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VTuber 2023.06.12

詰め込んだのは、こだわりと愛。「ぽこピーランド」建築班「狸豆建設」メンバー座談会

VTuberの甲賀流忍者ぽんぽこピーナッツくんが作った、VRChatの遊園地「ぽこピーランド」。公開されてからというもの常に誰かが遊んでいたり、突発イベントが行われたりと大盛況だ。

何より1つのマップで完結していること、乗り物が乗りやすくて酔わないこと、ぽこピーを知らなくても楽しめることなどが話題になり、VRChat内のワールドとしての完成度が非常に高いことでも評価が高い。

まさに創意工夫の詰め合わせであるぽこピーランド。MoguLiveは今回、実際にモデリングやデザインなどを行った建築班「狸豆建設」メンバーとぽんぽこ本人を招き、細かなこだわりや裏話がたっぷりの座談会を開催した。

(インタビュー・執筆:たまごまご、編集:浅田カズラ)

目次

座談会参加者
多くの人を突き動かすぽこピーランドの魅力
「狸豆建設」のはじまり
細かなところまでしっかりと。建設班がこだわった部分を聞く
見えない場所に眠る大変な苦労
”ファン寄り”になりすぎないバランス感覚
完成したランドを前に、建設班が感じたこと
ぽこピーランドと狸豆建設の歩みは始まったばかり

座談会参加者

甲賀流忍者ぽんぽこ:企画
ぬるもと:ワールド設計、モデリング
キクラゲ:メインモデラー
衛星ライト:モデリング
いおり:ホラーアトラクション
bironist:ギミック
だいまる:コンセプトアート、建物外装内装デザイン
ハムカツ29:メインロゴ、2Dデザイン

甲賀流忍者ぽんぽこ(以下、ぽんぽこ):
こーんにちにんにん! ぽんぽこだよ~! 本日はよろしくお願いします!

ぬるもと:
普段は「バーチャルマーケット」のユーザー出展会場などを担当しています。ぽこピーランドでは全体的な設計とモデリングを担当していました。よろしくお願いします。

キクラゲ:
普段はぽこピーのオタクをしながらモデリングなどしています!「ぽんぽこ24」では同時視聴ワールドを作成させていただきました!ぽこピーランドではメインモデラーとして、ランドの建物全般・小物全般を作ったりしています。よろしくお願いします!

衛星ライト(以下、衛星):
すでに狸豆建設は抜けてはいるんですけど、建設に携わっていたものとして今日は参加させていただきます。モデリングを担当しています。よろしくお願いします。

いおり:
「バーチャルマーケット」の企業ワールドなどを制作してきました。ぽこピーランドではピ虐をさせていただきました(笑)。ランド内でも毛色の違う部分を作らせていただいています。よろしくお願いします。

bironist:
VRChatでは普段ゲームワールド作ったり、おもちゃのギミックとかを作ってる者です。ぽこピーランドではワールド全般の、ホラーエリア以外のギミック全般を担当しました。よろしくお願いします。

だいまる:
ぽこピーランドのコンセプトアートと建物の外装と内装デザインを担当させていただいてます。よろしくお願いします。

ハムカツ29:
普段はぽこピーのオタクをしながらグラフィックデザイナーをしています!ランドのメインロゴや園内の細かいデザインを担当しました。よろしくお願いします!

多くの人を突き動かすぽこピーランドの魅力

――ぽこピーランドの今の人気ぶりを見ていかがですか?

だいまる:
あまり実感がないです。まるで他人事のような気がするくらいです(笑)。

キクラゲ:
ぽこピーファンの方々がいっぱい来てくれるんですけど、そうじゃない人も結構来てくれていて、本当に嬉しいです。

衛星:
今後VRChatのすごいワールドを見たときに「ぽこピーランドみたいだね」って言われることもあるのかなーと思うほど、あらためてすごいクオリティだと感じていますね。

――ぽこピーランドに行くためにVR機器を買ったという人もいるみたいですね。

キクラゲ:
「PCまでそろえた!」という人もいますね。「アバターを作り始めた」という人もいっぱいいて。

ハムカツ29:
みんなBlenderいじり始めてる!(笑)。

キクラゲ:
ぽこピーランドは着替えギミックもあるので、それを見て自分のアバターに着替えさせたいって思ったんでしょうね。3Dアバター作るの、めちゃくちゃ大変じゃないですか。そこに飛び込んでいくのは本当にすごいパワーだと思います。

ぽんぽこ:
チェキ会に来てくれたファンの方で「わ~!!意外だな~!!」みたいな人がハマっていることにも気づいたりしました!

「狸豆建設」のはじまり

――ぽこピーランド建設にあたって、ぽんぽこさんから建設班のみなさんへは、どのように話が持ちかけられたのでしょうか?

