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VTuber 2023.03.22

【アーカイブ転載】駆け出しに大事なのは“バカのフリ” VTuberユニット「BOOGEY VOXX」インタビュー(前編)

※この記事は株式会社クリスクが運営していたメディア『Bevista』で2020年12月24日に公開されたものを、二次掲載したものになります。執筆:ゆりいか、編集:黒木貴啓/ノオト

ボーカルのCi(シィ)さんとラッパーのFra(フラ)さんによるVTuberユニット「BOOGEY VOXX(ブギーボックス)」。2020年3月のデビュー以降、YouTubeチャンネルに毎週金曜日に欠かさずカバー楽曲を投稿し続け、VTuberファンはもちろん、音楽ファンからも強い支持を得ています。

なかでも、ホロライブのVTuber・森カリオペ(Calliope Mori/森美声)さんの「失礼しますが、RIP♡」カバー楽曲は85万再生を突破。オリジナル楽曲「D.I.Y.」も、DJたちから注目され、リリース後まもなくクラブの定番曲になったという話もあります。

(BOOGEY VOXXによる「失礼しますが、RIP♡」カバー。ラップパートの詞は毎回Fraさんがオリジナルで作っている)

(動画キャプション:代表曲「D.I.Y.」。作曲依頼も全てBOOGEY VOXXで行っている)

そんな彼らの何よりの特徴は行動力。企業無所属のVTuberでありながら、オリジナルMVの発表、オンラインライブツアー、グッズ展開、3Dモデルお披露目と、わずか1年ほどの短期間で活動の幅を大きく広げ、視聴者を驚かせてきました。チャンネル登録者数も2021年7月末時点で4.9万人と、個人活動の音楽系VTuberとしては異例の速さで人気を集めています。

今回は「BOOGEY VOXX」にその行動力の秘訣について聞いてみたところ、見えてきたのは事前に練られた企画力と活動に対する熱意でした。


(BOOGEY VOXXのふたり。左がラッパーのFraさん、右がボーカルのCiさん)

天下一品で二つ返事 ふたりが“生き返る”まで

――今回は動画配信者を目指す方々向けに「BOOGEY VOXX」のおふたりから様々なアドバイスをいただこうと考えています。まず、そもそもなぜVTuberとして活動をはじめたのか、お聞かせいただけますか?

Fra:
「BOOGEY VOXX」は、アンデッド(※)として活動しているVTuberユニットで、僕らは2人とも一度死んで生き返っているんですよね。だから、僕らは活動前のことを「生前」と呼んでいるんですけど、Ciさんとは生前から友達で、ほぼ同タイミングで生き返ってユニットを結成したという背景があります。

(※アンデッド: undead。かつて生命体だったものが、生命が失われているにもかかわらず活動を続けている、超自然的な存在の総称。ヴァンパイヤやゾンビなどが有名)

――生前はVTuberに興味がありましたか?

Fra:
2018年頃、よく友達の家に遊びに行ってYouTubeを流しながら酒を飲んでいたんですけど、そのときに友人から「ヤバい動画を見つけた」って言われて、見せられたのが、バーチャルのじゃロリ狐娘Youtuberおじさん(ねこます)の動画だったんです。

(「バーチャルのじゃロリ狐娘Youtuberおじさん」ことねこますさんのYouTubeデビュー動画。輝夜月さん、ミライアカリさん、電脳少女シロさんと並んで、VTuber黎明期の人気を支えた「バーチャルYouTuber四天王」の一人とされる)

Fra:
「めちゃくちゃヤバいおじさんじゃん……!」って思いながら毎週見ていたんですが、次第にYouTubeからサジェストされる動画がおじさんのものに近いものになってきて、それで、星咲ちあさんの動画を偶然見つけて、一気に(VTuberに)ハマってしまいましたね。

Ci:
もちろん生前からVTuberのことは知っていましたし、キズナアイちゃんや、いわゆる四天王と呼ばれる人たちのことは見ていました。ただ「そういう文化があるんだ」というのは理解していましたけど、Fraから誘われるまでは、自分は見ている側でいるだけで、縁がないんだろうなって思っていたんですよ。

Fra:
僕からCiさんに声をかけたんです……「天下一品」で(笑)。というのも、最初はめちゃくちゃパソコンに詳しい人しかVTuberになれないんだろうなって思っていたら、調べてみると「VTuberのなり方」が整理された記事が出てきて「じゃあ、やろう!」と。仲間内には黙ってお金を貯め始めて準備して。それで、自分がラップをするときに自分が一番強くなる編成を想定してCiさんを誘ったんです。

