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VTuber 2021.07.01

VTuberへの誹謗中傷や意図的な炎上工作はどこから犯罪? 弁護士に話を聞いた

VTuberが抱える数あるリスクのひとつが、ユーザーからの誹謗中傷。YouTubeのコメント欄やTwitterでのリプライでの書き込みにショックを受けて、活動休止や引退を表明してしまうケースも起こっています。


(画像:photoACより引用)

さらにコメントの一部を切り取り悪意のある編集をした動画の投稿や、本人の公表していない過去のプロフィールの暴露なども少なくありません。そういったネットでの書き込みは、一体どこからが犯罪として認定されるのでしょうか?

今回は、関真也法律事務所代表で、VRやVTuber関連の権利問題についても詳しい関 真也弁護士にお話を聞きました。

ーーそもそもネットでの書き込みによる誹謗中傷は、これまで具体的にどういったケースが法律上問題とされているのでしょうか?

関 真也:

特定の人を誹謗中傷する書き込みは、その方法や内容によって、法律上の責任をどう考えるかも変わってきます。そのうち、よく問題になるものをいくつか紹介します。

まず、公然と(つまり、不特定又は多数人が認識できる状態で)、本人の社会的評価を低下させる事実を適示した場合には、名誉毀損として書き込みの削除や損害賠償請求などの対象となる可能性があります。

また、場合によっては名誉毀損罪が成立し、処罰の対象となる場合もあります。ただし、適示した事実が真実であり、公益のために適示したなど一定の要件を満たした場合には、違法性がないと判断されることがあります。

インターネット上の掲示板、ブログ、SNSなど公開された場所で、本人が犯罪行為やセクハラ、パワハラ、虐待、脱税などの違法行為をしたという事実、あるいは不倫をしたなど貞操観念が低いとする事実などを根拠なく書き込むことが名誉毀損にあたることは比較的分かりやすく、実例も多いといえます。

しかしこれらに限らず、本人の職業その他の社会的地位などに応じ、その社会的評価を下げる行為は広く名誉毀損となる可能性があることに注意が必要です。例えば、接客業に従事する本人に関して、「タメ口」で「上から目線」で話すなどと指摘した記事を電子掲示板に掲載した行為も、失礼な接客態度をとる人物であるという事実を適示したものであり、名誉を毀損するものであると認めた裁判例があります。

VTuberについても、そのキャラクターなどによるかもしれませんが、配信時の態度を殊更に悪く指摘する書き込みをした場合には、名誉毀損となる可能性は否定できません。また、漫画家に影武者がいて、その漫画家自身はほとんど書いていないような誤った印象を与える雑誌記事が名誉毀損となり、損害賠償が命じられた裁判例もあります。このように、VTuberだけでなく、絵師さんに関する書き込みにも当然ながら注意が必要です。

また、事実を適示しなくとも公然と他人を侮辱した場合には、損害賠償などの民事責任に加え、侮辱罪として刑事罰の対象となることがあります。例えば、特定の人を指して「性格悪すぎ」、「ブス」、「死ね」のように罵倒する書き込みにつき、侮辱に当たると判断した裁判例があります。

さらに、公然と行う書き込みでなくとも、犯罪が成立する場合があります。例えば、特定の人に対し、拒まれたにもかかわらず連続してSNSのDM機能を使ってメッセージを送信することは、その人に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で行われたときは、いわゆるストーカー規制法の「つきまとい等」に当たり、警察本部長等による警告や公安委員会による禁止命令の対象となる場合があります。

さらに、このような「つきまとい等」が身体の安全等への不安を覚えさせるような方法で反復して行われたときは「ストーカー行為」として処罰の対象となる場合があります。また、いわゆる東京都迷惑防止条例では、同様のDM送信行為が特定の者に対するねたみ、恨みその他の悪意の感情を充足する目的で行われた場合について、罰則を定めています。

名誉毀損に関するVTuber特有の問題としては、書き込みに関する様々な状況から、いわゆる「中の人」が具体的に誰であるかを特定することができない場合に、「中の人」を離れたキャラクターとしての存在であるVTuber自身に対する名誉毀損が成立するのかという問題があります。

一般に、ある書き込みが名誉毀損に当たるというためには、その書き込みによって個人の社会的評価が低下することが必要とされています。つまり、一般的な読者ならその書き込みの対象となったのが誰であるかが分かる場合でないと、名誉毀損にはならないとされているのです。