ぽんぽこ:
まず、ぬるもとさんには私から連絡しました。「バーチャルマーケット2021」の「Snowman’s Toy Factory」を見たのがきっかけですね。

ぬるもと:
そこから、今までぽんぽこさんのワールドをお手伝いしてきたキクラゲさんや衛星ライトさん、だいまるさんなどを紹介していただいきました。

だいまる:
僕は岩手県のゆるキャラグランプリのときに、握手列に並んでいたら「だいまるさんにお仕事を考えてるんで」って言われてたんですよね。その時は話半分で、本当に来たら嬉しいな~って思ってたら、、その後「部屋の背景を書いて欲しい」「それと別にぽこピーランドをこんな感じで考えている」と依頼いただいて。話をもらってからいったん、家の周りを散歩しましたね(笑)。

キクラゲ:
めちゃくちゃわかるー! 自分は2021年ぐらいに、ぽんぽこさんから「ぽこピーシネマ」っていうVRChatワールドについて色々話している時に、「いつかぽこピーの遊園地を作りたいんですよ。手伝ってもらってもらえますか」って軽い感じで言われて、自分も家の周りをウロウロしました(笑)。

ぽんぽこ:
建設に関わっていただきたい人は、最初から自分の中ではまとまってはいたんですけど、「バーチャルマーケット」でのチーム制作に慣れているぬるもとさんにまず指揮官としてお願いして、ぬるもとさんが一番やりやすいようにしていただくのが成功への鍵だと思っていたんです。

なので、一旦ぬるもとさんに全体を確認してもらって、その後にキクラゲさんへ依頼しました。キクラゲさんはファンアート募集からなんですよ。3Dの映画ポスターを作ってくださったんですよね。

キクラゲ:
「このポスターの中に入れますか?」って言われました(笑)。そういうところから今につながって、本当に楽しくものづくりさせてもらっています。

細かなところまでしっかりと。建設班がこだわった部分を聞く

――ぽこピーランドで建設にあたって、建設班のみなさまのこだわりの部分など教えてください。

bironist:
ギミック担当として気をつかったのは、「ワールドを重くしないこと」です。自分のワールドでは一つのワールドに一つのゲームなので、それさえ動けば大丈夫ですが、ぽこピーランドの場合には大量のアトラクションが同時に動きます。一つのアトラクションが他のアトラクションに影響を及ぼすわけにはいかないので、全体の負荷を考えて、重くなる処理が集中してしまう状態を避けなければならない、ということは一番気をつけました。

いおり:
ホラー(ピ虐研究所)担当として、「ピーナッツくんを一番怖がらせられるのはどんな方向かな」と考えつつ、見ている側が楽しいのはどんなのものかも研究して今のような形になりました。「ピ虐」動画などは見まくって、どれが一番驚いてるかなとか、ですね。ジャンプスケア(突然の音や映像で驚かせる演出)は嫌がる人もいると思うんですけど、今回はそうした思惑もあって入れた次第です。

ぽんぽこ:配信者はジャンプスケア好きなんで!(笑)

(一同笑い)


(本当に怖いと大人気の「ピ虐研究所」)


(ジャンプスケアが苦手な人対策に、おまもりを使うとイージーモードになる仕様も)

いおり:
ホラーとしてのクオリティを上げることにも苦心しました。あんまり短いと拍子抜けするし、かといって容量は大きくできないので、使い回しと思われないようにうまく使いまわしています。車椅子や懐中電灯、死体袋なども、グロくなりすぎない程度に気持ち悪くなるよう、気をつけつつ力を入れて作りました。

「ピ虐研究所」の建物自体も、全体の構造はもちろん、どんなギミックを入れるか、驚かせ方をどうするかによって作り込んでいます。

だいまる:
自分の場合は「取ってつけたようなデザインにはしたくない」ということに尽きますね。「このオブジェクトはなぜあるの?」と聞かれても、その理由をちゃんと答えられるデザインにしています。

たとえば「豆の湯」の建物は、原宿にある「ラフォーレ原宿」の見た目を叩き台に、サウナっぽい外観として調整しています。タオルがあるところは、もともとの「ラフォーレ原宿」では広告用の垂れ幕がある場所です。


(集合写真に最適なスポットのサウナ)


(ラフォーレ原宿をモチーフにした外観は本物と比較してみよう)

だいまる:
大きなディスプレイも、サウナの埋め込み式テレビモニターみたいにしています。VRはファンタジーなのでごまかしはできますが、だからこそ芯の部分はしっかりしないと、ズラした時が面白くないんですよね。なので、理屈をもって物を配置するように心がけています。

