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VRChat 2023.09.04

これを聴いて冷静でいられない VR音楽ユニット「YSS」が“唯一無二”である理由【ロングインタビュー】

インタビュー本編に入る前に、YSSという音楽ユニットについて多少長めの紹介をする必要がある。なぜなら、このふたりはバーチャルで活躍する音楽系アーティストの中でも、特異な存在であるから。もうひとつの理由は、正直に言って、今回のロングインタビューに関して、聞き手の著者があまり冷静でないからだ。まず、2人の情報を整理するところから始めよう。

YSSとは、ボーカルのSorte(櫻野ソルテ)Yopiの2名によるバーチャル音楽ユニットだ。主に、VRChatなどのバーチャル空間の中でオリジナル曲を生演奏している。また、YouTubeでライブ配信や楽曲投稿も行っており、VTuber関連の音楽イベントにも積極的に参加。今年は、川崎 CLUB CITTAでのリアルイベント「Vの宴」やサンリオ公式主催のフェス「SANRIO VFes 2023」などの大型イベントにも出演した。

(自作VR会場でのライブ)

(SANRIO VFes 2023)

ふたりを語る上で外せないのは、現場での音楽ライブである。VRChatで実際に参加しなければ掴みにくいのだが、YSSのライブは「本当にこの会場で、音楽ライブが行われている」という感覚が非常に強くある。この実在感、臨場感は、VRデバイスを利用していることだけが理由ではない。YSSのライブには魔法がかかっている、そう言われても不思議ではないほど、特別なものが感じられる。少なくとも、著者は今もこの魔法にかかり続けている。

 

また、オリジナル楽曲のラインナップの多さも大きなポイントだ。YSSは活動約3年にして、10曲以上収録のアルバムを3枚、5曲入りのEPを3枚リリース。最新アルバムの「Nebulosa」に至っては、2023年内に矢継ぎ早に投稿された15曲で構成されている。その多くにVRChatで撮影したMVまで用意しているのも特徴だ。また、普段の音楽ライブでは「歌ってみた」のようなカバー楽曲はほとんど無く、オリジナル楽曲をメインにしているのも、珍しいと言えるだろう。さらに、自作の専用バーチャルライブ会場や現場を盛り上げるアイテムまで、BOOTHで頒布している。

言うまでもなく、個々の楽曲のクオリティは「素晴らしい」の一言に尽きる。非常に多くのバーチャルアーティストがいる現在において、その優劣をつけることは愚の骨頂だが、YSSの楽曲に、他とは似つかない個性があるとは言い切れる。ふたりの楽曲は、ふたりにしか作れない。再生ボタンをクリックすれば、そう感じられるはずだ。

たしかに、個々の活動の特徴を抜き出せば、VTuberやVRクリエイターのなかにも、YSSとの共通点をいくらかは見いだせるだろう。しかし、上記すべてを活動のなかで実践しているグループを他に挙げろと言われれば、とても難しい。こういったところが、著者にYSSを唯一無二の存在と思わせている。著者も、YSSのそうした部分に強烈に惹かれてしまった人間であり、だからこそ、インタビュー中は冷静でいられなかった。

またYSSは、現時点では、メジャーな音楽系メディアに特集されたり、大規模なプロモーション企画でピックアップされたりといったことがほとんど無い。正直に言えば、そうした状況への苛立ち、「なぜ、気づかないんだ」という個人的な思いが取材をする上で動機になっていた(そういった意味でも、この記事企画は冷静ではない)。特に「音楽が好き」という人であれば、ふたりの楽曲は確実に心に届くものであるはずだ。VRライブの会場に行けば、ひとり、またひとりと、YSSに熱い視線を向けるファンの数は増え続けている。あとは、あなたが気づくだけだ。

今回の取材では、YSSの足跡を辿りながら、なぜふたりが唯一無二でいられるのかを探ろうとした。良ければ、ふたりの楽曲を聴きながら、読んでいただきたい。

(執筆:ゆりいか、サポート:nusa)

始まりは、どうしようもなくなって歌ったところから

ボーカル:Sorte

コンポーザー:Yopi

――今回の取材、とても緊張しております。これまで仕事で多くのVTuberやアーティストの方に話を聞いてきましたが、それとは別種の緊張と言いますか……。自分が本当に好きだと思っている方に話をお聞きするのも珍しいことで。冷静でいられないから、そういった取材はなるべく避けていたんですが、他メディアで扱われる前に、どうしても実現させたくて……。

