VR作家の発表の場と人脈のハブ、多くの人にVR体験をさせることなどを目的として年に数回開催されている展示会Japan VR Fest.(旧Ocufes)。今冬は2月25日ベルサール秋葉原で開催されました。今回の来場者数は2081人と発表されています。(主催者ツイートから)
展示されているVRコンテンツのデバイスはOculus Rift製品版、HTC Vive、PSVR、Gear VR、HoloLensなど。今回のコンテンツで目立ったジャンルではフィットネスのように体を動かすものと、触覚を組み合わせたものでしょうか。
今回は触覚を組み合わせたVRを紹介します。
『幼女ビンタVR』『MilkingVR』
まず紹介するのは、ゆるUnity電子工作部による『幼女ビンタVR』。こちらは電気刺激によって、頭をつかまれてグラグラゆすられる感覚とビンタの痛みを擬似的に感じるコンテンツです。
体験者に微弱な電気を流すことで、体や地面が傾いている感覚や、加速感を人工的に作り出すことを利用しています。装置が小型で済むため、VR酔いを防いだり、より没入感のある体験につながるのではという研究が行われています。
(参考)「前庭電気刺激を利用した平衡感覚インタフェース(<小特集>バイオニックヒューマン〜生体機械融合インタフェース〜」安藤英由樹、渡邊 淳司、前田 太郎、映像情報メディア学会誌: 映像情報メディア 62(6), 837-840, (2008)
身体に300ボルトの電流を流すとのことで、安全性の観点から同意書にサインを求められます。体験時には耳の後ろをアルコール綿で拭き、電気が流れる部分にジェルがついたヘッドホンを被り、電気がきちんと流れるようしっかり押さえます。
VRヘッドマウントディスプレイを被り正座して待っていると、突然頭をはたかれたような痛みと体の傾きを感じます。目の前には筆者を見下ろして怒ってる幼女。うろたえていると筆者の頭を両手でがっちりつかみ「聞いてるのー?(怒)」とゆすり始めました。
もちろん、現実では誰も筆者の頭を掴んではいませんが、自分の頭が幼女の手の動きに合わせてグルグルと回されているように感じます。最後には「何喜んでんのよ!」との言葉を投げつけられました。
また、同制作団体の『MilkingVR』は、電気刺激を与えることで触覚を再現するデバイス「Unlimited hand」を腹につけることで、牛の搾乳体験を牛になった感覚で体感します。
牛のように四つん這いになり、後方を振り返るとユニティちゃんが笑顔で手絞りしてくれます。掴まれたときの感覚と、絞られたときの引っ張られる感覚の2種類を感じるところがポイントです。
2つの作品ともに、VRと電気刺激を使った触覚をわかりやすく提示した展示です。
制作:ゆるUnity電子工作部
使用デバイス:Oculus Rift、Unlimited hand
『触覚VR』
『触覚VR』は、サンダルの中敷きの板に装着したスピーカーから、アンプで増幅された音を振動として感じ、まるで目の前で巨大怪獣が歩いているかのような地響きを体験できる作品です。VRヘッドマウントディスプレイを被らずに体験でき、モニターの映像と合わせることで地面の揺れを感じます。
展示では、調整する時間が足りず、足だと振動が感じにくいため、手を使いましたが、耐荷重は足で乗っても問題ないとのこと。怪獣を扱ったVRコンテンツと組み合わせると非常に没入感が得られそうです。製作費が数千円という安価なところも魅力的です。
制作:シン・ショッカソン
『ソード&プリンセス』
『ソード&プリンセス』は10キログラムの水(場所によって米)をお姫様に見立て、お姫様抱っこをしながら敵の攻撃をかわします。モニターではVR内で体験者が何を見ているかを映していますが、後半はネタバレになるので映像が映らなくなります。
以前の展示では傾きを感知する装置を袋に仕込んでいましたが、HTC Viveのコントローラに変わり、よりVRの動きとの連動性が正確になりました。
水を使っている場合は、水を温めて人肌にしてあるため、抱いていると、子供を抱いているような気分になれます。また、抱きなおすように動かすとVR内でも姫様の体の傾きが変化して自分の体に密着するため、より実在感が強まります。
制作:ウダサンコウボウ
使用デバイス:HTC Vive
『Real Baby – Real Family』
『Real Baby – Real Family』は「もしも自分の子供が生まれたら……」というシチュエーションをテーマとし、合成された顔をVR内の赤ちゃんのモデルの顔に張り付け、そして現実で赤ちゃんの人形を抱くことで、実在感を高めつつ子育てや出産について考えてもらうためのコンテンツです。
体験後にもらえる赤ちゃんの画像です。
体験を始める前にカメラで自分の顔写真を撮影、特徴点を抽出し赤ちゃんの顔を合成します。人形をそのままコントローラにしているので、現実の人形とVR内の赤ちゃんの位置はほぼ同じ。更にVR内では赤ちゃんはまばたきや、顔をしかめて泣くなど表情が豊かです。
人形だとわかっていても乱暴に扱う気にはなれない、不思議な感覚を得られるコンテンツです。
気になる点としては人形は実際の同じ大きさの赤ちゃんより軽いため、赤ちゃんを抱いた経験がある人ほど、VR内の映像と比べて違和感を感じるかもしれません。
2016年10月に開催された第24回国際学生対抗バーチャルリアリティコンテスト(IVRC2016)で出展されたときより、ミルクを飲ませた後にげっぷをさせる、泣いた赤ちゃんをあやすなど、よりVR内で求められる行動が増えています。
なお、『Real Baby – Real Family』は第24回国際学生対校バーチャルリアリティコンテスト(IVRC)決勝大会で、フランスのVRフェスティバル「Laval Virtual」の審査員によって贈られる賞を受賞し、来年度のLaval Virtualに招待されています。
フランスでは目、肌、髪の色が日本人よりも多種にわたるため顔の合成がより難しくなるとのことです。
制作:明るい家族計画(神奈川工科大学 情報学部)
使用デバイス:HTC Vive
BLAST×BLAST
『BLAST×BLAST』はVR内の映像に合わせて激しく動くモーションチェア「SIMVR」に座り、敵ロボットを両手の銃で撃ち落とすシューティングです。高いビルから飛び降りたり、高速で飛行するなど迫力のある体験ができます。
現在では、各種展示イベントやVR Center、プラザカブコン吉祥寺店などアトラクション施設や自遊空間 蒲田西口店、ドスパラ 秋葉原本店などで設置されています。
https://www.youtube.com/watch?v=MHSQHfkPUgs
制作:積木製作
使用デバイス:HTC Vive、SIMVR(株式会社しのびや.com Wizapply事業部)
人間に対する電気刺激は安全性の観点から、アトラクション施設で利用されることは時間がかかりそうですが、激しい動きを伴う椅子や、音の振動、重さ、人肌の熱などの要素は取り入れることで、自宅でのVR体験より、アトラクション施設で実際に体験したいと思わせる魅力になるのではないでしょうか。