ぽんぽこ:
こういう考え方のおかげで、バーチャルなんだけどめっちゃリアルの遊園地に来てる感があるなって思えるんですよね。

ぬるもと:
僕は全体の動線などを一番最初に気にかけていました。まず、落ち着いた待機地点から始まって、いかにもVRな演出を挟んだ後に、高台からランド全体をドーン!と見せる。そこから降りて中央まで行き、ぐるっと見渡すといろんなものが詰まってる。そして奥へ行くにつれてだんだんと高台になっていき、様々なものが見えていく……という構成には注力しました。


(入ったときのワクワク感、入ったあとのドキドキ感を感じさせる動線ができている)

ぽんぽこ:
最初の設計図の段階では、各施設などは記号で示されていたんですけど、あのときからもう「遊園地」ができてたんですよね!


(スケールサンプル画像。2022年5月の時点で、ほぼ完成形と同じだ)

――たしかに、すでに動線が見えていますね。

ぽんぽこ:
この時点で完成してますよね!

ぬるもと:
ただ、VRは入ってみないとわからないことが多いので、最初は単純な形で組んでみて、VRで入っては調整を繰り返していました。

キクラゲ:
最初の想定ではアトラクションの数はもっと少なかったんですが、実際に歩いてみると「これじゃ絶対に足りないな」……という実感がありました。これが今のランドのボリュームに繋がっています!

――全体を歩き回る場合の時間の目安はあったんですか?

ぬるもと:
最初は建物の数と面積が目安になっていましたね。

キクラゲ:
自分はディズニーランドの敷地面積とアトラクション数などを調べたりしてましたね。どれぐらいの大きさだと、どれぐらいの体験なのか、みたいなことを相談したおぼえがあります。


(キクラゲさんによるスケール感に関するメモ。意外にもぴったり……!)

――これはすごい!ここまで考えてスタートしてることは、来た人みんなに知ってほしいですよね。

ぽんぽこ:
そうなんです。これが狸豆建設なんです。あ、ぽこピーは話し合いに参加していないです(笑)。


(2022年6月時点の全体ラフ。下には琵琶湖がある)

ぽんぽこ:
ちなみにこれは去年6月時点の全体ラフです。「巨大ぽこピー」は早い段階で作られてましたね。

ぬるもと:
クオリティの指針として1つ先んじて大きいものを作っておき、それをベースにしてメンバーにほかの建物を合わせて作ってもらう、という流れを組んでました。

ハムカツ29:
自分は2Dデザイン担当として、ランドがほぼ完成している段階で加入しました。みんなが目指す方向性や世界観を大切にしつつ、「ここが整ってると更にいいよね!」という部分をデザインしています。気づかれにくい部分だけど、細かいところまで作り込まれていると没入できますよね。

例えば、ぱっと目につく自分のデザイン担当箇所は、ランドのロゴやショップに並んでいるクッキーボックス、「グミコースター」のロゴなどです。一方で目立たないところだと「チャンチョの占い館」で出てくる占い結果の紙のデザインとか、占い館の前に置いてある看板のデザイン、あとはP.PADのメニューのアイコンなども作っています。

みんなが細部まで凝視するわけじゃないので、何も気にせずフリー素材を使ったっていいんです。でも、そこに「ぽこピーランドらしさ」があることで来園者の体験価値が上がるはず!と信じているので、こだわって作ってます。縁の下の力持ち担当ですね!

キクラゲ:
やや、縁の下どころか、メインロゴはもうランドの顔ですよ!


(できあがった「グミコースター」ロゴ)


(入り口からすぐのショップで時間を取られる人続出。クッキーボックスは是非開いてみてほしい)


(「チャンチョの占い館」は隅々までデザインにこだわりが見られる)

――ショップで売ってるものは細かくできていて、「現実でも売ってほしい!」という人はいっぱいいましたね。

ハムカツ29:
クッキーボックスは、続・ぽこピー展のグッズで「ぽこピーランドのお土産」として実際に商品化してもらいましたね。本当にうれしかった〜!

ぽんぽこ:
現物見た時やばかったです! VRChatの中でも、クッキー箱をさわったときの開き方がすごいんですよ!! 実際ありそうな感じなんです。

キクラゲ:
モーションはリアルっぽさにこだわってます。ぽんぽこさんはめちゃくちゃ細かいところに気づいてくれるので、作りがいがあります!