Sorte:そんなそんな(笑)! 以前、ご自身のブログでYSSのことを取り上げてくださって。そのときから、ぜひに取材をお願いできるなら、と思っていました。

――(息を整えて)ひとまず、MoguLiveの読者の方々に向けて、おふたりの自己紹介からお願いします。

Sorte:VR音楽ユニットYSSです。えっと、ボーカルのSorteとコンポーザーのYopiのふたりで活動しています。主にVRChat、最近はcluster、あとはリアルでのライブイベントにも出演させていただいたりして、そんな感じで、楽曲制作しつつ、ライブイベントに出演するという形で活動しています。

――このインタビューでは、YSSの唯一無二である点に焦点を当てたいと思っています。やはり、他の数多くのアーティストの方と比べても、特異なポイントがあるように感じていまして。

Sorte&Yopi:そ、そうなの?(思わず、ふたりで見つめ合う)

――先走ってすみません! そもそものユニットの設立経緯から話をお聞かせください。そもそも、VRChatはいつ頃はじめられたのでしょうか?

Sorte:私は、蕎麦屋タナベさん(VRクリエイター)がNHKの番組に出演されていて、そこでVRChatの存在を知ったのが最初でした。それで、ちょうどコロナが流行り出した年に、
ゴールデンウィークにどこにも行けないから、VRを試してみようと思って。人から「VKet」というイベントがやっていることを教えてもらって、参加してみたんです。

Yopi:海外の配信者が、2017年ごろに、まだSteamで早期リリースされたばかりのVRChatを探索しているのを見て「面白そうだな」と思って入ったのが、本当のはじめでした。その当時から音楽制作はやっていたんですけど、まだVR上で何かをしているわけではなかったですね。そんな中で、DJをVR上でやってみることになって、そのまま一年ぐらいDJ活動を続けて、そのあとに、なぜか、YSSになってた……。

一同:(笑)。

――SorteさんとYopiさんの出会いはどういった流れでしたか?

Sorte:私が先生のことをあまり知らない時期に、ミュージックVKetとか、タナベさん主催のDJイベントに遊びにいったときに、たまたま「すごく良い音楽を作っている人がいる」ってことだけを覚えていたんです。後々に、それがYopi先生だよって教えてもらって、ずっとそこから「うおー、先生最高だー!」って感じで、追っかけみたいな(笑)。そんな時に、先生が出したリミックスが、私もとても好きな曲だったので、どうしようもなくなって歌ったんですよ。

――楽曲に惹かれたことから始まったわけですね。

Yopi:そうですね。

VRの中で生きようとする人たちが眩しくて

――結成当時、まだまだVRChatで活動しているアーティストは少なかった印象です。YSSがVRChatをメインに活動するに至った理由はどういったものだったのでしょうか?

Sorte&Yopi:それは……VRChatで遊んでいたから……(笑)。

Yopi:そもそも「VTuberとしてデビューします」ではなかったもんね。

Sorte:やっぱり、そうだよね。ここでやることが自然っていうか。VRChatで楽しく演奏したいから組んだのが元だったよね。

Yopi:ありがたいことに、VTuber界隈の方々とも関わるようになって「YSSは、実はVTuberなんじゃないか」ということになった(笑)。

――おふたりは、VRChatのどういったところに面白さを感じていましたか?

Yopi:今の一般ユーザーの感覚からすると、当時の自分の感じていた面白さって受け入れられないかもしれないですが、VRChatのカオスさに惹かれているところがありました。まだ、フレンドやインスタンス関連の機能が整理されてない時代で、みんな同じ場所にわちゃわちゃと集まって、いきなり演奏をはじめる人や、視界ジャックを強制的に仕掛けてくる人たちがいて。そんな中で、良く分からないけど、面白い出会いがあって、なんかその瞬間が楽しくて……。未だにカオスさをちょっと求めてます(笑)。

Sorte:私がVRChatに入ったころは、多分ちょうど治安が整理されはじめている時期で、トパーズチャットを使ったりだとか、ワールドごとのアバターの制限を明記する風習がはじまったりとかって感じなので、混沌の世界というのはよく分かってないんですけど(笑)、整備された中でも、ちょうどみんながそれぞれに新しいイベントを運営したり、ワールドを探索したりしていて、「面白いことをするにはどうしたら良いんだろう?」って考えながら、各々が動いていて。リアルの生活だけじゃなくて、VRの中でも生きようとしているのが、すごく見ていて眩しいというか、羨ましいというか、嬉しくなるというか……。そういうのが好きで、ここにいますね。