したがって、あるVTuberの普段の言動や公に知られている情報などから、その「中の人」が誰であるかが具体的に知られており、VTuberに関する書き込みがその「中の人」を対象とする事実の適示であると一般に理解することができるときは、その「中の人」という特定の個人に対する名誉毀損が成立する可能性があります

しかし、「中の人」が誰であるか知られておらず、VTuberに関する書き込みが特定の個人を対象とする事実の適示であると認識できない場合には、特定の個人の社会的評価が低下するとはいえない以上、名誉毀損は成立しないと判断される余地があります。例えば、特定のキャラクターやSNSアカウントに対する誹謗中傷ではあるものの、それが具体的にどの人物のアカウントなのかまでは一般読者には分からないような場合です。

もっとも、バーチャル上の社会において、「中の人」を離れたキャラクターとしてのVTuberに対する客観的な社会的評価が確立されている場合、これを低下させる書き込みをすることは名誉毀損として扱うべきであるという意見もあります。

また、「中の人」は特定できずとも、書き込みの内容によっては、VTuberの所属先である会社などに対する名誉毀損と評価される場合があるかもしれません。

さらに、特定できない以上は「中の人」に対する名誉毀損は成立しないとしても、その書き込みによって「中の人」の主観的な名誉感情が害され、嫌な思いをさせられたことを理由に、「中の人」に対する侮辱であると評価できるという意見もあります。

これらの点は、今後バーチャル上の社会活動が普及し進展していくにつれてより大きな問題となり、議論も深まっていくと思われます。

ーーVTuber文化の中ではセクハラコメントや卑猥な内容のDMの送りつけなどの事例が見られます。一方で、送った当人はそれをコミュニケーションの一環として捉えているかもしれません。こういった事例はどこから犯罪として抵触する可能性があるのでしょうか?

関 真也:

これについても、行為の方法や内容によって、どこから犯罪になるかなどが変わってきます。よく問題になるものを紹介します。

まず、わいせつな文書、画像などを不特定又は多数の者に対して送信した場合、わいせつ物頒布罪となります。わいせつな文書、画像などをSNSで公開した場合は、これに当たる可能性があるでしょう。

また、特定のVTuber1名のアカウントに対してのみDMで送りつけた場合には、不特定又は多数の者に対する送信ではないためわいせつ物頒布罪には当たらないと考えられますが、多数のVTuberに対してDMで送りつける場合にはこれに当たる可能性があります。

次に、不特定又は多数に対してではなく、特定のVTuberに対してのみDMを送りつける行為についても、「つきまとい等」「ストーカー行為」などとしてストーカー規制法又は迷惑防止条例に違反し、処罰等の対象となる場合があります。先ほどご説明したとおり、拒まれたのに連続してDMを送信するような行為がこれらに当たります。ブロックされたのに同一人物がアカウントを変えて繰り返し送り付けてくるような場合もあるでしょう。

また、児童ポルノを送信することも、いわゆる児童ポルノ禁止法で処罰の対象となります。不特定又は多数に対してでなくても同法で処罰対象となりますが、不特定又は多数に送信した場合にはより重く処罰されます。

セクハラコメントや卑猥なDMを送信することで不快感や嫌悪感を与えることは、民事上の損害賠償請求等の対象となる可能性もあります。内容や頻度、送信元とVTuberの関係性など具体的な状況によりますが、例えばはっきりと拒絶しているのに執拗に送りつけてきたり、拒んだことに対して罵倒してきたりする場合には、慰謝料を請求できる可能性があると考えられます。

ーー例えば、VTuberが使用しているモデルの外見に対して、何かしらの誹謗中傷が行われた場合、法律に抵触する可能性があるのでしょうか? 創作物への非難は、人物への誹謗中傷に結びつかないのでしょうか?

関 真也:

まず、そのモデルを作った著作者である絵師さんなどに対する権利侵害となる可能性があります。著作権法上、著作者には「名誉声望保持権」という権利があります。著作者の名誉又は声望を害する方法でその著作物を利用すると、この権利に対する侵害となります。

ここにいう「著作者の名誉声望」とは、裁判例上、著作者がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価をいうとされます。そして、この名誉声望保持権を侵害する行為としては、例えば、社会的に見て、著作者の創作意図や著作物の芸術的価値を害するような著作物の利用行為などがあるとされています。

そうすると、例えば絵師さんの創作意図やそのモデルの価値を害する内容、方法で誹謗中傷の書き込みなどをすると、絵師さんに対する名誉声望保持権侵害となり、削除や損害賠償などの請求を受ける可能性があります。

また、モデルを利用しなかった場合でも、絵師さんの社会的評価を低下させるような書き込みなどをしたときは、先ほどご説明したとおり絵師さんに対する名誉毀損に当たる可能性はあります。

