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VRChat 2024.01.11

実在感を出すために心血を注いだ VRChat「プリキュアバーチャルワールド」企画担当者インタビュー

12月にVRChatで開催されたプリキュアバーチャルワールド。VRの世界にプリキュアの世界を再現するだけでなく、本物のプリキュアに会える体験を目指して実施されたものだ。歌って踊るステージのみならず、プリキュアが戦う場面に街の住人として出くわしたり、突然現れたプリキュアと写真を撮れたりと、自分たちがあたかも同じ世界にいるかのような感覚を味わえるのが醍醐味だ。

その他にも妖精が案内役として出現したり、アニメにちょっとだけ出たロボットが再現されていたりと、プリキュアネタ盛りだくさん。大人から子供まで楽しめるイベントだった。

このイベントが好評だったのは、VRのクオリティだけでなく、プリキュアを愛したスタッフの思い入れが詰まっていたり、参加者にどっぷり浸かってもらえるような仕掛けをしこんでいたからでもある。このあたりのこだわりについて、東映アニメーションのプロデューサー田中耀平氏とGugenka CEO三上昌史氏に話を伺った(取材:たまごまご)。※取材は2023年12月中に実施。

10年以上前のプリキュアにスポットを当てるイベント

――今回のバーチャルイベントをなぜ実施しようと思ったのですか?

田中:
三上さんに誘われて、「SANRIO Virtual Festival」に入ってみたのがきっかけです。目の前でアーティストさんたちがパフォーマンスしている姿を見て、「これをプリキュアでやってみたら、きっとすごいものがつくれる」って考えました。プリキュアも本当によい曲がそろっていて、エンディングでのダンスシーンもあるので、(プリキュアたちが)VRの世界でパフォーマンスしてくれたら、臨場感溢れる体験になるんじゃないかなと思ったのが始まりですね。

――ぼくがエンディングのダンスをかつてリアルタイムで見た時は「新時代が来た」とびっくりしました。

三上:
ぼくもそう思いました。Gugenkaの社内にはプリキュアファンが多くいて、10年以上前から「プリキュアで何かいつかできたらいいね」って言っていたので、ぼくらからしても、夢が叶いました。

――従来のプリキュアの音楽ライブは、声優さんや歌手さんたちが主に出演されていますよね。

田中:
そうですね。今回のVRライブは「声優さんや歌手さんではなく、プリキュア本人がパフォーマンスする」という点で異なっていますね。

三上:
アニメに出演していた、本物のプリキュアに会えるっていう体験ですよね。

――ところで今回のライブに出演するのは、10年以上前に登場したプリキュアたちですが、こうしたチョイスをされたのはなぜですか?

田中:
プリキュアは毎年シリーズが変わりますが、そのシーズンの放送が終わってしまうと、どうしてもその作品の後の展開が薄くなってしまいます。これはプリキュアのファンの方々にとっても悲しいことですし、我々にとっての悩みのひとつでもあります。ですので、過去シリーズの作品から出演させたかったという思いがありました。当時の子どもたちはもう大人になっていて、「昔はよく見てたな」という懐かしさや「また◯◯ちゃんに会える」みたいな喜びを提供したいと考えていました。

――今回の企画を発表したときの反応はいかがでしたか?

田中:
「ああ世代だ!」っていう声が本当に多かったですね。「懐かしい」というのは、まさにこちらの欲しかった反応でした。大きくなるにつれてプリキュアから卒業してしまう子どもたちが多いのですが、今回で「お、プリキュアって、今はこんなこともやっているんだ」「バーチャルライブすごい!」と感じてもらって、またプリキュアに戻ってきてもらえると嬉しいですね。

旧作のグッズを手に入れられる場所

三上:
(イベント会場を案内しながら)今回のイベント用に書き下ろされたイラストを使ったリアルグッズたちです。VR上からも購入できます。

――アイテムにタッチすると、販売ページに飛ぶ仕組みですね。

三上:
ここはVRChatさんの公式のイベントなので、ウェブランチャーを使うことで直接サイトを開ける仕組みとなっています。

――イベントを見てテンションの上がったファンが物販に並ぶというリアルと同じ流れが体験できるわけですね。

三上:
今回のグッズは、どれもイラストがめちゃくちゃ可愛いんですよ! いくつかは売り切れになりましたね。

田中:
今回のイラストは弊社の製作部が本気で描き下ろしました(笑)。

――ファン側からすると、15年ぶりのグッズとなりますね。

田中:
過去の世代のグッズはまれに出てはいるのですが、本当に機会が限られるので、今回その需要を改めて感じました。

ファンの方々の、過去シリーズに対する愛の強さを、私もとても感じました。

田中:
しっかり覚えてくださっていますし、今も好きだと思ってくださっている印象です。

――今回の企画によって、従来の視聴者層だけでなく、大人側にもファンが増えていけば、「プリキュア」という作品の表現の幅も、いい意味で広がりそうですね。

三上:
親子でこのプリキュアバーチャルワールドを一緒に見てもらえたら、とても楽しんでもらえる気がします。私には中3の娘がいますが、ちょうど「スマイルプリキュア! 」の頃だったので、父の仕事を「どや!」って見せたいと思っています(笑)。