――コアなクリエイターたちならではの熱気を感じられていたわけですね。

Sorte:そうですね。クリエイターさんもそうでしたし、それを支えようとする裏方の人たちとか、楽しいから遊びに来てくれた人たちとか、そういう人たちがいるのがすごいなと思って。

楽しいから続ける。楽しいから作る

――あらためて、今の活動のお話に移りますが、そもそもYSSは異常とも言えるほどの早さで大量の楽曲を生み出されていますよね。

Sorte&Yopi:(キョトンとした感じで)そ、そうかな……?

――一般的なVTuberやVRアーティストでも、すでに10曲以上収録のフルアルバムが3枚出ていることって、とても珍しいんですよね。しかも、それぞれの楽曲の多くにMVまで制作されている。そう考えると、非常に驚異的な活動量だと思うのですが、なぜ、そのようなことが可能なのでしょうか?

Yopi:なんでなんだろう……。自分たちとしては「急いで作るぞ!」って感じじゃないよね。

Sorte:別にスケジュールをガッツリ組んだりも全然しないよね。

――以前、配信の中で、ふたりでピアノセッションをやっている内に曲が出来上がるというエピソードを聴いた覚えがあります。

Sorte:そういうときもありますね。気が付くと、先生が「できたよー」って言って、聴かせてくれるときもあります。だから、なんていえば良いんだろう?

Yopi:特に何も考えてなくて、「何か作りたいな」と思ってた時に、作って、完成まで行けば曲になるし、完成しなかったら、そのままお蔵入りみたいな。

Sorte:そういう曲がいっぱいあるね(笑)。聴かせるだけ聴かせて「ちょっと気に入らないから終わり」って言って、眠っているものがあります。

――そうなると、発表されているものですら、まだ一部ということですか。

Yopi:まぁでも、ほとんどは完成させずに、ちょっと作った段階で止めちゃったものばかりなので、完成されたものは、ほとんどリリースされていますね。

――取材サポートのNusa:以前、Yopiさんの未完成の音源データを送られた方が「数百GB単位のデータだった」と証言していましたよ。

一同:(笑)。

――Yopiさんは普段どういったかたちで音楽活動に取り組まれているのでしょうか?

Yopi:はじめないと、はじまらないというか。曲をつくろうとDAWを開いて、適当にプラグインを入れて、鍵盤を叩き始めるまでは、何も考えてないです。そこから徐々に作り続けるというか……。「こういう曲を作るぞ!」みたいにはできないタイプなので、コンポーザーとしてはポンコツなんですけど、作る過程のなかで、ようやく「こういう曲にしよう」と決まっていくパターンがほとんどですね。全然作らないという時期もあって、ここ最近は、曲作りに費やしている時間は1か月で1日くらい。その1日でトラックを作って、もう1日で歌をつくって、その次の1日で歌を録ってミックスして、「はい、終わり」みたいな感じ。

――話を聞いていると、やはりスピードが早いのではとも思ってしまいますが。

Yopi:(Sorteさんに向けて)そんなにサクサクいってないようね?

Sorte:うまくいかなくて、最初から録りなおすこともあるよね。

――そもそも、楽曲を生み出すモチベーションとなっているものは何なのでしょうか?

Yopi:楽しいから、だよね。

Sorte:楽曲を出すのも楽しいし、ライブで演奏するのも楽しい、MVでみんなの反応を見るのも楽しいって感じです。そもそもが「楽しいから、やろう」ではじまったことなので、それしかないかも。

――(若干、放心しながら)つまり、自分が感じていた唯一無二の存在という感じは、事前に強い戦略があって生まれたものではなく、おふたりが「楽しい」と思うことを実現していった先に生まれたということですか……この話を聞けただけで、自分は取材して良かったなって思っていまして。

Sorte:え、そうなの!?

――いえ、すみません! なんといえばいいのか、おふたりがピュアに創作を楽しまれていることに胸打たれたというか、自分が仕事の中で欠けてしまっていた部分に刺さってしまったというか……。だから、自分がYSSを好きになっているのかもしれないと気づいてしまって。

Sorte:そ、そんな、ありがとうございます(笑)。あんまり、やる気が起きないときは作らないし、楽しくなったら1日でできるってこともありますね。

――また、YouTubeでの定期的なライブ配信を見ていて感じたのですが、「歌ってみた」のようなカバー楽曲をメインにすることは無く、ほとんどオリジナル曲だけを披露し続けるというスタイルも珍しいものに思っています。こういったスタイルの理由は何なのでしょうか?