ハムカツ29:
自分の作ったデザインが、キクラゲさんやbironistさんの手で、想像以上の動きをつけてもらえたときもめちゃくちゃうれしかったですね。

キクラゲ:
やっぱり「仲間同士で驚かせたい」っていうのはありますよね。

だいまる:
それはある。一番に見てもらいたいのは、狸豆建設のメンバーなんですよ。だからDiscordサーバーに作ったものを上げる時はめっちゃ怖いもん(笑)。

ぽんぽこ:
褒め合うだけじゃなくて、意見も言い合えるのがすごいんですよ。私の場合、VTuber同士でも、そこまで意見を伝え合うって機会はあまりないので。

だいまる:
ヒートアップするときもあります。

ぽんぽこ:
そういうときにチャットを見ながら、うまいことまとめてくれる人がいるんです。

キクラゲ:
ぬるもとさんが最後はだいたい良い感じにまとめてくれますね!

だいまる:
おかげさまでみんな”角”を出しながら制作に打ち込めました。

――切磋琢磨ですね。「いいね」ばかりだったらいいものってできないでしょうね。

ぽんぽこ:
「ここちょっとこうしたら」って、本来私たちの仕事だったのかな(笑)。でも全部「ランドのクオリティのため」って伝わる話し合いなんですよね。ありがたいことです……

衛星:
僕は「ぽんぽこのお茶会」を最初のころから担当していました。建設中、1年近くは手直ししてましたね。


(酔わないと評判の「ぽんぽこのお茶会」。視点の誘導が巧み)

ぽんぽこ:「ぽんぽこのお茶会」は、VRで来た人はマジで一番に行ってほしいですね。「VRであることのよさ」が全部つまってます。

――「ぽんぽこのお茶会」は酔わなくてすごいって声を聞きますね。

衛星:
乗り物は酔いとの対決だと思い、いろいろ試行錯誤していました。最初は爆速で回してみたりしたんですが、ぬるもとさんには「またやってんなライトくん」なんて言われたりしましたが(笑)。

実際にできあがった「ぽんぽこのお茶会」では、目の前に出てくるぽんぽこさんに集中できるから酔わないようになっていますね。

ぽんぽこ:
上にぽんぽこがいて、真ん中からお茶が出てくる。二点に視線が集中するから酔いづらい。あのデザインはすごいですよ。

衛星:
建設中は内心ビクビクしながら作業してました。というのも狸豆建設のみなさん、デザインとモデリングのレベルが半端なくて……「すごいところに入っちゃった。やばっ!」と震撼してました。

でもみなさんにはとてもお世話になりました。特にキクラゲさんには、モデリングの仕方やテクスチャーの書き方などを教えていただきました。自分のモデリングは我流なんですが、チーム制作の上では変なデータが入ると問題が起こりやすい……ということも学びましたね。

キクラゲ:
自分はぽこピーランドを”現実にあるテーマパーク”にしたくて、とにかくこのワールドを没入感で満たしたいという思いがありました。そのためにも、「ボタンをさわる」「メニューを出す」といったインタラクションを、自然な形で作ろうとこだわりました!

わかりやすいのが「POKO’s KITCHEN」のハンバーガーで、ここはいわゆるコンプリート要素があるんですけど、そのゲーム性をどうやって見せようか悩みました。未発見のバーガーを「?」で表現しても没入感がない。色々話し合って、最終的にはショーケースに出現したハンバーガーが現れる形になりました。見た目にも可愛いし、「これを集める遊びがあるんだな」と一目でわかるようになったので、気に入ってるところですね!


(ガチャ形式のハンバーガーは、右の棚で収集状況の確認ができる)

ぽんぽこ:
没入感で言えば、入り口すぐの「SANZAI STATION」にある、カチューシャなどの試着コーナーもいいですよね。あれ、つけると「貸出中」になって、その場からはなくなるじゃないですか。あれがいいんですよね! バーチャルだからこそ誰かが借りてる方がいいし、バーチャルだからこそ遊園地で並びたいもの。

bironist:
貸出中になるのは負荷の問題で、出し放題にしちゃうと際限なく重くなっちゃうから、総数は制限したいという思惑もありましたね。

キクラゲ:
そのへんが見せ方とうまくハマってましたね。これってゲームじゃん、これってVRChatじゃん、って冷めてほしくない。

だいまる:
VRChatワールドに対するキクラゲさんなりの回答を、ランドで再現しようとしているのは感じますね。

キクラゲ:
色々なワールドを見ていて感じていたひっかかりを、ランドでは楽しく「遊園地」だって思ってもらえるようにこだわりましたね。

――便利なだけがVRではない、と。

キクラゲ:「ゲームだからできて当たり前」というのを、あえてできないようにわざわざ作るのも、ものづくりとして楽しかったですね。

ぽんぽこ:
各エリアにはP.PADで瞬間移動できるけど、電車に乗ることもできるとかね。

キクラゲ:
P.PADも「3Dモデルとして見せたい」って思っていました。グッズ化されそうなモデルにしたいし、メニューUIとして目の前に表示するんじゃなくて、実際手で持てるものとして出したいという話も出ました。