――(アバターを見ながら)ところで、田中さんが「スマイルプリキュア!」でよく見た服を着ていらっしゃるのが、とても気になっているのですが……。

田中:
お気づきになられましたか…。これは主人公たちの通っている学校の制服です。

――これは、あの……私でも着られるのでしょうか?

田中:
もちろんです。Gugenkaさんの「Make Avater」から利用できます。

田中:
彼女たちと同じ制服を着ることで、自分も同じ学校に通っているんだ、プリキュアたちと同じ世界にいるんだと、より没入していただくために実装しました。私はあえて学校にいるモブキャラクターのような見た目にしてみました(笑)。

三上:
今回「HoloModels」のデジタルフィギュアシリーズとしても、商品化させていただきました。ライブのエンディングで使われているデータを使った形でデジタルのフィギュアとして発売しています。

――「HoloModels」を利用すれば、デバイスをつかって実際の部屋の中にデジタルなキャラクターを呼び出せますね。以前、VTuberの東雲めぐさんが登場した際にディスプレイしていました。

三上:
このデジタルフィギュアシリーズの中に「プリキュア」が登場したのは胸が熱くなります……! 自腹で7つも購入してしまいました。

田中:
ありがとうございます(笑)。

三上:
Meta Quest3などのMR対応デバイスをお持ちの方は、まさにお部屋にキャラクターが出現したかのような体験が可能となっています。

ワールドを巡って見えてくる、細部のこだわり


三上:
まれに、シプレとコフレが出現して、このワールドについて話してくれることもありますね

――プリキュアが近くに来てくれて、一緒に写真撮れるんですよね。本物に会えると……。

三上:
そうですね。他にも展示ブースや、変身バンクを振り返られるブースなども用意しました。

――一番端には、ブンビーさんの写真を置いてあるのは愛情を感じますね……。

一同:(笑)

田中:
「プリキュア5」を好きなスタッフがチョイスしました。愛されているキャラですね!

――自分も大好きだったので、スタッフの方の愛を感じられて嬉しいです!

三上:
(しばらく会場を歩きながら)シアターでは、変身バンクの上映と、1話の試写会もやってます。あえて少し狭めにしています。

――なぜ狭くしたのでしょうか?

三上:
変身バンクに集中していただくためですね。空間そのものが変身バンクに連動していて、演出で色を変えているんですよ。

三上:このハッピーロボも、まれに動き出します。

――これはリアルではできませんね! 「ハッピーロボを作りましょう」と提案した方の、スマイル愛はすさまじいですね。

田中:
提案したのは僕です(笑)。このロボットは一話しか登場していないのですが、記憶にこびりついてしまっていたので。

――(コーディネートルームに入って)入り口から可愛らしいですね。

三上:
こちらはドレスコードが決まっていまして、必ず「Make Avater」のアバターに着替えていただく必要があります。ペデスタルで着替えられますが、制服を買っている人はその服で参加いただけます。

360度楽しめるステージ

三上:
(ライブステージに入場して)ステージは様々な角度から観られるようになっています。一部ではステージ自体が変形する演出も入っていますので、そこも是非楽しみにしていただきたいです。


――ミュージックステージはプリキュアたちの実在感が素晴らしいですね。

田中:
そうなんです! ここにいます、プリキュアが!

――近くまで見に行けてしまうことも驚きでした。

田中:
「せっかくのVR空間なので、360度見せたいですね」と提案したら、「できます!」とGugenkaさんが制作してくださいました。

――通常のライブでは、上から見下ろしたり、裏側からのぞいたりできないですからね。

三上:
アーカイブがあることで、何度もさまざまな角度で楽しんでもらえますね。バーチャルならではの特別感があると思います。ダンスも後ろから見てみたいと思わせるところがありますね。

ショーの観客は街の住人

――(ステージを見回りながら)、完全に街の中なんですね。

三上:
街の中にプリキュアが現れるショーになっています。

田中:
プリキュアといえばキャラクターショーも大事なコンテンツの1つです。今回はなかなか本格的なキャラクターショーができたのではないかと思っています!