Yopi:これは単純にオリジナル曲の数が多いからですね。

――そもそも、活動約3年でアルバムを3枚出せること自体が珍しい印象です。

Sorte:(小声で)どうなのかな?

Yopi:(小声で)分かんない……。

一同:(笑)。

Yopi:「歌ってみた」は、うちの活動方針的に、今のところ、一切やる気がないという感じです。多分、やった方がいいんだろうなっていうのは、一応はわかってるんですけどね。やっぱり「歌ってみた」をトリガーとして人が集まって登録者が増えてっていう戦略をとるのがベストなのですが、やらなくても、HacoLive(※YSSの定期ライブ)には、登録者の割には聴いてくれる人が集まっていますし、コンスタントに何人かずつでも新規の方が来てくれているので、今はこのかたちで良いのかなと思っています。

Sorte:そもそもあんまり気にしてなかったもんね、登録者数。

Yopi:うん。最近かもね。こういうことを言い出したのは。

Sorte:収益化自体も「YSSのスタンプ使って盛り上がりたい!」というリスナーさんのアイデアからやってみたことだったよね。

Yopi:元々、去年ぐらいは数字を全然意識してなかったので。もちろん色々活動していく中で、色んな心変わりや活動の変化はあったんですけど、それでもHacoLiveは、やはり楽しかったので。正直楽しくないことは、あんまりやらないようにしているんです。根本に「楽しい」がないと続けられないんだと思います。短期的に伸ばしたいというわけではなく、長期的に。たとえ今活動しているプラットフォーム自体がなくなったとしても、それでも何か別の媒体で繋いでいけたらいいなと。

――YSSのリスナーは非常に熱狂的な人たちが多い印象ですが、それも今おっしゃったような活動方針によって「楽しさ」が伝播していっているからではないかと思います。もう少し「楽しさ」の部分を具体的にお聞きしたいのですが、例えば、バーチャルライブに感じる楽しさってどういったものでしょうか?

Yopi:アーティストと参加者の距離の近さは「楽しさ」という点で大きいですね。

Sorte:みんなが物理的距離に関係なく、いろんな場所から集まれるのが楽しいですね。

Yopi:VRChat以前までって、CDやデジタルデータで音楽を視聴するか、現実世界のライブに行くっていう2パターンしかなかったじゃないですか。バーチャルライブはその中間点のような良さがある気がします。リアルライブでは決してないんだけど、ただ音源を聴くだけでもない、アーティストが目の前にいる状態で演奏を聴くのは、新しい体験として、とても良いと思います。

――自分も、YSSのライブにハマってしまったのは、「FRAGMENTツアー」(※2ndアルバムのリリースを記念して、3夜連続で行われた音楽ライブ)でした。2日目の「夜更けの歌」のピアノ生演奏を聴いて、自分が特別な空間で特別な音楽を聴いている実感を得られていました。最近では、会場のリスナー全員でモッシュを再現したり、一斉にジャンプしたりといったアクションもあって、それがライブならではの一体感に繋がっていると思っています。ご自身たちの中で、特に心に残っているライブなどありますか?

2022年:FRAGMENTツアー:「Music&Bar PHAROS」)

Yopi:「エンタス」(秋葉原にあるライブ会場、VTuberやバーチャルアーティストが多数出演しているのが特徴)でのライブは心に残ってます。特別だったものと言えば、「Vの宴2022」かもしれないですね。はじめて、目の前でリアルのお客さんを前に大量に「おんゆ」(※YSSの楽曲「Beyond our dreams」のサビ部分で手を振る仕草)してくれたのは、大きかったかも。

Sorte:あれはすごかった! 泣きそうになっちゃったもん。

Yopi:あのライブはYSSの音楽活動の転換点になったかもしれません。700人規模のライブはVRでは無理なので、初めての大勢を前にしたライブだったんですが、YSSのことを知らなくてもノッてくれるんだなって。あの光景を見て、「この人数をぶち上げられる曲」を作らなければならないなって思ったんです。