あのとき「いいよ」って二つ返事だったよね。あまりにもあっさりだったので「ちょっと考えさせて」ってこっちが日和ってしまったし。

Ci:
それこそ生前にやっていた自分の音楽活動にいろいろと思うことがあって、何か新しい活動で視野を広げたいタイミングだったんです。それで、「いっぺん死んで生まれ変わるのもアリかな」って。

Fra:
めちゃくちゃぶっこむな(笑)。

Ci:
そもそも興味がある世界だったし、全然迷いもなかったです。それになんとなくですが、自分には向いているんじゃないかという確信もありました。Fraとは気心が知れていましたし、よく自分がしゃべっている様子が面白いと言ってもらっていて。自分でもこのポテンシャルのおしゃべりを配信でやってみたらどんなリアクションが返ってくるんだろうって好奇心が湧いていました。

Fra:
僕は生前一番大きい後悔があって、それはTikTokをやらなかったことだったんですよ。TikTokが流行りはじめたころは「ダサい」とか「キッズ向け」だっていう風潮が強くて、素直にやれないな思っていったんですけど、後から考えると、「これ自分が乗っかっていれば絶対にトップを狙えたな……」って。それで、次に大きな波がきたときには必ず乗るようにしようと。それで次にきた波がVTuberだったという感じです。

まずは企画書 見える範囲で一番高いところに行く方法を考える

――VTuberとして活動されるにあたって、最初はふたりでどういった相談をされたのでしょうか?

Fra:
僕が企画書を書いて、Ciさんに提案しましたね。活動していくにつれてスタイルが変化していったとしても初心を文面に起こしておくことは重要だと思って。企画書には、男女ユニットというVTuber界隈では珍しい組み合わせを活かして、音楽を積極的に出していくこと、投稿するプラットフォームごとに発表する作品の形式を変えていくこと、自分たちの投稿した曲をイメージしたグッズを展開することといったビジネスモデルについて書いていましたね。Ciさんに見せたときは「何でもええわ」って言われましたが。

Ci:
なんか堅いなとは思ってましたね(笑)。


(FraさんがCiさんに最初に見せた、設定資料の一部)


(最初から常用ハッシュタグとファンアートタグまで設定していた)

――たしかにミュージシャンの方が最初に企画書をプレゼンしてから活動をはじめるという話はあまり聞いたことがありませんね……。

Ci:
そうなんですよ! 「これから2人でやっていこうぜ!」的な話をしてくれるのかなと思っていたら「まずは、こちらの企画書を御覧ください」みたいな感じだったので。

Fra:
僕とCiさんが普通にVTuberをはじめていたら爆死だったと思うよ。なんとなく金を貯めて目標無く続けるなんて一番早い爆死ルートでしょ。


(別の企画書の一部)


(動画のアートワークを初期と中期で変えていくことまで最初に考えていた)

Ci:
基本的には、活動のための資金や企画をもってくるのはFraなので、彼のやりたいことをやるべきだなって思っていますし、明確にビジョンが固まっているなら、口を出さなくてもいいのかなと。逆に全然ビジョンが見えないのであれば、自分からもいろいろと話すことはあったかもしれないですけど。

Fra:
最近、自分の中で言語化できた感覚なんですけど、コンテンツの根幹部分を作るときって、脳みそが少ないほうが面白いものができると思っているんですよ。最初のやりたいことのアイデアは、自分が責任をもって提案した方が良い。そして、そのアイデアを発展させていくのには複数の脳みそが必要だなって。

――企画書を制作する段階ではどういったことを考えていたのでしょうか?

Fra:
具体的な数値というより、その世界のなかで一番を獲るためのプロセスを想定したという感じですね。ロッククライミングみたいに「ココの部分を掴めば、今度はコッチを掴めるはずだ」という具合で、僕の見える範囲の一番戦いところに行ける方法を書いてみようと。

生前にすごく売れた経験があるわけではないので、売れたあとの景色は想像しても無意味じゃないですか。だから、とにかく自分の見える範囲でできることを積み上げていこうと考えていました。


(6月20日に開催したライブ「#デッドマーチ02」で、3D化を果たしたふたり)

駆け出し時 コラボに重要なのは「バカのふり」

――動画を投稿してから周りに認知されるようになるまでには様々な工夫や苦労があるかと思うのですが、「BOOGEY VOXX」の場合はどういったところから視聴者に知られるようになっていきましたか?

