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Oculus Rift 2019.03.21

【体験レポ】Rift Sで体感する、Oculusの徹底的な「使いやすさ」へのこだわり

“——ハイエンドなPC向けのVRでは、素晴らしい体験ができる。しかしセットアップには時間がかかり、決して手軽と言えなかった。”

フェイスブックでAR/VRパートナーシップ&コンテンツ部門のVPを務めるジェイソン・ルービン氏は、サンフランシスコで開催されたプレスイベントでそう語りました。

このプレスイベントで、OculusはPC向けの新型VRヘッドセットOculus Rift S(以下、Rift S)を発表しました。Rift Sは2018年11月よりリリースの噂がされていたPC向けのVRヘッドセットです。2016年3月に発売されたRiftの次世代機種として、2019年3月のタイミングで発表されました。価格は49,800円、2019年春に発売予定です。

本記事ではGDCのプレスイベントで体験できたハンズオンを、トラッキング・コントローラー・そして装着感の3つの観点からレポートします。

なお、性能等の詳細は速報記事をご覧ください。

性能ではなく、トラッキング方式で“次”へ

OculusはRift Sを「Riftの次のステップ」と称しています。この「次」が意味するのは、解像度の向上などの“単純なスペック・性能差”ではありません。実際のところ、見え方は改善しているものの、初代Riftと比べて「劇的に変わった」とは感じません。それどころか、比較を行うと初代Riftよりも落ちているスペックもあります。

(参考)Riftとの性能の比較表

Rift

Rift S

解像度

1080×1200×2、OLEDパネル(ペンタイル配列)

1280×1440×2、LCDパネル

リフレッシュレート

90Hz

80Hz

レンズ

フレネルレンズ

新型フレネルレンズ

Oculusが「次のステップ」へ推し進めたのは解像度や性能ではなく、そのトラッキング方式です。RiftではPCとUSBケーブルで接続した外部センサー(赤外線カメラ)を2台使用し、ヘッドセットとコントローラーから発せられる赤外線を認識、プレイヤーの位置や手の動きをトラッキングしていました。


(初代Riftに付属する外部センサー。これを2台セットしてVR体験を行っていた)

Rift Sではこのトラッキングが「インサイドアウト」と呼ばれる方式へ変更されています。インサイドアウト方式では、外部センサーを廃し、ヘッドセットに内蔵されたカメラを使用、コンピュータビジョンによりプレイヤーの位置を推定します。同じカメラを使って手のコントローラーの位置も認識します(Oculusはこのトラッキング方式をOculus Insightと名付けています)。

Rift Sは、Riftと完全互換のヘッドセットです。したがって、Riftと同じコンテンツが体験できることは至上命題。Rift同様のトラッキング範囲を確保するためにカメラは5基使用し、背中側まで手を回しても、ある程度のトラッキングが実現しています。

筆者がGDCのデモで試したところ、両手を伸ばしたまま身体の後ろに持っていく限りはトラッキングが続き、背中に隠れたり、後頭部にもっていったところでトラッキングされなくなりました。通常にプレイしている限りは全く気になることのないトラッキング範囲です。また、これまでのRiftと遜色ない高い精度で体験ができました。

Oculus QuestでもこのOculus Insightが搭載されていますが、カメラの数が4基と少なく、位置も異なるため、トラッキング範囲が異なります。


(ヘッドセット下部左右にある2基のカメラ、側面のカメラが後方までトラッキングする)


(ヘッドセット上部にあるカメラ、上方向はこのカメラ1基でカバー)

装着が簡単に。メガネでも安心

Rift SではRiftと比べて装着の機構が大幅に変更され、かなり簡単になりました。Riftでは、左右の側面と頭頂部をマジックテープで固定しましたが、Rift Sではレノボとのパートナーシップにより、PlayStation VR(PSVR)やMirage Soloと近い固定方法。前面は額を覆って固定し、後方はトグルを回転させて締めるタイプです。

Riftに存在していた決して小さくない課題として、顔に触れる部分が狭くメガネをつけてRiftを装着するのは難しいという問題があります。一方、新機種となるRift Sでは顔が触れる部分はある程度広くなり、メガネをかけているユーザーでも問題なく体験できるようになりました。また、ヘッドセットの底部にはボタンがあり、ヘッドセットの前後を調整できます。これにより、メガネをかけていても安心して使える設計へと変更されました。

また、鼻の部分の設計も変化して「鼻の隙間から光が入ってしまう」初代Riftの課題に対応。没入感が向上しています。


(初代Riftではフレームが細いメガネでギリギリ入る、といった程度だったが、この問題点が解決された)

コントローラーの使用感は若干後退か

「Touch」と呼ばれているコントローラーは、初代Riftからデザインが変更になりました。このデザイン変更はトラッキング方式の変更によるもの、手の上部に大きな円形の構造がくるデザインです。手にフィットさせるために手で棒を握るような設計になっています。

初代RiftのTouchコントローラーは手の様々なポーズに対応しており、指を開く動作も可能でした。「コントローラーを持っているはずがその存在が気にならない」ほどに手にフィットしていました。Rift Sのコントローラーでは、どうしても「握っている」感覚があり、筆者は、より自然な操作が可能なのは初代Riftのコントローラーである、という印象を受けました。

なお、このTouchコントローラーはOculus Questのものと同じモデルです。Oculusによれば、両方の機種を持っているユーザーは使い回すことが可能とのこと。ただし、「ヘッドセット単体での販売は今のところ考えていない」とのことでした。

使いやすさからのユーザー増を狙う

Rift Sは体験してみると、「Riftでできたことが、Rift Sでもできる」という印象が強く、性能面で大きな革新を感じられるものではありません。一方、「VRをやろう」と思ってからPCに接続し、プレイを始めるまでの過程にこだわっている、という印象があります。

トラッキングシステムの改善による最大の恩恵は、起動までの準備時間の短縮です。PCにケーブルを差し込むだけでプレイできるため、セットアップの時間は短くなり、固定方法の変更によって装着時間も短縮となりました。

実測をしないとどれほど短縮するのかは分かりませんが、同様に外部センサーが不要でPCに接続するだけでVRが体験できるタイプのWindows Mixed Realityヘッドセットでは、初代Riftと比べてもその手軽さは明らかなものでした。


(複数メーカーから発売されたWindows Mixed Realityヘッドセット群。インサイドアウト方式を実現しており、体験を開始するまでの手間は圧倒的に簡単だった)

また、一体型VRヘッドセットQuestとのクロスプレイやクロスバイといった方針、399ドル(国内価格49,800円)という価格の据え置きからも、Rift Sからは性能を向上させるのではなく、使いやすさを向上することでVRユーザー層をさらに拡大するという意図が見えます。

10億人にVRを届けるという目標を掲げているフェイスブック(そしてOculus)。Rift Sにもその思想は色濃く現れているようです。


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