Sorte:私もあのライブから、みんなを盛り上げるためには、MCとか、どうしたらいいんだろうって考えるようになりましたね。

Yopi:それ以前のYSSって、結構……尖ってたんですよね。

Sorte:尖ってたね(笑)。それはそれで良かったんだけど。

Yopi:ちょっと自分たちの世界感を出し過ぎていたというか、やりすぎていたので、「ちゃんとノれる曲を作ろう!」と。「Beyond our dreams」をリリースした頃の初心に返ろうと思い始めたんですよね。2ndアルバムの曲は基本、リスナーが横揺れする雰囲気のものなんですが「クラブで流すのはこれじゃない!」「VTuberの曲はクラブで流れるんだ!」と……。

Sorte:あれ? 先生が反省会はじめちゃってる(笑)。

――言い添えておきますが、2ndアルバムの「FRAGMENT」は、それ単体で素晴らしいアルバムだと思います。

YSSの2ndアルバム「FRAGMENT」

Sorte:クラブチッタで流す曲としては雰囲気が違うかもしれないけど、自分たちの世界観を打ち出すという意味ではあれはあれでよかったんですよね。

Yopi:それを考えて生まれたのが「Nebulosa」かもしれない。

散らばっていた欠片が星雲になるまで

――あらためて、3rdアルバム「Nebulosa」を制作してみての実感や注力したポイントについてお聞かせください。

Yopi:「Nebulosa」は……多分、他の方は「アルバム作るぞ」という気持ちになって、イチから作ると思うんですが、YSSは「アルバム作るぞ」の段階で、ほぼ出来上がっていたので(笑)。正直、アルバム制作自体は楽でした。なので、個々の楽曲制作の話に移りますと、先ほども少し触れたのですが、「Vの宴2022」の影響から「みんながノレる曲をつくりたい」という気持ちが湧きはじめたのですが、2023年も「Vの宴」への出演が決まって「ここで爪痕残さなかったら、もう一生クラブチッタに出る機会はないかもしれない。絶対にみんなが爆踊りするような曲を作らなければ」という使命にかられて、「Toward The End」って曲を作ったんですけど。

Sorte:思惑通りに行ったよね! YSSを知らない人たちが多かったはずなのに、あの曲調の変わる瞬間に「うおおお!」ってなってくれて「やった!」って。

Yopi:嬉しかったね。

――今回のアルバムはかなりアグレッシブな曲調のものが多い印象でした。

YSSの3rdアルバム「Nebulosa」

Yopi:前作の「FRAGMENT」と比べたら、そうですね。

――少しマニアックな話題なのですが、今回のアルバムのタイトルは、どういった由来のものでしょうか? 調べた限り、「Nebulosa」は、Tenorio Jr.の同タイトルの曲があり、こちらを参考にされていたのではと推測していたのですが。

Sorte:そうですね。これは、先生にアルバム名にもなっている楽曲のタイトルを考えてほしいとお願いされて。前作は「FRAGMENT(断片)」だったので、今回は「色々なものが集まった」という意味合いのタイトルが良いよねという話になって。歌詞もまだ途中までしか出来てない状態で楽曲を聞きなおしながら考えていたんです。そこで浮かんだのが、「Nebulosa(星雲)」というワードでした。そもそも、このワードを知ったのは、Tenorio Jr.の同名曲だったんです。

――この曲自体は、LIBROの「雨降りの月曜」のサンプリング元として、日本のヒップホップ界隈では知られているものと記憶しています。

Sorte:私の場合は、ヨーロッパのA Forest Mighty Blackという音楽グループがサンプリングに活用しているのを知ったのが最初でした。「このピアノ、めっちゃいいな」って、めっちゃハマって、調べたら、Tenorio Jr.だったと。もうすでに逝去されたピアニストだったんですが、一枚だけ出ていたアルバムを探して購入して、繰り返し聴いていた思い出の曲だったんですよね。

あのアルバム一枚で弾いていたピアノの曲が「生きてるぞ!」と伝わってくる感じが好きで、そういったことが、今回の曲と繋がって「(タイトルは)Nebulosaがいい」という風になりました。

Yopi:自分はTenorio Jr.を知らなかったんですけど、Kenichiro Nishiharaという好きなアーティストがカバー曲として「Nebulosa」を発表していて「あ、俺もこの曲知ってたわ」って(笑)。

Sorte:どこかで繋がってたんですね。

――曲を聴いていると、「Nebulosa」=星雲という言葉が、YSSを好きなリスナーたちがライブに集合しているイメージとも重なって、とてもしっくり来ています……すみません、結局、自分の感想になってしまいますが。