――P.PADを出すギミックはどのような発想からうまれたんですか?

bironist:
最初は来場者の腰あたりにつける予定でしたが、アバターはサイズがバラバラだから難しいと気づきました。どこでも取り出せるようにすると決めてからは、操作で誤爆しづらく、必要な時にすぐ出せる方法を考えました。

ぽんぽこさんが動画でやっていた動きを思い出しながら、最終的に両手を広げる動きに、忍術で印を結んで出すイメージも合致させた動きにしつつ、エフェクトも煙と一緒に出てくるように開発しました。このギミックは評判もよくて、いい感じにマッチしましたね。


(案内板のP.PAD。忍術っぽく取り出し、ワープ移動や実績確認が簡単にできるすぐれもの)

見えない場所に眠る大変な苦労

――制作中、ハードだったところと、サクッと作れたところ、それぞれお聞かせいただけますか?

ぬるもと:
小物・小ネタは結構好き勝手に、思いの丈を吐き出す感じでやっていたので、マジですんなり作れましたね。

キクラゲ:
「POKO’s KITCHEN」のハンバーガーとか、ガチャガチャの小物とか、あと着替えのアイテムとか。あの辺はネタ出しからモデル作成まで全部ノンストップで作れましたね。

bironist:
「GUMMY COASTER」の座席に置いていかれる現象は苦労しましたね。VRChatの長い歴史の中で、”椅子”は特に古い仕様と新しい仕様が増改築を繰り返してぐちゃぐちゃになっている鬼門なんですよね。

衛星:
Unityのプロジェクトの中に「椅子大臣ボタン」なるものがあって笑いました(笑)。

bironist:
そう、今回は椅子系を一括設定するため、Unity拡張を書いてツールを用意したほどです。そのくらい椅子はとにかくがんばりました! VRChatの椅子を制御する難しさはみんなにも同意してもらえるはず。

ぽんぽこ:
サウナとかで座ってくれている集合写真を見ると、うれしくなりますよねぇ。

――”座る”までの血と汗と涙が……

いおり:
「ピ虐研究所」の車椅子も最初はバグってしまい、上に浮いたりグチャってなったりで大変でしたね。ここもbironistさん製の椅子を使わせてもらって、うまくいったっていう経緯があります。

――そういえば、「ピ虐研究所」のロビーには「この椅子に座れたら大丈夫」というアナウンスがありますよね。

キクラゲ:
正確な説明は「Genericアバターの人はHumanoidアバターに変えてください」になるんですけど、説明チックな言葉にしたくなかったんですよね。なので「後ろの椅子に座ってみてね」という表現にしてみました。

――ランド内は専門用語を使う説明書きが少ないですね。

ぽんぽこ:
説明っぽいのを出さず伝えたいですよね。

bironist:
苦労話といえば、プレオープンの前日まで「ガチャを回し続けるとたまにすごく重くなる」という現象にとても悩まされましたね。

ガチャから出るアイテムは、あとから来た人でも出たものは見えるようにしつつ、重くならないよう使わなくなったものは速やかに消す処理を組み込んでいます。さらに、リサイクルボックスへ捨てた場合はガチャの中へ戻すようにしないといけなくて……いろんな要素が絡み合う中で、バグらず、かつ重くしないようにする調整が、一番苦労したかもしれないです。


(「ポコソー」のガチャガチャ。出てくるものの種類がものすごく多い上にマニアック)

キクラゲ:
ガチャを考えた時は「簡単に物が出るだけ」と気軽に言っていた気もしますけど、いざやってみたらめちゃくちゃ大変でしたね。気軽にお願いしちゃって申し訳ない!

衛星:
でも、そこがぽこピーランドのすごいところですよね。常に一つのインスタンス(VRChatにおいて、ワールドのデータをもとに作られる、実際に入場できる空間を指す)の上で、あらゆるギミックが続くように仕掛けが考えられている。

”ファン寄り”になりすぎないバランス感覚

――制作中に、今までと比較して考え方や、クリエイターとしてのあり方など、変わった部分はありましたか?

だいまる:
デザインする時の意識が少し変わったかもしれないです。僕はどちらかといえばオタク気質で、「お前ら知らんだろ」と言いたくなる小ネタを入れたくなるんです。でも、「どんな人が来ても大丈夫なように」と考えているキクラゲさんの話を聞いて、抑えめに意識したほうがいいんだろうなって思うようになりましたね。

キクラゲ:
一度めちゃくちゃディープなネタまで出してみるものの、いざ落とし込むときにマニアックなものを消したり、丸くしたりするように、ということは意識しましたね。

“尖ってる面白さ”はもちろんあるんですが、ぽこピーを知らない人にも遊んでほしいし、遊園地としての面白さを大切にしたかったので、尖りすぎないように落とし所を探していました。

ぬるもと:
それって「エンジョイガール事件(※)」のこと?

