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Meta Quest 2023.10.23

「なんのためのMRか」Meta Quest 3を実際に家庭で試して気づいた大きな恩恵

10月10日にMetaは新型のVR/MRヘッドセット「Meta Quest 3」を発売した。価格は日本で128GBモデルが74,980円から。公式サイトやAmazonなどのEC、家電量販店の店頭でも販売されている。

Quest 3は、一体型のVRヘッドセット「Meta Quest 2」の後継機となるデバイスだ。解像度は1.3倍程度に向上し、片目だけで2Kを突破。本体が薄くなり、重量バランスが調整されたので、装着しやすくなった。そして、フルカラーのビデオパススルーが搭載され、MR機能が使えることがセールスポイントになっている。

ビデオパススルーによるMR機能とは何かを説明しておこう。そもそも、ビデオパススルーとは、VRヘッドセットの前面についている数基のカメラで現実空間をキャプチャし、VRヘッドセットを装着しながら周辺の環境を見ることができるというもの。これを使ったMR機能では、現実の世界にメニュー画面や動画が表示されたり、現実の世界にバーチャルのキャラクターが出現したりと、文字通り「物理的な環境とバーチャルな環境が混ざっている体験」ができるということだ。

9月のカンファレンスMeta ConnectでQuest 3の詳細が発表された際、Meta側は「初めてMRデバイスをマスマーケットに投入する」と何度も豪語していた。筆者はConnectの現地に行っており、インタビューなどでMetaの幹部から直接話を聞いたし、デモも数種類試した。結果どうしても納得できなかったのが、「MR機能の意味」だ。

実際のところ、MRだからこその体験は、対応しているアプリがまだ少なく、デモを体験した限りでは、これから最適解が模索される領域のようだ。ようやく数が増えてきたQuest向けのVRコンテンツのストアにおいて、MRに対応しているコンテンツはわずか。”MRならでは”のキラーコンテンツが登場するのは、何年もかかるかもしれない。

一方で、Appleが“空間コンピューティング”として提示するような、現実空間が高精細に描画されて、まるで現実そのものな世界でインターフェースを拡大できるのかと言うと、そこまで解像度がないため、違和感は大きい。

どうしても、MR機能はまだ本領を発揮する手前のような「やっぱりQuest 3はVRヘッドセットだ」と言わざるをえないような出来なのだ。

Quest 3で“しなくなった”こと

では、今回のMR機能は“おまけ”なのだろうか?

筆者の家にQuest 3が到着して早速被ってみてセットアップ……しながら筆者はすぐにその答えを身をもって感じることになった。ビデオパススルーの精度とクオリティが上がったことで、VRヘッドセットを上にずらす必要が全くなくなったのだ。

これまでのセットアップでは、スマートフォンと接続するためにヘッドセットを上にずらす必要があった。Quest 3ではヘッドセット越しに周りが見えるので、スマホの位置もわかるし、何なら文字も読めないことはない(※スラスラ読めるわけではない、文字サイズが小さければ読めない場合もある)。セットアップ以降も、装着したままで快適にVRを楽しめる。

つまり、VR体験中「ちょっとPCやスマホを見たくなった」「飲み物を手に取りたくなった」「置いたコントローラーがどこにあるのか確かめたくなった」といった際に、いちいちVRヘッドセットを外すことな無くなったのだ。Quest 3はコンテンツを選ぶメインメニューの時点で常に周りが見えているし、ヘッドセットをダブルタップすれば、いつでも周りを見ることができる。繰り返すが「ヘッドセットを外さずに」だ。

そして、空間構造を把握するための3Dスキャンが自動的に行われるので、プレイエリアの設定も不要だ。壁に激突する心配も、事前にデバイスが教えてくれるのでしなくていい。どうしても自分でエリア設定をしたいときだけ設定が必要だが、そんな煩わしさからも開放される。これは思っていた以上に”快適”な体験だ。

コミュニケーションを阻害しないVR

周りが見えることの恩恵の2つ目は、人に関するものだ。

たとえば家族のいるリビングでVRをプレイするとき、ヘッドセットをつけている人は孤立する。3人家族がソファで隣に座っていて、息子はテレビを見ていて、妻は手元のスマホを、そして自分がVRをプレイしている。このときにVRをプレイしている人は異質な存在になってしまう。体験者からすれば、周りにいる家族は見えないから、存在は消えていくし、家族からすれば「周りを見ずに一人で何かをやっている人がいる」という状況だ。必然的に声をかけなくなる。

Quest 3では、見ようと思えば周りが見える=周りにいる人も見える。VR体験中に同じものが見えているわけではないが、いざとなれば、お互いを見てコミュニケーションをとれる。そういった点で、格段にコミュニケーションしやすくなっている。

