果耶氏:
人気あります。この前イベントで個室ビデオの店舗に行ったのですが、ナイトパックが始まる直前の時間でナイトパック待ちの行列ができていました。

──感覚的には風俗に行くのに近いのかもしれませんね。また、状況としてVRに参入しているメーカーは多いのでしょうか?

金井:
ほとんどのメーカーがVRに参入しています。しかしVRを辞めたところも出てきています。先ほどの話の通りですが、売る価格は980円で変わらないのに制作費が大きくなっているという状況があります。

──制作費が大きくなっているのですね。

柏倉:
機材費が大きくなっているのと60fpsになったことや凝った企画に進化しているので制作費が上がっているんですね。

──60fpsだと制作費が上がるのでしょうか?

柏倉:
分かりやすいところだとモザイク処理の費用が倍になりました。モザイク処理の費用はコマ数に応じてという体系ですので。またデータの容量も大きくなるので保存など大変ですよ。
金井:
機材や編集などコストが上がった分、採算を取るのがなかなか難しくなってきていると感じています。前述したようにレビューが少しでも低くなれば全く売れなくなり、逆に高評価のものは長く売れ続けます。売れないものは全く採算が取れず、ヒットした作品が爆発的に売れて他の作品の分まで採算を取ってくれているイメージです。また、制作費を小さくするとコンテンツの質が悪くなってしまい悪循環に陥ることも起きてしまいます。

──今は難しい時期に入っているということでしょうか。

金井:
すでにほとんどの大手メーカーがVRに参入していますので、どこまで残るのかということだと思います。ヒット作を出すまで体力があるメーカーでないと続けられなく、VRを辞めはしないけど制作数を絞っていくところは多いですね。今はそういう状況です。VRの作品を撮りたいと思っている監督さんは増えていますけどね。

ユーザーからのレビューと期待に応え続けて作り上げた高品質の実写VR

──作品の品質は初期に比べて非常に上がってきているなと私も感じます。アダルトならではの高いクオリティもあると思うのですが、品質に比例して制作費も上がってきているという状況なのですね。

金井:
私たちも、実写のVRであれば他の業界と比べても非常に高い品質の作品を制作している自信を持っています。アダルトの場合は作品を購入したお客様がより上の品質の作品を求めますので、メーカーもお客様の声に応えていって年々品質が向上しているというのはあると思います。

──ありがとうございます。最後にMogura VRの読者にメッセージも頂ければと思います。

金井:
アダルトのVRについては、体験してもらうのが一番だと思いますし、本当に体験してもらうしかないですよね。僕も初めて見た時に「これは普通のDVDとは違う!」「これは凄い!」と感動しました。実際には視聴など面倒な部分もあるのですが、初めてのインパクトは凄かったので、少なくとも一度は最新の良作なコンテンツを体験して頂ければと思います。

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