※エンジョイガール事件:
元々、各施設の受付役キャラには「オシャレになりたい!ピーナッツくん」のキャラ「社畜君」を起用する予定だったが、夢がないということで、ピーナッツくんがキャラを新規に描き下ろすことに。そのキャラは「ピーナッツくんのキャラのバ美肉」。しかしこれが問題視され、ぽんぽこ原案のキャラクターを清書することになった。これが現在の受付役キャラの「エンジョイガール」。


(数多の問題の末に生まれた、キュートなキャラクター「エンジョイガール」)

キクラゲ:
それもあるし、ライトさんとだいまるさんたちが、デカキン噴水にお尻をいっぱい浮かべるって話もしてたよね!

(一同笑い)


(もし最初の案通りだったら地獄絵図だったかもしれないデカキン噴水)

ぽんぽこ:
デカキンさんに、アニメでピーナッツくんがお尻を撒き散らすっていうネタのひとつなんですよね。

キクラゲ:
めちゃめちゃディープで面白いんだけど、「豆下通り」っていうおしゃれで可愛いエリアの噴水としては、モチーフとしてふさわしくないな、となってボツになりました。

ぽんぽこ:
もし、制作物が”ファン寄り”になっていたら指摘しないとな、とは思ってたんですよね。でも、最終的な塩梅はちょうど良かった。知らない人から見たら、ただのたぬきがハンバーガー売ってるだけなんだけれども、細かいところに小ネタがある。気づく人は気づく、気づかない人は気づかない、というラインでまとまってるのがすごいです。

キクラゲ:
一番うれしかったのは、「なんだかわかんないけど楽しい」って言ってくれる人が結構いることですよね。

一同:
あー!

だいまる:
まぁ、やりすぎたら止めてくれるだろうって安心している部分があります(笑)。

ぽんぽこ:
最近だと、だいまるさんが「JOY豆下」に、絶対わからないようなネタを入れているんです。最初のイベントのときに監視カメラを置いていたというネタなんですが、だいまるさんはめっちゃさりげなく置いてくれてるんですよね。可愛いのでそこまで気にならない。うまいラインで収める方法を覚えてきている感がありますね(笑)。


(すごくこっそり置かれている監視カメラ。スタッフの遊び心とこだわりが見える)

だいまる:
反省はしていないです! 姑息になっただけ(笑)。

――ぽこピーネタを盛り込むときの選定基準って、どういう感じでしたか?

だいまる:
過去の動画はだいたい拾ってきていますよね。

衛星:
そしてみんなネタを知ってる体で話すから、「知っているのが当たり前」になっちゃう。

キクラゲ:
ガチャのアイテムにバケツがあるんですが、だいまるさんに「バケツって何かわかる?」って聞いたら「分かるよ、チャンチョの家でしょ」って返ってきたので、わかるなら入れていいなと思ったんですよ。そしたら、他の人が誰もわかんなくて(笑)。

ぽんぽこ:
だいまるさんに聞いたのが間違いだった(笑)。

だいまる:
何言ってるの常識でしょう!

キクラゲ:
この基準で考えちゃダメだって思いました(笑)。

衛星:
ガチャで言ったらもっとわかんないのあるでしょ(笑)。

だいまる:
チャンチョの餅はほんとうにわからなかった。

ぬるもと:
分かってる人いないんじゃないかな。気になったらよしよし、みたいな。

だいまる:
みんな刺さってるところが違うから、出したい放題ですよね。「俺が刺さったものが意外とみんな知らん」とか、結構あります。

キクラゲ:
ぽこピーに5年分のコンテンツがあるので、「こういうの作りたい」と思った時に当てはまるネタが何かしらあるんですよね。キャンプ場を作りたいと思った時に、キャンプ動画がめちゃくちゃあったり。


(案出しに困らなかったというキャンプ場。中はしっかり作り込まれていて、のんびり休憩するのに最適)

だいまる:
キャンプ場づくりは楽だったねー。一番きつかったのは 豆下通り。本当に原宿の動画が何もない。

(一同笑い)

ぽんぽこ:
ないですよね。ぽんぽこチャンネルでのネタ登場はほぼゼロです(笑)。

だいまる:
確か、着ぐるみで歩いて、「ぽこピー知ってる人いますか」って尋ねる動画で一回。でもそれだけ。きつかったー。

ぽんぽこ:
でも豆下通りの存在はありがたいです。ピーナッツくんは今後も原宿原宿って言い続けますから。JKに人気だと(笑)。

完成したランドを前に、建設班が感じたこと

――ぽこピーランドが完成してから、VRで入った時にここ面白かったと感じた建物はなんですか?

bironist:
「グミコースター」はやっぱりよかったですね。

ぽんぽこ:
初めて見た時は泣きましたね! プリフランちゃん(プリフランボワーズ・映像ディレクター)の制作してくれたMVの世界が広がって、それがジェットコースターで体験できる。夢のアトラクションです!

