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VRゲーム・アプリ 2023.03.28

VRゲームをたった1人で作り上げ、その後も新機能に次々対応できるワケ 「cubism」開発者インタビュー

2023年3月19日からサンフランシスコで開催されたカンファレンスGDC2023には、世界中からゲーム開発者が集結。その中にはVRゲームの開発者も多くおり、講演やネットワーキングなどが盛り上がった1週間となりました。

Mogura VRはGDC2023を訪れていたVRゲーム開発者に声をかけ、インタビューを実施しました。
1人目は、VRパズルゲーム「cubism(キュービズム)」開発したトーマス・ファン・ボウエル氏。ベルギーのブリュッセルを拠点になんと1人で開発したとのこと。

cubismは、ミニマルなブロックのデザインが印象的なVRパズルゲームです。2019年にOculus Quest/SteamVR向けにリリース。その後、Quest 2へのいち早い対応やハンドトラッキング、パススルーモードなど新たな機能に次々と対応してきました。

Quest向けのストアでは788件(記事執筆時点)と少なくない評価数を得ており、平均スコア4.8と非常に高い評価を獲得。ストアにある有料コンテンツの中では、上位20タイトルの常連です。

今回はファン・ボウエル氏に「cubism」の誕生秘話と新技術への適応のコツを聴きました。

はじめは趣味のプロジェクトだった

――VRにはいつ頃出会ったんですか?

ファン・ボウエル氏:大学で建築とエンジニアリングを学び、3年半ほど建築業界で働いていました。その後VRに出会い、建築やデザインをもう少し人間中心にするために、とても面白いと思ったので、VRに乗り換えようと思いました。建築では、私たちは図面や画面の中の3Dモデルでデザインしますが、VRではユーザーの視点で見ることができます。デザイナーにとっては、とても興味深いツールだと思います。そこで、2016年から2020年までの4年間、Insite VRというスタートアップで、建築家やエンジニアのためのVRデザインレビューツールを作っていました。

――cubismはいつ頃から作り始めたのでしょうか。

ファン・ボウエル氏:Cubismは実は趣味のプロジェクトとしてスタートしたんです。スタートアップで働きながら週末にたくさんのハッカソンやゲームジャムに参加して、2日間でプロジェクトを作るイベントでVRの作り方を学びました。ゲームジャムからゲーム作りにも興味を持つようになり、スタートアップで仕事する傍ら、ゲームを作ったり、ゲームジャムに参加したり、そういうことを続けていました。Cubismは、最初は週末のプロジェクトで、2日間で基本的な仕組みのプロトタイプを作ったんです。

そのプロトタイプを友人と共有したり、動画を作ってTwitterなどにアップしてみました。すると、このシンプルなゲームの仕組みに多くの人たちが熱狂してくれました。そこで、これを完全なゲームにしたら面白いかもしれない、と思ったんです。そして、2020年に発売されるまでの3年間、趣味のプロジェクトとして取り組んできました。

――なんと、リリースまで趣味のプロジェクトだったんですね。

ファン・ボウエル氏:正直なところ、予想以上にうまくいきました。そして、ゲームのアップデートにもっと取り組みたいと思ったんです。ようやくその頃から、フルタイムで働けるほど売れていたこともあり、ゲーム開発にフルタイムで取り組むことにしたんです。

核となったのは「ミニマルなVRゲームを作る」という想い

――cubismの核となるデザインはどのようなアイデアから生まれたのでしょうか?

ファン・ボウエル氏:最初のプロトタイプは、「Mini Metro」や「Trees」、「line lights」などミニマルなモバイルゲームにインスピレーションを受けて生まれました。どれもスマートフォンのインタラクションをうまく利用した、とてもシンプルなゲームです。そして、当時の私の知る限りVRにはクールでミニマルなゲームは見当たりませんでした。

VRで最小限のゲームを作り、VRに固有で、そして非常にうまく機能するメカニクスは何か? また、それ以外のものをすべて取り除き、核となるゲームプレイだけを実現できるものは何でしょうか? パズルの形状を理解し、ピースを3次元のさまざまな方向に器用に配置するには、VRが必要です。それくらいのアイデアでプロトタイプを作るのにちょうど良かったくらいでした。最初のプロトタイプでは、3つのパズルを用意し、ピースをパズルにはめ込むだけの簡単なパズルです。

そして、オフィスに持ち込んで、当時の上司にプレイしてもらったんです。上司のひとりは、たった3つのパズルだけで1時間くらいかけて解いていました。ヒントを出そうとしたんですが、「ノー」と。そんなに夢中になっている様子を見て、「このアイデアは何か特別かもしれない」と思いました。彼らはパズルに没頭しているのです。パズルに没頭するあまり、VRの中で自分たちでパズルを解きたいと思うようになったわけです。それがVRで最小限のゲームにするためのアイデアだったんです。

――プロトタイプから3年間で、どのように製品版を作っていったのでしょうか?今はパズルが90個以上ありますね。

ファン・ボウエル氏:プロトタイプの後、最初に作ったもののひとつが、ゲーム内のレベルエディターでした。というのも、パズルを考えるには、パズルのデザインを何度も見直す必要があると思ったからです。だから、素早く反復できるツールを作ることは、とても重要なことだと感じています。簡単なゲームでも完成までに3年かかったのは、趣味のプロジェクトみたいなものだったからです。