複数人が同じ空間にいて全く別々のことをしていても、ふと話しかけてそこからコミュニケーションが広がっていく……。言葉にするのもどうかと思うくらい、集団を営む人間が何万年も前から普通に行ってきたコミュニケーションだ。これが阻害されないのは、VRヘッドセットを装着する際の心理的なハードルが大きく下がることを意味する。

シームレスさで守られる“没入感”

VR体験でよく使われる言葉に「没入感」という言葉がある。いかに現実とは異なるVRの世界にいる感覚を得られるか、VRヘッドセットの特長とも言うべき言葉だ。この没入感というものは往々にしてゲームなど「体験しているコンテンツそのものへの没入感」を指す。

VRヘッドセットによる没入感は、しばしば簡単に崩される。周囲の音が聞こえたとき、スマホの通知でバイブを感じたとき、飲み物を飲みたくてヘッドセットを上にずらさないといけないとき、エリア外に出てしまう境界線が表示されたとき、コントローラーが壁に激突したとき、声をかけていた家族と話さないといけないとき……。その没入感は100から一気に0になる。

Quest 3で感じたのは、本来100から0になってしまっていた没入感が、MR機能によって崩されきれないということだ。Quest 3ではヘッドセットを上にずらさなくていいので、コンテンツからは覚めてしまうが、VR体験自体はそのまま続いているような感覚になる。“VRを体験している自分の気持ち”が覚めずに残っているがゆえに、そのままコンテンツに戻ったときに感覚はシームレスだ。

100から0にならずに10や20は残っている感覚。筆者は、この感覚が0ではないことに非常に意味を感じた。

MRコンテンツを待ち望む気持ち

ここまで挙げてきたMRの恩恵はいずれも非常に弱いようで、これまでのVRヘッドセットが抱えていた問題の解決を図ろうとしている。MetaはMeta Connect 2023の2日目に開催された開発者向けのセッションで、MRの恩恵を語る開発者のコメントを引用した。

新規プレイヤーが(VRを)初めて体験するときの摩擦を減らしてくれるから、MR機能を魅力的に感じている

このコメントは、Mogura VRでもかつて取材したことのあるオランダのVRゲーム開発者トーマス・ヴァン・ボウエル氏(VANBO)によるもの。同氏はVRパズルゲーム「キュービズム」の開発者であり、Quest 2でいち早くMRに対応。いまは2024年に発売を目指してMRゲーム「レーザー・ダンス」を開発中だ。

そして「TRIPP」という代表的なVR瞑想アプリの実績として、パススルー機能を対応させたところ、アクティブユーザー数が30%増えたという例が紹介された。「周りが見える」ことがVRヘッドセットのハードルを下げるというのは、体験すると実際に納得できるポイントだ。

一方、Meta純正のMR機能をフル活用したコンテンツ「First Encounters」や、セガのリズムゲーム「サンバDEアミーゴ」を体験して気付かされるのは、「よくデザインされたMR体験は面白く、価値がある」ということだ。

コンテンツに頼らずとも恩恵を感じられるのがMR機能ではあるが、デバイスを購入した身としては当然コンテンツでもその機能を活かしたものが出てきてほしい。

冒頭の繰り返しになるが、Quest 3が発売された直後の時点では、MR機能に対応したコンテンツは少ない。Metaによれば、「2023年内に100以上」で、ストアに並ぶVRコンテンツの数に比べれば、まだまだだ。MRコンテンツの制作の方向性には大きく、「MRを前提としたコンテンツ」と「VRコンテンツとMRコンテンツが切り替わるもの」があるが、いまは実装しやすいという理由から、後者が多い。

それぞれのコンテンツごとに魅力は異なるので「どちらがより良い」というわけではないが、今後何年もかけて、MRの価値がコンテンツレベルで掘られていくと考えると、未来は明るいのかもしれない。

VR体験が現実と繋がる

MRは「Mixed Reality」、現実(Phisical Reality)とVR(Virtual Reality)を融合した状態を指す言葉だ。そのイメージはどうしても「現実世界にアバターが現れている」ような絵面になってしまいがちだ。筆者も頭では「VRとARをスイッチできる」のは、コンテンツレベルの話だと思っていた。

本記事で語ってきたMRの恩恵は、ヘッドセットでの体験を現実とシームレスに繋げて、不自然さを無くしていくものだった。さらにコンテンツレベルで融合が進むと、VR/MRヘッドセットはさらに化ける可能性がある。

前世代機のQuest 2に比べると値上がりしたQuest 3。まだ黎明期とも言えるMRに触れられるデバイスとしては唯一と言ってよい選択肢だ。ぜひ未来を先取りするためにも体験しておきたい。


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