次に、いわゆるVTuberの「中の人」に対する名誉毀損などが成立する場合もあるでしょう。これは先ほどご説明したように、書き込みをめぐる様々な状況から、その書き込みが特定の個人を対象としたものであると一般読者に分かるかが問題となります。

「中の人」が誰であるか知られており、そのモデルに対する誹謗中傷がその「中の人」の社会的評価を低下させるものであれば、「中の人」に対する名誉毀損となる可能性があります。

ーーVTuberの場合、公式に発表していない過去の活動歴を暴露されたり、プライベートの情報を流出させたりといった事例が起こっています。こういった本人が望んで公表していない情報をネットで公開された場合、法律に抵触する可能性はありますか?

関 真也:

その場合、主にプライバシー権侵害の成否が問題となるでしょう。一般に公開を望まない私生活上の事柄を勝手に公開すると、プライバシー権侵害となる可能性があります。例えば、VTuberの「中の人」の本名や年齢をインターネット上の電子掲示板上で明らかにした行為につき、プライバシー権侵害を認めた裁判例があります。

この判決は、「本名や年齢は個人を特定するための基本的な情報であるところ、インターネット上で本名や年齢をあえて公開せずにハンドルネーム等を用いて活動する者にとって、これらの情報は一般に公開を望まない私生活上の事柄である」といえるとしています。VTuberのように匿名で行われている活動について、一般に知られていない非公式の情報を暴露することは、過去の活動歴に関するものを含めてプライバシー権侵害となる可能性があることに注意が必要です。

この他によく問題となる例としては、特定人同士のDMをスクショしてSNS上で公開する行為が挙げられます。トラブルが生じて言い争っている相手とのDMなどを、自分の正当性を公の場で主張するために公開してしまうというケースがありますが、それにはリスクが伴うことも理解して冷静に判断した方がよいでしょう。

このように、VTuberを含めた匿名の活動について本人を暴いたり、通常知られたくないであろうプライベートの情報を流出させたりすることは、プライバシー権侵害となり書き込みの削除や損害賠償請求などの対象となることがあります。

ーー現在VTuberの発言の一部を切り取り、そのコメントに問題があるかのように編集した上で動画として公開するといった事例が起きています。こういった、意図的な中傷を目的とした動画は法律に抵触する可能性がありますか?

関 真也:

その動画の内容が、特定の人物の社会的評価を低下させるようなものであれば、名誉毀損として違法になる可能性があります。その動画によって中傷されている具体的な人物を特定できるかどうかがポイントになること、また、侮辱に当たる可能性もあることなどを含めて、基本的な考え方は先ほどご説明したとおりです。

それに加えて、例えばVTuberの配信動画という著作物を無断で編集して中傷動画を作成したのであれば、その配信動画の著作権を侵害する違法な行為となる可能性があります。さらに、中傷を目的としたつぎはぎ動画を作成し公表する行為は、その配信動画の著作者であるVTuberなどの創作意図をゆがめ、あるいはその価値を害する方法で著作物を利用する行為にあたり、名誉声望保持権侵害となる可能性もあるでしょう。

また、そのように作成された中傷動画にはVTuberのモデルが利用されており、かつ、その利用方法は絵師さんなどの著作者の創作意図やモデルの価値を害するものである場合も多いでしょうから、絵師さんなど著作者の名誉声望保持権を侵害する可能性もあるといえます

ーー今後、VTuberファンの方が、楽しくVTuberとコミュニケーションをとるためには、どういったことに気をつけるべきとお考えですか?

関 真也:

他人が嫌な思いをする言動をしないという基本的な考え方は、バーチャル上のコミュニケーションでも同じだと思います。

「好き」であったり、「怒り」であったり、様々な感情が原因になって過激な発言をしてしまいがちです。特にバーチャル環境では、手軽さや匿名性が後押ししてしまうケースもあるかもしれません。また、「みんながやっているから自分も・・・」という軽い気持ちで誹謗中傷に関わってしまう場合も多いようです。

しかし、最近の報道などでも指摘されているように、誹謗中傷が招く結果は、ときに重大です。

2021年4月21日、他人の権利を侵害する書き込みなどをした人が誰であるかをより迅速に特定することが可能となる制度を導入する法改正が行われ、1年6ヶ月以内に施行される予定になっています。だからというわけではないですが、手段はバーチャルでも中身の人間同士のリアルなコミュニケーションであることを強く意識することが大事なのではないでしょうか

ーーありがとうございます。

協力:関 真也


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