Sorte:いえいえ、本当にそういうイメージを目指したものなんですよ。

Yopi:このアルバムは、YSSの第三段階という感じですね。2枚目のアルバムは、閉ざされた世界で、ふたりで音楽を鳴らしている感じで。

Sorte:「その世界から、どこかに届くんじゃないか」ってね。そこから「YSSはいいぞ」って集まってくれたみんながいて、色んな場所に出させてもらっているという背景があるので、3枚目はそういった結果のアルバムになったと。

――2枚目のアルバムからファンが徐々に集合しはじめていく過程を自分も追っていたので、その結果として生まれたアルバムであることに、ドラマ性を感じていました。

Yopi:ただ、このドラマだと完結してしまいそうじゃないですか(笑)。だから、急遽「Not Enough」という曲をつくって、一曲目に組み込んだんです。満足していないぞ、と。

――これが集大成ではないというメッセージですね。アルバム全体を通しても、様々なジャンルやスタイルを取り入れて、広がりというものを感じさせるものになっていますし、それを熱烈に語りたくなる魅力にあふれていると思います。

YSSのルーツとなった音楽を辿る

――個別の楽曲の話ですが、「No Magic」では歌詞のメッセージ性の部分も惹かれる要素がありました。メタバースの魅力を表する際のクリシェ(決まり文句)のようになってしまっている「なりたい自分になれる」というメッセージへの疑問のようにも思えて。

Yopi:「みんな、何者かになりた過ぎている。そんなことしなくていいんじゃないの?」って感じですね。

――もう少し、YSSのルーツについて探りたいなと思います。音楽活動をする上で影響を受けたアーティストを改めてお聞きしたいのですが、いかがでしょうか?

Yopi:小学生の頃は、クラシックとJ-POPを聴いていたのですが、そこから変に覚醒しちゃって、パンクやメタルの方に向かったんですよ。その頃に来日したDuft Punkのライブを見に行って、エレクトロニカやテクノにも興味が出てきて、そこから一気にクラブミュージック界隈にズッポリとハマった感じです。

――高校時代にはヴィジュアル系のコピーバンドに参加されていたとお聞きしたことがあります。

Yopi:そうですね。the GazettE(ガゼット)やDIR EN GREYの曲をやっていましたね。そのときに周りのバンギャの皆さまから、おすすめの曲をいっぱい教えていただいて。その中で、桜井青さんという方がやっているバンドなんですが、cali≠gariにめちゃくちゃ影響を受けました。このバンドは多方面に影響を与えていて、ヴィジュアル系バンドなのに、当時のヴィジュアル系を批判していたりだとか。歌詞も詩的ですごく気になっちゃって。

――たしかに、すごい不思議なバンドですよね。

Yopi:影響は本当にそこからですね。その後、DTMをはじめたり、クラブミュージックにハマってDJをやって今に至ります。

――近年のものでは、(sic)boyをリスペクトしているといったお話も聞いています。

Yopi:(sic)boyと、トラックメーカーのKMのコンビは、海外で生まれたトラックの流行を、日本に取り入れてメジャーに押し上げたという点でスゴイなって思っていて。アメリカのヒップホップをベースにしているのに、日本っぽさも感じるところがあり、聴きやすいんです。もちろん、自分が過去にヴィジュアル系を聴いていた影響もあるとは思うんですが、それもあってか、滅茶苦茶好きになっちゃって……。数あるトラックメーカーたちの中でも、KMの扱う低音は絶対違うんですよ! 海外と日本のミックス・マスタリングって大きな違いを感じるんですが、その中でもKMのトラックは、すごい技術だなと思っちゃうんです。

Sorte:すごくオタク語りだ(笑)! 珍しい。

――音楽愛があふれてますね。

Yopi:(sic)boyの話に戻ると「こういうことをやっていいんだ!」という風におもわせてくれたという点で、影響を受けましたね。ヒップホップでは、Juice WrldXXXtentacionなどの、いわゆるエモ・ラップ系が好きなときがあったんですが、その系列で、海外の好きなアーティストが(sic)boyとコラボしていたのを聴いたのが最初だったのかな。ヒップホップなんだけど、色んなジャンルの混ぜ方が非常にうまいなと思って。

――僕も、(sic)boyの、既存のヒップホップにない、あの独特の雰囲気には興味があって……、いや、この話に入るとインタビュー終わりませんね(笑)。

一同:(笑)。

Yopi:YSSも、(sic)boyのジャンルの混ぜ方みたいなところに影響を受けていると思います。

――Sorteさんは、音楽のルーツを辿ると、どういったものになるのでしょうか?