だいまる:
あれはね、「うわー、客として行きたかった!」ってずっと後悔しています。

(一同笑い)


(超大作の「GUMMY COASTER」。MVの中に入ったかのよう)

衛星:
初見で来てみたかったよね。

ぽんぽこ:
記憶をなくしたかったね。 ところで、ジェットコースターで酔わないのは多分無理だろうと思って、USJの「ハリウッド・ドリーム・ザ・ライド」みたいにピーナッツくんの音楽を聞いて、アガって回るだけでも楽しいよねーって構えてたんです。そしたら、ジェットコースターは最後のおまけぐらいのテンションになっていて(笑)。そして意外と酔わないんですよ、あのコースター。

キクラゲ:
酔わないようにぬるもとさんが速度を検証していたんですが、「速すぎると酔わない」という発見があって面白かったですね。

――ぽこピーランドは酔わないことをすごく大事にされてるんですね。

ぽんぽこ:
そうですね、最初にピーナッツくんとぽんぽこが、ぬるもとさんに超お願いした部分です。

ぬるもと:
企画書を最初にいただいたときには「酔わない」って書いてありましたね。


(最初の企画書に書かれた「※酔わない」の大きな文字。「クリエイターの創作お披露目場所」というコンセプトにも注目したい)

キクラゲ:
狭くて壁が近いと、キョロキョロ見ていてすぐ酔っちゃうので、道には”抜け感”をもたせてあります。あと、階段は見た目通りの移動判定だと、VRでの視界が上下にガタガタ動いて酔いやすいので、移動時の挙動は坂を登るときの設定にしてあります。

だいまる:
サウナのレイアウトも、初期案は酔うっていう理由で変更してたもんね。

キクラゲ:
そうそう。最初、入り口はぐるっと回って入るようになっていたんですが、狭いところでくるくる回ると壁が近くて酔っちゃうんで、まっすぐ進む形に動線を変えました。

だいまる:
一来場者として見て面白かったのは、「SANZAI STATION」の試着コーナーですね。あそこは100%ギミックが占めているので、デザイン担当としては普通にお客として楽しめたところ。一番テンションが上がったかもしれないです。

ハムカツ29:
あそこでずっと時間使って遊べちゃうよね〜!

ぽんぽこ:
一人で遊んでいるとVRChatだと酔いやすいと思うんですよ。でも、誰かと遊んでいると意外に酔わない。鏡に映る自分を見ながらカチューシャとかをつけてる時は絶対酔わないんです。夢中になればゲームってことも忘れます。

キクラゲ:
手前味噌ですが、ぽこピーモニュメントをVRで見た時はちょっと感動しましたね。


(多くの人が撮影しているモニュメントは、実際に見てみると存在感がものすごく大きい)

――「ぽこピーパビリオン」にある着ぐるみの3Dモデルはどう作られたのですか?

ぽんぽこ:
「着ぐるみを3Dスキャンしたらどうなるのか」という動画企画でできたデータをいい感じに使いましたね。このために撮ったんだなって(笑)。

キクラゲ:
この着ぐるみのモデルは、最初「ぽんぽこ24」の同時視聴ワールドに設置するつもりだったんです。でもあまりに良すぎて、これをサブ要素として置くわけにはいかないって思い、ぽこピーランドまでとっておきました。


(3Dスキャンされたぬいぐるみ。質感がものすごく強い)

だいまる:
ちなみに実物より大きいんですよ。

ぽんぽこ:
実際に実物を見たら「でかっ!」って思う、あの感覚を再現したんですよね。

ぽこピーランドと狸豆建設の歩みは始まったばかり

――今後、ぽこピーランドで拡張したいところを教えてください。

キクラゲ:
拡張自体はもう予定が詰まってる状態です。

ぽんぽこ:
そうですね! 早速、第一弾アップデートとして、プリクラ施設「JOY豆下」がオープンします。スイパラコラボ仕様のカフェと同時に行けるようになりますよ。


(プリクラで撮影した写真。きちんと写真フォルダに収めて持ち帰ることができるギミックがユニーク)

ぬるもと:
「ガチ恋めいじゅ」やブルーシートがかかっている場所、「ラババンタワーレコード」も、まだオープンしていません。見えている準備中のものもいっぱいありますが、見せていない準備中のものもどうなるか……というところですね!