また、(今思い返すと)パンデミックの前だったことも大きなメリットでした。多くのイベントに参加し、ゲームをプレイしてもらえました。多くの人のプレイを見て、問題に気づくことができました。ゲームをしたことがない人や、ヘッドセットをつけたことがない人でも、誰でも楽しめるような作品になればいいと思っています。イベントでは、VRをやったことのない多くの人たちに体験してもらうことができました。

――シンプルなゲームデザインもそうですが、キューブを掴んだり、はめたときのハプティクスフィードバックと音が心地よくて、楽しいポイントだと思っています。

ファン・ボウエル氏:ありがとうございます。長い時間をかけて細部まで洗練させることができるのはいいことです。また、このようなミニマルなデザインのゲームの良いところは、非常に小さなディテールにも集中して、より良いものを作ろうとすることができるからです。

シンプルだからこそ新技術にもどんどん対応

――もう1つ、cubismで非常に印象的な部分は、新しい技術を非常に速くキャッチアップしていることです、Quest 2の120Hzモードやハンドトラッキング、パススルーもそうですよね? なぜそんなに速くキャッチアップしてるのでしょうか?

ファン・ボウエル氏:VRでゲームを作るモチベーションが続いているのは、VRでできる素晴らしいことがたくさんあり、新しいものがたくさん出てくるからです。なので、そういった新しいものを探求するのはとても魅力的だと思っています。cubismはシンプルなゲームなので、新しい技術に適応させるのは比較的簡単です。

もちろん、ハンドトラッキングはまったく新しいインタラクションで難しかったですが、それでもゲームの範囲は小さいので、「cubism」自体、新しいことを試すにはとても適した遊び場になりました。通常、開発者は新しいAPIが一般に公開される前にアクセスすることができます。ハンドトラッキングは、一般公開される前に長い間、開発者向けにAPIが公開されていました。パススルーARも同じです。

――色々触ってきた中で、これまでで一番印象的だった技術は何ですか?

ファン・ボウエル氏:パススルーARです。特に、ハンドトラッキングやScene Understadning(シーン理解)など、さまざまなものと組み合わせることで、デバイスが壁の位置や家具の位置を把握します。

バーチャルなオブジェクトとリアルなオブジェクトを混ぜ合わせると境界線が分からなくなってきます。まだ発展途上ですが、このような技術から、本当にクールな新しいタイプのゲームが生まれると確信しています。

――パススルーARが登場する前は、HoloLensやMagic LeapなどでARゲームが作られていました。

ファン・ボウエル氏:透過型のデバイスだと視野が非常に限られています。できることを少しずつ減らしていかなければならなかったのですが、Questでは初めてMRをデザインできるようになったと思います。

ツールが進化すれば、開発中のゲームも一緒に進化する

――次回作はすでに作られていたりするのでしょうか?

ファン・ボウエル氏:「Laser Dance(レイザーダンス)」というゲームの開発を薦めています。「Laser Dance」は、ルームスケールのパススルーARのために、いちから設計した新しいゲームです。リビングルームや寝室を丸ごと障害物コースに変えます。プレイヤー各自の部屋に合わせてパラメトリックな方法でレーザーを作り、その中を全身で移動するのです。

「Laser Dance」のアイデアは、ルームスケールのパススルーに必要なシンプルなゲームプレイに絞ったことで思いつきました。そうすることで、この技術を最大限に活用することができます。繰り返しになりますが、VRに関する技術はとてもクールで、何かその技術にネイティブなことをしたい、それが新しいことに取り組み続ける原動力です。

開発はかなり初期段階で、このゲームのベースとなっているツールは、まだ進化しています。「Laser Dance」は、Meta Scene APIという、部屋や家具などをマッピングするためのツールセットで構築されています。このツールが進化すれば、ゲームも一緒に進化する。まだ未完成ですが、すでにプレイアブルデモがあります。そして、自分の家でベータテストができるような状態にまで持っていきたいと思っています。

このゲームの大きな課題は、レーザーパターンが物理空間に対して非常にパラメトリックであるため、プレイする物理空間によってプレイが大きく異なるということです。家というのは、世界的に見ても地域ごとに大きく異なります。そのため、より多くの人がプレイテストをすればするほど、より多くの例外を発見することができると思います。

レーザーダンスの仕組みは、まず部屋をマッピングし、壁の反対側の端に縦長のボタンを2つ配置します。そして、ボタンを押すと、レーザーのパターンが発生します。

プレイとしては、例えば家具を囲むようにレーザーのトンネルができて、そのトンネルをたどっていくような感じになります。あるいは、弧を描くようにレーザーが飛んでくることもあります。軍隊ばりに床を這わなければならないとか、そんな感じです。

部屋も違えば、人も違います。そこで、プレイヤーが身長や低さを設定できるパラメーターをいくつか用意しました。例えば、誰もが床を這うことができるわけではありません。

そのような設定ができれば、パラメトリックレーザーパターンもそれに適応して、可能な限りアクセシブルなものにしようとします。それはとてもチャレンジングなことです。例外がたくさん出てくるので、設計が難しくなります。

だからこそ、たくさんの人と一緒にプレイテストができたらいいなと思います。

――ありがとうございました。

cubism:Quest版SteamVR版


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