Sorte:物心がついたころには、家庭の都合から演歌や民謡に囲まれていて、特に演歌を教わって歌うことが多かったんです。小学生のときに、音楽の教科書の歌を私が歌ったら、祖母が「情景が伝わってくる」と褒めてくれたことがあって、それが嬉しくて、覚えた曲は聴いてもらっていました。ただ、両親から演歌だけじゃなくて、一般的な歌も学ばせたいということで、童謡だったり、父の好きな洋楽、J‐Popなど、色んな曲を聴いたり、歌ってきました。

中学校から高校までは合唱部に入って、讃美歌やクラシックを学ぶようになっていましたね。そのころから、友達の影響で洋楽にハマって、大学に入って以降もバンドサークルの先輩や同期からおすすめされたものをよく聴いていました。「こんなのもあるんだ! あんなのもあるんだ! 面白いな」みたいに驚いていたのを覚えています。

――気がついたら、色んな音楽に囲まれ、自らそれを歌うようになったと。

Sorte:そのうち、しっかり歌の勉強もしたいと思ったので、声楽の勉強を2、3年ほど続けていました。

――中でも影響を受けたアーティストなどいらっしゃいますか?

Sorte:歌に関して言えば「教科書通り、譜面通りに歌うのが正しい」と思っていた時期があったのですが、もっと「自分を歌ってもいいんだ」と思わせてくれたというか……「もっと自由でいいんだ」と気づかせてくれたのは、Björk(ビョーク)ですね。最初は「rockin’on」のライブレポートを読んで知ったという程度だったんですが、「なんか、この人凄そうだな」って思って、自分で調べて聴いてみたら、うわーーーってなっちゃって。それこそ、音作りに関しても、明確なジャンルがあるわけではない、そのまま生活に流れている音を全部歌って生きているという感じが、すごいなって思いました。私もそういう風に歌ってみたいなって。

――Sorteさん自身も、YSSの多彩な曲を自由に歌いこなしている印象があります。

Sorte:そ、そうなのかな? 先生?

Yopi:(小さく)うん。

Sorte:よく、「うわーこの曲難しいよ!」ってなっちゃってますが。

Yopi:歌に関しては、細かい指示を入れたことってほとんど無いよね。

Sorte:それこそ教本のように歌い過ぎたときに、先生から「これはちょっと歌い込みすぎてるから」って言われたことが(笑)。でも、録り直しのほとんどは自己申告ですね。

――歌っているときに、とくに気を付けていることなどはありますか?

Sorte:うーーん、曲ごとに注意していることは変わりますけど、基本的に大事にしているのは、嘘っぽい歌にならないようにしたいってことですね。結局、先生の曲や歌詞は、私たちが生活で感じたことを取り入れたものになっているので、それに対して自分たちの歌であることを届けたいですね。それが無ければ、無味無臭な既製品になってしまうなと思っていまして。せっかく先生が込めたものを台無しにしないように意識していますね。

――だからこそ、YSSの歌には、感情が乗っていると感じられるんでしょうね。

Sorte:それなら良かった(笑)。

――話をお聞きしていると、おふたりとも、非常に多くのジャンルの音楽を吸収されているという共通点が見えてきます。

Yopi:ひとつのジャンルに集中するってタイプではないよね。

Sorte:そうだね、ヒップホップもパンクもEDM系も好きなポイントが重なる部分があるし、クラシックに親しんでいたのも似ているよね。

――さまざまなジャンルを取り入れていつつも、YSSならではのオリジナリティというものはしっかりと感じられるので、だからこそ音楽好きな人ほどハマることが多いんだと思っています。

距離を超えて、YSSの音楽が広がっていく

――音楽活動以外でも、VRChatのライブ用会場を自作されていたり、デジタルデータの頒布はもちろん、カセットテープのようなアナログなコンテンツの販売まで行われています。そういった、ものづくりに対して、どういったことに、こだわっているのでしょうか?

Yopi:YSS感を出す!

――しっかり、出てますね(笑)。

Sorte:カセットテープは前から出したいって思ってたんだよね。

Yopi:リスナーの方にもテープの要望が多かった。

Sorte:多分、CDよりテープやレコードが欲しい人が多い気がしますね。

Yopi:みんな、テープを聴ける環境をもってるのがすごいよね(笑)。

――もうひとつ、YSSの大きい特徴として、VRChatのワールドでMVを収録している点があると思います。そのクオリティも量も凄まじいのですが、どのようにして生み出しているのでしょうか?