Fra:
VTuberの人たちから知られるようになったきっかけは、バーチャル作品即売会「ソクブイカイ」を主催したときでしたね。

Fra:
ちょうど、「コミックマーケット98」がコロナで中止になってしまった時期に、家にいながらVTuberの即売会を体験できるようにしようと、それぞれ60組くらいの方にお声がけをして、各々の販売プラットフォームをまとめたWEBカタログを制作したんです。そしてTwitterのハッシュタグを使って、当日宣伝を盛り上げたところ、知り合いが一気に増えましたね。「BOOGEY VOXXって、こういう人たちなんだ」というイメージも、この企画で広がったと思います。

――お話を聞いていると、駆け出しの時期にイベントを主催するというのは、認知を広げる方法として有効ということでしょうか?

Fra:
もっと言うと「バカのフリをする」のがめちゃくちゃ大事だなって思いました。企画を主催するときって、普通は自分より有名な方にお声がけをするのって難しいんですよ。でも「俺はバカだから界隈のことは分からん! だからいろんな人に声をかける!」っていう精神構造だと、どんな人にも気軽にアタックできるんです。

――音楽方面で注目された出来事としては、森カリオペ(Calliope Mori/森美声)さんのカバー曲が大きいのではないかと思っていたのですが、そちらの手応えはいかがでしたか?

Ci:
たしかに、森カリオペさんの曲をカバーしたときには大きな反響をいただいたのですが、実感できたのは、その何ヶ月もあとでしたね。何かのイベントや企画でこのカバー曲がとりあげられるようになってジワジワと周知が広がっていって、自分たちの予想以上の手応えがあとから返ってきてるなと思っていました。

(界隈から注目を浴びた、森カリオペ「失礼しますが、RIP♡ 」のカバー)

Fra:
2020年の12月末にあった「V紅白」ってイベントでこの曲が紹介されたときも、すでに知ってくださっている視聴者の方がいてくれていましたね。

僕が、このカバー曲を出す際に意識したのは、誰よりも早く制作して公開しようってことでした。配信初日に森カリオペさん本人がこの曲のインストを公開すると宣言していたので、僕はそれまでにアーカイブを聞きながらラップ部分の歌詞を考えて仮歌をつくり、動画制作を依頼している方にそれを送って……と、とにかくできるだけ素早く仕込みをして、原曲が公開された翌日にカバーをアップロードしました。

――楽曲制作の裏側には、そんな戦略的な仕込みもあったんですね。

Fra:
こういう戦略を立てるのが好きなんですよね。

Ci:
Fraはパフォーマーというより、どちらかというとプロデューサーや企画屋的な頭をしているなって思います。

――個人のVTuberユニットで企業のような戦略を練って活動を展開するのは非常に珍しいと思います。一般的にプレイヤー兼プロデューサーができる人というと、小室哲哉さんみたいなイメージがありますが。

Fra:
(小室哲哉は)でけぇ(笑)! でも、それができるのは僕らが人的コストや設備投資などに対して、あまり恐れを感じていないからではないかなと。一般的には防音スタジオを借りたり、楽曲のミックスを依頼したりするのにしても「できる、できない」を悩みながら判断しないといけないのですが、自分たちは、コストに合う成果が得られるかどうかをシンプルに考えられれば、それでいい。それくらいの気合があるんですよ。もしかしたら、自分たちが一番気合が入ってるんじゃない?

Ci:
それは言っちゃダメでしょ! 人によって気合の入れどころやタイミングは違うわけだし。音楽じゃなくても、配信するたびに気合を入れている人たちだっている。自分たちの場合は、たまたま気合を向けられる先が音楽だったんだと思います。

初心振り返りつつも 最新の自分たちを高解像度で把握する

――よくVTuberの方にお話を聞いていると、「活動するための時間や財力がない」「理想的な活動ができない」といったお悩みを耳にします。BOOGEY VOXXの場合は、こういった悩みをどのように捉えていますか?