――最後に、VRChat、ひいてはメタバースで他にやってみたいものを教えてください。

キクラゲ:
「Sanrio Virtual Fes」は見ていてすごく面白かったので、自分もVRライブをいつか作ってみたいな―と思っています。

衛星:
私は今後もワールドを自分で作っていきたいです。直近でリアル展示会をやる予定があるので、それのバーチャル展示場を作ろうかなと 思っています。

ハムカツ29:
自分はVRChatに関わるクリエイティブをつくるのは今回が初めてで、知らないことだらけで本当に刺激になりました……。狸豆建設で得た経験を、今後もぽこピーのために発揮していきたいですね!あと、VRChatをやる友達がたくさんできて交流も増えたので、友達と一緒に何か作れたら嬉しいなと思ってます。

ぬるもと:
僕は「バーチャルマーケット」の会場などでワールド制作は行ってきたんですが、実は自分のワールドは作ったことがなくて。ちょっと時間ができたら、好き勝手ワールドを作ってみるのも面白そうだなと考えています。

いおり:
僕も公開してるワールドが案件や販売物サンプルのものしかなくて、自分の作りたいものを制限なく入れ込んだワールドを作ってみたいなと思っています。容量的には入れられなかったモデルとかがあるので。

ぽんぽこ:
いおりさんに投資するんでやってください! ホラーワールド無限に行きたいんで(笑)

だいまる:
僕はぽこピーランド以外にVRChat関係で携わることはないんじゃないかなあ。仮に、そんなに思い入れのない人のワールドデザイン考えてくださいってなったとしても、いやー愛がないから無理って言っちゃう。絶対に途中で面倒くさくなってやめそう。

ハムカツ29:
ぽこピーへの愛が原動力だからね。

だいまる:
愛がないと絶対サボる。ファンアート描いてオタ活できれば僕は幸せです!

bironist:
僕はゲームワールドもいっぱい作りたいし、ネタやアイディアも大量に溜まっているんで、みんなで遊べるゲームワールドは今までと同じようにどんどん作っていきたいですね。

ぽんぽこ:
bironistさんのファンに怒られてないか、ずっと心配してるんですよ。楽しいものをたくさん定期的に出してくれる方の貴重な時間を、ぽこピーランドに大量に割いてもらってきたので。

bironist:
ぽこピーランドで培った経験が、個人で作るゲームワールドにも還元されていくんで、プラスになってると思いますよ。

ぽんぽこ:
よかったです!今後も新作たのしみにしてます!

――最後に、ぽんぽこさんが今後VRChatなどでやりたいことを教えてください。

ぽんぽこ:
企画を考えるのがとにかく好きなんで、単発でみんなが動画撮れるような、15分ぐらいで遊べるようなものを作りたいです。VTuberがVRChatに来づらいのって、サクッと撮れる感じがないからかなと思っているんですよね。

カメラを入れたらショートのサイズの映像がすぐ撮れるとか、VTuberがコラボで遊ぶだけで、黒ひげ危機一発みたいなシンプルなショートが撮れるとか、そんなワールドがあるだけで、VRChatやってくれるVTuberがいっぱい増えて、動画も増えるんじゃないかなーと思っています。

VRChatの中でのVTuberって、めちゃくちゃ生きてるなって思っていて。生きて遊んでるところを簡単に撮れるなんて最高じゃんって。

――やはりVTuberさんがネタに使えるか否かは考えて作ってらっしゃるんですね。

ぽんぽこ:
そうです。VTuberさんがぽこピーランドの動画を撮ることで、そのチャンネルを知ってくれる人が増えたらいいなと思っています。気軽にみんなにぽこピーランドで動画を撮ってほしいと思っています。サムネとかタイトルにもガンガン使ってほしいな。

――ショーとかライブとかDJイベントは、ぽこピーランドでやってもいいのでしょうか?

ぽんぽこ:
めちゃくちゃやってほしいですね! もう自由に!弾き語りとか、Publicなぽこピーランドで街頭インタビュー企画とか。今までのVRChatって、日本人が普段からいるPublicワールドってあんまりなかったじゃないですか。定期的に盛り上げることによって、「ぽこピーランドに行けば日本人に会える」みたいな、撮影しやすい場所になったら嬉しいですね。

私自身、みんなでぽこピーランドで遊んだ時に、「VTuberが生きて遊園地で遊んでいる……!!」というのを目の当たりにして、VTuberを5年やってきた中で一番感動したんですよね。この感動をもっといろんな人に味わってほしいです。今後ももっとみんなといっしょに遊びたいですね!


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