Yopi:ワールドは事前にチョイスしてもらって、曲を流しながら撮ってるんです。3分ちょいの曲なんですが、録画データは膨大にあって、その中から取捨選択しています。一応、ストーリー構成というか、イメージはあるんですけど、毎回言語化できないというか……。言語化できないイメージのままに作り上げている感じです。他に誰かが撮影に入ったら、プロットも必要なんですけど、ふたりだけならその過程を吹っ飛ばせるので、だから制作が早いのかも。

(MV撮影会場で実施したライブ:『Night Church』by OPCherry)

Sorte:ワールドのチョイスは基本的に私がやっていて、楽曲を聴いたイメージにあうようなものを選んでます。それも言語化できないんですが、自分が感じたままに選んだものを先生に見てもらって、そこから取捨選択してって感じですね。

――以前、YopiさんがSorteさんにワールド撮影の際に細かく指示を出しているという話をお聞きしたことがあります。

Sorte:そうですね。ふたりで現地に入ってみて、先生の何かイメージが湧くと「ちょっとそこに立ってみて」だったりとかの指示があるので、それに合わせて動くことが多いですね。

Yopi:カメラを出して、OBSの画面を見ながら、ようやくイメージが出来上がる感じですね。撮りながら配置のイメージを固めて、そのときに考えたアイデアを編集に持っていくみたいな。

Sorte:急に言われるもんね。「今の動き良かったから、もう一回!」って(笑)。

Yopi:「ふたりだからできる」というのが、YSSの強みになっていますね。

――(nusa)Yopiさんは過去にダンサーだった経験もありますが、そこでの経験が映像制作に活かされている印象です。そこのところはどうでしょうか?

Yopi:活かされていますね。その当時はVR上でのダンス動画を毎日撮ってたんですよ。1年ぐらい。そのときの経験が映像の編集スキルをあげたかなって思います。それに、YSSで、だいたい2年ぐらいMVをつくっていると、ちょっとは成長したかなって(笑)。だいぶ慣れたよね。

Sorte:そうだね。

――そもそも、音楽制作、VRコンテンツ制作、MV制作と……ここまで多方面に活動できるVRユニットというのが、とても貴重な存在に思えるのですが、ここまでのモノづくりのモチベーションになっているのは、やはり「楽しい」からなのでしょうか?

Sorte:そうですね。先生の作ったVRワールドのGARAGE会場も、リスナーのみんなと楽しみたいから作っているわけですし、私の作ったHacoLiveも「あそこで路上ライブしたら、楽しいんじゃない?」ってところから、VKetに出させてもらったりしているので、基本は「やったら、面白そうだから」というのがあるんだと思います。

YSSの自作会場:GARAGE

YSSの自作会場:YSS_HacoLive

――面白さに真剣になっている点も含めて、やはりYSSは唯一無二のユニットだなと思っています。最後に、今後の目標をお聞かせいただけますか?

Sorte:Tomorrowland(※世界最大級のEDMフェス)やCoachella(※北米最大規模の音楽フェス)に出演することですね。どっちかに出てみたい!

yopi:出てみたい!

――これまで様々なVTuberやVRクリエイターに取材してきましたが、その目標をお聞きしたのは初めてです(笑)。しかし、YSSなら可能性がありそうな気がしますね。

Sorte:ありますかね?(笑)。

――VRChatのライブにも、よく海外リスナーの方が積極的に参加されている姿を見ますので、海外進出という点ではありうる話かも。

Yopi:あっ! あの方々が海外に住んでいるという認識が、そういえば無かったですね。

Sorte:VRChatで会っているからね(笑)。物理的な距離を超えてくるから、面白いですよね。

――VRChatの良さのひとつとして、国境を超えた交流の距離感の近さがありますね。そういったところから火が付くこともあるかもしれません。

Sorte&Yopi:あったらいいねー。

――いずれにせよ、YSSを普通ではない熱量で応援しているファンは、観測する限り少しずつ増えている印象なので、今後さらなる躍進があるのではないかと期待しています。

Yopi:そういう方々を大切にして、やっていきたいです。

Sorte:うんうん!

――本日は本当にありがとうございました。

YSS公式YouTubeチャンネルはこちら。


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