――VR空間で戦闘シーンを再現するにあたって、モノの重量感の表現はとても難しいものだと思いますが、今回はどのようにこだわったのでしょうか?

三上:
アニメ内の世界にある空気感やモノの重量感を参考にしてこだわりました。体感していただけると嬉しいですよね。

田中:
今回のシナリオでは、ユーザーは街の中でプリキュアに会う体験ができるようになっていて、この世界の住人の気分になれるところもよいですね。

――変身シーンはどういう点に力を入れていましたか?

田中:
演出するうえで難しいのは、アニメと違って、変身時にカメラワークがないところです。アニメでは、カット割りで「この時はこの角度で映してみたい」といったことができますが、VRでは常に全部が見えている状態なので、カメラワークやカット割りがなくとも、どの角度からでも見栄えが良くなるように意識しましたね。

――制作はとても大変そうですね。

田中:
めちゃくちゃ大変でしたよね(笑)。

三上:
そもそも関係者全員で「どういったショーにしたいのか」の共通認識を持つところからすでに大変でした。誰も見たことがないものだから、同じイメージを持つことができなくて。ちょっとずつテストしていって、少しずつイメージをつけていきました。

田中:
アニメの会社なので、アニメとVRの表現の違いを知るというところから手探り状態でした。何度もフィードバックして直しての繰り返しでしたね。

三上:
絵コンテ的なもので共有するよりも、舞台のように実際に人間が立ち位置を確認して演技した方がイメージつきやすかったんですよね。最初のテストでは、私たちでポーズを取って実演してみたりしました。ただ私たちは空を飛べないんですよ(笑)。「ここでジャンプして攻撃する」と台本にあっても実演できないので、そういったところをどうするのかを考えること含めて面白かったですね。作りながら新たなチャレンジを続けていた気がします。

かわいいものを見せるために心血を注いだ

――戦闘シーンの奥行きの表現は見事なものに思いましたが、こちらも苦労されたポイントでしょうか?

三上:
作る時にはデザトリアン(怪物)の大きさを再現できる術がないので「これくらいだな」っていう形を想定して演技していました。未知のやり方でしたね。皆さんプロだから、後半は全員が意味を理解していました。

――そもそもVRでこういったアクション中心のショーというのは珍しいですね。

田中:
キャラクターショーは本当にプリキュアらしいもの、東映らしいものだと思っています。歌って踊るショーはすでに多くありますが、戦闘シーンを含めたショーは、プリキュアならではのものだと思いますので、このショーを見ると、より「プリキュア」という作品について分かってもらえるのではと思います。

――バトル中のエフェクト表示やパーティクル(※本義は粒子を指す。VRChatでは、パーティクル中の光の粒子を用いた演出を指すことが多い)の使い方の調整はどのようにされてまし たか?

三上:
やはり「アニメにどれだけ近づけられるか」を考えながらやっていましたね。出来上がった仕上がりを見ると、アニメの中に自分がいる体験ができている気がしますよね……頑張った……!(笑)プリキュアを知らない方には、最初の3話を見ていただいた後にショーを見てもらえば楽しめるものになったと思います。その後は、全話視聴したくなると思いますね。
3話までに出てこない「キュアムーンライト」と「キュアサンシャイン」はどんなキャラクターなんだろうと興味を持ってくださるのではと。

――観客が「街の住人」になったとき、プリキュアたちとの距離感の見せ方で、気をつかった部分はありますか?

田中:
「プリキュアと同じ空間にいる」実感を欲しかったので、ステージはリアルであるキャラクターショーのような舞台を設けず、プリキュアと同じ目線で立って観られるようにしました。つぼみが街のみんなに「えりか見ませんでしたか?」と話しかけたりしますよね。導入から「プリキュアたちと本当にここで会話してるんだ」と感じていただけたのではないかと思います。。

――距離感に関しては今までの着ぐるみショーを参考にもされたのでしょうか?

田中:
もちろんです。着ぐるみショーのデジタル版といえる面はあります。ただ、キャラクターショーでは、本当に技を出すといった見せ方ができないところが違いかと思います。VR空間であれば、アクションも技も実際に見せられますし、大人が見ても楽しめるようなリッチなものが実現できたのではないかなと思っています。

――作っているスタッフさんたちが、めちゃくちゃプリキュアが好きなんだなっていうのが、ダンスもショーも見ていて感じました。

田中:
制作チーム一同、心血を注いで、いかに可愛く見てもらえるかを意識いたしました。

――取材のご協力、ありがとうございました。


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