Fra:
こういった悩みって、YouTuberのトップ層であったとしても絶対に抱えているものだと思いますね。YouTuber活動って「お金を入れたぶんだけ、お金が返ってくる」っていう基本的な原則があると個人的に思っているんですけど……例えば100円だけを使って1万を稼ぐのは難しいと思いますが、これが10万円を使って13万円を稼ぐのは比較的容易なように感じます。

僕らの場合は企業の方とは違って、通年での予算管理をあまり考えなくてもいいので、単純に“次の次にやりたいことができなくならない程度”の余力を残しさえすれば、自由に予算を利用できる。だから、ある程度大きい予算が必要だとしても、それで活動が停止にならないのであれば出せる。だから理想的な活動をするための時間や財力を捻出できているという感じです。

これは別に、自分たちがお金持ちだからできることってわけではなくて、実際に予算を使いすぎて、次の収入が入るまで活動用の口座残高が1000円を切っていたこともありました(笑)。次の振り込み日が決まっていたから、耐えられたわけですが。

――これから動画投稿を考えている方々には、そういった先行投資をすること自体に恐怖感がある方も少なくないと思いますが。

Fra:
その先行投資に恐怖する感覚は捨ててはいけないと思います。もちろんVTuberは先行投資が必要な文化なので、それが気になるようなら止めておいた良いとは思うんですけど、生身で配信する場合YouTubeはスマホ1台でお金を生み出せるプラットフォームなので、もっと気軽にできるんじゃないかと。

またSHOWROOMやIRIAMのように、先行投資のコストの低いプラットフォームを狙っていくのも手ですね。先行投資の負担をできる限り下げる方法は他にもいろいろとあるので、調べてみると良いと思います。

――おふたりの活動のなかで、特に大切にしているのはどういったことでしょうか?

Fra:
こういう良い話パートはCiさん担当だと思うんだけど、何かある?

Ci :
はぁ? うーん……。そうですね、「BOOGEY VOXX」のタレント性っていう観点で話すと、Ciは常に「Ci」の解像度を高く保っていたいなと思っています。

「Ciはこうありたい、こういうイメージでいたい」と自分が理解していさえすれば、たとえいろんなプラットフォームで活動することになっても、自分がブレるってことはなくなりますよね。どんな切り口でメディアに露出しても「BOOGEY VOXXってこういうユニットだよね」ってリスナーに分かってもらえるようにはしたいです。矢沢永吉さんの「俺はいいけど、YAZAWAがなんて言うかな?」みたいな。

Fra:
それ、矢沢永吉のなかで一番好きなエピソード(笑)。たとえ最初に企画書でイメージをがっちり決めたとしても、VTuberって活動するなかで絶対ブレてしまうじゃないですか。でも、自分のストリーマーとしての感覚知を信じて、あまり最初のイメージに固執せずにやっていく方が有用ですよね。もちろん常に「BOOGEY VOXXってどういうユニットなのか?」は、初心を振り返つつ考えるのですが、古いイメージではなく更新されたイメージのほうを大切にしたいと思っています。

(企画・聞き手・構成:ゆりいか、編集:黒木貴啓/ノオト)

プロフィール

BOOGEY VOXX(ぶぎーぼっくす)

バーチャルアンデッドユニット

『#いきてるみんな、生きてるか!?』

BOOGEY VOXXとは……、
ボーカルでキョンシーのCi[シィ]と
ラッパーでフランケンのFra[フラ]からなる
2人組のバーチャルアンデッドユニット。

2020年3月のデビューから怒涛の勢いで勢力を拡大し、
関与した楽曲は120曲オーバー、チャンネル登録者は49,000人を超え
「最強の個人V」の肩書をほしいがままにしている。

毎週金曜日19時に欠かさず楽曲を定期投稿、
2020年5月以降ハイペースなオリジナル楽曲のリリース、
VTuber楽曲大賞楽曲部門で個人最高位へのランクイン、
アニメイト秋葉原本館でのポップアップストア展開、
デビュー1周年にして1stアルバムCDの全国リリース、
くわえて、自己資金による3Dモデル制作およびワンマンライブ開催など、
インターネットから現実を縦横無尽に駆け巡る!

関連リンク
公式サイト: https://boogeyvoxx.booth.pm/
YouTube: https://www.youtube.com/channel/UCtk3KnxYCoGiyrLVdIOgG1Q
公式Twitter: https://twitter.com/_boogey_voxx_
Fra Twitter: https://twitter.com/Fra_BGV
Ci Twitter: https://twitter.com/Cichan_dayo


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